うませるきかい   作:蕎麦饂飩

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Episode14 侵攻

 人魚の国からエルフの国に『うませるきかい』が返納されて五年後――――

 『うませるきかい』をエルフの国が人間の国家群に返納するときが来た。

 『うませるきかい』はエルフの国の多くの女性を孕ませており、上位貴族に関しては二・三週目を終えた者も多かった。

 

 ――――ハイエルフ増産計画の準備は此処に完了した。

 後は、子供達の成長を待つだけである。

 

 嘗ての戦争の時よりも遙かに多いハイエルフが準備できている。

 そして人間の国は逆に幾つかの地方に飛び地して保たれていた領土を放棄し、最大の中央国家に統合しなければ成り立たなくなっていた。

 

 オーク達はその勢力を大きく減らしたが、それでも首魁たる『黒いオーク』だけは未だに討たれる事無く存在しており、

誘拐された精神が壊れたエルフとの間に子を成したという、情報も流れてきていた。

 障者たちからの契約を交わして黒化した存在が子を成したという実績はオーク達を大いに歓喜させ、

首魁の黒いオークに続かんと黒化していくオークや、異種族の女性を狙う熱意が増加していた。

 

 数年前の侵攻で人魚の国の併合に失敗した魚人の国は、今こそがチャンスと人間の国を攻め入ろうとしており、

 蟲族は人間が放棄した土地の一部に新たな巣を設けて、土地から逃げ遅れた人々をエサにしていた。

 

 吸血女帝は不気味なほど動かなかったが、明らかに吸血族と思われる者の仕業で多くの種族が被害を受けていた。

 その被害者達の死体は全て干からびていたが、血を通じて眷属化した者はいなかった。

 

 人魚の国は魚人の国の侵攻を防いだ後は、エルフの国の傘下に入る形で同盟を組む事になった。

 生活圏が違う故に、利益の奪い合いが起こりにくい事も一役買っていた。

 

 獣人の国は人間の国家が弱体化した事で、その経済力を再び増す事となり、その増加した資産を積極的に『うませるきかい』の借り受けに使っていた。

 それにより、エルフの国は資産で潤い、獣人の国は能力の高い子供達で潤う事になった。

 

 竜達には異世界にいるという神竜に逢うための、儀式に日夜明け暮れるシャヴォンヌによる、絶対的な武力による宗教体制が生まれていた。

 

 

 人間達は、魔力のある『新たな人間』を中心に、少しずつ純粋科学から魔法科学の文明へとシフトしていっていたが、

昔からそうやって生きてきた他の種族には劣る上に、その移行による一時的な弱体化の隙を他種族に狙われる事で大きく減衰していた。

 とは言え、自然発生では無く研究によって生み出された器官により、科学的に魔法を実行できる人間は他の種族とは比べられない速度で力を取り戻してはいた。

 ただ、科学の力を障者によって奪われる事はそれ以上の痛手であったのである。

 

 世界は様変わりした。

 切っ掛けは障者であった。障者が支配者となった人間の科学文明――――嘗て自分達が慣れ親しんで愛した文明の名残に惹かれ、

周囲にいた人間達を壊し、人間の一党支配を終わらせて群雄割拠の時代に巻き戻した事が原因だった。

 

 

 昔の様なエルフの国に対して、『うませるきかい』を下賜する様な力関係は無い。

 エルフの森に多い、魔力を増やしやすい食べ物を高額で輸入したりしなければならなくなっていた。

 また、最近表舞台に出てきた戸籍上の『うませるきかい』の母、『新たな人間』の生みの親であるリューン・グッドマンがエルフでありながら、

人間の国の魔法研究機関と、魔法兵士養成機関の実質的な頂点にいることも大きかった。

 リューン・グッドマン、旧姓リューン・リエンシエルが王族に連なる大貴族でありながら、エルフの女王によって追放されたという事実が人間達には救いであった。

 もし、その事実が無ければ少なくとも権力を人間の社会で集める途中で、信用が出来ないからと強い抵抗があったであろう。

 

 

 

 

 この年、遂に人間の国に大量の障者が今までと比にならない数と勢いで侵攻を開始した。

 美しくて能力の高い所謂ハイスペックな人々ほど障者に狙われた。

 元がしょうも無い能力で切り捨てられた障者は、今度こそ優秀なスペックに取り憑きたい(侵したい)と考えたのかもしれない。

 転生しても以前同様不細工で無能な人生を歩みたくは無いというのは理解できなくも無いからだ。

 

 前線ではリューン・グッドマンから学んだ魔法兵士達がその侵攻を食い止めようとしていたが、その背後や側面を亜人達が狙っているという状況だった。

 人間の国は、滅亡の陰りを見せ始めていた。

 

 

「’(’◎’)’※※※フッ出フ????(十五万人の敗北者達は話を聞いて貰えない~)」

「♂♀▼♂♀YJGI⑦唖>。。(それより多くの正常者達は己の幸せをかみしめる~)」

「&)(’~~00====!!!`@`(百五十万人の敗北者達が救いを求めて練り歩く~)」

「#”$><?+KHV仮名’)JきKJり(それより多くの正常者達が周りを囲んで石投げる~)」

「(’HLかI%%5UGU79倭唖倭唖☆倭唖(千五百万人の敗北者達が救いを求めて踊り出す~)」

「KJIヒャッヒャ(()0kj8日不降フった¥0(それより多くの正常者達が彼らを囲んで撃ち殺す~)」

「度ッ㍉ぷん㎜粍(一億五千万人の敗北者達は新たな世界を歌い出す~)」

「UUUU〒382ー11唖唖〒嗚*呼唖(それより多くの正常者達は死体を踏みつけ笑い出す~)」

「怒(WEO怒WAO怒ヒLIPHIPッヒJッフー(嗚呼赦せない赦せない)」

 

 障者達が徒党を組んで念仏の様に呪いの歌を謳いながら、この世の地獄を見せるために行軍している。

 それは悪夢だった。それは恐怖だった。それは災害だった。

 

 彼らにどんな過去があれ、それは打ち倒さなければならなかった。

 敗北者に再び敗北を叩き込んででも、今生きる人間達を助けなければならないのは当然だし、第一障者の言葉は生きた人間は理解できなかった。

 それに、理解するつもりも必要も無かった。己達を脅かすのならば打ち払うのは考えるべくもない。

 

「撃てっ!!」

 

 指揮官の号令と共に、飽和する程の火力の魔法が進行する障者達に放たれる。

 煙が消える様に消滅する最前列の障者達。しかし、その後ろからも波の様に障者達は迫ってきていた。

 

「撃てっ!!」

 

 第二波が放たれる。

 再び新たな最前列の障者達は消え失せる。煙で造られた人型の様な見た目の障者は天に手を伸ばす様にして消えていく。

 だが、その後ろから攻め寄る障者の軍勢は先ほどより確実に距離を詰めてきていた。

 

「撃てっ!!」

 

 更なる攻撃。ここで魔力回復のために人間側の後陣と前陣が入れ替わる。

 そうやってエルフの国から買い取った植物と鉱石で作られた携帯型急速魔力回復器で前陣だった者達は回復している。

 しかし、そうやって弛まぬ攻撃をしていても、人間達の領土は少しずつ障者に侵略されていた。

 

 

 

 

 

 

 一方、前線だけで無く軍司令部も余裕は一切無かった。

 体格と良い、容姿と良い、威風が人間の形になった様な軍人の男に部下達が報告を続けていた。

 

「閣下、海洋から魚人の軍勢が攻めてきています」

「…暫く海産物が食えなくなるのは仕方あるまい。核を許可する」

 

「………はっ!!」

 

 部下は躊躇いはしたが、直ぐに虎の子である核ミサイルを発射する様に操作員に指示した。

 

 

 

「閣下、吸血族の女帝が動き始めました。

例の化け物を追随させているようです。既に円卓騎士団を派遣しています」

 

「そう言えば今の円卓騎士団にはアレ(・・)がいたな。どうせ同族(人間)相手には子を成せない欠陥品だ。

戦力として使い潰しても構わない。増援は要らぬ」

 

「良いのですかっ!? グッドマン(・・・・・)閣下ッ!!」

 

「くどいぞ、大佐。獣人族の推薦で人権を得たとは言え、つい最近まで『きかい』の扱いだったものだ」

 

 

「失礼しました。では、その様にいたします。

では、我らの領土で巣くっている蟲族と竜族の一部に関しては如何なされますか?」

 

「どうせ廃棄地域に残された住民しか犠牲になる者はいない。

奴らは活動範囲を広げる事よりも、その土地での支配力を強める事を優先する。

よって、この状況での背後討ちは可能性は低い。最低限の戦力で監視に当たらせるので充分だ」

 

 

「閣下、獣人や竜族の支配地を通過しようとする貴人の脱出経路の確保についてはどうされますか?

彼らは簡単に通してはくれないでしょう」

 

「金を撒いて従わぬのなら消せ。自然分解する毒ガスがあっただろう。証拠は絶対に残すな。

いや、消すのは良くないな。使うガスの種類は知性を壊す種類にしろ。障者の仕業に見せかけられる。

これを通じて奴らも戦線に引き込めれば御の字だ。

…それと、間違っても貴人達が通過するときには残存せぬ様にな」

 

「はっ!!」

 

 

 

「そうだな…、後はエルフと人魚達に直ぐ連絡せよ。

借りを返せ。すぐさま人間に協力して障者を滅するのに協力せよとな」

 

 

 科学者であり、政治家でもある人間国家の軍最高指揮官ヴァンケル・グッドマンは、

言い終えると香りの良い葉巻の煙をゆっくりと吸い込んだ。

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