ルフィちゃん(♀)逆行冒険譚   作:ろぼと

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スタンピード視てモチベ戻らないファンとかいないんだよなあ…



注:過去に更新した王下七武海編を全体的に少し修正しました(9/12


33話 王下七武海・Ⅸ(2/2)

 

 

 

大海賊時代・22年

東の海(イーストブルー) 某所『ゴーイング・メリー号』

 

 

 

「“英雄”ガープ……!」

 

 氷の大渓谷を疾走するキャラベル船の甲板に、その誉れ高き豪傑は現れた。この世全てに轟く偉大な海兵の名を、こと男の故郷たる東の海(イーストブルー)では幼子から老人まで知らぬ者はいない。

 だが海賊へと堕ちた『麦わら海賊団』の面々にとって、かつて伝え聞いた心躍る“海軍の英雄”の伝説は真逆の意味を持つ。それはまさに、登場する脱兎の悪役たちが抱いた通りの、絶望の代名詞であった。

 

「ど、どっちだ…?」

 

 千切れそうなほどの緊張感の中、誰かが縋るように尋ねる。奇しくも彼らの船長は自らをこの英雄の孫娘だと言うが、正義を是とする立場ある海軍将校が身内の不祥事を見逃すはずもなし。修羅の如き気迫を帯びた化け物を前に、威勢の良い荒くれ者共も腰が引け、身動きひとつ取れずにいた。

 そんな怯える一味の仲間たちを背に、船長の海賊少女が老将へその問を投げかける。

 

「ちょっとおじいちゃん、ソコ邪魔よ! 味方してくれるの? 敵ならぶっ飛ばして無理やり進んでやるわっ!」

 

「なっ、おいルフィ!?」

 

 身内への甘えか、純粋な実力か。あの伝説の海兵を苛立ち混じりの不遜な態度で挑発する女船長、モンキー・D・ルフィに海賊たちが慌てふためく。

 

 逃げる“麦わら”、追う“鷹の目”、そして新たに現れた“海軍の英雄”。三つ巴の緊張は、されど最後の登場人物の予想外で、ある意味必然の行動にあっけなく崩壊した。

 

 

  うおおおおんルフィちゃあああん!!」

 

「ッきゃあ!?」

 

『うわっ、こっち来た!?』

 

 まさに電光石火。成り行きを注視する『麦わら海賊団』の目の前で、情けない号泣顔のヒゲ爺が瞬間移動し、愛して止まない孫娘を腕の中に抱きしめていた。

 

「怪我は!? 嫁入り前の大切な乙女の素肌を汚されておらんか!? すぐにわしの船医に   いや男にルフィちゃんの身体を診せて堪るか! …よし、久々にじいちゃん自ら治療してやろう! さあ、おいでールフィちゃあーん!」

 

「えーっ、ヤダ! おじいちゃんお髭ジョリジョリしてて嫌い!」

 

「はぅあッッ!?」

 

 あまりに突然の出来事であった。船長を守らんと意気込んでいたはずのクルーたちが指一本動かせない刹那の間に、孫娘の身を案じる祖父と嫌がる思春期娘という場違いなまでに平和な家族の日常が繰り広げられていたのである。

 

「もうっ…! ちゃんと栄養たっぷりのお料理食べたら、手足を斬り落とされたりしない限りすぐに治るの修行中に何度も見てたでしょう! どさくさに紛れて抱き着くの止めてっ!」

 

「んなっ!? わ、わしはただルフィちゃんのことが心配で   

 

「心配無用、よっ! 私ももう大人の女の人になったんだから自分のコトくらい自分で出来るわ。仲間たちもいるし、子供扱いしないでっ!」

 

「ガーン!」

 

 如何な英雄と言えども人は人、やはりどこの祖父も孫娘には弱いらしい。ゾロたちは少女の拒絶に顎を甲板まで垂らし硬直する“英雄ガープ”の情けない姿を見つめながら、先ほどの緊迫感が嘘のように霧散するのを呆けた頭で感じていた。

 とは言え、事態は歓迎すべき。この爺バカの英雄が味方ならばいかなる敵が相手でも逃げられるだろう。

 

 そんな緩んだ空気が広がり始めた、その最中。背後から凍り付くような男声が投げ掛けられた。

 

 

   だからよォ……逃がさねぇっていっただろ、お嬢ちゃん」

 

『!!?』

 

 一同が振り向いた直後、一味の海賊船『ゴーイング・メリー号』にかつてないほどの脅威が襲い掛かった。

 

 

「“アイス(ブロック)両棘矛(パルチザン)”!!」

 

「“つっぱり圧力(パッド)砲”!!」

 

「“虜の矢(スレイブアロー)”!!」

 

 

 三つの破壊の暴風。氷の槍が、炸裂する空気弾が、万物を石へと帰す即死の矢が。世界政府の命により集ったこの世の頂点たちが繰り出す必殺の大技が一つとなり、標的“麦わらのルフィ”へ目掛け放たれる。

 攻撃の元を辿り、目に映るのは海軍本部ガープ部隊の旗艦と、『九蛇海賊団』の戎克(ジャンク)船。撒いたはずの強敵たちによる恐るべき追撃戦の再開だ。

 

『うわあああっ!!』

 

「げっ、“くま”までいる! やっぱり三人目の七武海ってあの人だったのね、面倒だわ…!」

 

 敵主力の三名  王下七武海「“暴君”バーソロミュー・くま」、同上「“海賊女帝”ボア・ハンコック」、そして成り行きで陣借している海軍大将「“青雉”クザン」。政府に忠実として知られるくまに、先時小娘に惨敗し雪辱の機会に燃えるハンコック、立場ある海軍将校の最上位に準ずるクザンはそれぞれ相応の士気で標的の海賊「“麦わら”モンキー・D・ルフィ」を追っていた。

 

「うおおォォッ、ルフィちゃんとナミさんはおれが守るゥゥッ!    “パーティテーブル・キックコース”!!」

 

「砲弾以外は私に任せて、あの三人の攻撃に触れたら酷いことになるわ!    “飛ぶ指銃・(ばち)”!!」

 

 いずれも零細新星(ルーキー)海賊たちにはひとたまりもない空前絶後の殺戮弾幕へ、ルフィと新戦力のサンジは気丈に挑む。

 だが、苦戦は免れないはずの敵の攻撃が、どうもおかしい。

 

「なっ、邪魔をするな男共! そなたらのせいでわらわの矢が暴発しておるではないか!」

 

「邪魔はお前だ“海賊女帝”。今までおれの両手を石化で封じておきながら、今度はおれの攻撃を妨害する気か?」

 

「ったく、お前らの攻撃どっちもクセが強過ぎるんだよ…! おれの“両棘矛(パルチザン)”がボロボロじゃねェか」

 

 遠ざかる『麦わらの一味』より500メートルの戦闘区域。逃走を図る敵船を死に物狂いで追い駆ける二隻の巨船の甲板は、一触即発の空気に包まれていた。

 如何に同じ敵と戦っていようと、異なる海賊団が、何より海賊と海軍がそう容易く力を合わせられるはずもない。足並み揃わぬ攻撃は互いに衝突し削り合い、ルフィたちはメリー号に届く僅かな数を難なく凌ぐ。

 

「…何だ、敵の攻撃が途中で自滅してるぞ?」

 

「あははっ、バッカみたい。海軍が海賊なんかと組むからそうなんのよ! ルフィー! サンジくーん! そのまま全部迎撃しちゃいなさーい!」

 

「な、なんか知んねェけど、これってもしかしてチャンス到来? …よ、よーし。ここはいっちょキャプテン・ウソップさまの華麗な砲撃でリベンジと行こうじゃねーかっ…!」

 

「おおっ!!」

 

 身の安全が保障されるのであれば、後はこの男の独壇場。いつものお調子者が目を覚まし、狙撃手ウソップが大きくなった気に身を任せて百発百中のカルヴァリン砲へ点火棒を突き立てた。

 狙う先が海軍ではなく隣の女ばかりの比較的弱そうに見える海賊船の方なのが、理想の勇ましい自分になり切れない彼の限界か。それでも少年が放った虎の子18ポンド榴弾は狙い通りに見事命中し   不幸にも最高の戦果を挙げてしまった。

 

『あっ…』

 

 炸裂した榴弾の爆炎が晴れ、現れたのは一人の女。眩い美貌が煤に塗れ、風に流れる絹織物のような黒髪を鳥の巣にした絶世の美女。

 九蛇海賊団船長“海賊女帝”ボア・ハンコックがそこにいた。

 

 隣の海軍大将の冷気より冷たい沈黙が海域全てを支配し、俯き影で隠れた皇帝陛下のただならぬ気配に皆が息を呑む。そしてブチッ!と何かが千切れる音が辺りに木霊した瞬間、地獄の窯の底から響いて来たような低い怨嗟の声が端正な唇より吐き捨てられた。

 

 

   雑兵共が……誰を虚仮にしたのか、その魂に我が覇気を直接刻み込んでくれるッッ!!」

 

 

 直後、ハンコックが目にも留まらぬ速さで天を駆けた。飛び交う砲弾や氷片、果てには大気すら足場とし、宙へ舞い上がった美女は眼下の小さな海賊船を視界に納め   そして凄まじい暴風を解き放った。

 

『!!?』

 

 周囲の大気がビリビリと振動し、メリー号に乗る新米海賊たちは体中を巨人にぶん殴られたかのような衝撃を受ける。

 

 彼ら彼女らはこの感覚を知っている。自らの“王”が持つ、天に選ばれし者たちの力。覇王色の覇気だ。

 

 腰が抜け、体が震え、視界が白む新米海賊たち。一同はあの失墜する岩の積乱雲の上での恐怖を、ようやく思い出した。ああ、おれたちはあんな化け物にケンカを売ってしまったのか、と。

 

 だが一味でただ一人、微動だにせず覇王の威圧と相対する少女船長は、突き付けられた挑戦状に口角を吊り上げていた。

 

「ふふん、私と“王の素質”を争うっての? だったら見せてあげるわ   

 

 

    この“未来の海賊王”の、王の格をっ!

 

 

 それは、まるで彼女を中心に世界そのものが爆発したかのような現象だった。

 ズドンッ!と少女の体から不可視の巨壁が解き放たれ、女帝の“王気”を向かい打つ。覇王色同士の鍔迫り合いで凶悪な黒雷が爆ぜ散る中、有象無象は二人の海の女王の圧倒的な存在感に耐え兼ねるかの如く意識を飛ばし、強者の目には島一つ覆うほどの巨大な緋球が頭上の桃球の覇気の塊を圧し潰さんとする幻影が映っていた。

 その力は遠く離れた海軍艦と七武海の海賊船さえも蹂躙し、二隻の甲板は死屍累々の地獄絵図へと変わり果てる。

 

「ッ、バケモンかよ…!」

 

「資料にあったが、まさかこれほどとはな。…流石はあの人の娘だ」

 

 思わず幻視してしまうほど強固な“王”の領域内に佇むクザンの喘ぐような一言は、この場で健在な選ばれし覇者全ての心中を代弁する言葉。ある者は敵の恐るべき力に震え、またある者は身内の誇らしさに胸を張る。まさに時代の申し子の呼名に相応しい、少女の桁外れな気迫に皆が呑まれていた。

 

 そんな中、船長の護りで惨事を逃れたナミがはたと我に返り声を張り上げる。

 

   み、見てルフィ! 敵の船速(あし)が止まった…!」

 

「よぉし、今の内に全速前進っ! このまま振り切るわよ!」

 

『おおーっ!』

 

 指差す先には荒れる波間に消えて行くカモメと蛇輪の旗姿。敵船とメリー号、彼我の距離はようやく埋め難い差に開いていた。

 

「チィッ、何という威圧範囲じゃ   って、そなたら何を青褪めておる! “九蛇”の戦士がわらわ以外の覇王色に怖気付くなどありえぬっ、さっさと立たぬかッ!」

 

「ッ! も、申し訳ございません蛇姫様!」

 

「…将を射んとする者はまず馬を射よ。船を動かす船員を潰しにかかったか、これはしてやられたな…」

 

「おのれェ、動けぬならそこを退け海軍ッ! 逃がさぬ、逃がさぬぞ小娘ェェッ!」

 

 “麦わら”のとてつもない覇気も、冷静に状況を分析するくまの余裕も、焦燥に地団太を踏む“海賊女帝”の怒張声も、全てがクザンの怒りを逆撫でする。元より協力という発想があれば海賊になど落ちぶれない強者たち。好き勝手に暴れる野蛮人共に業を煮やし、海軍大将は頼れるはずの四人目の味方へ苛立たしげに呼び掛けた。

 

「はぁ、海賊と共闘すると毎度碌なことにならねェ…   ガープさん! そろそろ遊んでないで協力してくださいよ!」

 

「クザン大将。ルフィちゃんのことになるとウチのボスの我儘度は乳児以下になるので何を言っても無駄です」

 

「クソジジイ!!」

 

 しかし老将と長い付き合いの副官、ボガードの言葉を実によく理解出来てしまったクザンは、著しくない戦局を俯瞰し天を仰いだ。

 

 世界政府が今回の作戦に投入した戦力は国家規模を超え、虎の子の“王下七武海”三名までもが加わっている。しかし蓋を開ければ味方の協調性の無さと、海王類の襲撃など様々なトラブルに苛まれ目を覆わんばかりの事態に。海軍大将たる自分と“英雄ガープ”までも急遽援軍として参陣しておきながら「成果無し」で終わるなど、世界政府史上有数の面目丸潰れの汚点となってしまう。

 そのような大失態を犯せるほど海軍大将“青雉”の名は軽くない。

 

「…ったく、まあ身内の失態の沙汰は五老星(うえ)が追って下すことになるからどうでも良いとして   

 

 煮え滾る激情に我を忘れるは愚将の様。大将にまで上り詰めた生粋の叩き上げたる男の心は、この修羅場において尚、紅蓮の氷獄のように冷たく燃えていた。

 

    上手く逃げてくださいよ、ガープさん。もう手加減出来ませんので…!」

 

 クザンは全ての余裕を捨て去った。そして、隣で怒りに我を忘れ発狂するハンコックを放置し、一人眼下の海へと手を翳す。

 

「げ、あやつめ……不味いぞルフィちゃん、クザンが本気(マジ)じゃ!」 

 

「わっ、凄い覇気…! さっきよりまだ上があるなんて…っ」

 

 行使するのは全力の大技、“氷河時代(アイスエイジ)”。氷を生み出し司るヒエヒエの実の能力で、先の一幕にて“麦わら”に両断された氷の大陸を操り、船ごと左右から容赦無く圧し潰す超質量の一撃だ。

 

「おい、氷の崖が閉じてくるぞ!?」

 

「ヤバいヤバい死ぬ死ぬ死ぬゥーッ!!」

 

『うわあああァァッ!!』

 

 遠くの海賊たちの絶叫が大地震にも勝る轟音に掻き消され、クザンは見聞色の覇気で圧殺した敵の気配を探る。

 

 だが敵を潰すべく地形すら変わる天変地異にも等しい攻撃を用いながら、直後男の顔に浮かんだのは目的を成した安堵ではなく、焦燥の二文字であった。

 

 

「なっ!? …おいおい、こりゃ一体どういうことだァ?     “鷹の目”ェッ!!」

 

 

 強烈な耳鳴りが海域に響き渡り、クザンは目を見開いた。突如として自慢の氷の大断崖が一瞬で格子状に切り刻まれ、粉々に砕け散ったのである。

 無数の氷の破片が舞う極寒の大海原の中、彼は味方で最も戦意の高かったはずの男の通名を叫ぶ。一太刀で海軍大将が誇る最強の大技を膾切りに出来る斬撃使いなど、この場で一人のみ。ここに来て最も敵に回したくない強者、世界最強の大剣豪“鷹の目のミホーク”が標的を背に海軍の前に立ち塞がった。

 

「……つい」

 

「お前…ッ!」

 

 長い沈黙の後。微塵も悪びれず冗談の如くそう返答する相手に、青筋を立てるクザンの憤怒が絶対零度の冷気となって甲板を覆い尽くす。

 

「どいつもこいつも海のクズ共が、ふざけやがって……大体お前に政府を敵に回す理由も利益も何一つねェだろ!」

 

「…既に“麦わら”との一騎打ちで敗北した身である以上、これより先は協定外だ。先ほどの一振りが不満なら……お前たち好みに『正当防衛』とでも言っておこう」

 

「正当だろうが過剰だろうが、そんな言い訳が通じる段階はとうに終わってんだよ…! 冗談キツいぜ。こんな大戦力派遣しといて、まさかホントに小娘一人捕らえられずに終わっちまうのか…?」

 

 次から次へと起きる想定外に唖然とするクザンを尻目に、『麦わら海賊団』は一目散に船を疾走させる。勝利の大逆転が目前となった一味面々の顔には眩い笑顔が。

 今度こそ、この地獄から逃げ切れる。

 

 

「ぶわっはっは! 流石わしの孫じゃ、ああも大胆な逃げっぷりは久々に見たわい!」

 

 しかし、そう安堵に胸を撫で下ろそうとする一同の耳に、背後より馬の鳴くような笑い声が届いた。騒がせ者はメリー号の甲板に胡坐をかく、お邪魔虫の老海兵ガープ。そのヒゲ面は大笑いで飛び散らした涙と唾でべとべとだ。

 一頻り腹を大きく揺すっていた白髪の巨漢は、されど突如、ニィッと口角を吊り上げ拳を打ち鳴らす。

 

「…さて、ただ可愛がるばかりが子育てとは言えん。わしもただ見逃すだけじゃセンゴクのクソジジィに何を言われるかわかったモンじゃないわい。ここは一つ、じいちゃんも心を鬼にして   

 

 豹変した老将の皺だらけの双眸には、親しい孫娘も初めて見る、獰猛な大英雄の真の素顔が覗いていた。

 

 

   悪いお友達とつるんじゃった可愛い反抗期の孫娘に、祖父の愛を叩き込んでやらねばのうッッ!!」

 

『!!』

 

 

 間近で目の当たりにする本物の強者の戦意。老いて尚微塵も衰えぬ爆発的な闘気に真正面から晒されたゾロたちクルーは、体中の毛穴から間欠泉が噴き出す勢いで発汗し、ガクガクと足を震わせて茫然自失と立ち尽くす。

 

    大丈夫、私に任せて」

 

 だが身を圧し潰さんばかりの重圧は、一人の少女が前に立ったことで霧散する。大樹の下に集った四人と下っ端二人は、故に船長ルフィの背に如何なる恐怖も跳ねのける絶対の信頼を寄せてしまうのだ。

 まるで、それが未来の海賊王の証であると本能で知っているかのように。

 

「昔の子供のじゃれ合いならともかく、そう何度もルフィちゃんを全力で殴るなどじいちゃん耐えられないっ! 一撃で決めじゃ!」

 

「ふんっ、一撃も二撃も同じよっ!    “ギア4(フォース)”!!」

 

 一息の後、女海賊の身体が強烈な蒸気に包まれた。爆走するメリー号が白煙を置き去りにし、ベールの奥から現れた少女の姿は、華奢な前腕以端が象の足の如く肥大化した異形。頭部首筋を除く全身は紅色の妖光を帯びた黒鉄色に染まり、上気する素肌からは天女の羽衣にも似た蒸気の帯が潮風の中でたなびいている。

 武装色の覇気で靭性と伸縮性を強化した筋肉風船の火力特化形態(モード)   “バウンドガール”だ。

 

「ほう! 前回の決闘で使っとった指銃の刺突特化の“ホーネットガール”より、拳同士の真っ向勝負を選んだか! じいちゃんの自慢の拳骨すら超えようとは、それでこそルフィちゃんじゃ! ぶわっはっはっは!」

 

「おじいちゃんの得意な殴り合いに勝たないとおじいちゃんに勝ったとは言えないもん! お望み通り一撃で終わらせてあげるわっ!」

 

 楽しくて仕方がない。そんな戦闘狂の相貌に破顔し、「いざ!」の掛け声と共に両者は繰り出す片腕に全力を込める。

 そして獣のような咆哮と共に、Dの血を引くモンキー一族の殺伐とした家族団らんが始まった。

 

 

「“拳・骨・ルフィちゃん愛注入撃(ラブパンチ)”ッッ!!」

 

「“ゴムゴムの大・大猿王銃(キングキングコングガン)”ッッ!!」

 

 

 空へ飛びあがった二人は寸分違わぬ同時に拳を解き放つ。一直線に互いへ目掛け爆走する両右手は阿吽の呼吸で重心同士をぶつけ合い、およそ人の身体から発せられたものとは思えない重厚な金属音を鳴り響かせた。

 

「ぬわああああァァァッッ!!」

 

「はあああああァァァッッ!!」

 

 衝突するルフィとガープの覇気が竜巻となって舞い上がる中、せめぎ合う両者の拳の均衡は小動もしない。片や筋骨隆々とした巨漢、片や両前腕を膨れ上がらせた小柄な少女。だが不似合いな二人の力比べは、彼女の背に投げ掛けられた四つの声によってその天秤を大きく傾かせた。

 

『行ッけえええルフィィィッ!!』

 

   !!」

 

 少女船長の目が見開かれる。聞こえる声援は自分を信じ付いてきてくれる仲間たちのもの。彼らのために戦う彼女はいつだって最強、スーパールフィちゃんなのだ。

 面映そうに緩んだ唇を引き締め直し、麦わら娘は湧き上がる力を右腕へと注ぎ込む。暴れる風がこちらへ傾き始め、ルフィは目の前の祖父の瞳に驚愕の色を見た。

 動揺は覇気の制御を手放す大きな隙。“夢”でのカタクリ戦、そして先ほどのミホークとの戦いで身を以て学んだ彼女は、この千載一遇の好機を逃すまいと一気に畳みかける。

 

 そして長い激突の末。黒鉄色に染まった少女の巨大な拳が、競った相手の腕ごとその大きな体を殴り飛ばした。

 

 

「やっ   たぁ勝ったああーっ! 勝ったわよみんなぁーっ!」

 

 

 錐揉みしながら遠くの海へと飛んでいくガープ。五秒ピッタリの長い滞空時間の後、天高く上る水柱を残して海中へ消えた大英雄の残像を呆けた顔で見つめる『麦わらの一味』が、遂に勝鬨を上げた。

 

「~~ッッ! へっ、ホント期待を裏切らねェ船長だぜ…!」

 

「よ、よかったぁ……流石ルフィの大姐貴だぜ! これで今度こそ、今度こそ脱出だァーッ!」

 

「もう一秒でもこんな地獄にゃいられねェよォォッ!」

 

「ふはっ、ふははは! こ、今回はこれくらいにしておいてやるっ! 思い知ったか海軍共ーっ!」

 

「あんたたちはさっさと持ち場に付きなさいっ、この役立たず共がッッ!!」

 

 この土壇場でほぼ何の役に立っていない満身創痍にて安静中のゾロと、ウソップ以下臆病賞金稼ぎコンビのジョニーとヨサクを蹴り飛ばし、ナミが最後のダメ押しを決断する。

 

「ったくもう!    ルフィ! もう女だとかどうでもいいからまたあの風船みたいので帆に風送って! 一気に加速するわよっ!」

 

「ええ、任せてっ! あなたたち、衝撃そなえーっ!」

 

『!!』

 

 一味のトップは船長なれど、甲板のトップは航海士。仲間の命をナミに託したルフィは彼女の指示通り宙へ飛びあがり、強靭なゴムの筋肉でめいっぱい息を吸い込む。

 

「待てェーッ、“麦わら”ァァッ!!」

 

「何をしているお前たちっ、蛇姫さまの仇だぞ!? へばってる遊蛇(ゆだ)の首を絞めてでも船を走らせろッ!」

 

「キィィーッ!! 覚えておれ“麦わらのルフィ”ッ!この恨み忘れぬぞ…ッ! 忘れぬからなァァァッ!!」

 

 追手の声も波風に掻き消され、もう耳に届かない。そしてメリー号の両舷にしがみ付き身構える仲間たち全員の姿を見聞色の覇気で捉えた後、少女船長が蓄えた空気を思い切り帆柱へ吹き付けた。

 

 

「“ゴムゴムのぉ    追い風”ぇーっ!!」

 

『いっーけえええェェェッッ!!』

 

 

 かくして空前絶後の大逃走劇は終わりを迎える。この世の頂点の一角に座する者たちの激突によって様々な遺恨を残し、その幕はようやく下りたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大海賊時代・22年

東の海(イーストブルー) 某所『棺船』

 

 

 

「見事…」

 

 遠ざかるキャラベル船を望む奇妙な小舟の上で、ぽつりと呟く一人の男がいた。

 一連の逃走劇に一振りの助太刀を恵んだ“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク。大剣豪は自分を下した麦わら娘を見送りながら、今や隻腕のかつての好敵手と鎬を削った日々を思い出していた。互いに剣を用い、戦いの前にも後にも途中にも邪魔が一切入らない、理想的な決闘を。

 己の戦いへの渇望を満たしてくれた、“四皇”の地位に就く男が突如この東の海(イーストブルー)で片腕を失ったと聞いたときは耳を疑ったものだ。

 

    その腕、誰にくれてやった?

 

    不思議な瞳の、女の子だよ。

 

 男は船尾に立つ少女の瞳を見る。吸い込まれそうなほど透明な黒曜石の中に散りばめられた、夜空の星々のような、夢と希望に煌く無数の光。それは万人を惹きつけ魅了する、少女の純粋で壮大な夢が持つ美しさであった。

 

  進め、“麦わら”! お前の思い描く、海賊王の覇道をッ!」

 

 ミホークの激励に、少女が満面の笑みで頷く。荒事とは無縁な可憐で愛らしい娘。だが彼女であれば、如何なる困難をもあの笑顔で乗り越えて行くだろう。剣士の頂点に立つこの大剣豪にさえそう確信させるほどの強い命の輝きこそが、モンキー・D・ルフィが時代の玉座に相応しい何よりの証なのだから。

 

「…ロロノア・ゾロ」

 

「!!」

 

 鷹揚に頷き返したミホークは、少女の隣でこちらを睨む小者へ目を向ける。

 

 今はまだ、原石の域を出ぬ石くれに過ぎない弱き剣士。されどその胸の内に宿る渇望、覚悟には、前を進む“未来の海賊王”の背を託すに足るほどの強さが垣間見える。

 なればこそ、幾多の困難へ挑む若き力を、先達として鼓舞せねばなるまいて。

 

    「誰かのため」という、己には持ち得ない、されど確かな真の強さを持つ男を。

 

 

「…超えてみろ、更なる高みへと歩み続けるこの”鷹の目”を! 未来の海賊王を守る大剣豪は  貴様だ!!」

 

 

 水平線の奥で、大剣豪は若き剣士が息を呑む音を耳にする。そして続いた青年の返答は、実に彼好みの勇ましい言葉であった。

 

「……へっ、言われなくとも…ッ!」

 

 

 荒波を乗り越え、氷山を砕き、空気弾を、石化の矢を、氷の鳥たちを打ち落とし、『麦わら海賊団』は長き地獄の嵐を遂に潜り抜ける。この世を支配する世界政府の魔の手をすり抜ける彼ら彼女らはこの日、全世界にその脅威を知らしめた。

 

 そして、新たな時代は幕を開る。

 

 

 

 

 

緊急報告

 

 標的「“麦わら”モンキー・D・ルフィ」率いる『麦わらの一味』対、世界政府旗下王下七武海「“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク」、「“海賊女帝”ボア・ハンコック」、「“暴君”バーソロミュー・くま」。並びに非正規援軍海軍本部大将「“青雉”クザン」、海軍本部中将「“拳骨”モンキー・D・ガープ」以下同長官幕下“ガープ部隊”。

 

 両軍、東の海(イーストブルー)コノミ諸島沖海上レストラン『バラティエ』近海にて会敵。これを“コノミ諸島沖海戦”と記す。

 

 戦闘の結果  

 

 

 

 

 

   『麦わらの一味』の完全勝利。

 

 

 

 





やっと終わったぜ…

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