うませるきかい   作:蕎麦饂飩

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Episode3 奔る悦び

 少しだけエコーへの態度が軟化したフリージアは度重なる性行の果てに遂に懐妊した。

 女王は歓喜極まり、次いで妊娠中のフリージアに種を付ける事も出来ないので、未婚のエルフ貴族の女性達に上の席次から順に孕ませるようにとエコーへと伝え、

エコーは反論する事無くそれに頷いた。

 

 席次第2位のアンゼリカは最初は人間の男と交わる事にフリージア同様嫌悪感があったようだが、結果として行為に嵌まってしまったようだった。

 とは言え、やたらとエコーに対して否定的な言葉が多いが、その言葉がマゾヒストな期待が込められたものだというのは解る人には解るだろう。

 席次3位以降のエルフ達は己の序列が上がる事を想像してか、最初からエコーには好意的だった。少なくとも表面上はそう見せていた。

 席次第1位のソレーユは貴族でありながら王家の血を濃く引く女性で、追放された研究者のエルフの妹であり、エコーの魔力運用に強い興味を持っていた。

 姉が追放されるに値すると考えた事の成果であり、間違いなく姉とエコーが何らかの形で接触していると考えた事も大きかった。

 とは言え、姉が追放された事例もあるので表立ってはその研究成果に興味がある振りはしなかったが、寝室で二人きりになると別だった。

 しかし、エコーは質問に答える事も無く、無感動に無感情に無表情で無言で腰を動かすだけ。

 ある意味シュールだが、もとよりエコーに情緒という物は無かった。

 

 フリージアは自分と子を成した男が他の女とも節操なく交わっている事に、何処か嫌な気分にはなったが、それを口に出す権利も権力も彼女には無かった。

 エコーは今日も種馬として女王のハイエルフの王国を作る計画の一端を担っている。

 

 そんな日々だった。

 

 

 

 ある日、エルフの王国に襲撃者が来た。

 とは言え、障者でもオークでも無い。

 それは(ドラゴン)だった。

 

 

 灰色の巨竜はエルフの森に降り立つと人型の姿を取った。

 

「はろぉえぶりばでぃエルフ(森ガール)たち。『うませるきかい』(フィードバック)で王族を懐妊させたのね。おめでとう。

じゃあ、次は竜族(わたし)が貰っていくわね。こっちも絶滅危惧種なの。エルフばかり純強化できるなんてズルいと思うわよね」

 

 一方的に自由な事を言って来たのは嘗ての天空の覇者、竜族の女王、ムシュフシュ種のシャヴォンヌ。

 原初の竜は嘗て神の一柱だった。

 しかし、時代を経る度に様々な竜種に分岐し、そしてその度に劣化したとされている。

 そして、天空に住んでいた竜の領域に、人間が航空機を開発して乗り込んできたときには、竜は天空の覇者の異名を人間に奪われる事となった。

 シャヴォンヌはエルフの女王と同じく先祖還りを以て、神の領域に竜族を戻し、再び世界の覇権を狙っている。

 

 そんな世界征服予告を竜の女王は誰に聞かれるでも無く勝手に話し始めた。

 仮に犯行がばれても、エルフ如きなんて束になられても負けないという絶対的自信の表れでもあった。

 

 神に至れば、障者によって劣化していく科学文明の人間にさえ勝てるという根拠の無い自身がシャヴォンヌにはあった。

 その自身の根拠はシャヴォンヌ自身が保証する故に、シャヴォンヌにとってはそれが必要充分であった。

 強大な竜の王に、他者に認めて貰わなければ保てない自身など不必要だった。

 

 

 シャヴォンヌはズカズカとエコーの居る部屋に入っていった。

 

「あなたが再生産(フィードバック)ね。思ったより個体値高そうで歴代のフィードバックより期待値大きい感じね。

素敵よ。ねえ、どうかしら? 貧乳多めの森ガールよりもぐれーとでないすばでぇ(当社比)なドラゴンに飼われてみない?

森ガールと違って、豪快な空ガールは嘘をつかないわよ」

 

「…僕に決定権はありませんからお好きにどうぞ」

 

 

「ちょっろ~。ちょっとあっさり過ぎない? ホラ、不眠症が治って久し振りに爆睡してたわたしの姉さんより物わかり良すぎよ。

ほら、なんて言うか立ち向かってやるぞって英雄君をペロリといくのが醍醐味な訳で、黙々と生け贄になる子を食べちゃうのは趣味じゃ無いって言うか。

何となくわかる? あっ、わからなくてもいいけど」

 

 ちょっとテンションが高すぎてついていけない気がするが、そもそもついていく必要も自分がどう感じるかも考える必要も無いと諦めるエコー。

 

 世界征服終わったら返すから。とアレな事を告げたシャヴォンヌはエコーを掴むと竜の姿に戻って飛び去っていった。

 エルフの女王は固まったまま動く事も出来ずにいた。

 フリージアは後からそれを聞いて、竜が『うませるきかい』を浚った事よりも、彼が抵抗しなかった事に落胆した。

 

 

 

 

 シャヴォンヌは雲の上にある古城に戻ると、人間の姿になった。

 いきなり裸だった。

 

「手っ取り早い方が良いよね。やろっか」

 

 ムードもへったくれも無かった。

 

「恥ずかしく無いんですか?」

 

 決定権が無い自覚があるので、反対するつもりは全く無い『うませるきかい』であったが、取り敢えず聞いてみようと思った。

 

「いえーす。わたしの身体に恥ずかしいところなんて何一つ無いわ。

顔、胸、背中、腰、尻、脚――――取り敢えずぱあふぇくとでしょ?」

 

 何度も言うようにエコーには拒否権は無い。

 故に、それでは始めましょうかと服を脱ぎ始めたが、そんな冷静にじゃなくてがっついてくると思っていたシャヴォンヌには不満だった。

 

「…なるほど、着衣が好みな訳ね」

 

 乗り気でがっついてこない事を、そういう理由で竜の女王は納得した。

 勿論、魅力的すぎる自分にがっつかない男がいるという発想は一切無い。

 

 彼女が一瞬で装着した衣装は、深い紺色で肩の上で紐を通すようにして支え、身体にフィットして腰回りを覆い隠すも、手足などは一切隠さないものだった。

 詰まるところのスクール水着である。そしてわがまますぎる肉体を持った彼女がそれを着ると凄まじい破壊力となる。

 雪のような白い髪を靡かせながらポージングを取っているが、相手の少年はそれを気にする様子は無い。

 

「別に衣服は着ても着なくてもどちらでも良いですよ」

 

 己は人格ある人間では無く、『うませるきかい』だから考える必要も無い。興奮する必要も無い。

 肉体的に欲情した状態にあれば行為は成せる。

 何ともシャヴォンヌには面白くない反応だった。

 

 そして、シャヴォンヌが不満そうにしていると、流れ作業的にエコーは行為を始めようとした。

 具体的には慣れた手つきでシャヴォンヌの身体を触り始めた。

 

「ちょっとまって、ほら、私も初めてだからさ、その何て言うかむぅどとか、そういうの大事にして欲しいんだけど」

 

 まさかの処女だった。

 そして、自分から全裸になったりとかしておきながらムードが欲しいとか言い出す程度にはわがままで女の子だった。

 因みに、シャヴォンヌ的には興奮しきってたまらずダイブしてきたエコーが一気に襲いかかるのはムードとしてはアリだったらしい。

 …ムードとは何なのか、それを万全に理解できればきっとモテる男になるに違いない。

 

 

 

 大事な事には拘らないくせに、違う事には拘る、割と面倒な傍若無人唯我独尊な空ガールのシャヴォンヌ。

 朝昼晩とワインのテイスティングとチェスと温泉巡りと子作りを繰り返し、時に全部同時に要求する彼女だったが、エコーは黙々とその要求に応えていた。

 

 時にはドラゴンスレイヤーとして名をあげようとする英雄がやってきては、エコーの目の前でガッツリとシャヴォンヌに喰われる事もあったが、エコーは気にしなかった。

 口周りに鮮血が着いていたとしても、要求されればそのまま行為を行う程度には彼は『うませるきかい』だった。

 

 

 ある日、シャヴォンヌが懐妊した。

 竜にとって、懐妊したときは非常に弱点となる。

 己より弱くなる種族を分化して生むときは、負担も少ない上に多く産める。

 代わりに、己より上位の竜を生むとなれば、膨大な体力を消費し続ける事となる上に、子供の数も少なくなる。

 これが、竜族が劣化を続けてきた最大の原因である。

 

 

 生まれてくるのが神に匹敵する古代竜であれば、シャヴォンヌはそれ相応の負担を負う事になる。

 彼女は生まれてくる我が子のために、母体の生存に必要なリソースだけを残して生命力を割いている。

 今のシャヴォンヌは、人間の女性よりも脆い。

 

 

 その期を狙っていたのだろうか?

 一匹の黒い竜がシャヴォンヌの居城にやってきた。

 

 黒い竜は客として訪問してきたわけでは無い。

 近くまで寄ってきた途端、城に向けて口から火炎の塊を吐き出した。

 普段はシャヴォンヌの水と氷の魔力でコーティングされている城だが、今はそのコーティングの力も発揮されていない。

 その力さえも、胎の中の仔に持って行かれているのだ。

 

 だが、シャヴォンヌは一時的に仔への供給を減らしてまで対抗をしようとは考えなかった。

 貴き竜の女性とはそういうものなのだ。

 仔を力無い竜として生むくらいなら、仔もろとも胎に宿したまま死ぬ事を選ぶ。

 少なくともシャヴォンヌはそう考えていた。

 

 

 そんなシャヴォンヌと同じ部屋に居たエコーはその部屋から出て行こうとしていた。

 

「黒くなった叔父さんの狙いは私と仔だろうから、今逃げればあなたは無事に逃げられると思う。

ありがとうね、この仔を宿せただけで私にははっぴぃだったから」

 

 シャヴォンヌはいつものように自信ありげに堂々とそう言った。

 だからきっと、この時のシャヴォンヌはエコーの行動を勘違いしていたに違いなかった。

 

「…生ませるまでが道具の役目だから」

 

 悪趣味な事にシャヴォンヌは飾っていた歴代の竜に喰われた英雄の剣を飾っている。

 彼女曰くこれは挑戦者への敬意と竜の習性らしい。

 

 その内の最近コレクションに加わったものをエコーは引き抜くと、部屋から出て行った。

 

 そして、焼け焦げた城へとやってきた黒い竜は出てきたエコーを見て、見逃してやるとばかりに嗤った。

 だが。直後に空に居る己に剣を向けてきたエコーに、竜としての闘争本能が目醒めさせられた。

 

 己に喰われる英雄に相応しい構えだと黒き竜は興奮した。

 自分を差し置いて玉座に着いた姪を抹殺し、王に返り咲く事など、今この時はどうでも良い。

 姪が神竜を生んで世界征服を行う前に、竜族を己が支配する計画などどうでも良い。

 姪に勝つために障者に魂を譲り渡した事などどうでも良い。

 そんなこと(・・・・・)己に立ち向かう英雄と対峙するのは何物にも代えがたい竜の本能なのだから。

 

 ――黒き竜は闇色に染まったブレスを吐いた。

 

 

 

 

 これで終わったか。これで終わってくれるなよ。

 相反する感情が黒い竜の中で同居する。

 

 そして、その答えは己の翼に奔る激痛が教えてくれた。

 英雄が己の背に乗り剣を突き刺していたのだ。

 

 それでこそ、これでこそ。

 黒い竜は痛みでは無い歓喜を以て咆哮した。

 

 

 

 エコーの戦闘手段は己の中の魔力を高速循環させる事で発生する圧力を絶え間なく被せ続ける事による身体強化だった。

 通常、空中に居る相手への攻撃手段など無い。

 

 少なくともエコーに戦闘技術を教えたものはその先を想定してなど居なかった。

 エコーは間違いなく天才だった。人々の中で過ごし研究者や教官として生きれば人類の未来はもう少し明るかったかも知れない。

 

 通常、人間は油に火を付けるようにして魔力を起爆させてエネルギーをエンジンに引き起こす。

 だが、エコーは違う。

 魔力を急速に圧縮する事で火を使わずに点火する様に起動させる。

 これだけで凄まじい効率化を生み出せるが、これさえも目的では無く手段に過ぎない。

 複雑すぎる術式を体内で高速で回した彼は、自らの肉体の表面に空気との親和性を生み出すフィルターを作り出す。

 これにより、座標に固定されるが如く空中機動(スカイアクティブ)が可能となる。

 

 まるで神の使いの天使のように空を舞い、まるで悪魔のように急所を狙い、人間のように命を燃やし、機械のように淡々としている。

 永く生きる黒い竜をして、これ程の逸材は見た事は無かった。

 戦う相手ではなく、交尾する相手としてしかこの男と関われない姪が哀れなほどだった。

 

 

 来い、英雄ッッ!!!!

 

 

 

 最早言葉にならない咆哮を上げて、黒い竜は真下に居る目標に向けて、最大威力の黒炎を放った。

 エコーには正面から迎え撃つ必要など無かった。

 だが、ブレスが急に肥大化して膨れ上がった。

 これでは急に横にそれても逃げられないし、反転すれば勢いが低下してそれに合わせて魔力の回転数が落ちてしまう。

 空中で魔力の回転数が落ちれば、空に居る事も保てなくなる。

 ジェット機は止まったまま空中には居られないのと同じ理屈だった。

 

 故に、迎え撃つ。

 

 

 

 回転数をレッドゾーンまで跳ね上げる。11000rpmまできっちり回す。

 瞬間、エコーの世界が切り替わった。

 早すぎる者だけの世界にエコーが順応した結果がそこにあった。

 何も書き込まれていない方眼用紙のような無の領域。

 

 そしてその先に(ゴール)があった。

 それはきっと黒い竜だった。

 

 剣をしっかり構え、それでいて獣のように駆け出したエコーはその光に剣を突き刺した。

 

 

 

 黒い竜は人間では竜には敵わないと知っていた。

 精々人間など魚に毛が生えた程度の生命体だと。

 黒い竜は見た。

 滝を昇るが如く翔け昇ってきた英雄の姿を。

 

 

「見事…」

 

 

 黒い竜は、かつて様々な先達がそうあったように、自分を殺す者(自分だけの英雄)を見付けられた。

 それは、王になる事より、世界を支配する事よりも尊い事だった。

 

 

 

 

 その様子を離れた場所からシャヴォンヌは見ていた。

 身体が疼いた。心が疼いた。そして魂が疼いた。

 己の仔の父親に相応しい。そして孰れは本気で殺し合いたい(愛し合いたい)ものだと。

 

 

 その熱意が感染したのか、胎の中の仔が一気に熱を帯びた。

 その経験が初めてのシャヴォンヌはそれ相応にも解る。出産の時だった。

 

 

 竜を殺し終えた父親(エコー)がやってきたときに神にも等しい竜の仔は生まれた。

 

 

 そして――――この世界から消え去った。

 

「どうして…いや、そうか。流石私の子供すけぇるが違うのね」

 

 嘗ての神話の時代ならともかく、生命体の数も増え、世界の質も消費された今では最早神が存在する許容領域は無い。

 だからこの世界に神は居ないのだ。

 故に、生まれ持って神となった幼き竜はこの世に生まれ落ちたと同時に、神の領域へと移った。

 母親をこの世界に残したまま。

 

 

 

「ひとり立ち早すぎないかな。もう、本当に母親泣かせね。私は最強だから泣かないけど」

 

 

 その言葉を裏切るように、胸を貸したエコーの服は湿っていたが、

どうせ、『うませるきかい』には気の利いた事は出来ない自覚があったので、

彼は彼女が泣き止むまで、いつものように無言で立ち尽くして居た。

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