めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第八話:捨てえぬ心

「半人前の技では俺を倒せんぞ?」

 

(65287539……(うるさい……))

 

「お前は殺気が強すぎる」

 

(767202837362……(何を言っているのかわからない……))

 

「激流では勝てぬ」

 

(3729373850204847……(何故ノーマルがアブノーマルに干渉する……))

 

「……もういい、ここまでだ」

 

(37492746473……(私は勝たなければいけない……))

 

「何故そんなに焦っている?……何がしたいんだ!?」

 

(9873645293423945……(私をそんな目で見るな……))

 

「……仕方ない」

 

(48593736……(私はまた負けるのか……))

 

冥加は薄目を開け、意識がもうろうとした中で……目の前の温もりに気づく。

ゆっくり体が上下に動きながらも、気持ち悪くは無い。

むしろ、温かく落ち着く……懐かしい感じがする。

 

(……)

 

その温もりから離れたくない、そんな気持ちから冥加は腕を前に回し、離れないようにしがみつく。

と……そこで靄がかかっていた思考が戻ってきた。

目の前に見える、箱庭学園のブレザーと誰かの顔。

今自分がいるのは……

 

「風紀委員室……ここか」

 

「!?」

 

何事かつぶやいているのは、先ほどまで戦っていた男子学生……時詠の背中。

おまけに時詠には、両手を太ももに回されており……

 

「ん?」

 

「4136!(お前!)」

 

前に回していた腕を上げ、時詠の首を締め上げる。

時詠は……突然の攻撃で体勢を崩し、その怪力で意識が一気に遠のきそうになっていた。

 

(こ、の!)

 

しかし、後ろ手で冥加を支えていた両腕を戻し……両の指で、回されている冥加の腕。

そこの秘孔を突く。

 

「!?」

 

すると、今までかかっていた力が一気に抜け……冥加の両腕はだらんと垂れる。

時詠はむせ込みながら前転して回避し、廊下に片膝をつきながら冥加と向き合った。

 

「7394782684923!(私は負けていない!)」

 

冥加の眼は死んでいない。

いまだに戦う意思が見て取れる。

その両腕が使えないことを知りつつ、彼女は使えない腕を無視し右肩から向かってくる。

 

「いい加減にしろ!」

 

時詠はそんな隙だらけの彼女を、正面から受け止める。

踏み込みの速さは大したものだが……鍛えられた時詠の体には、響かない。

受け止める瞬間、うまく突進の力を受け流している。

おまけに体重差もある為か、数歩下がっただけで動きは止まった。

 

「っ!?」

 

「4873944847……4873944847!(馬鹿にするな……馬鹿にするな!)」

 

しかし冥加は、その顔を時詠の胸に押し付けなお進もうとする。

声は……あの戦っていた時より、どこか悲痛なものが混じっているように聞こえる。

故に時詠は……当て見を使わなかった。

 

(この子は、なんでこんな顔を?)

 

最初にあったころの無表情など、今はどこにも見られない。

胸にすがりつくように抵抗する冥加。

その顔は最初のころとは比べものにならないほど……涙を浮かべ、弱弱しい。

時詠がビクともしないため、動かせない両腕でなく体ごと何度もぶつかってくる。

 

「……どうして君は」

 

すでに数字言語でなく、涙声にしか聞こえない。

時詠はいったん冥加を離すため、その肩に手を置き

 

「姉ちゃん!」

 

「っ!?」

 

突然時詠の左に衝撃がはしった。

左腕が折れるんじゃないかと思えるような一撃に……時詠は吹き飛ぶ。

ズザッと廊下を滑りながら、時詠はすぐさま姿勢を戻す。

 

(あれは……)

 

見ると、先ほどまでいた場所に一人の子供がいる。

冥加と同じ髪の色……白い制服に風紀の腕章。

間違いない、風紀委員長でありモンスターチャイルドこと雲仙冥利だ。

 

そして、13組の中で選ばれた13人に名を連ねるアブノーマル

 

冥利は風紀委員室の前がやたら騒がしいので……リハビリ代わりか、軽く取り締まる気持ちで出てきた。

そこで見たのは、時詠の前で泣いたまま嫌がっているように見える冥加を見たのだ。

明らかに様子がおかしい、自身の姉の事はよく知っているが……あそこまで取り乱すなど。

鉄球もなく、どこか弱弱しく……しかも時詠が肩に手を置いているのを見て、とっさに蹴りつけたのだ。

 

(左腕……無事か、なんとか動く)

 

やはり今の冥利は、昨日のめだかとの戦いで万全ではないのだろう。

もし万全だったら今頃……想像したくなかった。

 

「4726484!?(大丈夫か!?)」

 

「…………638467(…………冥利)」

 

「おいこらそこの。人の姉を、よりにもよって風紀委員室の前でとはいい度胸じゃねえか?」

 

冥利は崩れ落ちている姉の前に出て、時詠へ睨みをきかす。

やはり誤解しているようだ。

まあ、事情を知らぬ者が見れば……確かに誤解を招きかねない。

 

(いや……姉なら、家族ならなおさらか)

 

「聞いてるのかコラ……お前」

 

「聞いてますよ、雲仙先輩」

 

時詠は静かに返す。

とにかく、今は自分自身も頭を冷やし……落ち着くことだった。

相手は先輩でもあるのだから。

静かに呼吸を整え、冥利を見る。

 

「……俺を知っていて、よくもまあここで暴れられたものだな?」

 

確かに、風紀委員室の目の前で暴れる奴などそうそういないだろう。

それだけでも、時詠は危険だと判断されたのかもしれない。

 

「……まず、話を聞いてください」

 

「ああ?」

 

少しは落ち着いたのか、冥利が片眉を上げる。

だが……姉の冥加よりは話が通じそうだ。

時詠は抵抗の意思がないと、両手をあげて近づく。

冥利は、そんな時詠を見て……いったん、矛を収めた。

 

「ケッ……なら納得のいく説明をしてもらおうじゃねえか」

 

「はい」

 

冥利はとりあえず部屋に入れと、姉の冥加をなだめ……時詠はその後に続いた。

そうして風紀委員室に入れば……なんかそこらじゅうにヤバゲな得物が見えた。

冥利はそこの、委員長の机上にドカッと座りこむ。

時詠に向けられるギラッとした眼、これは姉の冥加がキレた時にそっくりだった。

 

「実は、今日の昼ごろに……」

 

そんな冥利を前に、時詠は嘘を一つも言わず真実のみを話す。

めだかへの襲撃、校舎の破壊を避けるため外へ、そして体育館裏での勝負。

冥利は最初は納得していたが、後半あたりから徐々に疑いのまなざしを向けてくる。

 

「まあ、前半は何となくわかった……俺もついさっき、その件で人吉と話してたからな」

 

「……後半の方では?」

 

「信じられねえな、お前スペシャルでもないだろ?……姉ちゃんに勝てるってのがな」

 

確かにそうだ。

しかし、時詠はあくまで真実だけを話す。

 

「信じてもらえるかはわかりませんが、ノーマルにもいますよ?……生徒会の庶務みたいなやつは」

 

「……ケッ、そこまで知ってるか。ま、確かにそうだな」

 

どうやら人吉のことはしっかり評価してるように見える。

直接戦ったことは無いが、冥利は冥利で何か感じるものはあったのだろう。

と、冥利は右腕をぶらっとさせて

 

「……いきなり、危ないじゃないですか」

 

「へえ、それを受け止めるならさっきのはどうもマジみたいだな」

 

時詠はとっさに右の人差し指と中指で何かを挟み込む。

それは弾力もある……スーパーボールみたいなもの。

一応警戒したまま、構えていたおかげか……冥利の攻撃を止めることに成功した。

 

 

 

北斗神拳奥義【二指真空把(にししんくうは】

 

 

 

敵が放った投擲武器を二本の指で受け止め、それを相手に向かって投げ返すという北斗神拳の奥義である。

時詠は冥利の攻撃方法を知っているため、万が一を考えていた。

しかし、今の冥利は本気でないため……無駄な争いを避けるため、時詠は投げ返しはしなかった。

得意の跳弾をさせず、まっすぐ投げてきたことですぐにわかる。

だが今の攻防で、時詠の言い分を信じたらしい。

 

「しかし、お前も変わったやつだな……ノーマルなのに首を突っ込むとかよ」

 

「知らなかったとはいえ……お姉さんの事では、すみませんでした」

 

時詠はあくまで、雲仙姉弟の関係を知らなかったことで通す。

 

「あ~……姉ちゃん?」

 

と、冥利は姉の冥加を見る。

彼女は沈んでおり……すでに腕は動くようになっているが、どうも元気がない。

 

「(霞、っていったな?)」

 

「(はい、雲仙先輩)」

 

「(……あんな姉ちゃん見るのは久しぶりだ、あまり感情を出さないからな)」

 

ボソッと言う冥利。

久しぶり、とあるが……確かに会った時も無表情で淡々としていたのだ。

それは日常でもそうなのだろうか?

 

「(結構戦った時は激昂してましたが……)」

 

「(姉ちゃんは普段表に出さない分、キレたりすると反転するのさ……俺も酷い目に合ったしよ)」

 

やはり単純な姉弟喧嘩なら負けるようだ。

それも、あの怪力なら納得である。

しかも冥利の顔からして、かなり痛い目を見たらしい。

 

「(あの、失礼かもしれませんがもしかして先輩とお姉さんは……仲が悪い、とか?)」

 

「(……そういうことじゃねえんだが、姉ちゃんは最近まで引き籠っててよ……俺のせいでな)」

 

それもあの沈みっぷりに一枚かんでいるのだろう。

だが冥利は姉のことで、嫌っているようには見えなかった……その逆もである。

 

「(雲仙先輩、お姉さんは……もしかして俺にやられたことを?)」

 

「(ノーマルのことなんて、歯牙にもかけていなかっただろうしな……だが、それだけじゃねえ)」

 

冥利は、そこで口を閉ざす。

引きこもりの姉が学園に来る理由が、少し複雑だと……それだけを時詠に話した。

まあ、無関係といえる時詠に話すのはおかしいだろうが……時詠は理解しつつ、追求しない。

 

「(深くは聞きません)」

 

「(へえ……お前、引き際ってのを弁えてるんだな?)」

 

「(どうも……ただ、彼女についてなんですが)」

 

時詠は、どうしてもあの冥加の顔が忘れられない。

過去に何があったのかはわからないが、冥加は自身の感情にも戸惑っているように見える。

 

「(雲仙先輩)」

 

「(あん?)」

 

「(少し、通訳をお願いしても?)」

 

時詠は、眼を見開く冥利を横目に……冥加の元へ。

冥加はパイプ椅子に腰かけたまま、ずっと下を向いている。

無表情だが、その顔には悔しさがあふれているように見えた。

 

「姉ちゃん」

 

冥利が姉の冥加に声をかける。

と……それは理解できているのか、冥加は無表情のまま冥利を見た。

 

「8762563938367(こいつが話したいってよ)」

 

「……3748372?(ノーマルにすら負ける私を笑いにか?)」

 

「48457567392023837

(それはわかんねぇけど一応聞いてやってくれや)」

 

と、時詠が冥加の前に立つ。

冥加は……視線をまた下に落としてしまうが、時詠は片膝を突き顔を合わせた。

 

「なあ、冥加さん(38474939)」

 

「……」

 

「はっきり言うぜ……明日も学園に出てこい

(8649274848……948467493723)」

 

その言葉に、通訳の冥利も若干驚いたようだ。

一瞬だが冥加の眉も、少しばかり動いていた。

 

「485759378(ふざけるな)」

 

「ふざけてねえぞ? マジで言ってる(48575934? 53739347)」

 

「……3857364849373836734!(今も私を馬鹿にしている癖にか!)」

 

ギラッとした眼。

先ほどと……また違う眼だ。

一回勝ったことで、時詠がいい気になっていると……そう捉えたのだろうか?

 

「俺はそんな意味で出て来いって言ってるんじゃない

(834983737463499)」

 

「3749373934486……(ではどういう意味だ……)」

 

冥加が、おかしなことを言えば殴ると言わんばかりの顔になっている。

時詠は……ニッと口を釣り上げ

 

 

 

「俺と一緒に風紀委員に入ろう」

 

 

 

この言葉に、冥加は……通訳の冥利を見る。

だが冥利はと言うと、珍しく口をあんぐりと開けたままになっていた。

しかし、ハッと気がついたように通訳をするが……

 

「4857593?(ふざけているのか?)」

 

「本気だ(36354)」

 

「……638467(冥利)」

 

姉である冥加の視線が、冥利に刺さる。

しかし……冥利はむしろ時詠に対し驚いていたが

 

「38264737? 73836462873264

 (まあいいんじゃねえか? 俺もしばらく出れないし)」

 

「……736326748(では何故弱い私を誘うのだ?)」

 

「強い弱いじゃない、その負けん気に惹かれた……君はしっかりとしたものを持ってる」

 

これにはさすがに冥利も笑っていた。

ただ馬鹿にする笑いではなく……時詠に対し、本当に変わったやつだなと。

そうして冥利の通訳を聞いた冥加はしばらく考え込む。

 

正直、断られると時詠は思っていた。

 

断ったならば、それはそれで……冥加の限界なのだと。

そうして、時詠と冥利は冥加の口が開かれるまで待ち……

 

「673648……(いいだろう……)」

 

「本当か?(125836?)」

 

冥加はしっかり顔を上げ、立ち上がる。

時詠を見据え、口を開いた。

 

「467982734646(お前に勝つため通うだけだ)」

 

「……それはまた(928377)」

 

「694746746……848274674(だが勘違いするな……あの時も言ったが)」

 

時詠の方が背も高いため、冥加は下から見上げる形になる。

しかしその目は……最初に会った時より、強く見えた。

 

 

 

「75426356243146525311425!(私は軽い相手を重く潰す!)」

 

「なら俺は24時間365日。逃げも隠れもせずいつでも挑戦を受けよう!

 (484724398365。5335683995642363!)」

 

 

 

冥加は冥利の訳を聞いて、キッとした顔で時詠を見た。

だが……時詠は、その顔はどこか楽しそうに見える。

 

「雲仙先輩、それで……本当に突然ですが、いいでしょうか?」

 

「今さらかよ?……ああ、認めてやるよ。特例でお前の風紀委員入りをな」

 

やはり自身の抜けた穴、それと今回めだかとの接触でしばらく戦線離脱者もいるとか。

そのため人員も必要であり……ちょうどよかったらしい。

 

「ま、可愛い後輩の頼みだしな」

 

「……雲仙先輩、ありがとうございます」

 

「ケケッ、まあ姉ちゃんも一緒なら心強いしよ……頼むわ、男に二言はないっていうならよ」

 

それは冥加の挑戦をいつでも受けるということだろう。

時詠は、冥利の言葉にしっかりと頷く。

 

「そうだ……雲仙先輩」

 

「ん?」

 

「もう少しだけ通訳をお願いします」

 

冥利は仕方ねえなという顔でうなずいた。

時詠は今一度冥加を見て口を開く。

 

「突然だが……俺の事を呼ぶならしっかり名前で頼む(182……47463653858)」

 

「538?(名前?)」

 

そして時詠は、自身の名前を口にする。

 

「霞 時詠」

 

「……」

 

だが、冥加はうまく言葉にできない。

冥利はそんな冥加を見て……今度は通訳をしない。

 

「霞」

 

「……84746」

 

口に出されるのは、数字。

やはり難しいのだろうか……と、時詠は少し呼び方を簡単にしてみようと考える。

 

「と」

 

「……3」

 

「と」

 

「…………と」

 

「!?……き」

 

「……………き」

 

冥加は慣れない感じで、片言でつぶやく。

これに冥利は苦笑しているようだが……時詠は気づかず、自身を指さし

 

 

 

「ト・キ」

 

「と……き」

 

「ト・キ」

 

「とき」

 

 

 

やはり三文字以上だと苦しいのかもしれない。

しかし、冥加もやはり練習すれば……もしかしたら、喋れるようになるのではと。

 

「これから俺の事は名前で呼んでくれ(256839474636)」

 

「……673932(いいだろう)」

 

「よし!」

 

時詠はとても嬉しそうだった。

あまり名前で呼ばれないのもあるが……冥加が少しでも前向きになってくれたのが嬉しいのである。

 

「……では雲仙先輩、そろそろ俺も授業に戻ります」

 

「ああ、そういやそうだろうな……さぼったのは大目に見てやるが明日から頼むぜ? 腕章も用意しとくからよ」

 

「はい……冥加さん、またね」

 

しかし、時詠もまた冥加の事を名前で呼ぶ。

単純に雲仙だと、先輩をつけてもさんをつけてもどこか被る気がしたからである。

だが……冥利もそれについては何も言わないようだ。

冥加は理解したかはわからないが。

風紀委員室から出て言った時詠を見て、冥利は姉の方を見る。

 

「7837367436(姉ちゃん、少し休んで行けよ)」

 

「……93937(そうする)」

 

冥加は弟がテーブルに茶菓子を出していく。

それを見ながら、冥加は小声で何かを言っていた。

 

「……と……き…………と、き」

 

冥加がそう呟きながら、弟の冥利の元へ歩いて行った。




風紀委員って、母校では相当……な思い出がありました。
感想などで色々な意見をいっていただき、自身の未熟な部分についてのご指摘など、ありがとうございます。
キャラの把握、設定がおかしいなど……至らない点も多くあると思われますが、どうかよろしくお願いします。

次回から「13組の13人」編に突入となります。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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