衛宮士郎は“悪の敵“に成りたいのだ!   作:アタナマ

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皆様のおかげで日間ランキング1位になることが出来ました。本当にありがとうございます。
これからも頑張りますので、応援のほど宜しくお願いします。

あと、そろそろ戦闘シーンが長いと思われる方が居ると思いますので、次でランサー戦を終わらせます。









明日の光を守る者

「来るがいい、超人(ばけもの)ども。生徒は傷つけさせん!!」

 

 そうやって啖呵を切ったのはいいものの、現状は士郎が圧倒的不利であった。

 人間離れした超人2人を自分一人で相手するというだけでも不利だと言うのに、彼らがその手に持つ武器と士郎の持つ木刀では性能差が圧倒的に離れているのだ。

 

 敵から視線を外さないようにしながら士郎は手に持つ木刀を見遣る。

 一見すれば何の変化も無さそうに思えるが、しかし使い手である士郎には分かっていた。左右の木刀に罅が入っていることに(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 全ての魔術の基礎中の基礎である『強化』の魔術を木刀に使いながら全力で振っただけでこの有り様。あと1、2回先の攻防と同じようなことをすれば確実に両方とも折れるだろう。

 それと比べて向こうの武器は全くの無傷。それは士郎の持つ木刀とは硬さも強度もまるで違うことを証明していた。

 

 しかし戦う方法ならばまだある。確実に通用するチャンスは一度あるか無いか。その機を逃せば士郎に残るのは敗北という名の死だけだ。

 今この時においてはこれまでに無い程に集中する。この超人どもを確実に殺す為、そして一成達を守る為に士郎は油断なく木刀を構える。

 

 緊迫していく空気。誰も音を立てず、虫の声1つしない静寂な空間は世界の時が止まったとさえ錯覚させられた。

 ただの人間が命を賭けてまで真剣に英霊に戦いを挑むという過去に類を見ない程にありえない現状。それを前にして────

 

「────クハッ」

 

 ランサーは思わずといった風に、吹き出すかのようにして笑った。

 

「ハハ、ハハハハハハハハハハ────ッ!!」

 

 愉快で堪らないと言わんばかりに、豪快な笑い声が静寂だった空間をぶち壊す。

 突然笑い出したランサーに、油断せずチャンスを窺い続ける士郎とは違って凛とアーチャーは呆気にとらわれた。

 

「あぁ〜笑った笑った!こんなに笑ったのは久しぶりだ!」

 

 一頻り1人で笑った後、獰猛な笑みを浮かべながらランサーは持っていた槍を肩に担ぎ直しつつ士郎を見る。

 

「なぁ、坊主。お前本当に英霊(おれら)に勝てると思ってんのか?さっきの戦いで見てみれば確かにお前さんの筋は良いが、所詮それは生身の人間でっていう話だ。その程度の力しかない分際で、本気で自分が勝つと信じてんのか?」

「────笑止」

 

 ランサーの言葉を受け、士郎は応える。

 

「この身は常に誰かの為にある(・・・・・・・)。お前達のような超人(ばけもの)によって無辜の人々が傷つき、涙を流すというのであれば俺は必ず立ち上がろう。そして────」

 

 雄々しく、傲岸不遜に、真実を述べるかの如く。

 

「“勝つ“のは俺だ」

 

 士郎は偉大なる英霊を前にして、目を逸らすことなく堂々と自分の勝利を宣言してみせた。

 

 しかし、事情を全て知っている凛からしてみれば、その宣言は正しく自殺行為でしかなかった。

 多少は魔術を使えるものの、ドラゴンも狩った事の無い一般人が数多の怪獣怪物達を打ち倒してきた伝説の英雄に敵う道理は何処にもない。

 

 にも関わらず英霊に真っ向から喧嘩を売るような真似をした士郎の行動に頭を抱えそうになる凛とは対照的に、ランサーは更に笑みを深くした。

 

「いい目だ。絶対に負けねぇって気持ちがよく伝わってくる。今の時代の人間は全員ナヨナヨしてる奴ばっかりだと思っていたが……1人ぐらい居るじゃねぇか。しゃんとしてる男がよ」

 

 そう言って士郎を見つめるランサーの目は先程までとは打って変わっていた。

 ついさっきまでランサーは士郎のことを聖杯戦争に巻き込まれた哀れな一般人程度としか見ていなかった。しかし、今のランサーの目には士郎の姿がはっきりと別の形で見えていた。

 

 ────たった1人でありながら、決して勝ちを諦めない不退転の覚悟を持つ英雄(にんげん)の姿として。

 

「坊主、名前は?」

「……衛宮士郎だ」

 

 突然名を聞かれ、士郎は一瞬訝しげに眉を顰めたが特に秘密にする物でもないが故に己の名を口にした。

 

「エミヤ・シロウ、ね。良い名前じゃねぇか」

 

 1度だけ士郎のフルネームを口に出してから、ランサーは肩に担いでいた槍を士郎へと向けた。

 

「赤枝の騎士、クー・フーリン。我が槍に掛けてエミヤ・シロウ、貴様は必ずこの俺が仕留めよう!!」

 

 先の士郎同様、ランサーもまた威風堂々と名乗りを上げると同時に宣言すると、今度こそ凛は頭を抱えてしまった。

 サーヴァントは虚構のみで成立するものではなく、基礎(ベース)となる神話や伝説、もしくは実在の存在があるのだが、それ故に弱点なんかも明確に再現される。

 

 だからこそ、マスター達は必死になって他のサーヴァントの真名を当てようと努力し、自分のサーヴァントの真名が誰にもバレないようにしながら聖杯戦争を進めていくのが基本的な流れだ。

 

 その流れを見事なまでにぶった切ってくれたランサーの行動に凛は度肝を抜かれると共に、アーチャーが見抜いてくれた情報が本人の名乗りによって全て無駄になったという事実に脱力するしかなかった。

 

「何なのよ、何なのよこれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「落ち着け、マスター!」

 

 とてもではないが言い表せない気持ちを体現するかのように、頭を抱えてガシガシと掻き毟る凛を必死になって止めようとするアーチャーを他所に、士郎とランサーの緊張は完全に高まっていた。

 

「クー・フーリン……確かアイルランドの光の御子だったか。そんなお伽噺の存在で自らを騙るか、超人(ばけもの)め」

「騙るも何も、御本人様なんだがな。あと、超人(ばけもの)はお前もだろ」

 

 言葉だけ聞けばとても軽快な会話に見えるが、言い合っている2人の間にはそんな和やかとした雰囲気は一切無い。

 

「んじゃ、そろそろ────」

「あぁ────」

 

 高まっていく両者の気迫。まるで直接的に剣でも突きつけられているかのようにピリピリと鳥肌が立つ。

 悠然と二刀を構え油断なく見据える士郎。槍を後ろ手に持ちクラウチングスタートの構えを取るランサー。

 今か、今か、と待ち続ける両者。高まる覇気は鬩ぎ合い、視線は相手より少しもずらさないし、ずらせない。

 

 そして────

 

「ハァッ!!」

「オォッ!!」

 

 全く同じタイミングで、二人は全速力で前へと駆け出した。

 

「食らいな!!」

 

 飛び出すタイミングはほぼ互角。しかし足の速さでは士郎よりランサーの方が何枚も上手を行く。

 全力のスピードを乗せられた真紅の槍が迫る。だがそれを士郎は避けようとせず迎撃する。

 

「フッ────!!」

 

 呼吸は一瞬。魔術により『強化』された木刀を音速に迫る勢いで襲い来る槍に向けて振り下ろす。

 

「馬鹿め」

 

 この瞬間、ランサーは半ば勝ちを確信した。

 木刀の状態を把握していたのは士郎だけではない。英霊であるランサーとて木刀の罅を見抜いていた。

 空気に当てられて木刀に罅が入っているのを忘れたのか。理由はともかくさっきと同じように木刀を振った時点で士郎の敗北はほぼ決まったも同然。

 今持っている木刀が折れればそれで終わり。ランサーならばもう一本の木刀で攻撃されるよりも先に士郎の急所を穿つことが出来る。

 

 呆気なく終わる未来を予想し、ランサーは士郎に対して失望の目を向けようとして────驚愕する。

 士郎の持つ木刀とランサーの持つ槍がぶつかり合った。にも関わらず、士郎の木刀は折れることなくランサーの槍を真下へと切り払ったのだ。

 

「んなっ!?」

 

 驚愕で目を見開くランサー。一瞬でも動きを止めたその隙を突いて士郎は二の太刀を放つ。

 狙いは首。『強化』されたことで鉄さえ容易く両断する木刀の一閃は容赦なくランサーの首元へと叩き込まれ────

 

「なめんな!」

 

 寸前、ランサーは咄嗟に片手のみ槍から離し、士郎の木刀を横合いから思いっきり殴りつけ、斬撃の軌道を強引にずらすと共に士郎の体勢を崩す。

 

「ラァッ!!」

「ッ!!」

 

 空になった真正面から槍をすくい上げるようにしてランサーは士郎を切り裂こうとするが、士郎はランサーに殴られた衝撃を活かして身体を捻りコマのように回転して両方の木刀を槍にぶつけ完全に止めた。

 

「テメェ……隠し玉を持っていやがったな(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 槍と木刀ではあるが鍔迫り合いのような形になったことで、喋る余裕が出来たランサーは口を開きつつ、その瞳は士郎の木刀へと鋭く向けられていた。

 

 本来ならば最初の1合目で終わっていた筈の戦い。なのに何故今もこうして士郎の持つ木刀が折れることなく戦いが続いているのか。その答えは木刀にある。

 木刀に宿る魔力の量────それが先程よりも何倍(・・)にも込められていたのだ。

 

『強化』という魔術は魔力を通して対象の存在を高め、文字通りの効果を発揮する物だ。

 ナイフに使えば切れ味が良くなり、ガラスに使えば硬くなるといった感じで、万能性に優れている。

 しかし、その万能さ故に極めることは難しく、この世に居る魔術師の中でも指で数えられる程度しか『強化』を極められた者は居ない。

 

 なればこそ、士郎もまた『強化』を極めたとはとてもではないが言えないが、しかし少なくともその使い方は他の魔術師よりも特殊(・・)だった。

 

 通常の魔術師が物に対して『強化』を使った時、100ある魔力の内から10程度を物に流して強化したとしよう。

 その結果、物には10の魔力が宿り、全体がそれ相応の強度を得ることになる。

 

 ついさっきまで士郎はこの方法を取っており、全身と木刀に魔力を流して強化していた。

 しかし、今の士郎がやっているのはその最小化(・・・)。範囲を狭め極限まで強化するというやり方だ。

 

 先述した通り、『強化』の魔術は魔力を通して対象の存在を高め、効果を発揮する物。ならば、全体に魔力を通すのではなくたった1部分に魔力を通せばどうなるか?

 100ある魔力のうちの10を木刀の切っ先にのみ集めて流す。そうした場合、木刀は切っ先だけが鋼のような硬さにまで強化されるのだ。

 

 幼い頃、魔術を教えてくれた育ての父が亡くなった後、偶然にもこの方法を見つけた士郎は他にも色々と試してみた。

 その結果、刃の所を強化すればそこだけ切れ味は格段と上がり、柄のところを強化すれば耐久力が跳ね上がった。

 

 そしてそれは人体にも使えるようで、士郎はこの方法を使って様々な鍛錬を己に課した。

 誰かの為に強くなる(・・・・・・・・・)────物心ついた時からいつの間にか己の胸にあったその思いに何時だって突き動かされてきた。

 

 故に練習した。ミソッカス程度の魔力しか無くても、文字通り血反吐を吐きながら父より教えられた数個の魔術を愚直なまでに鍛錬し、応用し、反復し続けてきた。

 その過去が積み重なり、今の士郎がある。

 

「クー・フーリン、貴様は確かに強い。だがな────」

 

『強化』を発動させ、士郎は腕と木刀を強化した。

 

「生徒を守り抜かんと願う限り、俺は無敵だ!」

「っ!?」

 

 強引にランサーの槍を打ち払い、がら空きとなった胴体に一撃を入れようとするが、それはランサーの巧みな槍捌きによって防御されるもランサーはそのまま弾き飛ばされる。

 再び両者の間に距離が生まれ、ランサーは信じられない物を見るかのように士郎を見た。

 

「来るがいい、明日の光は奪わせんッ!!」

 

 木刀をランサーへと向けながら、士郎は熱く雄々しい言葉を言い放った。


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