「あなた自身には何の価値も無いですが、あなたの遺伝子には立派な価値があるのですよ」
憧れていた女性から言われたその言葉は今も耳に残っている。
僕には何も無い。だけれど、僕と子供を作る事を望む女性達は決して少なくは無かった。
そして、それこそが同族の人間達からは疎まれる原因にもなっている。
割り切れれば良かった。
僕と子供を成したい美しい女性達と行為を行う環境には事欠かないのだと。
しかし、それでも僕は――――
Episode1
此処は人間やエルフやリザードマンなど様々な種族が混在する世界。
しかし、その中でも人間は科学の力を以って、他の民族を駆逐したり支配したりした。
エルフを
オークを食用家畜にしたりする程度には、人間は圧倒的な勢力を誇り、傲慢になっていた。
他の民族など対等とは想定もしていなかった。
人間は神に選ばれた尊い存在で、それ以外の生命を全て自由にして良いのだと思っていた。
しかし、『障者』がこの世界に表れてからは世界の在り方は一変した。
障者とは生きた生命が触れると気がおかしくなってしまう恐ろしい存在だった。
それらは科学技術があるところへと優先してやってきた。
障者には科学的で物理的な攻撃手段が通用しなかった。
土地や住民を犠牲にした核攻撃でさえも通用しなかった。
ただ、障者には魔力を備えた攻撃だけは障者に通用した。
知性ある人型生命体の総称、『人累』の中でも人間達だけは魔力を持たなかった。
オークでさえ、身の内には魔力を持っているのに人間にはそれが無かった。
だから人間達は次の世代の人間達には魔力を持つように遺伝子を調整した。
ただ一人の天才によってその調整は行われた。
生まれ持って魔力を持つようにデザインされた人間達は極めて科学的に魔力を運用できるようになった。
他の亜人達の魔法が
新たな人間達の魔力運用は魔力をエンジンのように燃焼させて生み出した魔力流で電球のように光を生み出す事が出来た。
しかし、新たな人間は魔力を持つように生まれて未だ日が短い上に、普段の生活には日々衰退していく科学技術にしがみついていた。
故に、まだ障者に対抗できる決定的手段とはなっていなかった。
逆に日頃から魔力と共にあるエルフやフェアリーはそんな人間とは裏腹に障者に対抗できていた。
しかし、エルフ等はその種族数を大きく減らしていた。
大量に連れ去られて消費された事もあるし、エルフは劣勢遺伝子の塊だったのだ。
エルフは他の種族の者と子を為した場合、ほぼ完全に相手の遺伝子のみが発現する。
エルフの面影は見た目所か遺伝子の中にさえ残らない。
強靱な優性遺伝子を持ち、相手の遺伝子を無視して己の種族の子供を作るオークだけで無く、
普通程度の遺伝子発現強度しか持たない人間が相手でも、生まれてくるのはほぼ完全に人間の子供だった。
人間が搾取して個体数を大きく減らした上に、魔法自体を使う事が出来ない代わりに、
身の内に流れる魔力のジャイロ効果によって、魔法に対する抵抗が強いエルフの天敵であるオークが人間の食肉牧場から脱走して昔のようにエルフを襲っていた事も大きかった。
オークは魔法を使うエルフに強く、人間はそのオークに対して圧倒的に強い。
オークはその巨体と柔らかい肉質故に、魔力を伴わない火炎攻撃や加工された金属による斬檄などに極めて弱かった。
故に、障者が来るまでは野生のオークは大きく数を減らし、牧場で人間の食用肉として飼われる養殖オークが増えていた。
だが、障者によって襲われた牧場から脱走したオーク達は己の種族の個体数を増やすために、
遺伝子発現強度が弱く、自身に種族特性的に圧倒的に不利なエルフを襲い、己の子供を産ませていた。
そんな中、人間に亜人の中で語られていた伝説の子供が誕生した。
種族発現強度
生まれて直ぐ遺伝子をスクリーニングされる人間達にはすぐにそれが発覚した。
嘗てはその伝説の存在は、人間達の勢力を何度も低下させた忌み子として人間達の中には伝わっており、殺される事も多くあったという。
嘗てのように人間達が支配者であった頃ならば、余計なチャンスを他種族に与えないようにその少年は消されていた。
しかし、今では事情が異なる。
その他種族に頼らなくては人間の存続が危うかった。
エルフと交わらせれば、人間の因子を一切与えず純粋種のエルフを孕ませて繁殖できる。
場合によってはエルフ意外の不純物まで破棄して強力な先祖還りまで行わせる遺伝子を持つと伝説では語られていた。
実際に、古代には誘拐されたその特性を持つ少年がエルフの女王や貴族達を孕ませ続けて、ハイエルフ軍団を作り人間に痛手を与えた事実もあった。
エルフ属などの遺伝子発現強度の低い種族にとっての希望であり、人間にとっては余程の事が無ければ忌むべき存在だった。
結局は人間によって、ハイエルフとして生まれた者は一人を除いて殺し尽くされ、
また、その製造原因となった伝説の存在は人間によって抹殺された。
伝説の存在、それは――――早い話V6メタ○ンである。
体力・攻撃力・防御力・素早さ・魔法攻撃・魔法防御全てに優れた子を成す。
その際、己の種族は一切産ませる事無く、完全に相手の種族で子供を誕生させるV6のメ○モン。
それが、伝説の存在、『うませるきかい』だった。
魔法技術の提供と交換条件に現代に生まれた『うませるきかい』の少年、エコーはエルフの国へと貸し出される事となった。
少年に己の未来を決定する権利は無い。
これは種族同士の会談で決められる規模の出来事である。
そして、生まれたときからお前は『うませるきかい』だと育てられた少年は、自身の未来に関しては諦観しか持っていなかった。
少年は『うませるきかい』である事以外にも己の価値を周りに認めて貰おうと様々な事に努力をした。
しかし、その成果は全て『うませるきかい』としての価値の前では完全に霞むものだった。
エルフの国に貸し出されてから、エコーはこれまでの忌み子としての扱いとは打って変わった種族の救世主としての扱いを受ける事となった。
そして、その親切にしてくれるようになったエルフ達の女王に初恋に似た憧れを抱いていた。
しかし、女王自身が告げた真実により、少年は
完全に自覚させられた。
エルフの国での一見幸せな生活で、心を開きかけたところで、開いた心の内側から粉々に壊された。
そもそも、上の世代にとっては、『うませるきかい』でない人間には良い感情などあるわけも無く、
人間は嫌いだが、『うませるきかい』ならば好きだという時点で、人間の少年としてのエコーの人格には何の価値もあるはずが無かったのだ。
彼の努力も、彼の心も、彼の『うませるきかい』以外の全ては初恋の女性にとって何の価値も持たなかった。
そして、年月が経ち、青年へと変わり始めた頃、少年は少女と出会った。
「この子は私の娘、いずれ生まれるハイエルフの母になるもの。
あなたが一番最初に孕ませる相手ですよ。
挨拶なさい、フリージア」
エルフの王国の最深部で、嘗て憧れた女性が己の娘の肩に手を伸ばしながらそう告げた。
「ですが…人間………いえ、仕方ありません。
どうぞ私にハイエルフを生ませて下さい。お願いします」
己より僅かに背が低いものの、スラリとした長身と輝くような赤みがかった金髪と透き通るような肌を持つ少女は、
『うませるきかい』に向けて頭を下げた。
その諦めた瞳は何処か親近感があるとエコーには思えた。
エコー
本作の主人公
他者に期待することに疲れ切った『うませるきかい』
『うませるきかい』に相応しく様々な調練を施されたが、『うませるきかい』の特徴としてしか評価されない事を受け入れた。
熱意を持っていた時代に学んでいた魔法の使い方は極めて特殊。
死んだ魚のような目では無く、その瞳は澄み切っているが、
それは遺伝子を残せない『うませるきかい』の特性故か、それは何も己の意志が反映されないという諦め故か。
名前の由来
エコーは英語で反響=コピー
エコーはラテン語で種馬
フリージア
恐らくヒロイン
元となった花言葉のように純潔がキャライメージ。
人間には嫌悪感を感じているが、エルフの姫としての責務としてハイエルフを生むために母の意を汲んで身をエコーへと預ける事を決めた。
エルフの女王
フリージアの母。
混じり色のない金髪は黄金のようである。
優しく上品で麗しく清廉なエルフの女王様――――のはずだが、それはエルフ達の中でのイメージ。
嘗て人間を絶滅させる寸前で敗北したハイエルフ軍団の再生を望んでいる。
極めて長寿であり、その正体は戦争で唯一残ったハイエルフの生き残り。
娘がハイエルフで無かった事を悔やんでいる。