めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第十三話:心を血に染めて!

「てめえは偉大でもない、そして……王となることすら、未来永劫無い!」

 

怒りに染まった顔、そしてその時詠から発せられる……重圧。

それは対峙している都城だけでなく、めだかや名瀬達にも届くほど。

 

「中々言うではないか……えっとなんだっけか、そう、カスか」

 

霞の名を聞いて、敢えて都城はそう言ったのだ。

だが……さっきの地上でならともかく、すでに時詠には都城の言葉は聞こえない。

 

聞こえないから……一歩、一歩前に進む

 

そして、進むごとに……時詠の着ているシャツが、破けて行く。

衣が裂ける音。

背を見ていためだかや他のメンバーにはわかる。

 

時詠の肉体が、大きくみえる

 

目の錯覚か。

この空調管理され温度が下げられた部屋の筈が……空気が、押し戻されるような。

そんな感じが、時詠から発せられている。

 

「では貴様で軽いウォーミングアップをさせてもらおう」

 

都城はそんな時詠に対し、古賀のアブノーマルの試し台にするつもりだ。

だが、時詠は……真っすぐ睨みつけたまま。

歩みも止めず、ただ進む。

そこへ都城の蹴りが時詠の腹部を直撃。

 

「ふっ……!?」

 

「……」

 

時詠の骨が砕ける、そんな感触も……いや、逆に都城の足が弾かれた。

まるで鋼鉄を蹴りつけたような

 

「怒りは肉体を鋼鉄の鎧と化す……俺のように」

 

「ならばこいつはどうだ!」

 

そのまま都城は古賀のように足を使い、猛烈な連打。

全てが時詠の体に当たっているが……

 

「借り物の力で俺を倒せると思ったか?」

 

「借り物ではない! この俺の力だ!」

 

圧倒的な古賀の力。

都城もそれを使っているのだが……その蹴りも拳も、時詠に傷一つつけられない。

時詠は……そのうちの一つを、右腕で弾き飛ばす。

 

「この拳は」

 

体勢が崩れた都城相手に時詠は、左右の……古賀の血に染まった拳を強く握りしめる。

自身の蹴りが弾き飛ばされ、都城の顔が驚愕で染まる中

 

「古賀先輩の分だ!」

 

「がっ!?」

 

都城に叩きつける。

その速さは到底見きれぬものではなく、連打の前に都城は立ったまま、まともに喰らっていく。

時詠の放つ拳が空気を切り裂き、都城をまたたく間に血で染め上げた。

 

「ごふっ……き、さま!」

 

拳の威力に負けて都城は後ろに倒れるが、その身は恐るべき回復力ですぐに治る。

普通なら……たとえ治っても、時詠の拳に恐怖を抱き引き下がるだろう。

それでも、彼は引かなかった。

都城にはどんな攻撃も跳ね返している時詠でも、引き下がるのはプライドが許さない。

下がることは、彼自身の全てを壊すことになる。

 

「王(おれ)は退かぬ!……この、ノーマルごときにっ!?」

 

「……痛いか? 軽く突いただけだが……今、てめえの体は軽く触れただけでも激痛が走るだろう?」

 

今、時詠は立ち上がった都城の体に軽く触れただけ。

だがそれでも……都城は激痛を感じ、顔をゆがめる。

 

 

 

秘孔【醒鋭孔(せいえいこう)】

 

 

 

時詠が都城に拳で突いたのは、北斗神拳の奥義。

胸椎の秘孔を突き、痛感神経をむき出しにする……これは、何かに触れたり触られただけで全身に激痛が走る。

痛みで声が出ない都城に時詠は容赦なく、震え立ち上がる都城に連打を行う。

連打に巻き込まれ、都城の身の回復が間に合っていない。

 

「がっ、ごっ!?」

 

「ご自慢の回復力はどうした?」

 

回復力は、怪我や骨折などには作用するが経絡秘孔には効果がない。

経絡秘孔とはそもそも、人体内を巡る気のルートとされるもので、一般的にいえばツボといえばわかりやすい。

その部位を狂わすことで様々な作用を人体に与えることができ、今の都城は痛みで何もかも動かせない。

彼は秘孔を突かれたことで、体内の電気信号は狂わされ……時詠から発せられる重圧がさらに増す。

 

「てめえの味わっている痛みが、どれだけのものだろうと……あの人たちの痛みに比べれば!」

 

「っ!?」

 

「そして……最後にこれが」

 

時詠は強く、右拳を握る。

その身からあふれ出る、異様な重圧が……拳へと集まり

 

 

 

「ここにいる全ての、人間の怒りだぁぁぁ!」

 

 

 

渾身の右ストレート。

都城の顔面を殴りつけ、その体をコンピューターへ叩きつける。

 

「創帝、墜ちるべし……」

 

時詠がそうつぶやき、拳を解く。

破壊されたコンピューターのスパーク音が響く中……時詠は、おもむろに背を向けた。

 

「あとは会長さん、貴方に任せる」

 

「……霞同級生」

 

「……俺は」

 

時詠はめだかに何かを言いかけ、そのまま古賀の元へ。

と……

 

「ぐっ、こ、の」

 

都城が立ち上がる。

しかし、どうも様子がおかしい……痛みを感じていないようにもみえる。

 

「妙なことを……俺にそんなものは効かぬ!」

 

時詠によって秘孔はすでに解かれただけなのだが、彼が気づくことは無いだろう。

懲りてもいないようで、時詠は……敢えて、とどめをささずめだかに任せた。

だが、時詠が背を向けている中で目の前に立っているのは、めだか。

彼はすぐさま、めだかを標的にする。

 

「黒神ぃ!」

 

再び立ち上がり、めだかに向かう都城。

その放たれた蹴りをめだかは両腕で受け止め……鈍い音が響く。

やはりさっきの時詠はまぐれで、これが本来の力だと……都城は確信したが

 

「!?」

 

即座に反撃を食らっている。

それが意味することとは……

 

(……あれが、そうか)

 

時詠は古賀の処置をする二人にも余波が来ないよう、古賀をかばう。

だが同時に、黒神めだかという人物……その真相を今聞いている。

真黒が、名瀬が……その説明を行っていく。

 

(改神モード……そして、完成(ジ エンド)か)

 

黒神めだかのアブノーマル。

他人のスキルを使いこなし、完成させることができる。

 

(……そう、だから俺はめだかに対し出来る限り北斗神拳は見せず使わない。彼女は、究極奥義すら……)

 

その先は考えなかった。

今は、まだその時ではないと。

時詠の中では、めだかに対し……見せただけで、北斗神拳を本当にできるかどうかは分からない。

ただの格闘技でもない、それがどういう結果を招くのか……

 

(今は、これでいいはずだ……今は)

 

そうして、都城は圧倒される。

めだかのアブノーマルを手に入れようと、その行為自体が間違っていたことに。

今気づき、そして恐怖した。

 

決着の時だった

 

都城がめだかに対して何を見たのか、時詠は……自身の死の経験と、似ているかもと。

その時、そう思ったのだった。

 

 

 

「悪いことしたら、ごめんなさいだろ」

 

 

 

めだかは、都城にそう言うだけ。

都城も……素直に、頭を下げていた。

時詠ではそういった考えに至れないが、彼女は違う。

それは、時詠がノーマルだから……なのか。

 

こうして、一連の騒動に決着がつく

 

時詠は、古賀が危険な状態から戻ったことを確認し……再び、秘孔を突く。

彼女はその影響でゆっくりと目を開け……微笑んだ。

隣にいる名瀬は、古賀に抱きつく。

 

「古賀ちゃん!」

 

「……あは、名瀬ちゃん泣いてるの?」

 

「……よかった」

 

と、古賀がふと……時詠の方を見る。

時詠は何かと、身をかがめ古賀の方へ顔を向ける。

 

「古賀先輩?」

 

「霞君、だったんだ……すごい声で叫んでた、の」

 

「……ええ」

 

「ふふ、やっぱり……意地っぱり、だね」

 

古賀は薄らとだが、時詠の声が聞こえていたのか。

仮死状態の筈だったのだが……もしくは、心に何か響くものがあったか。

 

「ねえ、霞君」

 

「はい?」

 

「お願いが、あるんだけど」

 

ぽつりと、古賀がお願いを口にする。

時詠は……名瀬を見て、彼女が頷いたのでそれを了承した。

そうして一行は、今エレベーターに乗り地上へ戻っている最中。

 

時詠が、古賀の体を支えている

 

彼女があの時、そう言ってきていたのだ。

名瀬は反対側から手を貸しているが……どことなく、時詠をジッと見ている。

何か思うところがあるのか、考え事をしているようにも見えたのだが……時詠にはもっと驚くことがあった。

 

「すまなかった、霞」

 

「……都城先輩、貴方がそう言ってくれるのを待っていました」

 

最初、時詠は一緒にエレベーターに乗るのを拒否していた。

まあ理由を言えば……気まずいからだった。

しかし、都城は時詠にも頭を下げたのである……その意味を時詠は理解し、共にエレベーターに乗っていた。

今、都城の背には行橋が背負われており……彼は行橋にも謝り、他のメンバーにも謝っていた。

 

都城は、気づいたのだろう

 

時詠には……それだけで、嬉しかった。

彼が人として大切なものを失わずに済んだことを。

人間である、そんな証を見せてくれたと。

 

(……人の痛みを知ることができる人間は、強いんですよ。都城先輩)

 

時詠は都城が、元はいい人間だと知ってはいた。

だからこそ……思いだしてほしかった。

 

「ところで! すまんが都城三年生、あと一回だけ『言葉の重み』を使ってもらうぞ?」

 

「ん?」

 

めだかが突然そんなことを言い出した。

だが、時詠は二人の会話に割って入る。

 

「ああ、それはいいですよ……もう、地上での戦いも止まってましたから」

 

「なにっ!? えっと霞君、だっけ……」

 

「人吉君。霞でいいぞ、同級生だし……」

 

「あ、ああ。なら俺も呼び捨てでいいぜ……霞、お前なんでそんなことを?」

 

人吉とも、思えば初めての会話だ。

全員の視線が来る中で

 

「裏の六人っていう奴らが出てきたから、ちょっと……まあ、戦意を喪失させたんだ」

 

「……何をしたんだ?」

 

時詠が笑顔で指を鳴らしたので、全員……あまり時詠を知らない真黒も生徒会メンバーも納得したのだろう。

実際、あの世紀末バスケはそうそう使ってはいけないのだ。

今後使うことは滅多にない、と思いたい。

 

「なあ、霞……お前もしかして」

 

突然名瀬が時詠に話しかける。

だがその時、エレベーターが地上に到達したのかドアが開き

 

 

 

そこには、惨劇が広がっていた

 

 

 

時詠も、その光景に目を見開く。

同時に……失念していた。

怒りで、次に起こることを完全に忘れてしまっていたことに……

 

「裏の六人が、全滅……だと? チーム負け犬も……同じく全滅? 一人残らず?」

 

めだかの呆然とした声。

だが、次の瞬間……一斉に一同が時詠を見る。

 

「か、霞君? これはいくらなんでも」

 

「違います阿久根先輩! そんな目で見ないでください!」

 

破壊臣と呼ばれた彼ですら、これにはさすがに引いている。

しかも全員時詠がやったのではと思っているようだ……と

 

「じゃあなんだよ!? まさかまた戦闘が始まって相討ちに」

 

『いいや……相討ちじゃあこうはならないね』

 

その場に、不釣り合いな声。

独特の喋り方なのか、全員の耳に……入り込んでくるような、違和感。

 

 

 

『14人全員が同じように串刺しにされている』

 

『どんなアブノーマルであろうとも自分で自分を串刺しにするなんて不可能だよ』

 

『これは明らかに第三者の仕業に違いない』

 

『一体どういう目的があってこんな面白半分な惨状を演出したのかはさっぱりわからないけれど――』

 

 

 

その声が来る方向。

真正面……人吉が、その方向へ叫ぶ。

 

「誰だ!」

 

『おおっと! 早とちりしないでおくれ 僕が来た時にはもうこうなっていたんだよ だから』

 

声の主。

その姿が……現れる。

 

 

 

『僕は悪くない』

 

 

 

右手に、大きな螺子を持った学ランの少年。

童顔とその両手から滴たせる血……そしてその表情が。

全てが、全員を凍りつかせる。

 

『めだかちゃん久しぶりっ 僕だよ』

 

「球磨川(くまがわ)っ……!?」

 

めだかの、普通でない声。

そして……球磨川と名乗る少年。

 

(……過負荷(マイナス)、球磨川 禊(みそぎ)!?)

 

時詠の前に現れた、そして……もしや彼が。

あのサイコロ占いで出た、死兆星を背負う者なのか。

そして箱庭学園に……新たな乱が巻きこる。




波乱に満ちた13組の13人編、終了。
ついに過負荷編へ突入です!
時詠に言いかけた名瀬の言葉、そして新たに現れた球磨川。
箱庭学園の乱は、まだ終わりません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
余談ですが、表の六人は南斗六聖拳にも見える(天狼星は冥利だと思ってた
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