ガチャガチャと、彼女の手首足首にある鎖の錠が落ちた。
冥加が己の武器……に見える鉄球を捨てたのである。
まあ、あれだけ挑発されればそうだろう。
「へえ……あっさりしてるね。己の重りを外すとか、まるでドラゴンボールのキャラみたいだよ」
「3245662『8399943』(ドラゴンボールだけわかったぞ)
8653613553232435432442567756347567867?
(大方私が道着を脱いだ孫悟空よろしくスピードアップするでも予想したのだろう?)」
おそらく原作通りのセリフを言っているはず。
時詠はそう読んであの言葉を口にしていた。
「……さて、正解かな?」
「244(ふん)」
鼻を鳴らすように冥加が言い……一瞬、口元が笑った。
時詠は手を軽く前に出し、体を左右に揺らす。
そして……冥加が、時詠の視界から姿を消した。
「68535(正解だよ)」
風が通り抜けたように感じる移動。
砂埃が巻きあがり……ほとんど音がない。
そして時詠の背後に周った冥加。
「34654753798743573547545476475
(ところで私はこんな風に相手を後ろから攻撃するのが大好きでね)」
拳を握りしめた冥加。
数字をしゃべりながら、時詠が無防備の背を見せている事で……力を込める。
地面を削る音、踏み込みの音……時詠の耳に、それらが静かに響く。
「6725279375(お前は私に一撃も当てられず)」
「244(ふん)」
「!?」
背を向けている時詠から聞こえた……数字言語。
その意味を冥加は理解したが、その瞬間……冥加の放たれた右拳は何かにそっと柔らかく流され
「がっ!?」
次の瞬間、気が付けば冥加の体は体育館の壁に激突していた。
背中に来る衝撃で一瞬息が出来ず……スカートを盛大に開きながら、地面にズルッと落ちむせ込む。
「??」
訳がわからず混乱しているのか、豆鉄砲を食らったような顔。
そして落ち着いてきたのか、先ほどの場所にいる時詠を見る。
時詠は……冥加に裏拳を放っていたのだ。
「北斗破流掌(ほくとはりゅうしょう)」
時詠はそう呟き、再び構える。
この技はいわゆる当て見。
本来は相手の攻撃を受け止めるのだが……動きが直線的なため、受け流す方が効率的だった。
どうやら格闘技などはかじっていないのか、完全に動きは素人である。
「半人前の技では俺を倒せんぞ?」
「……4136!(お前!)」
バカにされていると思ったのか、激昂した冥加は立ち上がる。
先ほど以上の怒気を感じるが……時詠は静かな目で、それを見ていた。
「892353648264483649!(油断したが私は倍以上で返す!)」
「お前は殺気が強すぎる」
「7656298326398373647!(たかがノーマルの分際でアブノーマルに勝つなど!)」
時詠は、息を静かに吐き……体をゆらりゆらりと揺らす。
冥加は、歯をくいしばるように……時詠に向かい叫んだ。
「激流では勝てぬ」
「413625! 364657676857463632! 273462!
(お前は! 私の体に触れることさえできない! 二度とだ!)」
そう言い再び突っ込んでくる冥加。
時詠は……その動きが、わかっていた。
彼女はクールに見えてかなりの激情家だ。
静かに物事を考えることもあれば、悔しいなど腹が立った時は感情をあらわにする。
(……普通の、女の子じゃないか)
時詠はマンガでは知り得なかった冥加のこうした面を……向かい合い、ぶつかることで知ることができた。
鬼瀬も、この冥加もそう……怖い、異端児と言われながらも一人の女の子にしか見えない。
目の前に来た冥加の拳、蹴り……それらをいなしながら時詠はその表情を見る。
馬鹿にするな
そんな顔をしているような気がする。
冥加の左拳をスッと右手で流し……再度の当て見。
手ごたえを感じ、冥加は再び壁際に吹き飛ぶ。
だが、今度は地面を削り……冥加は、胸を押さえながら膝をついた。
「435……3546672……(ぐっ……この程度で勝った気に……)」
冥加が視界を上げた瞬間、目の前には時詠。
すでに当て見と同時に冥加の体を追うように加速を駆けていたのだ。
そして冥加の姿勢が戻る前に、両腕を抑え込み壁に押し付ける。
「!?」
「……もういい、ここまでだ」
すでに時詠は冥加の体を自身の半身で壁に押し込み、その両腕は時詠が上で押さえつけている。
彼女の怪力をもってしても……この姿勢では自由に動けない。
時詠が上から見下ろすように、間近でそう言うが
「4…4136!(お…お前!)」
「何故そんなに焦っている?……何がしたいんだ?」
だが、冥加はなんとか抜けだそうと必死に体をよじる。
この体勢でもかなりの勢いで、先ほどから両脚を時詠に当てようと動かしていた。
「……仕方ない」
時詠は冥加に手刀を叩きこむ。
ガクッと、彼女の体が崩れ落ち……時詠はそっと支えた。
「ふう……これが13組、か」
確かに、普通ではなかった。
しかしこうしてしっかり、互いの感情をぶつけ合ってみると……少し、彼女の気持ちが理解できた気がする。
(もしかしたら……姉より優れた弟など存在しない、に近いかな?)
確か弟が飛び級で先輩、と……それは確かに嫌なものだ。
自分自身も、前世ではよく出来た弟を持っていたからわかる。
冥加の場合は嫉妬か、それとも別のものか。
なんにせよ……原作を知っている側からすれば、13組は全員あの計画へ選ばれるために必死だと。
だがそれほどまでに執着するのは、時詠では理解できないだろう。
「……よっと」
気絶した冥加を背負う。
しかし、この体のどこからあんな力が出るのだろうと思えるぐらい、彼女は小柄だ。
背負ってみればその軽さがよくわかる……と、色々当たっているものは立派なようだが。
(いかんいかん、煩悩退散)
振り払うようにめだかの元へ急ぐ。
そうして先ほどの場所へ行けば……めだかはいまだ動けないでいた。
やはり経絡秘孔は人間である以上効くらしい。
「っ……やっと、来たか」
「すみませんね……失礼」
時詠は右の人差し指で軽くめだかを突く。
すると彼女は、先ほどまでの状態が嘘のように……立ち上がった。
「ふむ、まさか動けなくなるとは思わなかったぞ……貴様は同学年か?」
「ええ、会長さん……突然すみませんでした」
「いや……聞きたいことは山ほどあるが、私はあのような暴力を好まない」
この凛とした態度。
自身の行いを疑っていない……にも見える。
しかし、時詠は逆に不安になるのだ。
「会長さん……戦わないっていうのはいいけど、それはいつか取り返しのつかないことに繋がるぜ?」
「なに?」
「戦ってこそ守れるものがある、それを覚えておいてほしい……俺は今、戦えたから色々守れたんだし」
「!?」
めだかは、時詠の背にいる冥加を見る。
別に助けは……なくとも、何とかなったかもしれない。
しかし、必要以上の怪我は負わなかった。
さらにあそこからここまで冥加を誘導したおかげで……生徒の被害も、校舎の被害も抑えられた。
冥加と真正面から戦い、抑えたことで……これ以上被害も出ないと。
それにめだかは気づき……時詠の眼をまっすぐ見る。
「……感謝するぞ、えっと」
「霞。俺は壱ノ2、霞 時詠だ」
「感謝するぞ、霞同級生!……教えられたな、私は」
「いえ……俺は彼女の面倒見るので、会長さんは会長さんのやるべきことをしてください」
「……うむ」
そう言い、めだかははっきりとした足取りで校舎へ向かう。
やはり彼女は違う……時詠は強くそれを感じたようだ。
「……さて、どうしたものか」
背負っている冥加は、いまだに目を覚ます気配はない。
まあ、眼を覚ましたらそれはそれで厄介なことなのだが……
(今日は確か、弟の雲仙冥利もいる……かな?)
13組は基本いないが、彼は来ているはずだった。
もしかしたらまだどこかにいるかもしれない。
(……授業、さぼるか)
もうすぐ夏休み。
テストもそこそことっているから一回や二回で留年するほどじゃないはずと考え、時詠はまず冥利を探すことにしたらしい。
そうして事情を話せば、彼は聞いてくれる……と信じたい。
今一度背負った冥加を軽く肩の方へ少し起こし、時詠は歩き出した。
(……)
背負われている冥加が、薄目を開けて時詠を見ている事に気づかずに。
冥加戦、終了……?
時詠は生徒会メンバーとは別行動を行っていきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。