一体、何イロリョテイなんだ……
リギルでの練習も終わり、ルーに人参ケーキをご馳走してもらうことになったので、現在私は上機嫌。尻尾も無意識の内にブンブン振ってしまう。
ともあれ、取り敢えず一度自分の部屋に戻ることにした。
「ただいま、リョテイちゃん」
「あ、フィンスターニス先輩、お帰りなさい」
私を出迎えてくれたのは、リョテイちゃんことキンイロリョテイ。私の可愛い可愛い後輩ちゃんで、同じチームルナのチームメイトである。まぁ、私よりも格段に背は高いが。
「今日の練習、どうだった?」
「とても実りのあるものでした。フィンスターニス先輩も、会長との練習は如何でしたか?」
「そうだね……」
リョテイちゃんに、ルーとだけでなく、マーちゃんとも走ったことを説明する。
「ほわぁ……そ、それは見てみたかったです」
「ふふ、今度はリョテイちゃん達と走りたいな。ユエからタイムが上がってるって聞いたよ」
「は、はいっ、是非!」
ルーやマーちゃんと走るのも楽しいが、私にとって、リョテイちゃん達、同じチームの後輩ちゃんが成長するのを見るのは、心から嬉しくなる。
少し早いかとも思ったが、ここはトレセン学園。日々トレーニングに励む健康優良ウマ娘達が集う園。食堂には、既に沢山の娘達が集まっていた。
「あれ? 今日はいつもより少ないのですね」
「うん。ルーが夕飯の後ケーキをご馳走してくれるの。ルーのことだから美味しいジュースも用意してくれると思うから、少しお腹を空けておこうかなって」
いつもは、
ご飯(丼大盛り)
オカズ(大皿特盛)
汁物(丼)
サラダ(ニンジンマシマシ)
だが、今夜は、
ご飯(お茶碗特盛り)
オカズ(お皿大盛り)
汁物(丼六分目)
サラダ(ニンジンマシ)
くらいにしました。
「ふふふ、フィンスターニス先輩は、会長と本当に仲が良いですね」
「うん。クラシックは一緒に走れなかったけど、それでもルーやマーちゃん達は負けられないライバルだから。それに、ずっと追いかけてきてくれるからね」
自分であまり言うようなことではないが、私は速い。それでも諦めようとせず、どこまでもいつまでも追い掛けて、隙あらば追い抜こうとしてきてくれるルーやマーちゃん、他の同級生や後輩ちゃん達がいてくれるこの学園は、とても居心地が良い。
やっぱり、私が速いからといって、出走拒否されてしまうのはとても悲しいのだ。
「羨ましいですね。私にもそのような方は出来るでしょうか?」
「出来るよ。スズカちゃんとかドーベルちゃんとかもいるし、リョテイちゃんの後輩ちゃん達も面白い娘が多いから、沢山の娘と仲良くなれるよ」
リョテイちゃんと近いウマ娘ちゃん達は、とても面白い娘が多い。彼女達と沢山走ることになるであろうリョテイちゃんは、仲良くなれる娘が沢山出来るだろう。
「でも、私は先輩のように速いわけではないから……」
「リョテイちゃんは遅くはないよ。末脚は凄いと思うし……そうだね……後付けるべきは自信かな?」
「自信、ですか?」
「そ。正確に言えば、勝負勘、とかかな? レースに出て、勝っても負けても、それはリョテイちゃんにとって大切な糧になる。だから、リョテイちゃんに必要なのは、レースの経験」
リョテイちゃんはまだまだ未熟なウマ娘だ。早熟な娘もいれば晩成の娘もいる。もうピークを過ぎたと思われていても、G1レースを勝つウマ娘もいるのだ。
「だから、リョテイちゃんにとって大切なのは、怪我をしないこと。無事是名ウマ娘」
「ふふふ、先輩ってば。でも、そうですね。私は私らしく頑張ってみます」
先輩ウマ娘たるもの、後輩ちゃんを笑顔にするのは義務なのです。
「さ、食べよ。健康な躯は日々の食事から。はい、あーん」
「ふふ、いただきます♪」
初めは恥ずかしがっていたリョテイちゃんだが、最近は恥ずかしがらず、笑顔で食べてくれる。
「あら、相変わらずフィンスターニス先輩と仲が良いのね、リョテイ」
そんな所に来たのは、サイレンススズカちゃん。リョテイちゃんの同期のウマ娘ちゃんだ。成績は振るわないが、そのポテンシャルは凄まじく、来年のG1が楽しみな娘だ。
「こんばんは、フィンスターニス先輩。今日はご一緒出来ずすみませんでした」
スズカちゃんもリギルのメンバーなのだが、今日は休養日だったはず。
「うん、こんばんは。スズカちゃんは休養日だったんでしょ? ゆっくり休めた?」
「はい。でも、先輩が来るなら練習に出れば良かったです」
「ふふふ、リギルの練習にはよく行くし、ルナは結構オープンだから、何時でも一緒に練習出来るよ」
私は別としても、チームルナ自体、結構他のチームの娘を受け入れていることが多い。
「それに、スズカちゃんにはリョテイちゃんとも走って貰いたいしね」
「リョテイと? そういえば、貴女とは走ったことなかったわね」
「私は先輩みたいに、他のチームの練習には行きませんからね」
まぁ、私が異常というか、節操なしというか。普通はしませんし。
「でも、大逃げのスズカちゃんと差しウマのリョテイちゃんのレースも見てみたいなぁ」
まぁ、先行ぎみだけど。
「え?」
「むぐ?」
どったの?
「どうしたの?」
リョテイちゃんもスズカちゃんの様子に首を傾げていた。
「えっと……先輩、私が逃げのレースをした所、見たことありましたっけ?」
「あれ? 秋の天皇賞で逃げたよね?」
エアグルーヴちゃんに負けちゃってたけど。
「確かにそうでしたけど……エアグルーヴに負けてますし……」
「あー、あの時のエアグルーヴちゃん、強かったからね。それに……」
ぺちぺち。
「ひゃん!? せ、先輩?」
うむうむ……。
「うん、足の筋肉もしっかりしてるし、今のスズカちゃんならいいレースが出来ると思うよ。まぁ、おハナさん、逃げ好きじゃないから難しいかもしれないけど」
おハナさんの考え方は、逃げは定石ではない、というものだ。私は逃げはロマン派だが、毎回ユエに寿命が縮まると言われる。
「私は……逃げていいんでしょうか」
「んー、私はコーチじゃないから、あんまり口を出さない方がいいんだけど……スズカちゃんが見たい景色がどんなものか、それを見るには何をすればいいのか、かな?」
私はコーチじゃない。だから、スズカちゃんの今後を決める訳にはいかない。だけど、スズカちゃんの夢を応援したいから、私は背中を押してあげることはしたい。
「私が見たい景色……」
「そ。だから、色んなレースに出て、色々考えてみて?」
話をしている内に、ルーとの約束の時間が近付いてきていた。
「っと、ごめんね。ルーとの約束があるから、私は失礼するね。リョテイちゃんはどうする?」
「私はまだご飯が残ってますから、先輩はお先にどうぞ」
「うん。じゃあ二人ともまたね」
バイバイと手を振って、食堂を後にする。
ルーのことだからケーキの他にも色々用意してくれると思うけど、手ぶらで行くのは申し訳ない。確か、オグリちゃんから貰った道産子クッキーがあったなー。
Another side Kiniro Ryotei
私には憧れてやまない先輩がいる。
フィンスターニス先輩。
日本を飛び出し、世界に認められたウマ娘にして、唯一抜きん出た存在とも評される偉大なウマ娘だ。
到底私では、お話することさえ許されない高嶺の存在であるはずなのだが、縁とは何とも不思議なもので、同じチームに加えて、ルームメイトとして仲良くさせて頂いています。
「ねぇキンイロリョテイ。先輩と一緒に戻らなくて良かったの?」
「えぇ。まだご飯も残っていますし、それに……」
あんな量のご飯を話しながら、瞬く間に食べてしまう先輩が異常なのだ。
「それに?」
ともあれ、先輩に言われたように、色々なことをしてみましょう。
「それに、スズカともお話したかったので」
私の言葉に、スズカはポカンとすると、何故かクスクスと笑いだした。
「な、何が可笑しいんですか?」
「ふふ、ご、ごめんなさい。でも、リョテイったら、先輩に似てきたわよ?」
「そ、そうですか?」
そんなことを言われては照れてしまう。
「えぇ。だって、入学した頃のリョテイ、ツンツンしてたじゃない」
うっ、それは……。
「そ、それを言うならば、スズカこそ一匹狼ではなかったですか」
「ふふふ、そうね。でも、先輩が放ってくれなかったから。それに、どこまでも前を走る姿を見ていたら、追いかけたくなっちゃったの」
そう言うスズカの顔はとても晴々としていた。
でも、確かにその通りだ。周りに馴染めず、意地を張っていた私を外に連れ出してくれたのは、海外から帰ってきたばかりのフィンスターニス先輩だった。今思えば、慣れない事の連続で、反抗してばかりだった。うぅ……黒歴史です。
「ねぇリョテイ。今度の先輩のレースのことだけど……」
忘れたい黒歴史に身悶えていると、スズカが話を変えてきた。
「先輩は今年のレースには出ないはずです。ユエさんの話では、フェブラリーステークスに出るようです」
先輩は欧州三冠を達成し、芝レースでは世界トップの実力を持っている。だが、ダートのレースにはあまり出走していない。
その為か、来年はダートを中心にスケジュールを組む予定のはずだ。
「そう……やっぱり、次はアメリカを目指すのかしら?」
「将来的にはその筈です。でも、すぐには行かないとも言っていました」
「え、そうなの?」
「はい。少なくとも1年は日本にいると言っていました」
恐らくは、まだ付いていない決着を着けるため、だろう。
「先輩は凄いわね。あんなにも強いのに、まだまだ新しい道を走ろうとしているのだから」
「はい。自慢の先輩ですから」
そう。フィンスターニス先輩は私の自慢の先輩。そして、私の夢。
「スズカ。私は今では貴女やエアグルーヴには敵わないけど……いつか、貴女達に勝って、夢への足掛かりにさせてもらうわ」
「あら。私だって、負けないわ。私にだって夢はあるもの。でも、リョテイの夢、興味あるわね」
うぅ、余計なことを言ってしまったかも。一見大人しそうなスズカだけど、こう見えて意外にイタズラ好きな面もある。現に今も、表情からして逃がしてくれなさそうだ。
「うぅ……先輩には内緒ですよ?」
「うんうん。それで、どんな夢?」
「その……いつか、先輩と一緒に走って、私と先輩とでワンツーフィニッシュすることなんです」
それが私の夢。私に夢と憧れをくれた先輩に勝ち、同じステージの上でウイニングライブをすること。
まだまだ、私が口にすることは出来ない、それでもいつか成し遂げなければならない、生涯をかけた夢なのだ。
「そんな恥ずかしがらなくていいじゃない。素敵な夢だと思うわ」
「だって……私の実力じゃまだまだ、文字通り夢物語ですから」
そう。だから、その夢を現実にするために、私は今以上に努力しなければならない。
スズカやエアグルーヴ、アマゾン達、強力なライバル達に勝たなければならない。
それはとても厳しい挑戦だろう。達成も出来ないかもしれない。だけど、私のことを強いと言ってくれた先輩の為にも、私は諦めることだけは絶対にしない。
「ふふっ」
と、内心決意を新たにしていると、不意にスズカが笑いだした。
「どうしました?」
「それじゃあ、最終コーナーで逸走しないようにしなくちゃね」
それは私最大の黒歴史!!
「んなっ!? そ、それは忘れなさい!! だ、第一、スズカだって、ゲートで大暴れしたではないですか! そんなスズカに言われたくはありません!!」
「そ、それはっ!? お、思い出させないで!」
先程までの真剣な雰囲気はどこへやら。
結局、騒ぎを聞き付けたフジキセキ先輩に怒られるまで、私達の言い争いは続いたのでした。
でも、まぁ、このことが切っ掛けで、スズカとは以前よりも仲良くなれたと思います。
ただ、言い争いの中で、私のことを阿寒湖と呼んだのだけは許しません!!
Another side out