鬼瀬と冥加の布団をかけなおし、時詠は病室から出るためドアに手をかける。
だが
「霞」
背後から声が聞こえ……振り向けば、冥利がいつの間にか目を開けていた。
入院しているためか、服装は仕方ないが……普段見えるより弱弱しい。
「雲仙先輩……起きていたんですか?」
「ったく、あんな怒気をばらまきやがるから目があいちまったじゃねえか」
「す、すみません」
どうやら感情的になり、自身の気が漏れてしまったらしい。
しかし、秘孔を突いた鬼瀬と冥加は目を覚まさなかった。
「……おめえ、敵討ちでもするのか?」
「わかりません……正直、怒りは感じましたが」
その言葉に、冥利はため息をする。
今の時詠は不安定すぎると。
「俺が言えた口じゃねえかもしれねえが……間違えるなよ?」
「……はい」
「まあ、姉ちゃんを泣かせんじゃねえぞ霞」
「はい……?」
最後のはよく意味がわからないが、冥利はそのまま寝るようだ。
相当……精神的にキてるらしい。
そのため、時詠はそのまま退出する。
と
「あ」
「む、霞か」
「やあ、こんにちは」
隣の病室に入っていくのは、都城と行橋。
さすがに病院のため、普段の格好をしていないようだが……
「先輩方もですか?」
「うむ……先ほど裏の六人を見てきたが、どうやら大したことは無いようだ」
「そうだねえ……まあ、彼らは僕たちの中でも異質だし」
ということは、隣の病室にいるのは……思った通り。
残りの二人である。
「お、都城に行橋……霞もいるじゃねえか」
「……無様な姿を見せるね」
隣の病室には高千穂と宗像がいた。
どうやら彼らも……多少傷を負っているが、鬼瀬や冥加ほどひどくは無いようである。
「高千穂先輩、宗像先輩……」
「霞~聞いたぜ? 都城に一発ぶちこんだって?」
彼はベッドの上でだらっとしつつ、霞に視線を向ける。
だが、都城は時詠に殴られた左頬を思わずさすっていた。
「やめてくれ高千穂」
「ははっ、おめえも大変だったなぁ都城!」
「……前より、いい顔になったと思うよ」
宗像も今の都城を悪くは思ってないようだ。
行橋はそんな三人を、丸椅子に座りながら眺めている。
「でもさ、もう僕と王土は行かないと」
「むっ……そうだな」
「ああ、二人は結局欧州に行くんだっけな」
高千穂が言うように、都城と行橋はすでに学園へ退学届を出している。
そうして……二人は欧州へ旅立つらしい。
「向こうで、何か得れるものがあると思ってな」
「そうだね……こことは違う世界を見てみたいから」
二人はすでにそれぞれのビジョンを持ち始めている。
あの時計塔の出来事から生徒会……そしてめだかとの戦いを得て、さらに成長したようだ。
「君たちがいなくなるのも、さびしいと感じられるよ」
「ははっ、違いねえ……まあ、体壊すなよ?」
「誰にモノを言っているのだ?」
「ふふっ……二人も、そして霞君もね」
「はい……都城先輩も行橋先輩も」
都城と行橋はそのままドアに手をかけた。
と、急に時詠の方を見る。
「霞」
「?」
「黒神もそうだが、俺はお前の力をあてにしている……名瀬と古賀を、頼むぞ」
「……はい」
それだけ言い、二人は出て行った。
13組の13人である高千穂と宗像も、まだしばらく入院するらしい。
しばらく三人で雑談をしていたが、そろそろ病院からでなければまずい。
時詠も二人に帰宅するとの旨を伝えると
「霞、俺もお前と戦ってみたいからよ! やられんじゃねえぞ!」
「君との話でも得るものが多いと思えるよ……これから、よろしく頼む」
「こちらこそ……では、失礼します」
時詠は一礼してから退室し、ドアを閉める。
すでに七月とはいえ、もう空は日が沈みそうだ。
静かになりつつある廊下を歩き……時詠は家路につく。
ふと、空を見上げる。
(……北斗七星)
一年中見ることが可能な北斗七星。
季節により多少差異はあるが……
「……どうしてるのかな」
時詠は、自身にとって大切な存在を思い出す。
今はどうしているのかと。
久しぶりに……彼女の事を思い出していた。
その日、時詠は帰宅してからすぐに眠りにつく
戦いの為に、自身の身を休めることを優先した。
そして翌日。
時詠は起床後制服に着替え……腕章を腕に、登校していた。
すでに13組の人間はほとんどいなくなっており……フラスコ計画の、終わりである。
(まあ、まだ全てが終わったわけじゃねえけど)
教室に入り、まだクラスメイトが一人もいない。
仕方のないことかもしれないが……と
「霞君、おはようございます」
「え……あ、副委員長? お、おはようございます」
突然声をかけられ、ドアの方を見る。
そこにいたのは風紀委員の副委員長である呼子 笛(よぶこ ふえ)だった。
どうしてこんな朝早くからいるのかと思っていたのだが
「この時間なら、ゆっくり話せると思ったので……待ってたのよ」
「は、はあ……」
「雲仙委員長のこと、貴方もご存じよね?」
勿論、昨日会ったばかりだった。
そしてその一連の事件にもかかわっている。
時詠は、その旨を彼女に話す。
「……過負荷、ね」
「おそらくここから先、今まで以上に騒動が起きるかと」
「まいったわね……私としては、あまり生徒会との協力はどうかと思うけど」
確かに、対立している二つの組織。
そこは問題も出てくるはずだ。
「正直、私以外のメンバーもあまり生徒会には協力したがらないわ」
「……そう、ですか」
「霞君は、どうするのかしら?」
彼女の言葉に、時詠は考える。
実は時詠も……どちらかといえば、あまり生徒会とは関わらないつもりだった。
しかし、今となってはもう……
「俺は独立遊撃部隊の権限で、動きます」
「……わかったわ、それが貴方の、そして任命した雲仙委員長の意思ならば」
「すみません……新入りの俺が」
「いいのよ、それが彼の決めたことなんですから……私たちは、従うわ」
呼子は時詠に微笑む。
やはり、鎖を振るってるよりこうした方がとてもいい。
時詠は少し、思っている事を口にした。
「今日あたり、雲仙先輩のお見舞いにでも行ってみてください。結構つまらなさそうでしたから」
「ふふっ、いいわね……お見舞いの品も考えないと」
「そうですね……プリンなんかいいかと。病院食はあまり好みじゃなさそうですし」
「入院した人にそれはどうなのかしらね?」
二人して笑う。
そうして彼女は時詠に手を振り、出ていった。
(……風紀委員の協力者は無しか)
正直に言うと、ここに来るマイナスのメンバーは……時詠には相性が悪い人物がいる。
勿論やり方次第だが……あまり、めだかには見せられない。
(北斗神拳がダメ、となると)
時詠はおもむろに立ち上がり……裏手の廃材置き場へ向かう。
まだ朝の七時半、この時間ならばよほど人に見られることは無いだろう。
そうして、一本の鉄パイプを手に……宙へ放り投げる。
回転しながら落ちてくる鉄パイプに、両手を振り切った
振り切られた両手。
そして……鉄パイプが、細切れにされ地面に落ちる。
「南斗水鳥拳……できるのは、これぐらいか」
一応南斗聖拳の知識もあるが……やはり、これは外部破壊をメインにしている。
そのため、北斗神拳より使いづらい。
さらに使えるのは各南斗六聖拳の初歩の技のみというのが現状だ。
(さすがに砲弾になったりはできないからな)
今出来るので、やはりマイナスにも有効なのは北斗神拳だろうか。
もっとも……殺す気になればやれないこともないのだが
(……)
時詠はそのまま、教室へ戻る。
そうして授業が始まるまで寝ており……HRが開始された。
だが、思った以上に授業は問題なく進み……時計塔のことで、噂が立ったぐらいである。
生徒会が13組生と争った
それがもっぱら、メインになっている。
間違ってはいないのだが……問題は、やはりマイナスの方だろう。
その日の授業も一通りが終わり……しかし、新しい情報が飛び込んできた。
飛び級の人吉っていう子がいる
隣のクラスにいるとか。
しかも、同じクラスに似た顔の人吉が二人……兄妹ではないかと。
そんな話を時詠は昼にクラスメイトから聞いていた。
「でさ、その子すごく可愛いんだよ! もうなんていうか」
(やめておけ、彼女は子持ちだぞ。あれで42歳だぞ)
友達の将来が心配になる時詠だった。
そうして意外にも静かなまま、放課後となり……時詠は生徒会室へ向かう。
だが、急に足を止めた。
「……出てきたらどうですか?」
「へっ、やっぱ気づいてやがったか」
「また貴方達ですか」
久しぶりな木金コンビである。
しかし、今日は前後でなく正面からだ。
「闇討ちはやめたのですか?」
「お前には効果がないってわかったからな!」
「……なるほど」
見れば二人とも、それぞれの得物を増やしている。
つまり、二刀流……といえるかわからないが、木製金属製を両手に持っていた。
「「喰らえ! 二倍の木金バットを!」」
(そこで技名を叫べば完璧だったんだがなあ……重くなったせいで動きも悪いし)
時詠はそう思いつつ、向かってくる二人の間をすり抜け……すでに、みぞおちに一撃ずつ。
木金コンビに秘孔を使うまでもなかったのか、あっけなく倒れる。
「……というより、二本使えばその分片腕が重くなるのに気づいてなかったのかな?」
時詠はとりあえず二人を担ぎ保健室へ。
そのまま保健委員……今日は委員長はいない。
(赤さんはいない、か……しょうがない)
二人をベッドに寝かせる。
バットはこちらで回収したので……と
突然地響きのようなものが、外から響いてきた
驚き外を見る。
だが、むしろ音がしたのは
(特別教室用の校舎か!)
ならば、すでに彼女も来ている事になる。
やはり……球磨川の手は、速い。
(しまったなあ……木金コンビは無視して、そこに置いておけば……それもよくねえよ)
さすがに放置しておけるほど、時詠は非情になれない。
無害な者には、ちゃんと接することが第一だからだ。
治安を護り風紀を維持する、それ以外には……時に手を差し伸べるのも、風紀委員だ。
(……なら、軍艦塔か)
普段は黒神 真黒が管理している軍艦塔。
だが、おそらく今は……生徒会メンバーも集まってきているはずだ。
時詠はその足を、生徒会室から軍艦塔へ向ける。
しかし……出会ってしまった。
「!?」
『あれ?』
「……?」
時詠は、泣きじゃくってる女子と一緒に歩いてくる学ランの男子……球磨川と鉢合わせとなる。
どうやら崩壊した校舎から、見慣れない制服の女子……おそらく、江迎 怒江(えむかえ むかえ)だ。
『確か霞君だっけ?』
「……ええ、球磨川さん。こんにちは」
『あはは こんにちはだね』
だが、江迎は訳がわからないという顔。
おそらく球磨川は、時詠のことは何も
『怒江ちゃん、彼がそうだよ』
「えっ……あ」
大きなリボンが目立つ女子、江迎は何かに気づいたように時詠を見る。
時詠は何が何だか分からないのだが……
『もうすぐだよ霞君』
「?」
『君を待ってる子がいるよ 君も隅に置けないねえ あんな可愛い子を泣かせたりして』
何を言っているのか。
時詠は理解できないのか、片眉をあげている。
『でもそういうのもいいよね 主人公みたいにフラグを立てて行くってのも!』
「……何を」
『でもそういった人間はいつかツケが回ってくると思うよ 僕は惨劇なんて見たくないし』
その言葉。
その態度。
その全てが、時詠には何か……拳を握らせる。
「何を言いたいんだ!」
『そのうちわかるよ 行こう江迎ちゃん』
「あ、はい……」
いいこと悪いことをごっちゃにして言う。
そんな彼の、言葉の意味。
時詠にはわからず、考えるだけ時間の無駄と……今は軍艦塔へ向かった。
だが、そんな時詠へ迫る者がいることに……まだ気づいてはいないのである。
過負荷がそろい始めました。
しかし、自分の話ってモブキャラの出番が多いのですね……
そして時詠を知る者とは……一応、今までの話の中でそのフラグはあったんですが。
ここまで詠んでいただき、ありがとうございます。