太陽を喰らう煌めきを   作:天神神楽

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オリジナル展開+オリウマ娘です。
まあ、マルゼンスキーとウォッカが一緒に走る世界ですし……。


《最強》のウマ娘

 

 シルクちゃんの有馬記念も終わり、年末。ルーやマーちゃんはWDTの準備があるのだが、私は今年出走していないので出られません。

 だからというわけではないけれど、私は今空港におります。

 「わ、私も来て良かったのでしょうか?」

 一人では寂しいのでリョテイちゃんにも着いてきてもらった。

 「いいの。パントレちゃんもリョテイちゃんに会いたがってたから」

 「へ?」

 私のお手紙に、リョテイちゃんのことを沢山書いているので、妹弟子的な存在のリョテイちゃんに興味津々なのである。

 「パ、パントレセレブルさんに、わ、私が……!?」

 「緊張しなくて大丈夫だよ。パントレちゃん、お土産一杯持ってくるって言ってたから」

 最強ウマ娘と呼ばれ、凱旋門賞ウマ娘でもあるパントレちゃんだけど、彼女自身はとても優しくて穏やかなウマ娘ちゃんだ。

 「さてと、そろそろかな?」

 予定の時間となり、出口の方を見る。しばらくすると、お耳をピクピクさせるウマ娘ちゃん。キョロキョロとしているのは、私が小さくて見つけられないからだろうか?

 「パントレちゃーん」

 私が呼ぶと、パントレちゃんはこちらに向けて歩いてきた。

 「フィン! 会いたかったです!」

 時間をかけて私の元に辿り着いたパントレちゃんは、私のことをギュっと抱き締める。パントレちゃんはとても良い匂いがするので、抱き付かれると美味しいニンジンジュースを飲んでるときみたいな心地になります。

 「久し振り、パントレちゃん。遅くなったけど、凱旋門賞おめでとう。強くなったね」

 「それは、フィンが強さを見せてくれたからです。あのお姿を見て、私は目指すべき道を見つけました。やるべきことを見つけたのです。後は楽しいことばかりでした」

 「ふふ、それなら少しは先輩としての面目躍如かな? 足は大丈夫?」

 パントレちゃんは一人で来ていたが、まだ足は完治していないため杖を突いている。

 「大丈夫です、と言いたいですけど、歩けるといったくらいです。痛みはあまりないのですが……」

 とはいえ、杖を突いているのだから無理は禁物である。

 「無理は禁止。だから、私に掴まっ……」

 私、128cmのロリ身長。

 パントレちゃん、身長171cmのモデル身長。

 つまり、パントレちゃんが私に掴まろうとすると、肩に手を置くしかなく、電車ごっこみたくなる。

 なので、ここは同じくスタイルのよいリョテイちゃんの出番。

 「リョテイちゃん。悪いんだけど、パントレちゃんに腕を貸してあげてくれないかな?」

 「わ、私で宜しければっ」

 あらら、リョテイちゃんガッチガチ。そんなリョテイちゃんを見て、パントレちゃんはクスクス笑っていた。

 「貴女が《リョテイちゃん》なのですね。遅れてしまいましたが初めまして。パントレセレブルと申します。貴女のお話はフィンのお手紙でよく聞いていましたから初めて会った気がしませんね。私もリョテイさん、とお呼びしてもよろしいでしょうか? 私のこともパントレちゃんと」

 「はへっ!? そ、そんな……で、ではパントレさんと。それでは、お手を」

 「ふふふ、はい。よろしくお願いしますね」

 からかわれてしまったことにドギマギしつつも、パントレちゃんに腕を貸すリョテイちゃん。後輩ちゃん達の仲が良くて何よりです。

 「それじゃ外に出よっか。ユエからOK貰ったから少し観光も出来るけど、どこか行きたい所はある? 美術館のチケットもあるよ」

 それほど遠くでなければと許可を貰ってきたのである。まぁ、怪我もあるので近場になると思うけど。

 「フィン達と一緒に芸術鑑賞も心引かれますけど、日本に来たら是非行きたい場所があるんです」

 「どこ?」

 「それはですね……ふふ、フィンにはまだ内緒です」

 そう言ってこそこそリョテイちゃんに相談し始めた。先輩、さびしい。

 

Another side Kiniro Ryotei

 

 「パントレちゃんパントレちゃん、このお饅頭美味しいよ」

 「あら、では半分こ致しましょう」

 空港からタクシーに乗り目的地に向かう中、先輩とパントレさんは仲良くお菓子を食べている。

 「リョテイちゃんもどうぞ。ユエから貰ったお饅頭だから美味しいよ」

 甘いものが大好きなユエさんのお墨付きなら、確かに美味しいのでしょう。

 先輩から頂いたお饅頭に舌鼓を打ちながら、目的地へ。

 「こ、ここは……」

 お饅頭に夢中だった先輩は、目的地に着き呆然と立ち尽くす。

 パントレさんが行きたいと言った場所。それは……

 「絶対に来たかったんです。フィンの記念館」

 先輩の記念館、《フィンスターニス記念館》。先輩の欧州三冠を記念して作られた施設である。まぁ、先輩は恥ずかしがって行きたがりませんが、私は何度か来ています。

 「パ、パントレちゃん、目的地間違えて……」

 「間違いなくここですよ。ヨーロッパでもイチオシの観光スポットなんですから」

 見るからにドヨーンとする先輩を他所に、パントレさんはウキウキしている。

 「リョテイさんはここに来たことはあるのですか?」

 「はい、何度か。先輩は恥ずかしがって来てくれませんが」

 「ふふ、お手紙でもここの事は教えてくれませんでしたから、とても楽しみにしてたんです。ご案内をお願いしてもいいですか?」

 「はい。いつもは一人で来ていたので、皆で回るのは楽しみです」

 往生際悪くも尻込みする先輩だったが、パントレさんに手を引かれては逆らえないらしく、諦めて中に入りました。

 入り口でチケットを買うときに、受付の娘が驚いていたけど、それ以外は何ともなく館内に入る。

 すると、目の前に飛び込んできたのは、先輩の英国ダービーのゴールの瞬間のパネル。世界最高峰のレースにも拘わらず、大きなパネルに写っているのは先輩だけ。それが先輩の強さを物語っていた。

 「私、このレースをゴールのすぐ前で見ていたんです」

 パネルのゴール板の後ろを指差すと、確かにそこには小さなパントレさんが写っている。

 「エプソムの長い直線に入って、最後尾から一気に抜き去って、そのまま大差をつけていく脚は、見ていて涙さえ浮かびました。あの時の胸の高まりは、今でも覚えています」

 そう言うと、パントレさんは胸の前でギュっと手を組み、目を閉じる。恐らくだけど、その時のことを思い出しているのだろう。

 「あの時の走りを私もしたくって、お母様に頼んで一緒に練習してもらったり、学園に入ってもブレーヴ先輩に走りをみてもらったりしたんです」

 「私もブレーヴとは一緒に併せたりしたから、ブレーヴから連絡もらったときはビックリした」

 先輩たちの言うブレーヴさん。すなわち、ダンシングブレーヴさん。2000ギニー、KGVI & QES、そして先輩やパントレさんも勝利した凱旋門賞を勝ち、エクリプスステークス等他のG1レースも総なめにしている正に伝説のウマ娘。

 今は第一線を退き、日本で暮らしている。日本に来たときは騒がれたが、その理由が他でもない先輩である。

 「やっぱり、これを見ると昂ります」

 そう言ってパントレさんが指差すのは、そのエクリプスステークスの写真。

 2連覇が掛かったブレーヴさんに待ったをかけたのが先輩だった。他のウマ娘を置き去りにしたレースは、15分にも及ぶ写真判定。その長さが示す通り、この写真を見ても、私には同着にしか見えないほどの接戦だ。

 歯を食い縛り汗を迸る二人の姿は、パントレさんの言うように私たちの根底にある心を熱く燃え上がらせる。

 最終的に出された結果は、僅か1cm差で先輩に軍配が上がり、先輩は世界に《金環食(アニューラー・イクリプス)》を轟かせた。

 ……因みに。

 先輩とブレーヴさんは判定の15分間、暇だといい、お互いのステージ曲のダンスを踊っており、レース場を大いに盛り上がらせていた。その後、お互いのトレーナーにこっぴどくお説教をされたそうですが。

 先輩のレースで何が一番凄かったか、という話題については、様々なレースが挙げられる。だが、最もアツいレースは何か、と問われれば満場一致でこのエクリプスステークスが挙げられる。

 「レース自体はスゴく楽しかったけど、このレース、印象がユエのお説教が一番強いから複雑」

 その時のことを思い出したのか、先輩は口をもにょもにょさせおり、その姿に私とパントレさんは顔を見合わせて笑ってしまった。

 「ふふ、私もハーウッドのお説教は思い出したくないな。レースとその後のライブはとても楽しかったがね」

 パネルの裏から突然掛けられた声。そちらを見れば、まさか思いもしなかった姿が。

 「あれ? ブレーヴ、来てたの?」

 「来てたのとは酷いじゃないかフィン。なに、ユエさんからパントレが今日来ると連絡をもらってね。ここに来るだろうと思ったから待ってたんだ」

 今話していたばかりのダンシングブレーヴさんである。パントレさんも聞いていなかったらしく驚いていた。

 ……というか、私、凱旋門賞を圧倒的な差で勝ったウマ娘さんたちに囲まれてますね。

 そんな世界中を虜にした方々が一ヶ所に集まっていれば騒ぎになってしまう。

 私たちは早々に記念館を後にすることになってしまいました。先輩は中々一緒にきてくれないので少し残念。

 帰りはタクシーではなく、ブレーヴさんが運転する車に乗ることになった。

 「そうか、怪我の治療は順調なのだな。心配していたが、ホッとしたよ」

 「ご心配をお掛けしてすみません」

 「可愛い後輩が怪我をしたんだ。心配くらいさせてくれ。でも、ユエさんがリハビリを見てくれるなら、安心だよ。私も暫くは東京にいるつもりだから、いつでも呼んでおくれ」

 ブレーヴさんは普段は車で日本中をドライブして回っており、一ヶ所に留まっていることは稀である。お電話やお手紙はよくいただくのだけど。

 「リョテイも久しぶりだな。トレーニングは欠かしていないようだ。体格も育ってきているな」

 「ありがとうございます。先輩に沢山鍛えてもらっていますから。それに、夢のためには立ち止まってはいられません」

 ブレーヴさんには、以前スズカに話した夢のことを伝えている。文字通りの夢物語である私の夢のことを、ブレーヴさんは笑うことなく応援してくれているのだ。

 「ふふふ、出来ることなら、その夢、私も混ぜてほしいかな。とっても楽しそうだ」

 先輩だけでなく、ブレーヴさんとも一緒に走る。それは……。

 「とても魅力的ですが、物凄い茨の道ですね」

 私も世界的名ウマ娘にならないといけなさそうです。

 「ねーねーリョテイちゃん。リョテイちゃんの夢ってなんなの?」

 「先輩にはまだ秘密です。だって先輩に関係あることなんですから」

 まだまだ実力不足な私。ションボリする先輩にはキュンキュンきますけれど、まだ言えません。

 「ふふふ、リョテイさん、ブレーヴ先輩。そのナイショのお話、後で私にも教えてくださいね?」

 「そうだね。悪巧みの仲間は多い方がいい。リョテイ、どうする?」

 「はい。パントレさんも宜しければ是非」

 「……私だけ仲間はずれ。ぶー」

 少しふざけ過ぎてしまいました。ぷくーと可愛らしく膨らませた先輩の頬っぺたをパントレさんがツンツンしているのを見て、私とブレーヴさんはクスリとしてしまうのであった。

 

 

 因みに。

 私の夢を聞いたパントレさんは、快く私の夢に協力してくれると言ってくれました。

 くれたのですが、ブレーヴさん同様、パントレさんも一緒に走りたいと言ってきました。

 そう言ってくれたことはとても嬉しいのですが、荊の道どころか修羅の道になってしまったような……。

 私、世界一のウマ娘に勝たないと夢を叶えられないのでは……。


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