オタクは皆キモいわけでは無い。
だが、キモい奴は大体オタク。
こんな言葉を聞いた事は無いだろうか?
これは虐げられる者への侮辱の一例だ。
社会の弱者、敗北者、底辺、ゴミ、クズ、不要物――――
劣る者はとことん虐げられる。
社会は弱者には厳しい。
いや、世界は弱者には厳しい。
考え方を逆にすればもっとスッキリする。
世界を動かす事が出来る者が強者。
世界に着いていける者が普通。
世界に着いていけない者が弱者。
弱者が世界に虐げられるのは、救いを与えられないのは自明の理なのである。
例えば周囲にキモいと言われる者達は現実には居場所がない。
だから現実以外の場所へ逃避する。
そういう傾向が少なからず発生するのは別に不思議な事では無い。
現実には高スペックな男性が高スペックな女性を手に入れる。
逆にキモいオタクが現実で美少女と付き合う可能性はほぼ無い。
無論、幾つかの例外はあるが、これはあくまで統計的な話である。
世界に幸せの定数があるとすれば、その幸せを手に入れる力の強い者からそのパイを取っていく。
資金力・身体能力・学力・容姿――――そういった力が何一つ無い者が幸せの置いてある場所に辿り着いた時にはもう何も無い。
世界はそうできている。
先行して幸せを手に入れた者が、世界をそうやって再生産している。
それは何もおかしい事では無い。
その戦いは、星に生命が生まれたときから連綿と続く由緒正しい戦いなのだから。
「タスケテタスケテタスケテタスケテたすけ―――――――」
障者を宿した者、否、障者が叫ぶ。
それは杭に撃ち抜かれた痛みか、それとも元の世界に撃ち抜かれた痛みか。
障者達は不完全な異世界の転移者たちだった。
優生学という学問がある。
ある国家はこの学問を信仰してしまい、そして失敗した。
彼らはこの学問を信仰するべきでは無かった。信仰では無く、研究すべきだったのだ。
優生学は学問であり、シェパードやサラブレッドを生みだした実績有る学問である。
人間にだけ適用されないなどと言う事は無かった。
だが、事実を事実と言うだけで無く、心酔してしまった事が間違いだったのだ。
その世界とはまた別の、優生学を成功させたとある世界が存在した。
その世界では、賢くたくましく美しい者が正義とされ、愚かで貧弱で醜い者が悪とされた。
かくしてその社会は大成功した。
――――切り捨てられた弱者達に目を瞑れば。
その切り捨てられた弱者達は現実から逃避し、神に祈った。
我々が強者でいられる世界をくれ。触れるだけで敵を打倒できるチートを持って夢物語なファンタジー世界へと送ってくれと。
その願いは聞き届けられた。
…但し、少し歪んだ形で。
それが障者。上位世界の敗北者。異世界への逃避者。優生学を憎む者。
壊れた情報生命体。壊された精神生命体。
そんな彼らの世界では社会的に行われた優生学を身に宿した青年がいる。
『うませるきかい』『6V』『大英雄素質保持者』『エコー・グッドマン』
障者達はその青年がどのような存在か、肉の器を通じて凝視する事で理解できた。
そこに居る者を強く意識すれば、存在レベルで知覚できた。出来てしまった。
許せる筈が無かった。赦される筈も無かった。
まさしく優生学こそが己達を否定した。その生きた証明が存在しても良いわけが無かった。
故の激痛。故の激怒。故の激昂。
「おまえ など いなければ おまえ など いなければ おまえ など いなければ」
依り代となった眷属未満その13から眼鏡をかけた人間の男に変わった障者は、憎悪という言葉も生やさしく感じる怨嗟の視線でエコーを見つめた。
障者の記憶や感情は、眷属未満その13に予め仕掛けられた魔法により、リイン達に流れるように飛び込んできた。
勿論、汚染されないように処置はされている。
だから、障者の過去が筒抜けでエコー達にも理解できた。
「そう、辛かったのね」
女帝リインが慈悲深くそう言った。
彼らが望む全てにおいて自分を肯定してくれるヒロインのような優しさで。
「辛かった。苦しかった。悲しかった――――――で、それが、どうしたのかしら?」
本当に意味がわからないような顔でリインはエコー達の方を向いてそう言った。
ソレーユは知っていた。女帝は人間感覚だと完全な
「さあ」
そしてエコーも相手が弱者だからと慈しむ人間では無い。
そもそも彼も自分にさえ愛情を持てない
それもソレーユは知っていた。
「ゆるさない ゆるせない おまえたちだけ は ゆるさない」
その怒りの前でさえ女帝の余裕は変わらない。
「わたくし様はわたくし様が赦すから大丈夫よ?
何か問題あるかしら」
お前何様わたくし様。そんな素敵に無敵な女帝様には弱者の怒りなど興味もわかない。
この世界でさえ、蔑ろにされるのか。
格下の世界に降りてでさえ、そこでさえ格下扱いにされるのか。
まるで同級生に対等に扱われないから下級生の集団に行ったのに、そこでも格下扱いされた学生のような怒りをその障者は持っていた。
だが、少なくとも障者自身にはそれは正しい怒りだった。
強い感情は時として力になる。
眼鏡をかけた男は、憎しみの余り人間の容を捨てた。
そもそも、人間の形の感覚など薄れてくるほど久し振りであったし、その器に入っていた時間も短い。
だから直ぐにその器の縛りを壊す事が出来た。
黒ずんで触手の生えた、人間では無い、別の何かへと変わっていく。
三十三名の肉体と魔力と魂、それに上位世界から持ってきた存在力を兼ね備えた化け物。
その貌は――――――、憎悪に似ていた。
結合した触手で作られた、憎しみに歪んだ巨大な人間の顔が、死霊術の縛りを振り払って襲いかかってきた。
当初それを縫い付けていた杭は、今は男の右目に刺さっている。
その右目から黒ずんだ血――――明らかに触れてはいけない液体を流しながらエコーへと飛びかかってきた。
「此方のエルフはわたくし様が保護しておいてあげるわ。
だから、貴方のお手並みを拝見させて貰おうかしら」
「――褒美が眷属というので無ければお好きにどうぞ」
基本鬼畜かクズかゲスしか居ない世界。
こんな世界に異世界転生させた神様はきっと――――