ルフィちゃん(♀)逆行冒険譚   作:ろぼと

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3万文字は長すぎたので二つに分けます。



15話 オオカミ少年・Ⅵ (挿絵注意)

大海賊時代・22年

東の海(イーストブルー) ゲッコー諸島某島沖

 

 

 

 ゲッコー諸島沖の海上。

 

 牧歌的な村や港町が営まれているのどかなこの海では今、平穏とは真逆に位置する重火器の発砲音が木霊していた。

 

 褐色火薬の白い煙が轟音と共に早朝の海風に乗り、どこまでも漂い続ける。

 落下する鉄の砲弾が大地を揺らし、寝起きの海鳥たちが一足早く自身の双翼で日の出の空へと飛び立った。

 木材が爆ぜる甲高い炸裂音も、大樹が倒れ伏すかの如き地響きも、全てがこのゲッコー諸島沖の海で行われている非日常  海賊同士の戦闘が揺ぎ無い現実であることを訴える。

 

 争う両雄の名は『クロネコ海賊団』、そして『麦わら海賊団』。

 

 その戦いは目の前の島にあるシロップ村を賭けた二つの勢力がぶつかった最初の出来事であった。

 

 

「ま、また…当たっ…た?」

 

 洋上より島の海岸へ向かい二度目の18ポンドカロネード砲実体弾を撃ち放ったのは、敵の先制を突いた一隻のキャラベル船『ゴーイング・メリー号』。

 

 その小型帆船の中央甲板上で新入りの狙撃手の腕前に感嘆しているのは、本人を含めた六人の少年少女たち。

 勇ましい艦砲が轟くこの場に最も相応しくない彼ら彼女らこそ、戦場の双璧の一角にして時代の名を関す海の荒くれ者共の一党、『麦わら海賊団』である。

 

 20キロ近い重量を誇る砲弾を震える手付きで砲口へ詰め込み、書物の見様見真似で火薬を調合する拙い子供の技術。

 だが、その不慣れな準備が齎した結果は、誰もが目を疑う信じられないものであった。

 

 海岸で上がる一筋の煙を望遠鏡で確認した一人の美しい少女が顎を落とさんばかりに驚愕している。

 一味の航海士ナミだ。

 

「嘘……1キロはあるのよ…?近距離用のカロネードで…しかも移動式砲車でロープの固定も適当なのよ…!?」

 

「当然よ!ウソップはこの私の狙撃手なんだからっ!」

 

 女航海士の疑問に満面の笑みで答えたのは、こちらもまた愛らしい相貌を持つ豊満な肢体の女の子。

 大金星を二度も上げた新入り狙撃手の実力を当然と言い切るその少女の名はルフィ。

 この少年少女海賊団の親玉、世にも珍しい女船長である。

 

 驚愕、歓心、歓喜。彼らが思い思いに盛り上がるのも当然。

 何故なら先ほど一味の新規加入の狙撃手が初弾で狙い打ったのは海岸に停泊していた敵海賊船のメインマスト。そして続けて放たれた此度の砲弾が抉った地に佇んでいたのは  二人の首魁、執事クラハドールこと『“百計”のクロ』と『“奇術師”ジャンゴ』であったのだから。

 

「……何なのよこの一味。悪魔の実の能力者に“海賊狩り”、今度は百発百中の名砲手?」

 

『キャプテン、すっご~い!!』

 

 奇襲とアウトレンジのお手本のような一方的展開に一味と人質ちびっ子たちの士気は鰻登り。

 

 そして、敵の親玉に18ポンド砲弾を叩き込んだ張本人、新米狙撃手ウソップ少年は、自身の成果を未だに信じられず目を白黒させていた。

 初めて大砲を触ったド素人でありながらおよそ想像出来る最高の結果を叩き出した己の腕前に、恐怖さえ覚えてしまうほど。

 

 腕前のみならず、自分の中で眠っていた才能に対しても。そしてその才能を一目で見抜いた自分たち『麦わら海賊団』のボスに対しても……

 

「ルフィ……お前って、人を見ただけでソイツの才能を見抜けるのか…?」

 

「そんなの出来るワケないじゃない。ヘンなこと言うわね、ウソップは」

 

「いやおれだってンなワケゃねェって思ってるけどさぁ!」

 

 ウソップは新たに自分の上司となった謎多き少女船長ルフィに自分の疑問をぶつける。

 

 人を惹きつける不思議な魅力を持った麦わら帽子の女の子。

 彼女の人物像を新参の狙撃手の少年は未だに掴みかねていた。

 

 そんな新入りの姿に大笑いしながら、麦わら娘がウソップに向かってそのはち切れんばかりの胸を張る。

 

「私はあなたの船長よ?仲間の力は私が一番良くわかってるんだからっ!」

 

「…ホント、バカなのか凄いのかよくわかんない子ね。アンタは」

 

 呆れながらも小さく微笑むのは、内心未だ一味内での立ち位置を明確に定められていない影多き女泥棒ナミ。

 船長の鑑識眼に半信半疑だった彼女も、相手本人も知らない才能を見抜くその力に舌を巻く。

 

 恐ろしいやら頼もしいやら、そして天真爛漫な無鉄砲バカの意外過ぎる才能がどこか納得がいかない悔しさを感じさせる。

 

 そんな危なっかしくも頼りになる女船長に、ナミは少しずつその心を委ねていく。

 

(……これが終ったら一度ちゃんと話してみよう)

 

 にこやかにウソップの腕を褒め称えるルフィを見つめながら、心の中の幼い少女が八年越しの希望を前に、密かに胸を高鳴らせた。

 

 

「ん…?お、おいルフィ、あのメガネ執事まだ立ってるぞ…っ!」

 

 しばらく己の手と命中跡を交互に見つめていた狙撃手が突然声を上げた。

 

 ウソップの指先に釣られ目を凝らした先に佇んでいたのは、彼の言うとおりの人物。

 

 大砲の一撃を受けてなお健在な敵の船長、メガネ執事もとい『“百計”のクロ』に一味の視線が集中する。自慢の知恵で1600万ベリーもの懸賞金額を無に帰した狡猾な男だ。

 

 島のシロップ村に建つとある富豪の屋敷を、悪名を上げることなく奪うために三年もの年月を準備に費やした百計の男。その計画が狂わせられた簒奪者の額に浮かぶ青筋が、1キロ先の甲板からも見て取れた。

 計画の最も重要な手札であった『“奇術師”ジャンゴ』を潰された彼は怒りに我を忘れ、周囲の味方の海賊たちを手当たり次第に斬りつけている。あれではそう遠くないうちに一味が全滅してしまうだろう。

 

「……お、お怒りみたいですよ、ルフィさま」

 

「ルフィ、アンタのなんか凄い力でアイツ倒せない?このままだとあの執事発狂したまま村を襲いそう…」

 

 暗に…いや、最早直接「お前が何とかしろ」と一味の船長に頼む新人二人。

 両名には近接戦闘行為を行う力はなく、ナミに至っては地団駄の応用で海軍特殊体術“六式”の一つが成功してしまいそうなこと以外はただの非力な女性とそう大差ない身体能力である。不安に思うのも無理は無い。

 

 しかし、一味の期待を一心に集める女船長の顔には拗ねる子供のような表情が浮かんでいた。

 

 原因は続く少女の言葉通り。

 

 

「む…ゾロのバカがいる……」

 

 

 “ゾロ”。

 

 一味の最後の一人にして最古参の青年。『“海賊狩り”のゾロ』の異名を持つ凄腕の剣士である。

 

 敵の『クロネコ海賊団』一党が屯する砂浜を崖の上からふてぶてしく見下ろしているこの男、実は一味の仲間たちに秘密にしている大怪我が腹部にあり、未だ万全の状態ではない。以前女泥棒ナミと出会い、仲間に引き入れたオルガン諸島の“オレンジの町”で戦った、とある大物海賊にやられた傷だ。

 その事実を知る唯一の人物である船長ルフィは、以前この島を訪れる船の中で甲斐甲斐しく彼の怪我を治療していたのだが、どうやら今回の戦闘の後でまた同じ事をするハメになりそうである。

 

 傷の責任の一部が自分にあると考えている麦わら娘は、後ろめたさからあまり強く剣士の主張に反対出来なかった。

 誰よりも強さを渇望し、強敵との戦闘機会を望み頭を垂れた仲間の強い意思。

 覚悟を決めた男の強情さに根負けした彼女は  見ての通り  敵が上陸するあの島に剣士ゾロを一人残して船を出させていた。

 

 本当は仲間の傷が心配で仕方ない。

 だが、仲間の意思を無視することもしたくない。

 

 ルフィは複雑な思いで大切な人の戦いを見守っていた。

 

「……いいのルフィ?あの執事、結構強そうだけど」

 

 そんな麦わら娘の不機嫌そうな、それでいて不安そうな顔を見たナミが軽い助け舟を出す。

 

 だがそれでも少女は素直になれない。

 

「ふんっ!船長の言うコト聞けないゾロなんて知らないもんっ!」

 

「あっそ。じゃあ、あの海賊船をウソップが狙い易い位置までこの船動かすわね」

 

 押してダメなら引いてみろ。

 そんな単純な心理戦でさえ抜群の効果を発揮する相手が、この子供っぽい少女船長である。

 

「ッ、まっ、待ってこれ以上ゾロから離れたらダメっ!」

 

「めっちゃ心配してんじゃないのよっ!もうアイツに任せていいのね?!」

 

 煮え切らない過保護なボスに女航海士が最終確認を行う。

 風の関係上、帆船を同じ海上に留めておくのも決して簡単ではないのだ。

 

 事情を知らされた無学なルフィは、やり場のない憤りを元凶である無茶な剣士にぶつけることにした。

 

「うぅ  ~~~ッッ!ゾロのバカぁっ!危なくなったら今度こそ私が全部終らせるんだからぁーっ!!」

 

 

 そしてその言葉が届いたのか、海岸で睨み合っていた二人の男たちが遂に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大海賊時代・22年

東の海(イーストブルー) ゲッコー諸島某島北海岸

 

 

 

 『麦わら海賊団』の船長である少女の心配を一身に受ける剣士ゾロ。

 男は今、己を高めるための強敵との出会いを求めていた。

 

 シェルズタウンで無様な姿を晒し、オレンジの町でも不覚を取ってしまったゾロは、自分が認めた船長に情けないところを見せてしまった自分自身を許せなかった。

 それは大剣豪を目指す道で暢気にも足踏みしていることに対する憤りだけではなく、己に屈辱を味わわせておきながら、そのどうしようもなく人を惹きつける力で心を奪う彼女に醜態を晒してしまった1人の男の焦燥でもあった。

 

「ハッ、ビビって怖気付くガキの尻蹴ったつもりが、とんでもねェ才能を開花させちまったみてェだな。…やるじゃねェか、ウソップ」

 

 先日、甲板で怖気付く臆病者の少年に発破をかけた剣士が、想像だにしていなかった彼の高い実力に最大級の賛辞を送る。

 

「ッ、おっと…!」

 

 剣士が一味の新参狙撃手の腕前に感嘆の声を上げたその瞬間、彼の首を目掛けて5閃の紫電が走った。

 間一髪で回避し即座に自慢の3本刀を構える。そしてゾロの目に飛び込んで来たのは、憎悪に表情が抜け落ちた煤だらけの執事服を纏う怪物であった。

 

  よくも…よくもやってくれたな。“麦わら”ァ…」

 

 人は怒りが頂点を上回ると、感情を忘れ冷静になるという。

 男はこの瞬間、3年かけて準備してきた計画が全て失敗に終ったことを認めた。奇術師は目を回し、一味は船諸共半壊。そして沖には海軍を騙った盗賊が虎視眈々と隙を窺っている。

 

 最早修正不可能な完全なる計画破綻である。

 

「お前がウソップの言ってたメガネ執事か。よくそんな悪党の臭いプンプンさせて今まで執事の真似事なんか出来たな。簒奪なんか止めて俳優でもやって金稼げばいいんじゃねェのか…?」

 

 ゾロは戦意を高めながら、十指の刃『猫の手』を身に着けた射殺すような眼つきの元執事をじっくりと観察する。

 彼の目からして相手はかなりの使い手。今の弱った自分が決して侮ってよい相手では無い。

 

 対するメガネ執事ことクロも長年の経験で目の前の青年が決して自分に劣る相手ではないことを見抜いていた。

 三年のブランクがあるとはいえ、これほどの殺気が飛び交う地に立てば嫌でも感覚が研ぎ澄まされていく。

 

 風貌からしてコイツがジャンゴの言っていたあの『“海賊狩り”ロロノア・ゾロ』だろう。

 

 自称船長の悪魔の実の能力者も厄介だが、例えあの海軍施設崩壊の荒唐無稽な噂が嘘であろうとも、この男は非常に邪魔だ。

 

 だが、隙が無いわけでは無い。

 

「…お前、その身体…万全じゃねェな?海軍支部ぶった斬ったと聞いてたが、流石に無傷とまでは行かなかったようだな、“海賊狩り”」

 

「……は?おい待て、そっちは冤罪だぞ!…畜生、あのバカ…!てめェのせいで濡れ衣の噂になってんじゃねェか…っ!」

 

 思わず遠方の味方船『ゴーイング・メリー号』の女船長を睨みつける。

 だがその大きな隙を逃す百計の男ではない。

 

  ッ!?」

 

 時間が惜しいと自慢の大技“抜き足”で一気にゾロへ迫り、その首を目掛けて『猫の手』を振るう。

 

 だが男の一撃は甲高い金属音と共に失敗した。

 

「へぇ…やるじゃねェか。アンタもその技知ってるのか」

 

「…コイツの名は“抜き足”。音も立てずに暗殺者の集団さえ何一つ気付かれることなく皆殺しに出来るおれの高速移動技だ。だが遅ェな……3年で腕が鈍ったか…?自分の技とは思えねェ遅さだ、クソが」

 

「何だ、始まって早々負けたときの言い訳か?思った以上の小物だな」

 

「小物はてめェだハーレム剣士!もう一遍死ね!」

 

「だから違ェっつってんだろ!!」

 

 双方の荒々しい剣技が海岸を荒らし砂が舞い上がる。鉄が悲鳴を上げる音が木霊し、クロの『猫の手』が火花を散らしながらゾロに襲い掛かった。

 ただでさえ速くて太刀筋が見え辛い元執事の攻撃が両手10本も迫ってくるのだ。剣士は敵の戦闘スタイルに舌を巻く。

 

(独自の縮地か…?よく見れば“剃”とはまた違うな。速度はアイツの足元にも及ばねェが…無音とは面倒な…)

 

 だが伊達にこの数日間をルフィと共に過ごしたわけではない。

 確かに速いことは速いが、今まで何度もあのバケモノ女船長の技を見てきたおかげか、驚くほどの速さではない。何が起きているのかすらわからない麦わら娘の動きのほうが速度も脅威も圧倒的に上。

 その奇妙な武器のクセに慣れさえすれば効果的に反撃することだって十分に可能だろう。

 

 そして目にも留まらぬ速度で剣士を守勢に立たせているクロ自身もまた、決して余裕があるわけではなかった。

 

(クソが…この短い斬り合いでもうおれの動きに対応してきている。慣れていない今のうちに仕留めるのが無難か…)

 

 相手の驚異的な順応力と成長速度に臍を噛んだクロは時間を敵と定める。

 憎悪に染まるクロは未だ冷静であった。

 

(まだ海軍がうろついてんだ。いつまでもコイツらと遊んでられるワケでもねェ。さっさと終らせて部下共にネズミを殺させねェと…)

 

 『クロネコ海賊団』はこの作戦が終れば用済みだが、最低限の仕事としてあの小賢しい海軍支部大佐は今後ヘンなちょっかいを出されないためにも殺してもらわなければ困るのだ。ヤツさえ死ねばまた屋敷の簒奪を再計画することが出来る。

 

 事実、百計の男はこの計画の最終段階で海軍支部大佐ネズミ共々自身の一味を皆殺しにするつもりである。

 それこそが『“百計”のクロ』との決別であり、令嬢から資産を受け継ぐ“執事クラハドール”となるための最後の一手。

 

 クロが望む豊かで平穏な日常に彼ら『クロネコ海賊団』の居場所は最初からどこにも無い。

 

 だが今はまだ十分に利用価値のある大切な駒である。

 海軍の上陸を阻止するには、海戦で敵の巡回船を沈めるのが最も手っ取り早い。

 それを連中の攻撃で『ベザンブラック号』のマストが折られた以上、再接近すると予想される海軍巡回船との戦いは圧倒的に不利となる。

 

 その最低限すら妨害されたのだ。

 許せるわけが無い。

 

 散々振り回してくれた連中だ。長鼻のガキにはジャンゴとの密談現場を見られ、連中の親玉には余計な騒ぎを起こされた挙句、海軍まで呼ばれてしまった。

 3年の労力を棒に振った全ての元凶に、計画を潰された簒奪者クロの憎悪が襲い掛かる。

 

「海軍もそうだが…てめェらは絶対に生きて帰さん!ここでくたばりやがれ“麦わら海賊団”!!」

 

 

 瞬間、男の姿が消失する。

 

「!?」

 

 速い。

 真っ先にゾロが抱いた感想である。

 

 “剃”特有の風切り音も無く、クロの“抜き足”が一瞬で男を剣士の懐まで運び込む。

 

 咄嗟に脇腹の怪我を庇い後ろへ飛び退いたゾロの腕から熱い血潮が噴出した。

 猛獣の鉤爪に切り裂かれたかのような傷が剣士の動きを硬直させる。

 

 当然その隙をクロは見逃さない。

 先ほどの“海賊狩り”の、らしくない無計画な動きにある仮説を立てた元執事は再度男の脇腹を狙う。

 

「ッ、させるかよっ!」

 

「……やはりな。その腹巻の下にあるのがお前のご大層な噂の代償か…!」

 

「だから噂は身に覚えがねェっつってるだろ…っ!!」

 

 全盛期の感覚を取り戻しつつあるのだろうか。殺気を強めた執事の速度が跳ね上がった。

 船長の“剃”を見慣れていなければ今の一撃でやられていたかもしれない。

 

 このままでは速度の差で押し負ける。

 速さとはほぼ全ての戦闘において場の主導権を握る重要な戦術的要素。特別な能力や技術を持たない今の剣士にクロの“抜き足”を超える手段はない。

 

 たった一つを除いて。

 

「クソッ…!“剃”   ッぐっ!?」

 

「!?」

 

 戦場の高揚感に身を任せ思い切り大地を蹴ったゾロ。だが最後に縋ったその技も、多少の加速以上の効果は現れない。

 

 勢いを制御しきれず大きくバランスを崩し転倒する“海賊狩り”。その無様な姿に執事の口から失笑が漏れる。

 

「ハッ、何だそれは…?咄嗟の猿真似に頼るしかないとは、呆れてものも言えねェな」

 

 勝手に崖に激突し、打ち付けたのか頭を抑える剣士をクロは嗤う。

 多少はマトモな動きになったが、男には自身の速度を操る技術も筋力も不足している。おまけに風圧対策や軌道変更の足捌きも雑そのもの。

 無駄の多い、目を覆いたくなるほど拙い移動術だ。

 

「“剃”とか言ったな、醜い技だ。歩数を増やし加速しようという魂胆なんだろうが、そんなもの力任せに地面を蹴ってるだけだ。方向転換するのにも態々踏ん張って一度止まらなければならない。何より空気抵抗を全く考慮してないせいで砲弾でも飛んでるようにひゅんひゅん五月蝿ェんだよ。移動時も地団駄踏んでる振動で居場所が簡単にバレる、筋力さえあれば無能でも使える超人お遊びのようなものだな。おれの“抜き足”の劣化とすら呼べねェ紛い物未満の技だ」

 

 クロの優れた観察眼が剣士の高速移動術の分析を一瞬で終らせる。

 長い年月をかけ磨き上げた己の“抜き足”に絶対の自信を持つ男には、汎用性と単純性を突き詰め体系化された海軍の特殊体術は、安直な速度だけを求めた見るに耐えない幼稚なものに思えた。

 そして同時に、幼稚でありながらこの自分に届きうる速さを齎すその技に、執事は自身のプライドを汚されたかのような焦りの含む不快感を覚える。

 

「……目障りだ、さっさと死ね…!」

 

「くっ…“剃”!!」

 

 一瞬で距離を詰められ、ゾロは必死に技を駆使する。

 凄まじい風圧と揺らぐ視界の中で何とか自身の居場所を把握し、思い切り足を踏み付け速度を殺す。

 

(堪えろ!)

 

 腹部の傷も厭わず、身体中の筋肉を総動員したおかげか剣士の両脚が大地にめり込み制止した。

 バギー戦で行使したものとは雲泥の差。それでもかつての戦い以来となる初めての成功に、ゾロは隠し切れない安堵と喜びの感情を顔に浮かべる。

 

 ようやく、船長の期待に一つ応えることが出来た。

 

 

 だが  

 

「だから……音と振動でバレバレだって  

 

「な、しまっ…!?」

 

 剣士のそれは間違いなく、その“抜き足”の使い手が苛立つほどの気の緩みであった。

 

  言ってんだろ“紛い物”ォォォッ!!」

 

「ッ、“剃”!!」

 

 執事と剣士の俊足移動が拮抗する。

 

 僅かな残像を残し、遠方の浜で巻き上がった砂埃の中から現れたのは、両手の刀で執事の左右十刃の“猫の手”を受け止めた剣士の姿。

 

 そして、クロは身を以って知ることとなる。

 男の持つ、“海賊狩り”とは異なる、もう一つの異名の真の意味に。

 

「バ…カなっ…!!?」

 

「てめェは速度だけで、ただ長い爪を振り回してるだけなんだよ、執事野郎  

 

 速度に翻弄されていた剣士であったが、その差さえ詰めれば残る勝負は武器に練達する互いの技量に委ねられる。

 そして男は、その卓越した実力で称えられる優れた剣士『“海賊狩り”のゾロ』。

 

 

  おれは、“三刀流”のゾロだぜ?」

 

 

 海岸で目にも留まらぬ速さで交差した両者。

 その結果は意外にも、これまで守勢に立たされていた未来の大剣豪を夢見る剣士、ロロノア・ゾロが誇る約束の太刀『和道一文字』で、百計の男の左肩を袈裟斬りにした光景であった。

 

 仕立ての良い純白の襯衣(しんい)が朱に染まる。かなり深くまで斬られた傷だ。

 いつ以来かわからない明確な痛みを覚えた執事は唖然と立ち尽くす。

 

 ありえない。

 ありえてはならない。

 

 

「グッ……ッソがァァァッ!!」

 

「!!」

 

 爆風。

 そう形容出来るほどの強烈な闘気が男から放たれた。

 

 周囲を震え上がらせる殺意に満ちた怒声がゾロの心を怯ませる。

 

 

 そしてその直後、執事の身体の力と共に、放たれていた気迫が異様なほど全て掻き消えた。

 

 まるで幻だったかのように全てが静まり返った海岸に残されたのは、両肩の力を抜きゆらりと揺れる隙だらけな男の姿。

 常に油断なく指先の鋭利な刃を構えていた強敵らしからぬその無防備な様子は、まさに止めを刺す絶好の勝機。

 

 だが、ゾロの本能は突然巡ってきた千載一遇の機会に、一切の手を動かせなかった。

 

 あれはヤバい。

 気力が感じない男の佇まいに、“海賊狩り”は己の知覚を超えた恐ろしい何かを感じていた。

 

 

「……もう…もう沢山だ」

 

「…ッ!」

 

 糸に繋がれた操り人形のようにフラ付く執事の口から、底冷えのするほどの悪意に満ちた声が零れる。

 

 相手を殺す。

 たった一つの意思に染まったその闇の瞳がレンズを通し凶暴な光を放っていた。

 

 

「もう、死ね  

 

「!!?」

 

 執事の口からその言葉が紡がれた直後、ゾロの真横の岩肌が五つの深い爪跡を残し抉られた。

 

 一拍遅れ、剣士の脳が男の行動を分析する。

 それはまさに一瞬の出来事であった。

 

(くっ、速い…!どこだ、どこに消えた!?)

 

 剣士は己の感覚を最大限研ぎ澄ませ、自身の周囲を取り巻く惨劇の下手人の姿を探す。

 

 知覚出来ない速さではない。

 

 だがその速度を存分に使ったある特徴が、ゾロに二の足を踏ませていた。

 “海賊狩り”ほどの男に動くことさえ躊躇わせるその執事の動きは、“形振り構わず相手を殺す”という至上命題を成し遂げるために最も適した行動であった。

 

 

 その技の名は、”杓死”(しゃくし)

 

 敵も味方もなく、ただその飛び抜けた速さに己の身体を委ね手当たり次第に斬り付ける、無差別全体攻撃である。

 岩が、崖が、大地が、大気さえもが不可視の斬撃に切り裂かれ、耳を抉るほどの悲鳴を上げていた。

 

 ゾロは短い時間でこの敵の技の妙に気が付く。

 

(規則性も、意思さえも感じない…!コイツ、まさか自分が何を斬ってるのかすらわかってねェほど限界まで速く動いてるのか…!?)

 

 そしてその事実に気付いた直後。

 剣士は右足に鋭痛が走るのを感じた。

 

「くっ  ッがぁっ!?」

 

 咄嗟に飛び退いた“海賊狩り”。

 だがそれは愚策であった。不運にも降り立った先にあったのは、超速の速さで振るわれた敵の五本刃の“猫の手”。

 幾つもの異物が胸部を走り抜け、追うように燃えるような痛みが襲う。肋骨を切り裂き、肺に流れ込んだ血が生理反応によって咳と共に口や鼻から吐き出された。咥える自慢の大業物を彩る美しい柄巻が吐血で赤黒く染まっていく。

 

 

 そして、ゾロは小さな女の悲鳴が耳に届いた気がした。

 

 

   ドクン…

 

 

 その瞬間、男の見る世界が停止した。

 

 否、停止ではない。

 まるでこの世の全てが海に沈んだかのように鈍化したのである。

 

 怪我と毒に荒んだ肉体を燃え盛る灼熱の炎が巡り、遠のく耳が、白む目が、鈍る鼻が、舌が、肌が、直感が、異様なまでに冴え渡る。

 

 全てが別の高次元へと至る、強者のみに許された超感覚。

 そして、わけがわからずに困惑する男の瞳が、時の狭間のような世界の中で、不規則に飛び散る鮮血を捉えた。

 

 宙に舞う赤。

 その色を目にした剣士は突如、鮮やかな絵画を刷毛で汚すかのように塗り走る、醜い“黒”色を見た。

 

 

  見つけたぜ、クロ…!!」

 

 確信と同時。ゾロは唐突に湧き上がった全能感に動揺する己を抑え、無粋な色の塊に向かい三振りの刀を全力で振るった。

 

 

 “三刀流・鬼斬(おにぎ)り”。

 

 敵を六つに切り裂く剣士の最高奥義の一つ。先日の“オレンジの町”にて戦った強敵『”道化”のバギー』の逃げる背中へ振るおうとした切り札たる三太刀だ。

 

 獲物を失ったかつての大技が今、速度自慢の異なる強敵へと放たれる。

 鈍化した世界で捉えきった、『“百計”のクロ』に迫る豪速の“剃”と共に。

 

 

 しかし  

 

 

()()鬼斬(おにぎ)  ッッなんだっ!?」

 

「!?」

 

 

   剣士の必殺の一撃が振るわれる瞬間、飛翔音と共に突然真上の崖が崩落した。

 

 頭上へと降り注ぐ大量の岩石砂に紛れていたのは、燃える木片と真っ黒の爆煙。

 先ほど一味の新入りが見せた大戦果を知るゾロにその正体がわからないはずが無い。

 

 砲撃。

 

 慌てて振り向いた先の水面に浮かんでいたのは、三隻の帆船。

 一隻は仲間が乗る『ゴーイング・メリー号』。一隻は目の前の敵が有する『ベザンブラック号』。

 

 そして、双方の奥に、一隻の船が複数の硝煙を風に漂わせていた。

 その帆柱の頂点で勇ましくはためいてるのは、白地に羽ばたく一羽の蒼いカモメ。

 

 無辜な民に希望を与える、正義の御旗である。

 

 

  海軍船!?何で連中がこんなとこに…!?」

 

「……チッ、このクソ面倒なときに…っ!!」

 

 場にあまりにもそぐわない異質な轟音に正気に戻った執事が憤怒の表情で海を一瞥し、剣士と共に固まった。

 これ以上状況も悪化しまいと高を括っていた自身を更なる混沌へと突き落とす理不尽な乱入者に、クロの憎悪は天上知らずに跳ね上がる。

 

 だが、優先順位を間違えてはいけない。

 

 計画を再考するために最も邪魔な存在は目の前の死に損ないの剣士ではなく、男の憎悪が今最も昂る相手。

 悪徳海軍支部大佐『“灰色”のネズミ』なのだから。

 

「おいジャンゴ!いつまで寝てるんだ!さっさと船の出航準備整えろ!アレを沈めるのが先だ!」

 

「……ッ、気付いてたのか…!?」

 

 地面に這い蹲り死んだフリをしていた足手纏いの腹部へ執事の革靴が深くめり込む。

 上司たる己が厄介な敵と戦っている最中、この催眠術師は専門外だと言わんばかりにノンビリと剣士ゾロとの戦いを観戦していたのだ。斬り殺したい衝動に駆られるが、コイツにはまだ使い道がいくつもある。

 

 そんなボスの冷酷な命令に、沖のキャラベル船の砲撃で満身創痍の『“奇術師”ジャンゴ』は必死に抵抗する。

 

「ゲホッ、ガホッ……っ!……まっ、待てよクロ…!『ベザンブラック号』もメインマストがヤられて速力に不安がある…!オマケに船員も負傷してるし、これ以上は  

 

「黙れ無能が!村一つ満足に襲えねェお前らの使い道なんざ、もうあの姑息なネズミ野郎の下までおれを連れていってから死ぬことくらいだ!グズグズするなァァッ!!」

 

 その言葉に決闘の最中であったゾロが反応する。

 

 村の富豪令嬢カヤが、海賊『麦わらの一味』に連れ去られた友人を救うために振るった勇気を知らぬ剣士は、唐突に現れた海軍艦船にわけがわからず混乱していた。

 だが平然とこちらに対する戦意を捨て去った強敵クロの変わり身の早さに、剣士は強い不満を抱く。

 

  “おれを連れて行ってから”…だと?お前、まさか逃げるのか…!?」

 

「時間切れだ。見りゃわかるだろ、バカか?海軍ってのは海賊含む反政府勢力の命も宝も平穏も何もかも奪って行く海賊以下の盗人だ。後でどうとでもなるてめェら海賊より、殺す優先順位が遥かに上なんだよ、“海賊狩り”。この決着はまた後だ…!」

 

 執事の冷ややかな態度に、男は驚愕と怒りに殺気立つ。

 

 思い返されるのは先日の“オレンジの町”で戦った剣士殺しの大物海賊との二戦。

 何れも敵の逃亡という過程を経て、ゾロの勝敗にケチを付ける形で終了した戦いだ。

 

 あの姑息なクソピエロに続いて此度の相手までもが途中で戦闘を放棄しようとする現実に、未来の大剣豪の憤怒が爆発した。

 

「ふざけんな、てめェ!海軍なんて後にしろ!逃げてねェでおれと戦えっ!!」

 

「ふん、そんなに戦いたいならソコのゴミ共の処分でもしてろ。行くぞジャンゴ!てめェにはまだ仕事が残ってんだ!!」

 

「なっ、待ちやがれ臆病者!!」

 

 配下の戦闘員たちを指差し、振り返りもせずに悠々と船へと戻る敵の首魁。

 あまりに度し難い結末に、ゾロが怒りに身を任せその隙だらけな背に飛び掛る。

 

 だが刀を振るおうとしたその直後、剣士は咄嗟に己の直感に従い自身の左側面へ庇うように武器を構えた。

 

「なっ!?」

 

 すると間髪居れずに甲高い音が響き渡り、男の両腕に凄まじい衝撃が走った。

 勢いに吹き飛ばされ転がるゾロは再度、自身の左の脇腹へ振るわれた一筋の紫電を感知する。

 

 すぐさま体勢を立て直した剣士は  乱入してきた二人の敵の姿をその目で捉えた。

 

 

「……たまには役に立つじゃねェか、ジャンゴ。おれでも手を焼く最大強化済みの“ニャーバン・兄弟(ブラザーズ)”を投入するとは」

 

「こ、これで時間は稼げる…!  頼むクロ、他の戦闘員たちも船に乗せてくれ!今のままじゃ海軍とコイツら同時に相手にするだけの人員が足りねェんだ…!!」

 

 そんな敵のトップ同士の会話が微かに剣士の耳に届く。

 どうやら目の前の男たちは“ニャーバン・兄弟(ブラザーズ)”という、連中の切り札的存在らしい。

 

『う…ウグゥゥゥゥ…ッ!!』

 

「…チッ、狂った化け猫か…!不躾な邪魔者が…っ!!」

 

 まるで理性を感じられない細身の男と肥満の巨漢がゾロの行く手を阻む。

 実に不愉快な状況。剣士は苛立ちを隠しもせずに正面から敵を粉砕しに突撃した。

 

 だが流石は1600万ベリーの賞金首が期待する殿二人。そう容易く“海賊狩り”を通さない。

 

「ぐっ……コイツら…っ!狂ってるクセに執拗にあの赤っ鼻の傷ばっか狙って来やがって…っ!!」

 

『ニ゛ヤァァァァッ!!』

 

 理性は飛んでも知性は健在。おまけにいやらしい騙まし討ちを多用する姑息な細身男と、その巨体にそぐわぬ俊敏な巨漢の優れたコンビネーションが、少しずつゾロの余裕を奪って行く。

 

 突然、背を庇いに振るった刀の柄に何かの液体が投げ掛けられ、勢い余った剣士は握る右手を誤って滑らせてしまう。

 慌てて振り向いた先で目にしたのは、潤滑油と思しき高価そうな瓶を握る細身の男の姿。

 狂気に侵された男の白い目がまるでこちらを嘲笑っているかのように細まっていた。

 

 そして直後、手放した右手の刀をいつの間にか握っていた背後の巨漢が凄まじい速さでゾロへと迫る。

 

「このっ…!二刀流 ()()()()!!」

 

 交差させた残り二振りの刀で強固な盾を作り、攻撃を防ぐ。

 

 技量は連中のボスに比べれば大したことはない。

 だが催眠術で超強化されたその驚異的な身体能力は、純粋な“強さ”として二人を隙の無い手強い敵たらしめていた。

 

 ゾロは焦る。

 既に執事は奇術師と共に海賊船の中へ消えており、微かに風に乗って届くのは船内から発せられる多数の男たちの慌しい声。このままでは間違いなく船は出港し、敵を逃してしまう。

 そして剣士が戦うこの“ニャーバン・兄弟(ブラザーズ)”もまた、男の焦燥を駆り立てる要因の一つ。絶妙な二対一の状況に四方八方から繰り出される磨き上げられた十指の鋼の鋭爪が執拗にゾロの脇腹の怪我を狙うのだ。

 

(くそっ……!アイツを泣かして…アイツに治療させちまった傷だぞ…!?こんな下っ端程度に何やられそうになってんだ、おれ…っ!)

 

 忘れもしない、守ると誓った大切な少女の涙が鮮明に瞼の裏に浮かび上がる。

 己の神聖な野望を突き進む二つ目の理由となった、自責の念に沈む彼女の沈痛な表情。

 

   二度とあんな顔をさせて堪るものか。

 

 剣士の悔いるような願い。

 単純にして明快なその願いを叶え続けるには、強さが必要だ。

 “最強”という、揺ぎ無い強さが。

 

 足りない。

 

 形容し難い、それでいてどこかで感じた記憶のある燃え盛る劫火の熱が、何かを欲するように剣士の体の奥で燻り続ける。

 

 足りない、この程度では。

 

 刀を振るう度に積もる屈辱が、自覚させられる己の弱さが、脳裏の少女の涙を止めなく溢れさせる。

 

 戦術も何もあったものでは無い。男の心の揺らぎが、最早どちらが狂人かわからぬほどに杜撰で短絡的な攻撃となって殿の敵二人に向かう。

 

 だが、その自滅とも言える青年の動揺を見逃す敵、『“ニャーバン・兄弟(ブラザーズ)”のシャム』ではない。

 

「ッ!?しまっ  

 

「キシャアアアッ!!」

 

 見え透いた単調な刀を難なく避けた細身の男が一気にゾロの懐へ入り込む。

 慌てて後ろへ飛び退こうとするも、下がる先には敵の相方『“ニャーバン・兄弟(ブラザーズ)”のブチ』がその巨体を一瞬で剣士の背へと周りこませていた。

 

 前後共に隙だらけ。

 盛大に体勢を崩したゾロに『クロネコ海賊団』の切り札たる船守の猫兄弟の完璧な同時攻撃が勢いよく迫る。

 

 まただ、またアイツの目の前で無様を晒してしまう。

 

 屈辱、後悔、自己嫌悪、そして絶望。

 怪我だの毒だの連戦の消耗だの、そのような言い訳すら思いつかないほどに、剣士は己の心身双方の弱さに絶望していた。

 

 終る。

 そう何かを手放した男の耳を、その何かを救い上げる悲痛に満ちた叫び声が貫いた。

 

 

「ゾロおおお  っ!!」

 

 

 凄まじい風切り音と共に、自身の悲鳴を置き去りにする速度で一人の少女が剣士の視界に飛び込んで来た。

 

 そして、凄愴に歪んだその愛らしい顔の目元から零れる大粒の煌石が  

 

 

 

  手を出すなルフィィィッッ!!!」

 

 

 

   男の闘志の劫火の最後の燃料となって身体中に蠢く“何か”を爆発させた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 





オリ技(ゾロ編)

【二刀流 金部四面(こぶじめ)
防御技。
刀を交差し四隅の十字盾を作る。それだけ
名前は”金剛天部”と”四隅四面”から。”昆布〆”

【三刀流 紫剃(しそ)鬼斬(おにぎ)り】
攻撃技。
”剃”で加速し放つ”鬼斬り”。
バギーのときに使うつもりで構えた技だが、船長に「逃亡する相手を攻撃するな」と言われ自重した。なおその逃亡する相手をボコボコにしたのも船長である。
クロ戦でも不発に終った、オリ技のクセに未だ失敗ばかりの不憫技。活躍は後半までお待ちを。
名前は”紫電”と”剃”から。”紫蘇おにぎり”

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