衛宮士郎は“悪の敵“に成りたいのだ!   作:アタナマ

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運命の夜

 その後、昼食の時間になったことで二人に話し掛けようとしたが慎二は女子達に囲まれていたせいで話しかけ辛く、一成は教師の手伝いをするということで忙しいらしく話し掛けられなかった。

 慎二はともかく一成は理由が理由なので仕方がなく、俺は諦めて後藤達と一緒に飯を食べた。

 

 そして時刻は進み放課後。俺が目を離した隙に慎二はいつの間にか帰っていたので、代わりに生徒会室に居るであろう一成を訪ねて生徒会室にやって来たのだが……。

 

「副会長!プログラミング部が古いパソコンを放棄して最新式のパソコンが欲しいとの申請が!」

「古くても使えるならそれを使っておけ!最新式のパソコンがいくらすると思っているのだ!?」

 

「柳洞!弓道部がまた部費を上げて欲しいと言ってきたぞ!」

「無視して結構!直接文句を言ってきたら俺が対処します!」

 

「柳洞副会長!学校周辺の近所の方から来月に行われるボランティア活動に参加してほしいという要請が来ております!」

「ボランティア参加用紙を作って各クラスに行き渡るようにしろ!少しでも多くの参加者を募るのだ!」

 

「一成!他校から学校の掃除の手伝いをして欲しいとの相談が来ているぞ!」

「他校のことなんて知るか!?自分達のことは自分達でしろ!!」

 

 生徒会室に入って直後に理解した。今、正にここは戦場と化しているのだと。

 

「うがあああ!!全くもって手が足りん!!誰でもいいから猫の手を借りてこい!!」

「そんな無茶な!?今誰も手が離せないんですよ!?こんな状況で1人でも欠けたら完全に徹夜コースですよ!!」

「分かっている!思わず叫びたくなっただけだ!!」

 

 生徒会メンバーから次々と報告を寄せられ、一成は発狂したかのように叫んだがその手は止まることなく書類の山を次々と捌いている。

 いや、一成だけではない。他の生徒会メンバーも目を血走らせながら必死になって手元の書類を処理している。

 しかし、部屋の奥にある机の上に鎮座している書類の山岳地帯を見れば、その量は一向に減っていないようだ。

 

 余程忙しいのだろう。俺が入ってきたことに誰も気付いていないことから、全員がどれだけ自分が片付けている書類に対して集中しているのかが伺えた。

 

「一成」

「今度は何だ!?」

 

 声を掛ければ一成は飢えた獣のように鋭い眼光を俺へと向け、俺の姿を捉えた瞬間に目を丸くした。

 

「俺も手伝おう。異論は無いな?」

「……あぁ、分かった。その代わり誰かの分の仕事までしようとするなよ!」

 

 途端、生徒会メンバー達から抗議の声が上がったが一成が一睨みしただけで一斉に口を閉じた。

 上下関係がしっかりしているようで何よりだが、まさか生徒会がブラック企業のようになっているとは思ってもみなかった。

 

「一成、毎日これでは全員の身体が持たんぞ。少しは休息日を挟んだらどうだ?」

「仕事を次から次へと持ってくるお前が言うんじゃない……!」

 

 一成が小さく唸るような声で何かを言ったが、俺には聞き取ることが出来なかった。

 

「とりあえず、そっちの書類の山を片付ければいいか?」

「あぁ、頼む。終わったら教えてくれ。くれぐれも無言無断で誰かの仕事を手伝おうとするなよ?」

 

 頻りに念押ししてくる一成に1度だけ確と頷き、空いている席に着いて書類の山から1枚のプリントを取り出す。

 これから始まる戦いを前にして、俺は思わずこう思う。

 

 ────別に、誰にも与えられていない書類を1人で片付けても構わんのだろう?と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────日が昇り、日が沈む。世界の半分は夜である。

 

 世にいる殆どの人々は夜になれば家へと帰り、飯を食べ、風呂へと入り、明日もまた頑張る為に眠りへと着き身体を休める。

 つまり何が言いたいのかというと────

 

「お、終わった……」

 

 ようやく俺達もそれに倣って帰ることが出来る、ということだった。

 

「ほら、一成。お茶だ。これを飲んで少し身体を癒せ」

「……あれ程の激務をこなしておきながら全然余裕そうなお前を見ていると腹が立ってくるが、有難く頂くとしよう」

 

 一成に淹れたてのお茶を手渡しながら時計を見れば、現在の時刻は夜の7時。

 学生は基本的に家でのんびりしているであろう時間帯にて、ようやく俺達の仕事は終わりを告げた。

 

「衛宮会長〜私にもお茶ください〜」

「私にもお願いします〜」

「俺にも1つよろしく〜」

「自分のも〜」

「あぁ、今淹れる」

 

 全員仕事が終わってホッとしたのか、先程までの血気迫るような様子は跡形もなく消え去り、まるで溶けかけのアイスのようにだらりとしている。

 

「お前達!だらけ過ぎてるぞ!」

「よいではないか、一成。常に気を張り続けていては疲れも貯まるだろう。時にはこうして怠けることも大事だ」

「一番だらけていないお前が言ったところで説得力は無い」

「……全くだ。ぐうの音も出ない」

 

 他人に怠けることを推奨しておきながら、いざ自分のこととなると絶対に拒否してしまう。

 別に怠けること自体は悪いことではないのだが、どうにも俺はそういうのが性に合わんのだ。

 

「とりあえず、全員ゆっくり休んでから帰るとし────」

 

 そこまで言った時だ。窓の外にある校庭の方から夢で聞き慣れた甲高い金属音が聞こえてきたのは。

 

「何だ?」

 

 咄嗟のことに気になって窓の外を覗いてみるが、月明かりも出ていない故か暗すぎて何も見えない。

 

「どうした、衛宮?急に窓の外を見るなんて」

 

 急に窓の外を見た俺を一成が不思議そうに見つめてくるが、俺はそれよりも校庭の方が気になって仕方がなかった。

 何故ならば、さっき聞こえてきた音は聞き間違いでなければ夢で何度も聞いた金属と金属が……もっと言えば、武器と武器がぶつかり合う音に寸分違わず似ていたからだ。

 

「一成、おまえはさっきの音が聞こえたか?」

「音?音なんかしたか?」

 

 そう言って一成は生徒会メンバー全員に問いかけるが、誰も聞いていないのか首を横に振る。

 俺だけしか聞いていない音。ともすればそれは俺の気のせいなのかもしれいないが、どうにも気になる。

 

「全員聞け。先程俺は校庭の方から甲高い金属音のような物を聞いた。もしかしたら俺の気のせいかもしれんが、万が一でも不審者がうちの学校に入り込んだ可能性がある」

「なにっ!?」

 

 俺の言葉を聞いてざわめき出す生徒会メンバー達。だが、そのざわめきは俺が一言「黙れ」と言っただけで消えた。

 

「皆落ち着け。あくまで可能性があるというだけの話だ。本当に不審者が入り込んだという確証は何処にもない」

 

 俺がそう言うと皆少しは落ち着きを取り戻したようだが、やはり不安そうな表情をしている。

 しかしここで下手に誤魔化して後々に様々な最悪の状況が起きるよりかはよっぽどマシだろう。

 

「一成、お前は全員を連れて裏門へと向かえ。なるべく足音を抑え、誰にも気付かれないようにゆっくりとな」

「あぁ……分かった。しかし、衛宮はどうするつもりだ?」

「決まっているだろう」

 

 生徒会室に置いてあるロッカーの中から、護身用として置いておいた2本の木刀(・・・・・)を両手に持つ。

 

「俺は入り込んだのが不審者かどうか確かめてくる。もしも本当に不審者が居たのならば、警察に通報して学校に来てくれるまで俺が代わりに対処するしかあるまい」

「なっ!?危険だ!!いくらお前とてそれではあまりにも────」

 

 俺の身を案じてか、止めようとしてくる一成に言葉を返す。

 

「俺は穂群原学園の生徒会長だぞ?生徒(おまえたち)の長である俺が、どうして生徒(おまえたち)の安全を確保しないと言えようか」

 

 偶然だったのかもしれないが、俺は生徒達からの選挙によって他の候補者達を蹴落としてまで選ばれた生徒会長だ。ならばこそ、生徒を守り、導くことこそが我が使命だろう。

 それが選ばれた者の、敗者の上に立つ勝者としての責務だ。

 

「一成、任せたぞ」

「あっ、おい!待て衛宮!!」

 

 後ろから聞こえてくる俺を呼び止める声を無視して、全速力で校庭へと向けて廊下を走り抜ける。

 願わくば、どうか何事も起きないようにと思いながら駆け付けたその先で────俺は見た。

 

 夢で見る光景と同じく、常人の目では決して捉えられない戦いをする2人の超人(ばけもの)を。

 

 真紅の槍を持つ全身青タイツの男に、黒と白の双剣を手にしている赤い外套を纏った浅黒い肌の男。

 この2人が何者で、何故武器を持って争っているのかは俺は知らない。だが、そんなことさえ気にならない程に、2人の戦いは圧倒的過ぎた。

 

 右へ左へ、上へ下へ、激流の川を流れる水の如く荒々しくも洗練された技の流麗さを伴って縦横無尽に繰り出される真紅の槍を黒白の剣で以て全ていなし、躱し、受け止める。

 激流を制するは静水。正しくその言葉の通り、黒白の剣は静かに、それでいて鋭く光る剣閃で振るわれる。

 

 技と技がぶつかり合い、両者の間で舞い散る火花が戦いに色を飾る。

 誰であっても魅せられるであろう戦いを前にし、俺はほんの僅かだが呼吸することを忘れるぐらいに見入っていた。

 この戦いをいつまでも見ていたい。本心から出てくるその思いとは裏腹に、俺の心は今赫怒の炎によって熱く燃え滾っていた。

 

「なにを、している……」

 

 確かにこの2人の超人(ばけもの)の戦いは凄い。それは紛れも無い事実だ。

 だがしかし、それでも俺は2人に対して言いたいことがあった。

 

「なにをしているんだ、貴様ら……!!」

 

 ここは学校。明日を夢見る若者達が集う場所だ。そんな所に突如として現れて、しかも校庭をぐちゃぐちゃにしておきながらいったい何を呑気に争っている?陸上部や野球部といったグラウンドを使う部活の生徒達に被る迷惑を考えていないのか?

 

 それに何よりも────生徒会の皆がまだ居るというのに、こんな所で武器なんて危ない物を振り回すこと自体が許せない。

 もし仮にでも生徒会の誰かが目の前に戦いに巻き込まれて怪我を負ってみろ。俺は絶対に貴様らを許さん。

 

 なればこそ────

 

「此処は、貴様ら何かが居ていい所ではない!!」

 

 俺は勇気を振り絞って、目の前に居る2人の超人(ばけもの)排除(・・)するべく突貫した。

 


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