女帝が「仕方ないわね。じゃあまた今度勧誘してあげる」と言って話を奇跡的に終えてくれた事でソレーユは何とか本来の目的を果たせる事になった。
とは言え、そこに至るまでに数分吐き続けたが。
平常運転の女帝の狂気染みた正気に胃の中のものが無いにもかかわらず胃液を戻してしまったソレーユだが、
そもそも彼女が吸血族の女帝に強力を依頼しようとした理由は女帝の持つ固有といっても良いほどの強力な死霊術である。
ソレーユは、障者の正体を死霊に類似したものだと考えた。
故に、女帝ならば障者と対話が出来るのではと結論づけたのだ。
その結果は――――
「結論から言えば、このままじゃわたくし様でも対話は無理そうね」
――不可っぽかった。
「森で引きこもったエルフには難しい話をしても良いかしら?
ふふっ、気遣いの出来るわたくし様に惚れたら眷属にしても良いわ」
取り敢えず二人してスルーした客人達に女帝は腹を立てる事も無く、エルフには難しい話とやらを始めた。
「人間のComputerって発明を知っているかしら?」
「ええ」
やたらと良い発音の女帝だった。
一応、エルフの中で知性派を気取るソレーユである。
人間の文化だからと言って無知なわけでは無い。
「なら良いわね。
データを全く違うOS用のソフトに移しても只のクラッシュしたゴミデータにしかならないでしょう?
例えば最新の端末機器のデータを最初期のコンピュータで見ても文字化けしか写らないわ。
そもそもキャパシティが足りないかも知れないわ。
まあ、そういう理由で対話もできないし、憑かれると狂うのよ」
ソレーユにはその例えが良く解らなかった。
というか、何故女帝にそれが理解できたのかも理解できない。
倫理観がおかしいだけで天才だからなのか、キチガイだからこそキチガイな理屈を理解できたのかとソレーユは考えた。
因みにエコーも同じ結論に至っていた。
「恐らく、この世界より情報量が多い世界、まあ上位世界とでもしましょうか。
そこから来たのよ。障者という存在は。
で、下位世界とは魂の構造が違うから、取り憑かれた者は、わたくし様達からはクラッシュした文字化けにしか見えない。
つまり狂ったようになるという寸法ね。
上手く変換出来れば何とかなるかも知れないけど、わたくし様でも難しいわ」
「難しい…という事は不可能では無いという事ですか」
ソレーユは女帝の言い方からその様に認識した。
「当たり前じゃ無い。だって、わたくし様よ?」
ソレーユはここに来て障者への糸口を掴んだ気がした。
「取り敢えず十人か二十人くらいの素材を連結させた上に、ある程度フォーマット、要するに真っ白に消しちゃえば出来るんじゃ無い?」
ソレーユは再び吐きそうになった。
「貴方達の要求を先回りして理解した大天才のわたくし様は、既にそこらから素材を集めてくるように眷属達に命令しているわ。
そうね、扉の向こうに用意しているから連れてこさせるわね」
自信ありげにチャイナ服の下から押し出されている大きな胸を張るリイン。
ソレーユはそれを聞いてまた吐いた。
獣人や人間など、大人から子供まで総勢三十三名が女帝の眷属達に引き摺られて連れて来られた。
リインは自身の喉を切り裂き、血を周囲に振りまくと何処からでているか解らない声で呪文を唱え始めた。
泣き叫ぶ少女、絶望した男性、抱きしめ合う親子、神に祈る女性、彼ら彼女らは皆、例外なく生きたまま魂を演算する媒体へと変えられた。
「完成ね。名付けて眷属未満その13」
元生命体、現眷属未満その13は障者の受け皿として、障者が多発する場所へと眷属達に運ばれていく事となった。
そして障者に取り憑かれても勝手に動かぬよう、その場所で杭で地面に打ち付けられた。
その数日後、
「見張りの眷属から連絡が来たから行ってみましょう。どうやら成功したようよ」
「七九u09-j会&(##`@`www」
当初とは少し違う場所で杭に打ち付けられた眷属未満その13が言語にならない言葉を叫んでいた。
最初、眷属未満その13には障者は取り憑こうとはしなかった。
だから眷属達を使ってリインは眷属未満その13を別の場所に移動させて隠した後、新たに捕まえさせた鳥の獣人の少年を囮にして追いかけさせ、
急に囮を動かす事で眷属未満その13に障者を取り憑かせた。
リインはピアノを弾くように指を動かしながら死霊術の呪文を謳いあげた。
すると、眷属未満その13は震えだし、その色と容を変え始めた。
眼鏡をかけた不細工な人間の男のような何かになったそれは、徐々に喋る言葉をエコー達が理解できる言語に近づけ始めた。
その言葉は―――――
「タスケテタスケテタスケテタスケテたすけ―――――――」