ソレーユの想定が正しいとなれば、蟲族同様に他種族から見れば倫理観が崩壊している吸血種とも接触する必要があった。
吸血族はそもそも人累基準で倫理観が違う蟲族や、相手の倫理観を理解した上で
己の倫理観を正しいものとして押し付ける上に、他の種族からすればちょっとずれた倫理観で完成している。
それは、嘗て竜族などの単体で強い数種類の例外を除き、人累の殆どを吸血種が支配しかけた狂気の歴史が物語っている。
現在も存在する当時からの吸血種の君主はそれを支配される側の幸福だと心から信じていた――――いや、今も信じているのだから恐ろしい。
人間も獣人もエルフも他の種族も皆、吸血種の支配下で
その時の恐怖が、対吸血種の技術としての共同意識を造るための技術としての信仰が作らせたほどだ。
現在人間達を中心に信仰されている神聖教会の祈りや作法は、全て吸血種を退けるための合理的な行動を祈りという名前に置き換えたものだ。
例えば、吸血種を滅ぼす事に特化した呪文を付与した水を聖水と呼んだり、吸血種にとっては人間にとってヒ素に当たる銀で造ったシンボルを祈りの道具へとした。
だが、恐ろしさで言えば蟲族も負けていない。
そもそも
人間やエルフの使者の横で、元人間であった肉塊を食事として悪意無く食べている時点で察する事が出来る。
悪意無く悪夢そのものの在り方を取れる種族が彼女たちだ。
弱点は魔力抵抗に乏しい事と、寿命と回復能力に劣る事。
だが、それは命を使い捨てにする蟲族にとってはディスアドバンテージになり得ない。
寿命が早く尽きようが、それまでに巣に貢献すれば元が取れる。
損傷してとして回復させるより、使い捨てて新しい個体が生まれた方がコストパフォーマンスが良い。
加えて、寿命のサイクルが短いと言う事は、進化のサイクルが早いと言う事。
他の種族より圧倒的に早く
命を惜しまぬ全体主義にして、一匹一匹が精鋭。
それが合理的に無感情に襲ってくる。
そして必要以上の代償を捧げなければ対話すら認めない。
人間種が天敵だと定めるのもおかしくない種族であった。
「…質問を幾つかしても良いですか」
ソレーユの横で人間の研究者が恐る恐る女王に質問をしようとした。
「質問をした者が我らのエサとなるので良いのなら好きにせよ。安心するが良い、質問した者以外には喰わずに聞かせてやろう」
それは、質問をしたものが喰われても、他の者がその質問の答えを聞く事が出来るという、種族で物事を考える蟲族らしい発想だった。
人間達は質問を途端に引っ込めた。
そしてソレーユの方をチラチラと見だした。
己以外が生け贄になって欲しいという願いが見え隠れしていた。
ソレーユはそれを敢えて無視した。
「犠牲なしで質問というわけにはいきませんか…?」
人間達は弱々しく女王にそう聞いた。
「それが質問という理解で良いか? ――――答えは否だ」
女王がそう言うと、それを質問した者の周囲から上級兵士階級の蟲族の女王にて美しい女性達が集まってきて、発言者の男を
それを見た人間達やソレーユは血の気が引いた。
蟲族以外での例外はエコーだけだった。
「いやぁああああああっっ!!!!」
「嘘だ嘘だ嘘だうそだうそだうそだ――――」
「キーロォさんっ、そんな…」
「ひぃぃ…っっ…ばけ…も…の…」
人間達が口々に叫んでいた。
暫く恐慌状態であった人間の研究者達だったが、暫くすると落ち着き、人間の集落の中で生産性に劣る者を集めて生け贄として一年間毎日送るという条件で、
十二個の質問を取り付けた。
ソレーユから見て、その内の幾つかは有用な質問はあったが、しかし大半が無駄な質問だった。
その程度の質問のために同族を売る行為をソレーユには理解できなかったが、
個体数が少なく、王族や一部の貴族を例外として大半の者が高水準で同程度の能力であるエルフと、
個体数が多い上に、個体によって能力差が激しく、明確に
自分達だけを根拠の無い安全地帯に置いた上という前提条件があれば、人間も蟲族ほどでは無いが全体主義の合理思考だとソレーユには思えた。
自分達が安全圏に入った途端、次々と質問を始める人間達の姿をソレーユは悪意だと理解した。
勿論、ソレーユの予感が外れているのなら、人間達の質問は的外れでも無かったのかも知れない。
しかし、少なくともソレーユの予想が正しければ、ここから先は蟲族よりも吸血族に話を聞くべきだと認識していた。
ソレーユは、蟲族への『うませるきかい』の貸し出しが終わった後は、吸血族の所に行くべきだと女王に進言しようと思っていた。
ただ、大きな問題は吸血族の君主は『うませるきかい』をそれ程必要としないであろう事だった。