----暗闇、誰もがそう認識するであろう空間があった、光が入り込む余地もなく、ふとすれば自分が消えてしまいそうになる、
コンコンッ
「マスター、お目覚めですか?」
そんな場所に音が響き、声が生まれた
コンコンッ
「…マスター、お目覚めですか?」
再び音と声が響くが、それ以外には音も声もない
「………はぁ」
溜め息の音が聞こえたと同時、空間に揺らぎが生じ微かな光が生まれた、だがそれは光と言うには淡く、深海か星のない夜空のような色をしており、現れた次の瞬間には2メートルほどの縦長の楕円を描いていた、さながら『門』にも見える、そこから1人の女性が現れると、『門』は現れた時と同様に幻のように消え去った。
「全く、用事があると言ったのはマスターですよ、起きて下さい」
女性は数歩歩くとパチン、と音がして部屋に光が満ちる、暗く青い光-ブラックライト、で照らされぼんやりとだが全貌が露になる。
寝具-ベッドがたった1つしかない部屋であった。
部屋の外に繋がる扉の横で電気のスイッチを押していた女性はベッドへと近づくと、おもむろに掛け布団を剥ぎ取った
「……んぅ、眩しぃ…」
そこに現れた小さなかげは、ぐずった子供のように顔を枕に押し付け拒否を示した
「…用事があるのではないのですか?」
溜め息をつきながらも、女性はそのかげ-子供の体を揺すり、声をかける
「しらん、眩しいの…」
またも、拒否を示すと子供は片手を中空に上げた、女性は首を傾げながらその手に自分の手を伸ばし--
部屋が再び暗闇に包まれた。
あとに残ったのは子供の寝息
女性は子供の手をとろうと自らの手を伸ばす形で停止したままであった
「…そうですか、そうまでして寝ていたいのですね、しかしながら、私はマスターのために生まれ、マスターのために活動する万能メイド、アマタでこざいます」
女性-アマタはベッドから数歩後退し、ベッドの上方へと手のひらを向ける
「そう、私は万能メイド、ご主人様のためならば、例え火の中、水の中、虚数空間の中…『光の中』どこへなりとも行きましょう」
「………………………………………………………………へ?」
アマタの足元から光が生まれた、それは菱形を形成し中には文字と記号が描かれている
「『穢れ無き風よ…我に仇なす者を包み込まん…全てを浄化せよ』」
「……へ?ちょっ、アマタッ、待っ」
子供はアマタの詠唱を止めようと起き上がるが、もう遅かった、
(あぁ、マスター止めないで下さい、私はマスターのためにマスターを起こさなければならないのです)
マスターがなにか言っているが、現在の優先事項第一位は自分の主人の速やかな起床と外出準備、及び外出である、さぁいざ-
「『イノセントシャイン』」
「--------ッ!!」
**************************************
「目がぁ、目がぁぁ、焼けるぅ、焦げるぅ、溶けるぅ…」
「おはようございます、マスター、本日は外出の予定がございましたので、モーニングコールをさせていただきました」
床で目を押さえて、のたうち回っている主人(少年)を尻目に、直立して坦々と報告をする従者(メイド)は仕事をやりきった顔であった。
「あぁ、くそっ、あぁ…何てことしやがる、ねぇ俺、お前のご主人様だよね?お前、俺の従者だよね?」
「?…そのとおりですが、マスターの問いの意味がわかりません」
「いや分かれよっ!なんで俺に『イノセントシャイン』なんてぶちかますんですか?って聞いてるんだよ!」
おそらく目の前で首を傾げながら自分の(頭の)ことを心配しているであろう従者に憤慨しながら問いかけた、時々「なんで俺こんなヤツ侍らせてんだろう?」とか思ってしまうような従者だが、さすがに理由もなく詠唱込みの大魔法を主人にぶっ放すようなやつじゃ……あるかもしれん、どうしよう?
まだ眩んでいる目を恐る恐る開けながらアマタの方を見る、徐々に回復しているようで、かなりチカチカしているが問題なく姿が見えた、アマタは「なるほど、そういうことですか」と首をこくこくとうなずくと「では、手短に説明させていただきます」と人差し指を立ててこちらを見やった。
「昨晩、マスターは夕食のトルコライスを召し上がっている最中「あ、シロウが死に掛けてる」と呟かれ、時計を見て(21時を過ぎていたので「めんどくさいなぁ」と思われたご様子)目線を戻しトルコライスを一口食べ、中空をぼんやりと眺め(「でも行かないとまずいよなぁ」と悩まれたご様子)目線を戻しトルコライスを一口食べ、スプーンを口に入れたままトルコライス(半分ほどに減っている)が盛られたプレートを見つめ(スプーンをもごもごと動かしていたので「でも行くのめんどくさいよなぁ」とやる気があがらないご様子)目線を横にやりカップスープを一口飲み、ほんの少し目を見開かれ(「あ、そうだ」となにか思いつかれたご様子)食器をテーブルに置かれ、私のほうを向かれ「明日の朝、適当に(とりあえず、声をかける程度に)起こしてくれ」と申されましたので私は「かしこまりました、明朝、適当に(必ず、何をしても)お起こしいたします」と返答し、それに満足したように(「起きたら行く、起きなかったら行かない」と決定されたご様子)マスターは残されたトルコライスの攻略に戻りました、その後マスターは今までと同様に入浴、就寝なさったので、明朝、つまり今日の先ほどお目覚めの手伝いをさせていただいた次第であります」
「…突っ込みたいこといっぱいあるけど、お前の中では主人を起こす方法=『イノセントシャイン』なのかよっ!?」
手短くない従者(何でこいつ、俺の考えてたことわかるの、怖い…)の説明を聞いて辟易した俺が必死に搾り出した言葉がそれだった。
「いえ、武力行…魔力行使致しましたのは、お声がけしてもマスターが起きてくださらなかったからですよ?」
「あぁ、うん、それは俺が悪い…でもね?もうちょい軽くて、『光』系じゃないのでもいいと思うんだよ?」
昨日俺が「起こして」って言ったのが原因だと分かってはいても納得したくない俺がいた。
「ですが、マスターは半端な威力の魔法ではびくともしませんし、それに早くお起こしした方がいいと思いましたので『明所恐怖症』のマスターには効果的な方法をとらせていただいたのですが?」
「だから、やめろって言っている!それに『明所恐怖症』じゃない!『明所嫌悪症』だ!」
光の入り込む余地のない部屋、照明に使われているのはブラックライト…そう、俺は明所恐…明所嫌悪症だった。
「はぁ………次元世界で最高、最強、最先端の賢者の弱点が『光』だなんて、『アルカンシェル』くらったって高笑いできるのに、なんて残念なことでしょう、これさえなければ『完全無欠』も付けることが出来ますのに…」
…畜生、事実なだけになんも反論できん、こいつ本当に俺に仕えてんのか?
「分かった、もういい、以後改善を求めるが、今はシロウの方が先だ、せっかく起きたのに死なれたら無駄骨だ、それに---」
「『借り』もあることですしね?」
…こいつ、
「さっさと行くぞ、目的地は---」
「第97管理外世界『地球』ですね♪」
「お前、主人を立てることを覚えろよっ!」
---本当に俺のこと主人だと思ってんのか?
はぁ、まあいいか、と溜め息をつきながら、目の前の何もない空間に手のひらをむけ、久しぶりだが『回廊』を開く、夜、深海とも称せる闇色の門が形成され吸い込まれそうな感覚になる、「行くぞ」と素っ気なくアマタに声をかけ、『回廊』に踏み入れる。
「お供致します、---賢者『アンセム』様」
声と共にアマタも続いて『回廊』に歩みだす。
これが、この物語の始まりであった。
「…マスターが外に出るのは2年ぶりですね?」
「切りよく終わらせろよっ!」
『引きこもり賢者、外に出る』の巻
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