元ネタ、というかまんまですが。
それにつきまして、クロスオーバータグと恋姫タグ追加しております。
年も明け、私もフェブラリーステークスに向けてトレーニングを本格化する。
まずは東海ステークスなのだが、少し心配事が。
「んしょ、んしょ。大丈夫、グラスちゃん?」
「はい、大分楽になりました。ありがとうございます先輩」
朝日杯フューチュリティステークスをレコード勝ちしたグラスちゃんの足の調子が悪いことである。
ユエにも診てもらったが、異常は見られないらしく、疲れが出ているのかもしれないとのことだった。
なので、おハナさんの指示でグラスちゃんは現在休養中。私もユエからマッサージを教わっていたので、こうしてしてあげていたのである。
「ユエほど上手じゃないから申し訳ないけど」
「いえ、先輩のマッサージはとてもポカポカします。大きな怪我をしているわけでもないのに、こちらこそ申し訳ないのです」
ぺたんと耳を下ろすグラスちゃん。そんなグラスちゃんの頭を撫でてあげる。
「疲れは怪我の大きな原因だよ。だから、今はゆっくり休むこと。ね?」
「はい。でも先輩こそレースがあるのに……」
「それも気にしないの。私は後輩ちゃんと触れあってるときが一番のリラックスタイムなんだから」
ウマ娘セラピーである。私もウマ娘なので何の問題もありませんね。
「ふふふ、先輩らしいです」
グラスちゃんは、汗を拭きながら立ち上がると足の調子を確かめる。
「やっぱり違和感はある?」
「はい……以前に比べれば大分マシですけど、走ろうと思ったら少し躊躇してしまいます」
「そっか。やっぱりおハナさんの言う通り、今は休養しなくちゃだね」
「でも……」
頭では分かっているのだろうけど、走れないということは、私たちにとってはとても辛いことだ。
でも、だからこそグラスちゃんは我慢しなくちゃいけない。
「今はお休みだけど、元気になったら一緒にはしろ? だから、今は治すことに集中しよう」
「……はい。先輩と走るなら万全じゃないといけませんしね」
まだ完全には納得していないとは思うけど、グラスちゃんは覚悟を決めたようだ。
部屋を出ると、そこにはおハナさんがいた。やはり、心配なのだろう。
「いつもすまないな、フィンスターニス」
「いえいえ。グラスちゃんも可愛い大切な後輩ちゃんですから」
「ふふ、お前はいつもそう言うな。だが、私としてはありがたかったが、レースは大丈夫なのか?」
「はい、調整は順調ですよ。パントレちゃんの件でブレーヴもいるので併せてもらってますし、ユエも本格的なダート戦線は久しぶりだからって張り切ってますから」
ユエは世界的にも有名なトレーナーである。自分で言うのはアレだけど、私を育て上げたトレーナーとしても有名だし、他にもおおくのG1ウマ娘を輩出しているため、色々な国のトレーナーさんたちが視察に来ているほどだ。
「ダンシングブレーヴとフィンスターニスとの併せウマか。それは見学料を払ってでも見たい程だな」
おハナさんは苦笑しながら言った。確かに、凱旋門賞ウマ娘同士の併せウマは私も見たい。走るの私だけど。
「それなら、お題はニンジンジュースとアップルパイで手を打ちましょう」
「なら、ルドルフにも出したことがないレベルのものを用意しておくよ」
ルーでも食べたことがないですと!? それは、黙ってはいられない。
「じゃあ、私、トレーニングがあるので。因みに明後日、ブレーヴが学園に来ます。因みに」
あくまで因みに。三冠ウマ娘はみっともないまねはできないのです。
「ふふふ。えぇ、楽しみにしているわ」
おハナさんは、なぜか笑みを浮かべて私の頭を撫でてきた。なぜでしょう?
Another side Hana Tojo
首を傾げながら練習に向かうフィンスターニスを見送る。
「あんなにも速いのに、普段はとても愛らしいウマ娘だな」
日本最速の筆頭であるフィンスターニス。彼女は学園でルドルフ以上の人気を誇る。
「しかし、ルナはダートにも手を出してきたか」
チームルナ。
フィンスターニスを擁することばかり注目されているが、関係者が注目しているのは……。
「は、ハナちゃん……」
後ろからか細い声をかけられる。振り向けば、フィンスターニスよりも少し大きい程の儚いという言葉がしっくりくる少女のような女性。
彼女こそがチームルナのトレーナー兼ドクター、菫 月(すみれ ゆえ)さん。
……少女のようなと言ったが、私よりも歳上の女性であり、大先輩である。
「ユエさん、お疲れ様です。フィンスターニスならコースに向かいましたよ」
「あ、ち、違うの。えっとね、グラスワンダーちゃんのことでお話があって」
ユエさんは別のチームの娘に対しても、このように手厚くケアしてくれる。自身のチームのトレーニングも忙しいはずなのに、優しい微笑みを崩すことなく、全ての仕事をこなすのだ。
「そちらでしたか。すみません、ユエさんも色々お忙しいのに」
そう、ユエさんはとても忙しい。
フィンスターニスのトレーニングもそうだが、パントレセレブルのリハビリやダンシングブレーヴの臨時トレーナーとしての手続き、加えて他のチームメンバーのトレーニングやケアもある。
それらトレーナーとしての業務に加え、ドクターとしての仕事や海外に対しての折衝なども担当している。
それらの仕事を微笑みながらやってのけるこの人の、小さな体のどこにそんなにもエネルギーがあるのか。
「ううん、グラスワンダーちゃんも早く走りたいだろうし、だからこそ、丁寧にケアしてあげないといけないから」
「……ありがとうございます」
本当にこの人には頭が上がらない。
ともあれ、あまり恐縮してばかりいては無駄な時間となってしまう。
私は先程フィンスターニスがグラスワンダーにマッサージしていたことを伝えた。
「そっか、フィンちゃんがやってくれたなら私がやる必要はないね。チェックしたら私もルナに戻ろうかな」
フィンスターニスがユエさんを信頼しているように、ユエさんもフィンスターニスに全幅の信頼を置いている。正しく、伝説にあるような『人バ一体』というものだろう。
グラスのチェックを手早く終え、グラスをそのまま寮へと帰した後、私はユエさんの好意でルナの練習を見学させてもらうことになった。
常日頃から練習はオープンにしている、どころか共に練習させているルナ。だが、ユエさんの隣で見学できるとなれば、そんな貴重な機会を見逃せる筈がない。
ユエさんとコースに行くと、各々がウォーミングアップを行っている。
「みんなー、集合してくださーい」
ユエさんの合図に皆が集まる。
フィンスターニスやキンイロリョテイ、ライスシャワーとミホノブルボンもいる。他のメンバーはいないようだが、各々の強さが窺える。
まぁ、キンイロリョテイはまだまだ途上だがな。
「しばらく練習を見に来れなくてごめんなさい。今日はしっかり最後まで入られるから、聞きたいことがあったら何でも聞いてね」
ユエさんがそういうと、フィンスターニスが手をあげた。
「明日のブレーヴとの併ウマ、公開練習にしてもいい?」
……あぁ、さっきの件か。
「え? う、うん、それは構わないけど、元々シャットダウンするつもりはなかったから、二人がいいのなら。リョテイちゃんはブルボンちゃん達と坂路ね」
「は、はいっ」
「そんなに緊張しなくてもいいでしょうに。何度も一緒に走っているのに」
「う、うん」
「あ、いえ、一緒に走っているからというか、毎回やるたびに意識がなくなりそうになるからというかぁぁぁぁぁぁ…………」
ミホノブルボンとライスシャワーに引きずられていくキンイロリョテイの跡引く声を余所に、ユエさんはフィンスターニスと話し込んでいた。
「フィンちゃん、今日はクロフネちゃんと一緒にトレーニングすることになってたけど、時間は大丈夫?」
「うん。ルーに呼ばれてるみたいだから、ちょっと時間が出来た。ちょっと走っておこうかな」
「うん。あ、でも一人で大丈夫?」
「んー、誰かと走りたくはあるけど、無理は言えないし」
フィンスターニスと共に走るには、相応の実力が求められる。ユエさんやフィンスターニスが拒むことはないが、彼女の速さを経験するには、実力がなければ影を見ることすら出来ない。
「うーん……あ、ハナちゃん、もしよければなんだけど、ブライアンちゃんが空いてたら一緒に走ってみる? トレーニングスケジュールもあるから無理は言えないけど……」
「そうですね……」
今日のブライアンの予定ならば、フィンスターニスとの併せをしても問題ない。ブライアンに連絡をとってみると、是非と興奮した様子で了承してきた。
キンイロリョテイがミホノブルボンとライスシャワーに扱かれているのを見ていると、ブライアンが猛スピードで走ってきた。
「お、お待たせしました!!」
「ん、いきなりお願いしちゃってごめんね?」
「いえ、寧ろお礼を言いたいくらいです。先輩とは中々走れませんでしたから、とても嬉しいです」
確かにスケジュールが合わなかったので、ブライアンはあまりフィンスターニスとは走っていなかった。
「折角ブライアンちゃんと走るんだし、ラストのダッシュの練習にしようか」
「是非っ! あ、トレーナー。それで大丈夫ですか?」
「あぁ。是非胸を貸してもらえ」
ブライアンのウォームアップがてら、二人はコースをゆっくりと走りにいった。
「ユエさん、ありがとうございます」
「え? もう、どうしたの?」
「ブライアンのことです。あの娘は怪我から復帰してから思い切り走れていませんでしたから。それでも勝ててはいますが、三冠を取ったとき程のキレはまだ取り戻せていません」
「……うん。タイムもだけど、ブライアンちゃんも思い切り踏み込めなくなってる気がするの。高松宮記念の時からかな、あそこで調子を崩しちゃったと思う……」
「……それは私としても反省しています。トレーナーとして何としても止めるべきでした」
「…………。そんなことはないだなんて、気軽には言えないね。確かにハナちゃんの判断ミスだったと思う」
暫しの沈黙の後、月さんは私の言葉に頷いた。だが、すぐに続けて口を開く。
「でも、ブライアンちゃん、ううん、ウマ娘のみんなは、走りの中で答えを見つけなくちゃいけないと思うの。例え、壁に突き当たったとしても、走り続けられるようにするのが私達の役目だよ」
……月さんの言う通りだ。ブライアン自身が苦悩しているのに、私が立ち止まっているわけにはいけない。
自分では分かっているつもりだったが、まだまだだったようだ。
「月さん、ありがとうございます。私も迷いが晴れました」
「そっか。それじゃあ、リギルの娘達に負けないように、もっと頑張らなくちゃいけませんね」
そう言うと、月さんはたても愛らしく、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
しかし……ふふ。
「ど、どうしたの? 急に笑って……?」
「いえ、トレーナーと教え子は似るものなのだと思いまして。月さんとフィンスターニスはそっくりです」
雰囲気的にも、外見的にも。まぁ、雰囲気はともかく、外見(主に身長)については気にしているようなので口には出さないが。
「へ、へぅ……う、嬉しいけど、恥ずかしいよ。も、もぅ。こんなオバさんをからかっちゃ駄目だよ?」
いえ、それは断じてありえません。夜遅くに出歩くとほぼ確実に補導されかける方をオバさんだなんて思えませんから。
Another side end