ルフィちゃん(♀)逆行冒険譚   作:ろぼと

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私は前話にて「次で終る」と言った。
その宣言は絶対である。

たとえ文字数が2万に届こうとも、断じて二話には分割しないのだ。

…二話だけに(ハハッ



遅れてすいませんでした


8話 北極星と女航海士・Ⅴ (挿絵注意)

大海賊時代・22年

東の海(イーストブルー) オルガン諸島沖

 

 

 

 夜の帳が降りきった東の海(イーストブルー)

 その暗い水面に一つの影が浮かんでいた。

 

 月明かりに照らされぼんやりと輝くそれは、無灯航行で進む一隻のキャラック船。

 象を象った船首を持つその船の広い甲板では、深夜の航海らしからぬ慌しい喧々囂々とした騒ぎが起きていた。

 

「おい、もう半日過ぎたぞ!もう戻って船長迎えに行ったほうがいいだろ?!」

 

「いや、食糧にはまだ余裕がある!そもそも最大出航命令は三日後に帰港なんだ!まだ戻るワケにはいかねェ…!」

 

 夜空の下で数十人のむさ苦しい男たちが切羽詰った表情で意見をぶつけ合う。

 

 彼らの名は『バギー海賊団』。

 オルガン諸島の某島にある“オレンジの町”を実効支配している海賊一味である。

 

 懸賞金1500万ベリーの船長『“道化”のバギー』による突然の最大緊急出航命令に従い大急ぎで港を離れた彼らは今、親分が不在のままオルガン諸島南西沖の海域を航行しながら次の行動を決断すべく、臨時の全体会議を行っていた。

 

「大体ホントにその“麦わら帽子の女”ってのがモージさんカバジさんをヤったのか…?信じらんねェ…」

 

「信じらんねェ強さだったから船長も“逃げろ”って指示出したんだろ…?おれたちが戻ったところで足手まといにしか…」

 

「あの女泥棒の捜索組もまだぶっ倒れたままだしよォ…」

 

 絶対的支柱を欠き、件の強敵“麦わら帽子の女”に倒された副船長『“猛獣使い”のモージ』( )及び参謀『“曲芸”のカバジ』( )の意識も未だ戻らない。

 指導者三名が同時に不在となったこの現状で、烏合の衆と化した海賊一味を束ねる存在は皆無。

 

 そんな中、辛うじて事情を知り仲間を束ねようと躍起になっているのが、船を出航させろと船長バギーより直々に命令を受けた四人組の一部隊『“軽業”フワーズ』( )の面々であった。

 

「おれたちァ見ちまったんだ…!あの麦わら女が睨んだだけで捜索隊の連中が全員泡吹いてぶっ倒れたとこを…っ!!」

 

「ありャとんでもねェバケモンだ!船長も“新世界”級のヤベェヤツだって気付いて即座に最大緊急出航の指示出したんだよ…!!」

 

『“新世界”!?』

 

「船長曰く、な…!そんなバケモン相手に、船長は…船長は…っ!!」

 

「おれァ、情けねェ…!一味が船長の足手まといになって…のこのこと船出して逃亡するなんて…っ!!」

 

『……ッ』

 

 あの悪魔の実の能力者である東の海(イーストブルー)有数の高額賞金首である一味の船長が逃亡を即断即決するほどの化物だ。

 その強者を相手に一人殿を引き受け、交渉  最悪戦闘になっているかもしれない偉大な親分の身をフワーズ四人衆は何よりも案じていた。

 

「お前ら!このまま助けられたままでいいのかよ…?!船長が必死に戦ってるってのに、おれたちが力にならずに何が海賊一味だ…っ!!」

 

「く…っ!」

 

「命令違反でドヤされるくれェ何だってんだ!!船長の盾になれずにおれたち“バギー海賊団”が務まるかよ!!」

 

「そうだ、そうだ!!」

 

 そんな彼ら四人の情熱が他の仲間たちの理解に浸透するにつれ、少しずつ四人衆を中心とした指示体系が完成していく。

 彼らは“麦わら帽子の女”の絶望的なまでの力を目の当たりにした。

 そんなフワーズたちが震える足で立ち上がったからこそ、仲間たちも彼らの勇気に感化される。

 

「“新世界”級のバケモンがどうした…っ!おれたちは船長を救いにいくぞおおっ!!」

 

「うおおおっ!待っててくださいバギー船長っ!!」

 

 烏合の衆であろうと、恐ろしくも頼りになる船長を大切に思う気持ちは皆同じ。

 

 『“軽業”フワーズ』の熱意に動かされ、多少の危険は覚悟の上だと腹を括った海賊たちは取り舵いっぱいの掛声と共に『ビッグトップ号』の船首をオルガン諸島へ向ける。

 

 道化の海賊旗(ジョリー・ロジャー)を掲げたキャラック船は“オレンジの町”( )へと進路を定め、船長救出を目指し士気の炎を燃やしながら夜天の星空の下を進んでいった。

 

 

 

「お、おい!前方に何か小さな影が…!」

 

 オルガン諸島の某島を視界に捉えてからしばらく。

 マストの見張り台で一味の一人が船の進行方向を指差し大きな声を張り上げた。

 

 釣られて男の指が示す先へ目を凝らす甲板の海賊たち。

 

 そして彼らは淡い月明かりが反射する夜の海の果てに、一艘の小さな漁船を発見した。

 

「あ、あの赤く光り輝くデッカい丸鼻は…っ!!」

 

『バギー船長!!?』

 

 その小船を操る人物を、彼ら『バギー海賊団』( )の男たちが見間違うはずも無い。

 夜光に照らされ輝いているあの鼻部の真っ赤な球体こそ、配下を守り殿を引き受けた船長の揺ぎ無い個性である。

 

 とはいえ万人が自分の個性を歓迎し自慢に思うはずもなく、中にはこの男のように隠す気のないコンプレックスとして極端な拒絶反応を示す者もいる。

 

「だァれが  “光り輝く真っ赤なデカっ鼻”だあああッ!?」

 

『船長だ!!』

 

 半日ぶりの何とも懐かしい怒り声に『バギー海賊団』( )の面々は一斉に船首へと殺到し、歓喜の涙を溢れさせる。

 

「船長…!おれ、おれたちァもう二度と会えないかと…っ!!」

 

「バギー船長っ…!うぅ…っ!」

 

 僅か半日の別れであったが、親分の無事な姿を洋上にて一刻千秋の思いで待ち続けていた海賊一味。

 命令に背き、自分たちの安全よりボスの救出を優先しようと船を反転させていた彼らは、自ら殿を務め配下を逃がした船長『“道化”のバギー』( )との感動の再会に大いに沸立った。

 

 そんな配下たちの熱烈な歓迎に赤っ鼻の道化師は一瞬きょとんとしながらも、すぐさま持ち前の強かさで彼らの感動的な空気を煽り立てた。

 

「お、お前らァッ!!よがっだ…!お前らも無事だっだんだな…っ!!」

 

「はいっ、船長のおかげです…っ!!」

 

「船長もよくぞご無事で…!!」

 

 …実はその感動的な空気を平然と扇動している一味のボスは己が身可愛さに配下の彼らを囮に“オレンジの町”( )を逃げ出していたのだが、どうやらそのような不都合な事実は闇に葬り去られるらしい。

 

「ハッ、ったりめェよぉ!このおれさまがそう容易く負けるワケねェだろうが!がっはっは!!」

 

「さ、流石船長…っ!」

 

 真実が知られていないのを良いことに、場の雰囲気に気分を良くしたお調子者は素直な配下たちを自身の脳内武勇伝記へと誘った。

 

 “麦わら帽子の女”の尖兵と化したあの『“海賊狩り”のゾロ』( )との一騎打ち。

 刀の鞘を用いた攻撃に苦戦しつつも自慢の“バラバラフェスティバル”で隙を作り、見事“海賊狩り”を行動不能に仕立てた名場面。

 尖兵の失態の直後に現れた、真打の“麦わら帽子の女”を振り切り町を脱出し、『“道化”のバギー』( )ここにあり!と海賊の矜持を守り抜いた逃走劇。

 

 嘘と真実と憶測を織り交ぜた完璧なストーリーである。

 

「そこでおれはその麦わら女にこう言ったのさ!『所詮てめェの部下の“海賊狩り”はこの東の海(イーストブルー)で図に乗った井の中の蛙。力だけじゃおれには敵わねェ』ってな!」

 

「ひゅーっ!流石1500万ベリーの賞金首!!」

 

「だがヤツも“新世界”級の実力者!中々隙を晒さねェ…!そこで再度おれの”バラバラフェスティバル”の出番だ!」

 

『おおっ?!二度目の大技を目晦ましにですかっ!!』

 

「ああ…そんで女の目が無数のバラバラパーツに釘付けになってる隙に、おれは両脚を漁船に乗せて  出航~~っ!!そんときのあの女のマヌケ面は傑作だったぜ、ぎゃはははは!!」

 

『おおおおっ!!』

 

 深夜の洋上で煌々と灯りを燈す海賊船『ビッグトップ号』( )

 その甲板では、語り部の話に耳を傾け躍然としている彼ら『バギー海賊団』( )が皆で船長の偉業を肴に美食美酒のドンチャン騒ぎに盛り上がっていた。

 

 バギーの部下を務める者たちは皆、気分の良いときの船長の自慢話は最後まで驚きと笑顔で聞き終えなくてはならないと知っている。

 

 

 よって、顔も知らぬ圧倒的強者“麦わら帽子の女”を自慢の大技で翻弄する創作シーンを、身振り手振りで吹聴する道化師を止める者は誰一人としていなかった。

 

 

  よぉ、昼以来だな。赤っ鼻のクソピエロ」

 

 そして彼らは、背筋が冷えるような嗄れ声を耳にする  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大海賊時代・22年

東の海(イーストブルー) オルガン諸島沖洋上『ビッグトップ号』( )甲板

 

 

 

 反射的に青筋を浮かべ振り向いた『“道化”のバギー』( )は、見覚えのある顔に思わず目を剥いた。

 

 特徴的な三本刀を構え、船首楼の上から油断なく道化師を見下ろす一人の男。

 その人物に誰よりも心当たりがあった彼は驚愕に声を張り上げた。

 

「てめェ…一体どうやってここまで来やがった  “海賊狩り”…っ!!」

 

『かっ、“海賊狩り”!?』

 

 船長の武勇伝にて瀕死の重傷を負い倒れ伏したはずの強敵『“海賊狩り”のゾロ』( )の名が、宴会の酒に呑まれた海賊たちの鈍った脳を叩き起こす。

 まさかの追っ手に戦慄する一味の男たちは救いを求め、偉大なる船長へ一斉にその青い顔を向けた。

 

 百を超す部下たちの怯えた目に一瞬怯んだバギーであったが、楼の上に立つ男の腹部を覆う包帯を目敏く見抜き、落ち着きを取り戻す。

 あれは半日程度の休息でどうにかなる傷ではなかったはずだ。

 万全の体調で『バラバラの実』の能力者に挑み敗北した剣士が、大怪我を庇いながら戦いマトモな勝負になるわけがない。

 

 二度目の決戦を予想したバギーは密かに能力を発動させ、以前のように左手の【指】に懐の毒ナイフを掴ませ樽や椅子、人混みなどに紛れながら剣士の下へと向かわせる。

 今回切り離したのは小指だけでは無い。左手の指、五本全てだ。

 

 視界を遮る障害物の多いこの場は絶好のキルゾーン。

 切り札の毒ナイフ五本を隠した道化師は勝利を確信し、声高々に“海賊狩り”を挑発する。

 

「…ハッ、そんなミイラみてェな体でこのおれに一体何の用だ?てめェみてェな未熟者にゃァ、おれさまのような大物海賊は荷が重いんだよ…!リベンジしてェなら相応の実力ってヤツを身に付けてからにしやがれ、雑魚が!」

 

「おおっ、流石船長!!」

 

「おい皆、“海賊狩り”がワザワザおれたち“海賊”に狩られに来たってよ!」

 

『ギャハハハハ!!』

 

 下品な笑い声を上げながら椅子に踏ん反り返る親分の頼もしい姿に、調子を取り戻した『バギー海賊団』( )のクルーたちが満身創痍の青年剣士に野次を飛ばす。

 

 彼らにも意地があった。

 船長命令とはいえ、情けなくも一味のボス一人に全てを任せ守られてしまった海賊たちは、今度こそ自分たちがこの東の海(イーストブルー)有数の大海賊であるバギー船長の部下に相応しい男であることを証明しようと躍起になっていた。

 

「へっ、あんなボロ雑巾みてェな野郎なんざおれたちだけで十分だ!やっちまえ!!」

 

『うおおおっ!!』

 

 気合よろしく手元のジョッキをテーブル代わりの酒樽に叩き付け、懐の剣を抜いた数十人の海賊たちが怒涛の勢いで“海賊狩り”へ殺到する。

 

 樽や椅子、テーブルを軽々と乗り越え敵を目指す彼らの動きは場数を踏んだ海の犯罪者に相応しい手馴れたもの。

 瞬く間に男の周囲を取り囲んだ海賊たちは、間髪入れずに己の握る刃物を振り上げる。

 

 そして一斉に獲物に飛びかかった。

 

「やったか…!?」

 

 “海賊狩り”の冴えない動きに麻痺毒の効果を見たバギーが喜色を隠しもせずに戦果確認を急かす。

 凪の帯(カームベルト)の”海王類”でさえ丸一日動きを鈍らせるほどの凶悪な薬だ。

 それほどの劇物を直接体内に刺し込まれた人間が何十もの刃から身を守れるわけが無い。

 

 だが、そんな船長の期待は男の煩わしげな声と共に霧散する。

 

  酔っ払いが振るった剣でこのおれを倒せると増長するたァ、一体どんな法螺話を信じ込ませたんだ?赤っ鼻」

 

 そこに居たのは、無数の剣を受け止め獰猛な笑みを浮かべる剣士、『“海賊狩り”のゾロ』( )であった。

 

『なっ  

 

 驚愕に悲鳴を上げる間も無く、無造作に振るわれた剣士の三本刀が何十もの海賊たちを弾き飛ばした。

 

 飛んで来た仲間の一人を咄嗟に躱したバギーは動揺したまま周囲へ目を向ける。

 そして無数の衝撃音の後、甲板に広がった光景に男は唖然とした。

 

「お、お前ら……?!」

 

 船の両舷に叩き付けられ頭から血を流す大勢の部下たちの無残な姿。

 辛うじて意識のある者も苦痛に呻き声を上げながら蹲るばかり。

 

 先ほどまで再会の宴に興じていた彼らの変わり果てた様に、道化師の顔が青ざめる。

 

 自慢の毒を物ともせずに佇む男が、射殺すような鋭い眼つきで彼を見下ろしていた。

 

 

 男  『“海賊狩り”ロロノア・ゾロ』は、ようやく一対一の雪辱を果たす機会を作れたことで自身の闘志を天井知らずに高めていた。

 

 先の惨敗で大恥を掻き、あまつさえその惨めな姿を最も見られたくなかった女に見られてしまった。

 そんなゾロ青年の己に対する憤慨は計り知れない。

 

 故に今の剣士にかつてのような気の緩みは微塵もなく、ただ勝利のみを目指し昂る戦意を研ぎ澄ましていた。

 

「てめェ…!どうやっておれの麻痺毒を……いや、そもそもどうやってこんな海のど真ん中までやって来れた…!?」

 

「この勝負が終れば嫌でもわかる。まぁ、“わかる”っつっても  」  

 

 瞬間、強烈な威圧感を撒き散らしゾロが敵に向かって突進した。

 

 そして、咄嗟に受け流そうと構えられたナイフを物ともせず、豪速で振るわれた鞘付きの刀が道化師の目立つ赤っ鼻に直撃した。

 

  てめェがそのときまでに生きてられる保証はねェけどな…!!」

 

 凄まじい力の殴打を喰らったバギーが甲板に置かれたテーブルへ吹き飛び、けたたましい音と共に宴会場が全壊する。

 

 痛みに泣き叫び、被った葡萄酒で真っ赤に染まった船長の哀れな姿を配下の海賊たちは言葉も発せずただ茫然と見つめることしか出来ずにいた。

 

 船長の能力技“バラバラ緊急脱出”が間に合わないほどの速さと威力。

 

 宴の席でボスが盛りに盛った“海賊狩り”との死闘が、全て真実であったと誤解した彼らの絶望は如何ほどのものか。

 

「一度戦ったおれの攻撃を片手で受け流せねェと知ってるお前が左手を使わなかった理由なんざ、一つしかねェ。前みてェに片手でコソコソ背後なんか狙ってたら、先にてめェの頭ァかち割るぞ?」

 

  ッ!」

 

 確かな手応えを得て尚剣士の心に油断は無い。

 

 その言葉どおり、バギーが咄嗟に背中を目掛けて突き出した暗器は、切り離された【親指】と共にゾロの刀の一振りで海の彼方へと打ち飛ばされた。

 

 遠くで立った水音を最後に、甲板に張り詰めた沈黙が訪れる。

 

 剣士の望んだとおり、海上に浮かぶ船の甲板というこの戦場は、共に逃走を許さぬ閉じられた空間だ。

 以前とは異なりどちらかが倒れるまで戦いは終らない。

 汚名を返上すべく  怒り狂う一味の仲間思いの女船長を説き伏せ  己が身一つで全てを終らせることを約束したゾロに取っては、これ以上無い理想的な環境である。

 

 そして切り札の毒ナイフがただの牽制に成り下がってしまった今、バギーは痛む丸鼻を摩りつつ瓦礫の山から抜け出した。

 

「ツッ…ちくしょう…っ!おれの鼻がまた赤く腫れて  って誰が”赤っ鼻”だゴラァっ!!」

 

「お前だよクソピエロ。自覚するまで叩きまくってもっとデカくしてやるからさっさとかかって来い!」

 

「ちっ、一度のマグレ当たりで調子乗ってんじゃねェぞ未熟者ォ!!」

 

 大声を張り上げた道化師が体中に闘気を漲らせる。

 

 仕掛けるのは以前剣士の注意を引き付けたあの大技だ。

 

「死に晒せェ“海賊狩り”のゾロォォッ!!”バラバラフェスティバル”!!」

 

「ハッ、芸がねェ野郎だぜ!同じ船長でも叩けばポンポン人外技が飛び出るウチの化物女とは大違いだ…!」

 

 無数の部位に分かれたバギーの肉体を一笑し、ゾロは周囲を隈無く警戒しつつ敵の急所である【頭部】や【腹部】を狙い鞘付きの刀を振るう。

 道化師の口から鮮血が吹き零れ、甲板に赤黒く醜い血溜りを作る。

 

 初見の派手さに惑わされたが、二度目とあっては危機感も薄い。

 宙を飛び回る部位全てが敵の本体そのもの。

 痛覚と共にダメージが自身に返ってくる男の悪魔の実の能力では、手や指に持つナイフ以外は直接的な脅威たり得ない。

 

 だが痛みにのた打ち回る輪切り状のバラバラ部位を踏み付け降参を促そうとしたその直後、ゾロは己の目測の甘さを認識する。

 

「ぐぅぅっ…くそったれェェェ!!ッ、おいてめェら!その武器寄こしやがれ!!」

 

「!」

 

 突如、バギーの体の各部位が周囲に転がる部下たちの刃物へ殺到し、その身を刀身目掛けて突き当てた。

 

 まるで自殺のようなその行為の目的が理解出来ぬゾロは唖然としながら男の凶行を見逃す。

 

 しかしそれは愚行であった。

 

「おれが手ェ以外では攻撃出来ねェと高ァ括ったか?ざァんねェェん!!柄は無理でも刀身なら握れんだよブァ~~カ!!」

 

 四方八方に刃を束元まで貫通させたバギーのバラバラ部位が、無数の刃物が飛び出る凶器と化す。

 

 愚かにも敵の隙を逃してしまったゾロは臍を噛み、恥を誤魔化そうと道化師を罵倒した。

 

「…はっ、まるでハリセンボンだな。プラナリアは止めたのか?」

 

「だァれが  “プラスチックのようなナリの鼻”だってェェェ!!?」

 

「いや言ってねェよ」

 

 思わず反論する剣士を余所に、刃の塊がゆっくりと敵を囲むように“海賊狩り”の周囲に展開する。

 何ともわかりやすい攻撃準備だ。

 

「さァ、ショータイムだ未熟者!一斉にかかれェい!”バラバラ即席ハリセンボン”!!」

 

「やっぱりハリセンボンじゃねェか!!」

 

 咄嗟の突っ込みも虚しく、凶悪な刃の塊がゾロに向かい全方位より殺到する。

 

 剣士は小さな舌打ちと共に背後に迫る凶器を叩き返し、こじ開けた包囲の穴から船首へと転がるように退避した。

 

(くそっ…馬鹿かよ、おれ…っ!)

 

 状況は一瞬で暗転。

 

 突き出る刃物に覆われたことで、道化師のバラバラ部位を表面積の広い鞘付きの刀で直接狙うことはほぼ不可能となった。

 更に、刃物を鞘で受止め続ければいずれは破綻。

 格闘術が無いゾロは打つ手が無くなり、敗北する。

 

 攻勢防御に攻撃封じ。

 

 そう、これこそが幾度も賞金稼ぎに命を狙われ続けた1500万ベリーの賞金首『“道化”のバギー』( )が編み出した、究極の殴打武器対策である。

 

「刃物を取り込んじまえば受ける“打撃”は全て、能力で無効化出来る“斬撃”となっておれのバラバラパーツに伝達する!生の刀身がそこら中から突き出た物体に直接攻撃を仕掛けるバカはいねェだろうよ!!ぎゃはははは!!」

 

「ちっ…!」

 

「そらそらァ!余所見してたらまーた背中をぶっすりだぜェ?!」

 

「!?」

 

 背筋に悪寒が走りゾロは瞬時に体を捻る。

 だが回避も虚しく、敵の思わぬ機転につい気を逸らしてしまった背後の【人差し指】のナイフが、剣士の鍛え抜かれた二の腕を薄く切り裂いた。

 

 直撃は避けたものの、その攻撃に限ればどちらであっても大差は無い。

 

 その短い刀身には強力な麻痺毒がたっぷりと塗られているのだから。

 

「くそ…っ!」

 

「はァい、一発アウトォ!おれが“コソコソ背後狙ってたら”ァ~なんだってェ?確か、“頭ァかち割る”ゥ~だったかァ??おらおら、出来るモンならやってみろよブァ~~カ!!」

 

 道化師の挑発に憤怒が爆発するも、体は筋肉がドロドロと溶けたかのように脱力し、ゾロは堪らず楠木の甲板に膝を突く。

 

「…チッ、ホントに頑丈な野郎だぜ」

 

 だが、剣士は倒れない。

 

 痺れが緩い右手で己の覚悟の証たる『和道一文字』( )を構え、追い討ちを掛けようとナイフを操る道化師を牽制する。

 

 満身創痍の剣士の惨めな姿を楽しげに眺めるバギーが、その大きな丸鼻を震わせ男の無様を嘲笑った。

 

「雪辱に燃えて後ろが見えなくなるたァ、おめェもバカなヤツだな。そんなに前回おれさまに負けたのが悔しいかァ?」

 

 海から上がった泥のような脱力感と、無数の針に刺されるような痺れ感。

 構えた右腕も鉛のように重く、少しずつ剣先は下がっていく。

 

 力めど手足は震えるばかり。

 筋肉の緊張は緩みきり、初戦で負った閉じたはずの腹部の傷から止め処なく鮮血が滴り落ちる。

 最早刀を振るうどころか立ち上がることさえ難しい。

 

 敵の隙を見逃し、対する一瞬の隙を目敏く突かれ、この様だ。

 油断はなく、ただ相手の誘導が、戦術が、無策の己より上手であっただけのこと。

 

(く…そ……)

 

 ゾロは霞む意識を必死に手繰り寄せる。

 

 負けるわけにはいかない。

 二度目の敗北が瞼の裏にチラつき剣士の焦燥を掻き立てる。 

 

(ふざけんな…いつまでこんなくだらねェとこで膝突いてんだよ…!)

 

 負けるわけにはいかない。

 己には亡き友と交わした夢が、神聖な目標があるのだから。

 

(最強を目指すんだろ…っ?!動け……!動け…っ!!)

 

 負けるわけには  

 

 

  ッ」

 

 そして剣士は、見上げた船尾楼の頂上に  輝く夜天の星々を見た。

 

 

 星明に輝く三つの夜空がゾロの濁った瞳に光を燈す。

 男が見惚れ、惹かれた光だ。

 

 直後、霞む意識の霧が掃われる。

 

 晴れた視界に映るのは、男の勝利を願う、もう一人の力の源。

 その力の源に見つめられ、ゾロは凍った血肉に沸き上がる闘志の劫火を叩き付けた。

 

 原初の意思、本能とも呼べるその命の根本に突き動かされ、固まる肉体が悲鳴を上げながら動き出す。

 

(礼は言わねェぞ、くそったれ……!)

 

 死んでも見せたくなかった姿を晒し……死んでも見たくなかったものを見せられた。

 脳裏に想起された夕日に輝くその潤んだ双眸が、壮大な野望の掲げる男の最後の燃料となり、闘志の猛火を燃え盛す。

 

 …見せねばならない、男の意地を。

 

 

  女が男の傷に泣いたんだ」

 

「あァ?」

 

 静まり返った海賊船。

 ただ一人、息を荒げる青年は震える足で甲板を踏みしめ立ち上がる。

 

「いつもアホみてェに笑ってばかりのアイツが……男の傷に自分を責めて泣いたんだ…!」

 

 ゾワッ…と大気が揺らぐ。

 

 剣士の纏う気配が(つんざ)く極寒の冷気のように鋭化し、周囲の景色が蜃気楼のように波打った。

 

 そして、青年の雄獅子の如き闘争本能が、決意の光をその目に輝かせる。

 

 

 男はいつだって、帰りを待つ女に勝利を届けなくてはならないのだから。

 

「ここで負けるなら、おれは大剣豪の夢どころか己の漢を捨てるっ!!!」

 

  !?」

 

 

 瞬間、剣士の全身から凄まじい気迫が放たれた。

 

 男が抱く戦いへの、勝利への執念が物理的な圧力となって道化師の下へ襲い掛かる。

 そのあまりの圧力にバギーの臆病な心が悲鳴を上げ、咄嗟に両足を引き下がらせた。

 

「バカ…な………これは…っ!!」

 

 久しぶりに感じる、猛吹雪の中に放り込まれたかのような強者の殺気に真正面から晒される感覚。

 轟々たる咆哮や猛獣の如き恐ろしい眼光だけでは説明の付かない強大な威圧感。

 

 それは『新世界』に足を踏み入れた者なら誰もが経験した、“覇気”の噴出と呼ばれる超常現象であった。

 

(死んだ船長やレイリーさんみてェな“覇気使い”なんて上等な代物じゃァねェが、その下地は十分ってことかよ…っ!)

 

 剣士には未だ己の覇気を操る術はない。

 出来るのは感情と同時に噴出させ、「敵を倒す」という至上命題を成すため無意識に身体を強化させる程度。

 “覇気使い”たちのように技術として確立しているわけでもなく、威力も彼らの足元にも及ばない。

 幼稚で拙い、非力な子供の癇癪のようなものだ。

 

 だが、剣士の女上司のような特異な例を除き、“覇気使い”たちの超人的な力は全てこの男のような無知で未熟な覇気の胎動から始まった。

 

 それはつまり、剣士が彼らのような恐るべき存在へと至る素質を秘めた、真の強者の原石であるということに他ならない。

 

「くそったれが…っ!見えねェ敵の影に怯え目の前の手負いの獣を捨て置いちまうとは、おれも相当ヤキが回ったか…っ?!」

 

 以前、時間惜しさに仕留め損じた半端者が途轍もない成長を遂げ雪辱の鬼として目の前に現れたことに、道化師は臍を噛み切らんばかりの痛恨の念に苛まれる。

 

「あんときと合わせて二度目の貴重な機会だったな…!てめェみてェな姑息な野郎がこのおれを討ち取れるチャンスはよぉ!!」

 

 

 その言葉が終る間も無く、“海賊狩り”の姿が掻き消える。

 

「な  

 

 バギーが驚愕に声を上げようと口を開けた直後、神速の速さで突き出された剣士の刀が道化師の浮遊する【腹部】へ直撃した。

 

 閃光のように速いその一撃は、バラバラ部位から突き出る無数の刃物を粉砕し、本体へ辿りつく。

 内臓に響くほどの凄まじい衝撃がバギーを襲い、フェイスペイントで鮮やかに彩られたその口の奥から鮮血が滴った。

 

 ゾロの爆発的な速度から放たれた攻撃が、道化師の自慢の攻勢防御“バラバラ即席ハリセンボン”を破ったのだ。

 

「ゲホッ!ゴホッ!  ッ、ハァッ…ハァッ…!で…めぇっ、今のまさか…っ!」

 

「へぇ、お前もこの技知ってんのか。ウチの偉大な船長サマの見様見真似でド素人もいいトコだが、今のでコツは掴んだ。次はもっと速いぜ…っ!!」

 

「!!?」

 

 瞬間、再度剣士の姿が消失する。

 

 そして瞬きも出来ぬ間に、鞘に包まれたゾロの自慢の太刀が男の赤い丸鼻に叩き付けられた。

 

「ッぶぎゃああっ!!?ンゴッ、でっ、でめェェっ!!なんで東の海(イーストブルー)の賞金稼ぎに過ぎねェてめェが海軍本部のバケモン共の技を…っ!」

 

 立て続けに襲い掛かる激痛を持ち前の臆病さで何とか耐え、バギーは混乱と恐慌に怒声を張り上げた。

 

 男は先ほどの剣士の動きに強い既視感を覚える。

 それは、あの昔の地獄の日々を再度想起させるこの世の頂点の光景だった。

 

 

 かつて雑用として所属していたあの偉大な海賊団を追って数多くの海軍本部将校たちがその覇道の行く手を阻んだ。

 

 若き道化師に何度も死を覚悟させた彼らは、まるで階段を上るかのように空を駆け、船の甲板に降り立てば目にも留まらぬの速さで一味の仲間たちを翻弄し、足を振るえば鎌鼬の如き風の刃を放つ、文字通りの超人たちであった。

 

 そんな彼らが唱えていたその技名は  

 

 

「“剃”っ!!」

 

 剣士の掛声と共に凄まじい風切音がバギーの鼓膜を劈く。

 

 その直後、強烈な圧迫感が男の浮遊する後頭部に叩き付けられた。

 

(!!しまっ…後ろを取られ  

 

 道化師の研ぎ澄まされた感覚が濃密な死の気配を覚える。

 

 男は臆病であった。

 万人が背後を気にし咄嗟に振り向くとき、彼はその手間を惜しみ真っ先に逃走を選択する。

 バギーは今までその臆病さを信じて生き延びてきた。

 

 だが男は東の海(イーストブルー)の長い、ぬるま湯の生活で忘れていた。

 

「いい練習相手だったぜ、クソピエロ。おかげで何とかモノに出来そうだ。」

 

「ヒィィッ!!」

 

 真の臆病者とは、決して自惚れず、強者を見極め戦わずに逃げ出す知恵者を指すのだと。

 

「ッヤダァ~~~死にたくなァ~~いぃぃッ!!!」

 

「ッ、剣士に背を見せ逃げ出すたァ、姑息な海賊らしい最後じゃねェか…!逃がすかよ…っ!」

 

 “バラバラ即席ハリセンボン”が破られ、”六式”まで持ち出した全力の剣豪ゾロ。

 

 敵わぬと悟った今、弱者が生き残るには危険から遠ざかるほか無い。

 赤っ鼻の男は切り離した体の各部位を無我夢中で集合させ、脱兎の如く船尾楼の扉へと逃亡した。

 

 バギーは戦意を放り捨て必死にドアノブへ手を伸ばし  その手は虚しく空気を掴む。

 

 

 突然襲い掛かった桁外れの圧迫感に、体が氷の如く固まってしまったからだ。

 

 

『!!?』

 

 

   ズンッ……

 

 

 ガラスが砕け、酒樽や楠木の甲板が弾け飛び、釘が宙へと舞い上がる。

 

 バギー、そして床に這い蹲る『バギー海賊団』の面々は、まるで体中を四方八方から同時にぶん殴られたような強烈な衝撃に晒された。

 

『ヒッ……!!』

 

 直後、心臓を掻き毟る凄まじい恐怖が彼らを呑み込んだ。

 

 恐ろしい船長の癇癪を目の当たりにしたときも、海軍支部の艦隊に囲まれ何十もの大砲の砲門を向けられたときも、これほど血の気が失せる感覚を覚えたことはない。

 

 それは数々の修羅場を潜り抜けてきた彼ら海の荒くれ者共でさえ腰を抜かす、意識を飛ばすことさえ許されない、全くの初めての未知の恐怖であった。

 

 

 だがバギーだけは知っていた。

 

 この世の強者たちが集う最悪の海『新世界』を生き延びてきた彼だからこそわかる。

 わかってしまう。

 この平伏したくなるほどの威圧感の正体が。

 

 心臓が握り潰されたかと錯覚するほどの力に、一味の船長『“道化”のバギー』は己の終わりを覚悟する。

 

 そして誰もが硬直し身動き一つ取れない世界の中で、その澄んだ鈴音の如き音色はよく響いた。

 

 

 

  決闘の途中で逃亡だなんて、バギーって相変わらず姑息で臆病なのね」

 

 

 

 海賊たちの耳に、静かな声が風に乗って届けられる。

 若い女…いや少女の、高く、美しく、そして恐ろしい声だった。

 

 背筋が凍るほどの敵意に晒され男の足が小鹿のように震え出す。

 

 覇気使いから逃げるには“帆船”という、速力に大きな差が生まれにくく出航も追跡も面倒な手段で海に出ることが最善。

 己の非力さを誰よりもよく理解している道化師は、分を弁え相手の怒りを買い過ぎぬよう努めてきた。

 態々船を出し海の果てまで追うほどの敵でも仇でもないと、敵対してきた強者たちに思わせるために。

 

 だが今、如何なる手段で追いついたのか。

 男が見上げた船尾楼の頂には、その強者の華奢な姿があった。

 

 

「私ルフィ。“麦わら海賊団”の船長よ。あなたが乱暴しようとしたナミも、毒のナイフで刺したゾロも、私の大切な仲間なの。もう怒ったから船ごとぶっ飛ばしに来たわ」

 

 

 “麦わら帽子を被った、赤い服と短パンの凄ェボインな薄着の女”

 

 

 足元で気絶している『“軽業”フワーズ』四人衆がそう形容した人物は、まさにその通りの容姿であった。

 

 目を奪われるほど見事な芳体に、不釣合いなほど幼げな相貌を持つ少女が、その愛らしい童顔に似合わぬ氷の視線で赤鼻の男を射抜く。

 

「ゾロのリベンジもあなたの決闘放棄で終ったし、もう暴れてもいいわよね?」

 

 その言葉に甲板に集まる全ての者が固まる中、一人気の抜ける愚痴を零した男がいた。

 

 少女の相棒、『“海賊狩り”のゾロ』である。

 

「はぁ……ったく、あと一秒待てなかったのかよ。てめェに教わった“剃”を使った新技試すつもりだったんだが」

 

「あら、背中を見せた敵に刀を振るうの?」

 

「……けっ、よくわかってんじゃねェかクソゴム女」

 

 女の、しかもバカのクセに何故か剣士の美学を理解した返答を返す、麦わら帽子の女の子。

 少女の闘志に燃えるその高揚した笑顔に、ゾロの戦意が溜息と共に霧散する。

 

 “月歩”とやらでゾロを船まで送ってから、今までずっとうずうずしながら仲間の戦いをその船尾楼の上から見下ろしていたのだ。

 

 意識するのも気恥ずかしいが、この女船長の仲間に対する愛情は家族に向けるものに勝るとも劣らない。

 これ以上彼女に報復行為を我慢させるのも、受け取った信頼に反する。

 

 雪辱に燃えていた己の心にケジメを付け、ゾロは真剣な面持ちで麦わら娘の行動に目を光らせた。

 

 これから始まるのは圧倒的強者による一方的な制圧。

 武に生きる者にとっては決して見逃せない貴重な実戦教材だ。

 

 そして、少女の身体から帆を燃やすほどの高熱が放たれ、紅色に輝く黒鉄色の蜂の羽の模様を浮かび上がらせた“覇気使い”による慈悲なき報復が開始された。

 

「じゃあ決まりねっ!…さぁバギー!ゾロとナミの仇よ、覚悟しなさい!“ギア4・ホーネットガール”( )!!」

 

『ッヒィィィィ~~~!!』

 

 

 夜の帳の降りきった東の海(イーストブルー)

 

 『新世界』の地獄を生き延びた海賊王の元クルー『“道化”のバギー』( )は、眼前に迫った二つの満天の星空を最後に  そのか細い意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大海賊時代・22年

東の海(イーストブルー) オルガン諸島オレンジの町港湾

 

 

 

「ちょっとそこ!女の子の日用品なんだからもっと丁寧に扱いなさいよ!」

 

『へ、へい!』

 

「ナミってホント細かいわね~。そんなにカリカリしてたら髪の毛禿げそうだわ」

 

「お前はもう少し自分の性別を意識しろよ」

 

 女の甲高い声がオレンジの町の港に響く。

 海賊から逃げ延び集った民が築いたこの町は今、皮肉にも彼らが何より嫌った海賊たちに占拠されていた。

 

 屯する海賊団は二つ。

 

 一つは悪名高い高額賞金首の船長が率いる東の海(イーストブルー)有数の一味『バギー海賊団』。

 大型のキャラック船を有し、世界中の宝を求める総勢50人の中規模海賊である。

 

 そんな彼らを顎で使い出港準備を進めているのは、二人の少女。

 むさ苦しい男所帯の中で高圧的な態度を取り続ける、あまりにも場違いなこの両名もあろうことか、男たちと同じ海のならず者である。

 

 彼女たちの名は『麦わら海賊団』。

 ()の有名な“海賊狩り”を有する男女三名の極々小規模一味である彼ら彼女らが、東の海(イーストブルー)有数の海賊一味を小間使いの如く侍らせている理由はただ一つ  弱肉強食の掟に他ならない。

 

 一味の女船長モンキー・D・ルフィが三人目のクルーに目を付けた航海士兼、海賊専門泥棒の美女ナミ。

 偉大なる航路(グランドライン)の海図を彼女が盗んだことで始まった両海賊団の争いは、互いの幹部が意識不明の重体に陥るほどの全面戦争に発展したものの、恐るべき力を秘める規格外の女海賊ルフィが最前線に立ったことにより僅か半日で終結した。

 

「ほら何ボサッとしてんのよ!その安酒は男船!そっちの蒸留酒は私とルフィの女船!船長の乗る船にイイ物乗せるのは当然でしょ!?」

 

『はっ、はいぃ…』

 

「おいふざけんな新入り航海士!ウチのアホ船長に酒の善し悪しなんかわかるワケねェだろ!全部てめェが飲みてェだけじゃねェか!…あ、おいそこのお前ら。その蒸留酒はおれの男船な、間違えんなよ?」

 

『え、えと…』

 

「別にどっちでもいいじゃない、どのみち釘で固定して双胴船(カタマラン)にするんだから。飲みたくなったら女船のほうに来ればいいのに、二人とも神経質ね~」

 

「アンタは一度男女で船を分けた理由を考えなさいよバカ!!」

 

 スパァン!っと二つの良い音が港に木霊する。

 打撃が効かないゴム人間に対する容赦の無い暴力だ。

 

 だがたとえ打撃の物理的効果を無効化する肉体であっても、この世には肉体と精神、そして魂に作用する、三種類の痛みがある。

 

「ッふぎゃっ!?ちょ、ちょっとゾロ!ナミ!痛い!今の凄く痛かったっ!」

 

 10年間の修行で慣れ親しんだ祖父の硬い拳骨の如き鈍痛に、女船長ルフィは思わず悲鳴を上げる。

 

「…ゴムなのに“痛い”?……へぇ、そりゃイイことを聞いたなァ…」

 

「…あれかしら、親の体罰は何よりも痛いっていう。…へー、ほー、ふーん」

 

 ボスの数少ない弱点を知った少女の部下たちの口が弧を描く。

 

「いたた…って、な、何よあなたたち…?そんなニヤニヤした顔で…」

 

『いや別にィ?』

 

 涙目で頭を押さえながら怯えた表情で仲間を見上げる最年少の女の子。

 戦場においては比類なき強者である彼女にこのような情けない顔をさせることが出来るのは、一味の仲間の両名くらいのものだろう。

 

 思わぬ優位性を最大限活用すべく、即座に悪巧みを開始した二人の男女の笑顔は、宛ら無垢な少女を狙う誘拐犯のようであったと周囲の海賊たちは後に語る。

 

 

 そんな三人が作る奇妙な空気の中に、全身包帯巻きの一人の男がおっかなびっくり近付き声を発した。

 

「あ、あにょ…ルフィしゃま…出航準備が、お、終ふぁりまひた…」

 

 暴君たちの会話が途切れる瞬間を自前の処世術で見極め報告を済ませるその人物に、『麦わら海賊団』( )の六つの目が一斉に向けられる。

 

「あらもう終ったの?ご苦労様、バギー」

 

「ヒッ…!ひぇ、ひぇい…」

 

 にっこり笑いながら労をねぎらうバケモノ女船長に小さく悲鳴を上げる腰の低いその男こそ、東の海(イーストブルー)を我が物顔で暴れまわる懸賞金1500万ベリーの大物海賊『“道化”のバギー』である。

 

 海図を盗まれ、犯人を捕らえるべく追っ手を放ったら幹部二名含む数十の部下たちを壊滅させられ、一人姑息にも逃げ出せばまさかの“海賊狩り”と遭遇。

 何とか勝利を収めたものの翌日深夜には雪辱に燃える剣士に敗北し、命辛々逃げ出せば“四皇”級の化物に瞬殺され、目覚めれば敗者の掟に倣い下僕に成り下がる破目になっていた。

 

 最後は小船に食糧に大切なお宝まで余すことなく奪われた、泣きっ面に蜂の赤鼻男の胸中はいかなるものか。

 

 

 …とはいえ今まで散々町民たちを虐げてきたここ“オレンジの町”では、下手人であるこの道化師に同情の言葉を送ってくれる者など居なかろう。

 

「…ええ、ちゃんと全部積まれてるわね。流石は高額賞金首、数十分足らずで全部終わらせるなんてやるじゃない」

 

「おい赤っ鼻、蒸留酒が女船に乗ってるぞ。何凡ミスしてんだ、こっちに寄こせ」

 

「んじゃっ、最後の命令よバギー!私たちの船に積めなかったあなたのお宝を使って、あなたたちがめちゃくちゃにした町の人たちの生活を取り戻してあげなさい!もちろん、ちゃんと頭下げて謝ってからねっ!命令無視したら今度こそそのおっきな船ごと海に沈んでもらうから!」

 

『はっ、はいいぃぃ…!』

 

「おい、蒸留酒を男船に  

 

 海賊たちの恨めしげな視線に晒されながら、女海賊『“麦わら”のルフィ』( )率いる海賊一味はバギーから快く頂戴した大量の宝と共に“オレンジの町”を後にする。

 

 

 天候と海を知り尽くす女、航海士ナミ。

 

 二人目の仲間を手に入れた未来の海賊王は、小さな遺恨を残しながら、船首をシロップ島の方角へ向けて声高々に出向した。

 

 

 

「ぐ、ぐぎぎぎ……お、覚えふぇろよぉぉ“麦わら”ァ……っ!!」

 

「せ、船長ダメっすよ…!あんなバケモン敵に回すとか正気の沙汰じゃないですって…!」

 

「うるふぇえ!力じゃ敵わにゃくふぉも知恵さえまわしゃあ、やり様はありゅんふぁよぉ……今に見てりょぉ、“麦わらのルフィ”…っ!!」

 

 

 彼ら彼女らが、誇り高き海賊『“道化”のバギー』と因縁の再会を果たすのは、そう遠くない未来のことである……

 

 

 

 

 

 

 

 

大海賊時代・22年

東の海(イーストブルー) 小型海賊船『リトルトップ号』( )甲板

 

 

 

 オルガン諸島を離れて数刻。

 島影一つない航海日和の東の海(イーストブルー)を、道化の海賊旗(ジョリー・ロジャー)を掲げた一隻の小型の双胴船が帆を張り詰め進んでいる。

 

 その船の結合甲板では、小さな海賊団“麦わらの一味”が新たな仲間、航海士ナミを囲み宴会騒ぎに興じていた。

 

「だぁ~かぁ~らぁ~っ!一味の仲間じゃなくて“商・売・仲・間”だって言ってるでしょ!海賊なんて死んでもゴメンよっ!!」

 

「ぶぅ~、まだそんなこと言ってるのぉ?」

 

「はっはっは!いいぜナミ、もっと意地張ってくれねェとつまらねェぜ!」

 

「アンタはいい加減しつこいのよ、このむっつりスケベ剣士っ!」

 

 一人寂しく男船に押し込められている剣士ゾロが時折飛ばす野次に怒声で返すナミ。

 心外だと互いに食って掛かる二人の姿をニコニコと見つめる少女船長のルフィは、10年越しの夢が成就されつつある現状に大いに満足していた。

 

「…ふふっ」

 

「ちょっと何笑ってんのよルフィ!違うわよ?!ただの協力関係だからねっ?!!」

 

「あっ、ごめんなさい…!こういうの何かいいなぁって思っちゃって、私嬉しくって」

 

『…ッ!』

 

 幼げな顔を紅潮させ、にぱっと無邪気で可愛らしい笑みを浮かべる麦わら帽子の女の子に、仲間たちの胸が切なげに跳ねる。

 突然の無自覚な精神攻撃に流石の強情美少女泥棒も堪らず頬を朱に染めてしまう。

 

 一方、数日の二人旅で幾度も少女の無防備な姿に翻弄され続けていた剣士は即座に目を逸らし被害を最小限にとどめる。

 先達として、あっけなく麦わら娘の虜と化した隣の新参者のような無様は晒せまいと、男はくだらない優越感で内心の動揺を押さえつけた。

 

  ッッ、あ、アンタねぇ…っ!船長ならもっとキリっとしなさいよバカっ!」

 

「え、突然何よナミ?楽しいときは笑ってはしゃぐのが海賊よ?」

 

「ッ、アンタが笑うと心臓に悪いのよっ!!ずっと眉間に皺寄せてなさい!!」

 

「えぇぇ……」

 

 航海士の何ともわかりやすい照れ隠しにゾロの口角は吊り上がる一方。

 

 その挑発気味なニヤケ面がナミの羞恥を膨れ上がらせ、屈辱に怒る少女は思わず目の前の海賊二人に当たり散らしてしまった。

 

 

「だから私は海賊になんかならないって言ってるでしょ!!私はッ!殺してやりたいほどアンタたち海賊が憎いのよっ!!」

 

『!』

 

 

 宴会の愉快な空気が凍りつく。

 

 咄嗟に口を噤めど吐き捨てた言葉は戻らない。

 

 常に人懐こそうな笑みを絶やさない麦わら娘も、意地の悪い笑顔を浮かべていた青年剣士も、新入り美女の突然の憤怒に目を丸くする。

 そして、表情を消し無言で新たな仲間を見つめ続ける船長に代わり、ゾロが言葉を選ぶように女泥棒に話しかけた。

 

「……船長の許可でコイツの船に乗った以上、海賊であろうとなかろうとおれはお前を歓迎する」

 

 謎の情報網を持つ隣の上司はともかく、青年自身はこの女航海士の生い立ちや経歴は何一つとして知らない。

 ボスが一味に加えると決断した以上、それに素直に従うのが模範的な部下というもの。

 決して表には出さないが、ゾロが彼女に抱く強者に対する敬意は崇拝とも言えるほどに強かった。

 

 故に、沈黙を貫く船長に代わって己が出来ることは、怒る新入り少女を宥め一味内の蟠りを無くすこと。

 

「だが別に成り行きでコイツと一緒に旅してるワケじゃねェ。おれもこのバケモノ女の強さを盗むっつー、多少の打算があってここに居る」

 

「…ッ」

 

 続く言葉を予想したナミが小さく息を呑む。

 

「…お前にもあるんだろ?おれや  この異次元のバケモノ女の力を借りたい打算がよ」

 

 ゾロは長年の放浪生活で様々な悲劇を目にして来た。

 

 海賊に襲われ親を失った少年、娘を奪われ売られた夫婦、戦友を亡くし海軍を辞めた酒屋の店主、等など。

 略奪に遭い焼け野原と化した村を見た。

 汚点の排除にスラムに火を放った国の話を聞いた。

 傍若無人な海兵が支配する町で捕らえられた。

 

 そして、目の前の少女を苛む悪夢も、この大海賊時代を彩る無数の悲劇の一つなのだろう。

 

「…ッ、そう…そうよ。あるわ、打算」

 

 しばしの逡巡を経て、復讐者ナミが己の憎悪の原点を僅かに仄めかす。

 

 全てを伝えるほど少女は愚かではない。

 話すのは無名の村と、その村を今尚虐げる忌々しい海の強者の存在。

 

 願うのは()の極悪海賊団から村を買い取る一億ベリーただ一つ。

 

 それは少女の、八年越しの長い、長い、偽りの願いであった。

 

「アンタたちは人数少ないワリにバカみたいに強いから、私のお宝集めに協力して欲しいの。差し出す対価は当面の安全な航海。私はあのクズ共が信用ならないから、少しでも多くのお金を手に入れて村の防備を固めたいの。だから悪いけど、アンタたちの仲間にはなれない。…海賊云々の心情抜きでね」

 

 少女は気付かれぬように臍を噛む。

 

 本当の願いはそのような小さいものではない。

 その願いはあの日からずっと、ずっと求め続けてきた  自分だけの勇者さま。

 

 無力な姫を救い、巨悪を滅ぼす正義の拳だ。

 

(でも…)

 

 だが少女にはその一言を紡げない。

 

 惹かれてしまったのだ、どうしようもなく。

 巨漢に襲われ助けられたときに。夢に煌く夜空の瞳で一味に誘われたときに。華奢な身体を抱きしめたときに。

 無邪気な笑顔で名を呼ばれたときに…

 

(生きてて欲しい…)

 

 気に入ってしまったから、魅了されてしまったからこそ。

 この愛らしい女海賊を、あの憎い海の絶対者たちから遠ざけたいのだ。

 

 諦めるしかない。

 

 航海士の胸中で救いを待ち続ける十歳の少女は、悵然の念に苛まれながら心の闇に返ろうと踵を返し  

 

 

  ねぇナミ」

 

 

   海賊が発した穏やかな音色に身体を震わせた。

 

 咄嗟に声の持ち主へ振り向いたナミは、女船長の変わらぬ愛らしい笑顔を見た。

 

 だがその周囲を覆う空気に無垢な少女のあどけなさは微塵も見当たらない。

 漂うのは背筋が凍るほどの、途轍もない力の塊。

 まるで薄布一枚の裏に幾千もの猛獣の眼光が輝いているかのような、生命本能を掻き立てる畏ろしい気配がそこにあった。

 

 気圧され息も忘れる新入りの航海士に、女の子が言葉の続きを綴る。

 

 清く静かで美しくも、魂に響く重圧感を持った、相反する印象を受ける異様で異質な声だった。

 

 

「私たちは、強いわよ?」

 

 

   瞬間、世界が震えた。

 

 その言葉がナミの心臓を鷲掴む。

 

  ッあ…っ)

 

 何が起こっているのかわからない。

 目の前の人物に名を呼ばれただけで、まるで巨人に取り囲まれているかのような気迫に押し潰されそうになっている。

 人間の10倍の筋力を持つあの忌々しい魚人たちに殺気を飛ばされたときでさえも、これほどの存在感は感じなかった。

 

 ならば、人の子でありながら魚人の殺気すらそよ風のように感じるほどの圧力を放つこの少女は、一体何者だというのか。

 

 その問いの答えを返したのは、人の心を見透かす目の前の“王”の玉音であった。

 

 

   私は、海賊王になる女だもの。

 

 

 心が震える。

 

 満天の星空を詰め込んだその双眸に、ナミは果てしなく巨大で美しい世界を見た気がした。

 

 そこに煌く無数の星々一つ一つがまるで少女自身の抱く夢の輝きのようで、航海士の彼女を導く道しるべのように希望に満ち溢れている。

 

 これが本当に海賊なのか。

 あの、故郷を虐げ金も名誉も命さえも奪っていく海賊共と同じ存在なのか。

 

 ナミは自信を持って否定する。

 この麦わら帽子の少女は、あの連中とは天と地ほどに、全てが違うと。

 

 もし、それほどの存在が“海賊”を自称するのならば、彼女に相応しい称号は  

 

 

「海賊……王」

 

「そうよ。そして、あなたは海賊王の航海士になるの!」

 

 

 “海賊王の航海士”

 

 ああ、何故。

 何故そんなくだらないはずのものが、これほど甘美に聞こえるのだろう。

 

 救いようの無い海のクズ共でさえも、最早語ることさえなくなった古の大望。

 

 それが何故、この少女が口にするだけで、まるで手を伸ばせば届く距離にあるものに思えてしまうのだろう。

 

 

 それは伝説に謳われる、時代を作った海の覇者が、その道中において最も頼りにした者を称えた言葉。

 

 この世の全てを見てきたその英雄は口を噤み、全ての航海士、製図士の夢を夢のままに残した。

 まるで己の“王”が生み出した新たな時代の流れに寄り添うかのように。

 

 ナミは思い出す。

 かつて敬愛して已まない義母ベルメールと共に語った、あの大切な夢を。

 自分は何のために今まで航海術や測量術を学んできたのかを。

 

 あの憎き魚人のためか?ヤツの外道の助けになることか?

 

  違う……!断じて違う!!)

 

 自分だけの大切な夢。

 それは亡きベルメールさんと共に語り合った、神聖な思い出に育まれた大事な大事なものだったはずだ。

 

 “世界地図を作る”という、誰も成し遂げたことのない壮大な夢だったはずなのだ。

 

「…ッ」

 

 少女は手元の海図を握り締める。

 無限に続く偉大なる航路(グランドライン)のごく一部を記した数枚の紙切れ。

 

 だが自分が望むのはその先にある、まだ誰も見たことが無い広大な海の全てである。

 

 描きたい、海図を。

 この世の全ての海を進む、迷える船乗りたちを導く最高の道しるべを。

 

 麦わら帽子を被った女海賊。

 彼女の瞳の中で輝く北極星に導かれるがままに、航海士ナミは己という名の船を委ねる。

 

 その光は船乗りたちの夢を指し示し、偉大なる海の覇者の先導に続く限り、光は彼らの希望を照らし続けてくれる。

 

 迷いは無い。

 沈んでいた彼女の船は“王”の号令により、再び水面へと昇る。

 

 そして航海士の船を出迎えるのは、希望の星々が煌く二つの夜空。

 

 

 星空の名はモンキー・D・ルフィ。

 

 この世の全てには未だ至らぬ、海の若き覇王である。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 そして……まるで最初からそう天に、地に、海に、定められていたかのように、ナミはゆっくりと  

 

 

   己の“王”の手を取った。

 

 

「…とっ、当然お互いを利用し合う関係よ?!勘違いしないでよね、ルフィっ!」

 

  ッむぅぅぅっ!!ナミのバカっ!意地っ張りっ!でも私諦めないもんっ!!」

 

「ったく、しぶてェ女だぜ…!はっはっは!」

 

 

 …もっとも、悔しい彼女はそう素直に恭順を認めてやるわけにはいかないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”航海士”

 

 それは永久に広がる道無き大海原を、磁気と時、そして夜空に輝く星々を頼りに船を導く、夢の水先案内人。

 風を掴み、嵐を避け、羅針盤を片手に人々を陸へと誘う海の上の魔法使いたちだ。

 

 だが航海士も時には迷い、水平線の果てを見通す千里の眼に影が差す。

 

 

 そんな彼らが求める救いは空にある。

 

 それは果て無き宇宙の理が授ける天上の道しるべ。

 迷える航海士に進むべき闇の先を照らすその光の名は『北極星』。

 天の頂に座する不動の空の“王”である。

 

 “王”は数多の船を港へと誘い、那由他の民を大地に導く。

 

 

 航海士ナミはもう迷わない。

 

 時代の、夢の名を冠す海の王  

 

 

   未来の『海賊王』の瞳に輝く夢の北極星(みちしるべ)がある限り。

 

 

 

 

 

 





オリギア集その1:”ギア4・ホーネットガール”


【挿絵表示】


六式を修得したことで肉体の効果的な運用が可能となり、それぞれの奥義に特化した”ギア4”シリーズの一つ。
世界三指に入る異次元のスピードと三次元的な行動、そして武装色の覇気の大部分を両手の指に凝縮した究極の”指銃”で敵を貫くことに特化。
その威力は英雄ガープが迎撃に振るった全力の拳を穿ち、当人に死を覚悟させるほど。
覇気を集中させすぎて常に黒雷が弾ける現象が起きており、非常に目立つ。

技名はルフィ少年の記憶にある女六式使いのカリファのような女スパイ”ジェーン・ドゥ”をイメージした、”ゴムゴムの魔嬢(ジェーン)○○”。
お気に入りは一撃必殺の超”指銃”、”ゴムゴムの魔嬢銃(ジェーンピストル)

全てのギアは10年の修行で子供のうちから己の途轍もない覇気と共に慣れ親しんだため、時間制限・覇気回復反動・準備動作の全てをなくすことに成功している。
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