縁は異なもの趣味なもの   作:まみゅう

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とある要求

 前略、師匠。

 俺です、マオです。カキンの田舎から出てしばらく経ちますが、都会ってところはすげー恐ろしいところでした。

 まず、俺たちが”チーゴ”だと言ってたあれは、こっちでは”念能力”というらしいです。遣える人も案外いました。ってか、俺なんて雑魚中の雑魚だったよ、意気揚々と上京したのが恥ずかしい。

 しかも早速詐欺(?)にあいました。詐欺って言うよりかは、犯罪に巻き込まれたって言うべきなのかな。とにかく、俺がバイトをしていた図書館の貴重な本が盗まれてしまって、共犯じゃないのかって疑われたんです。職員しか持ってないIDカードが侵入に使われたり、防犯カメラの電源も落とされたりしていて、内部の者の手引きがあったんだろって。知らねぇよ。俺はやってねぇ。もしも共犯だったら、現場で朝まで寝こけずにさっさとトンズラかまします。警察は俺より馬鹿かもしれません。

 

 とまぁ、そんなわけで俺が共犯だって疑いは次第になくなっていったんだけども、今度は奪われた本の責任問題を問われちゃって。それは正直、まずいなって思いました。でも、よく考えてみてほしい。俺の仕事は呪われた本から念を消すことで、本の警備じゃない、そうでしょう? しかも被害総額をちらっと小耳に挟んだけれど、どう考えたって一個人に弁償できる額じゃなかった。そんな金があったら、七回くらい人生遊んで過ごします。こっちだって仕事を失ってこれからの人生どうしたものか悩んでるくらいなのに、本くらいで皆ごちゃごちゃうるさい。本が無くても死なねーけど、俺は飯を食わなきゃ死ぬんですよ。

 だから師匠、すいません。俺、色々面倒になってトンズラしちゃいました。たぶん今度こそ共犯って疑われてるんじゃないかな。指名手配とかされるかもしれない。故郷に錦を飾るどころかWANTEDになりました。ほとぼりが冷めるまでたぶんそっちには帰れないし、なによりこのままじゃ俺の気が済みません。あの泥棒野郎をこの手で捕まえてやる。だって、聞いてください。

 盗まれたのは本だけじゃなくって、俺の念能力もなんです。

 

 

 

「久しぶりだな、元気にしていたか」

 

 田舎から上京してきたうえ、図らずも後ろ暗い身となったマオに久しぶり、と声をかけてくるような知り合いはいない。だからこそ初めは自分に向かって言われていると気付かず、マオは人通りもまばらな裏路地で今晩のおかずについて考えていた。とりあえず騒ぎの中心であるヨークシンからはうまく逃げ出し、クカンユ王国の小さな街にまでやってこれたのはよかったが、依然として生活基盤はガタガタなのである。定職につくにも何の資格もないし、今となっては念能力すら遣えない。犯人逮捕だ! と息巻いたのはよかったが、当然何の手がかりも掴めておらず、それよりは先にまともな生活をしたいと思ってここ数か月過ごしてきた。

 

「おい、聞いているのか」

「ん? 俺?」

 

 二度目は言葉と共に肩を掴まれて、マオはようやく振り向いた。振り向いたはいいものの目の前に立っている男に見覚えがなく、あからさまに首を傾げた。

 

「はぁ、どちら様でしょうか」

「呑気なのは相変わらずなようだな、マオ」

「なんで俺の名前を……アンタとどこかで会ったっけ?」

 

 名前を呼ばれてもう一度まじまじと男を見るが、やっぱり知らない顔だ。そもそも故郷を出てから知り合いらしい知り合いはヒソカくらいしかいないし、そのヒソカとも天空闘技場以来連絡を取っていない。携帯電話は未だに手に入れてなかった。携帯がなくても困らないが、飯がなくては困るからだ。

 マオの反応に、男は呆れた表情を隠さなかった。さらさらとした黒髪に、同じ色の丸い瞳。ついでに言うなら輪郭も丸く、童顔な男だ。額に巻いたターバンと耳元のピアスが特徴的で、後はまぁ男の目からしても顔立ちの整った色男だということくらいだろうか。生憎、マオには関わりのなさそうな色男(イケメン)だった。これが美女ならよかったが、男ならば正直どうでもいい。

 男は黙って肩を竦めると、その右手に一冊の本をどこからともなく(・・・・・・・・)出現させた。

 

「あっ、あああぁぁっ!!」

 

 大抵のことは寝たら忘れるマオでも、流石にこの男のことは忘れない。最初に気付かなかったのは、男の見た目が全く違っていたからだ。前に会ったときはオールバックで、服装もファーのついた黒いコートを身にまとっていた。髪型と服装が違ったらわからないなんて情けない話だけれども、実際それだけで雰囲気ががらりと違うのだから無理もないだろう。

 男はマオの反応ににっこりと笑った。その笑顔はいかにも好青年のようだったが、マオはこの男がとんでもない奴だと知っている。「アンタな、探したんだぞ! 返せよ俺の念!」咄嗟に男の持つ本に手を伸ばせば、触れる間もなくそれは目の前から消失した。

 

「あぁ、いいぞ」

「くっそぉ、マジでなんなんだよ。腹立つ~……え? 返してくれるの?」

「そのつもりでお前に会いに来たんだ」

 

 随分とあっさりした返事に、なんだか拍子抜けしてしまった。男はもう一度本を出現させると、それから何やらページをめくって、ほら、と言う。それからすぐに、マオは自身の身体にオーラが漲ってくるのを感じた。

 

「お、おぉ、マジだ! 念が使える、使えるぞ」

「それはよかったな」

「あぁ、ありがとう! ん? ありがとうか? まぁいい、これで元通りだ、助かったよ」

 

 正直なところ、マオにとって念が遣えなくなったことが一番の悩みだった。金さえ貯まればカキンの田舎に帰るつもりである。都会で指名手配されようが、田舎で農業をやる分には関係ない。しかもマオは本当に犯罪は何一つ犯していないのだ。

 だが、念能力を失ったことはかなりショックだった。もともとさほど念能力を遣って生活していたわけではないが、これまでの苦しい修行に耐えた過去が全部パァである。故郷に戻って師匠に会わせる顔もない。

 そういうわけで、男が念を返してくれるのならひとまず過去のいざこざは水に流してもいいかなと思えた。泥棒と関わってもいい事なんてなさそうだし、図書館の本を返せと言っても無駄だろう。というか図書館側には散々疑われた後なので、マオはあまりいい印象を抱いていなかった。有り体に言うと面倒事に関わってまで、本を取り戻してやる義理は無いと思ったのだ。

 

「じゃあな、わざわざ返しにきてくれてありがとう。もう二度と俺の念を盗るんじゃないぞ」

「待て、帽子をかっぱらった犬みたいな扱いをするな。わざわざ返しに来たんだから、用があるに決まっているだろう」

「用? 俺に?」

 

 てっきり話は終わったものだとばかり。きょとんとするマオに男はため息をついたが、それでも諦めて帰る気はないらしい。怪しく輝く黒い瞳に射竦められ、マオもつられて真剣な表情になった。

 

「そうだ、マオ。お前の能力を見込んで、仕事を頼みたい」

 

 

 △▼

 

 

 前略、師匠。

 俺です、マオです。カキンの田舎から出てしばらく経ちますが、そこそこな郊外でもやっぱ恐ろしいところでした。

 まず、俺にストーカーができたみたいです。信じてもらえないかもしれないけれど、相手は男です。そいつは(くだん)の泥棒野郎なのですが、一度会っただけなのに俺の名前をどうにかして突き止めていて、しかもヨークシンから離れた逃亡先のクカンユ王国にまで俺に会いに来たんです。あ、そういえば盗られた念能力については返してもらいました。まぁでも、そこで案外良い奴なのかもって思ったのが全ての失敗だったみたいです。マジでやばいんだ、こいつ。

 

 男はクロロ=ルシルフルと名乗りました。俺は知らなかったけど、師匠は知ってますかね? 幻影旅団とかいう盗賊団の(かしら)をやってるそうです。正直、フリーターの俺が言うのもなんですが、どうなの? っていう職業で……。

 クロロの用件は、俺にとある遺跡の宝物庫にかけられた念を解いてほしいということでした。これがまぁ、普通の遺跡調査の人の頼みなら二つ返事で了承したんだけれど、相手は盗賊なんだよなぁ。絶対合法じゃないだろうなぁ。

 正直、これ以上罪を重ねるのはごめんなので(前回の件は何もしてないけど!)俺はちゃんと断ったんです。断ったんですけど、断らせてくれませんでした。

 だから師匠、すみません。この手紙も書いてみたはいいものの送る術がありません。だって、聞いて下さい。

 俺、クロロに監禁されているんです。

 

 

「お前にとってもそう悪い話じゃないだろう。なんでそんなに頑ななんだ?」

 

 湯気が立ち上るコーヒーに口をつけたクロロは、先ほどマオが念を打ち消したばかりの本を片手にうんざりしたように言い放った。裏路地で強引にマオを攫ったこの男に監禁されて早三日。別に拷問や拘束の類は無いので、実際には軟禁状態と言ったほうが正しいのかもしれない。

 

「いや、だってアンタ盗賊なんだろ? そんな奴に協力するわけにはいかねーじゃん」

「本は除念してくれるのにか?」

「それはまぁ、飯代と宿代の代わりだよ」

「……お前、馬鹿だろう。まぁ、俺としては暇つぶしができてちょうどいいが」

 

 マオの念を盗んだのはいいが、結局クロロには”位相合わせ”ができなかったらしい。そうなるとこの念能力は波状のオーラを飛ばす単なる放出系としての価値しかなく、クロロは念を返すことにしたのだそうだ。図書館から盗んだ本も念が解けずに読めずじまいだったようで、それを聞いたマオはふふん、と得意げに鼻を鳴らしたものだった。

 

「依頼料は払うと言ってるのに、面倒な奴だな」

「金なら他の手段でも稼げるだろ、厄介事に巻き込まれたくないんだ」

「稼げると言った割には大した暮らしをしていなかったようだが?」

「うっ……確かにこんな腹いっぱい飯が食えるのは久しぶりだけど……」

 

 クロロに取っ捕まってから、お陰様で毎日ご飯が食べられるし眠るところにも困らない。一日中ぐだぐだしてても怒られるわけでもないので、意外と快適な生活だった。だからほんのちょっぴり申し訳なくて、自分から本の除念を買って出たのである。除念はもともと図書館側からも頼まれていたことだし、悪事ではないはずだ。たぶん。

 

「お前だって、もう少しまともな生活をするべきだと内心では思っているんじゃないか?」

「うう……」

「故郷に帰るにしたって、金が要るだろう。遺跡から宝を盗むのは泥棒だが、念をはずすのはむしろ感謝されることなんじゃないか? 宝の方だって人知れず眠っているより、価値のわかる人間の手に渡ったほうが幸せだろう」

「そ、そうなのかなぁ」

 

 確かに頼まれたのは宝を盗むことではない。あくまで除念だけで、それもできるかどうかもわからない。しかし、クロロにはマオを騙した前科がある。同じ失敗はしたくないので、警戒するのは当然だった。

 

「そうだな、金以外にも望みがあれば聞いてやろう。俺も本が読めてお前には感謝しているんだ」

「や、やめろよ。そこで本の恩を返されたら、また飯の恩を返さなきゃいけなくなるだろ」

「ふん……意外と義理堅い性格なんだな。だったら尚更だ。何か望みを言ってみろ」

「やだよ」

「いいから言え。後から来る俺の仲間より、おそらく俺のほうが優しいと思うぞ」

「……」

「そうだな、言わないというのなら……」

 

 ぱたん、と本を閉じたクロロがいい笑顔を浮かべたので、マオは慌てて口を開いた。「わ、わかったよ!」半分ヤケクソだ。この条件で嫌だと言うならそれはそれで構わない。都会の人間はやたらと隠し事が多いし、親切じゃないのも知っている。

 マオはふう、と大きく息を吐くと、覚悟を決めてクロロに要求を突き付けた。

 

「俺に、念能力について詳しく教えてほしい。あと、修行もつけてほしい」

「は?」

 

 今まで余裕たっぷりだったクロロが、まるで知らない言語を聞いたかのように口を開ける。

 それを見たマオは初めてこのスカした男の表情を崩してやれたかもしれないと、少しばかり愉快な気分になったのだった。

 

 

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