エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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 エール達が薄暗いテントから出ると日は大分高くなっているようで日差しが目に刺さった。

 

パンッ!

 

 すると待っていたかのように、小気味の良いクラッカー音で迎えられた。

 

「ザンス、おめでとー!」

 リア女王と侍女のマリスがクラッカーを鳴らしたようで、エールもザンスも呆気に取られた。

「あーん、ここの連中ったらひどいの! どうしても中に入れてくれなくて、写真取れなかったのー! せめて声だけでもって思ったのに全然聞こえないし!ずーっと楽しみにしてたのにー!」

 リア女王が一人で大騒ぎしている。

 脇にいるマリスの手にはクラッカーと一緒に大きな魔法カメラが握られていた。

 

「そこの法王も邪魔するしー!」

 その言葉を聞いてエールはちらりとリアが見た方向を見る。

「どうも、法王です」

 その場になぜかエールの母である法王クルックーが立っており、その腕には聖刀・日光が抱えられていた。

「娘の初体験を記録に収めさせるわけにはいきませんからね」

「一回しかないのよ、記念で残しておくのは当然でしょ! そうそう、先にお祝いしちゃったけどちゃんとしたわよね? ね? 朝まで出てこなかったんだもん。どうだった? 気持ちよかった? この子処女だし、女にしてあげたんでしょ? 何回ぐらいやったの?」

 リアは畳みかけるように大はしゃぎしている。

 そういうことをする人だとは互いに知っていたものの、実際に目の当たりにするとエールもザンスも色々な意味で言葉が出なかった。

 

「お互い寝てないなら、今日はお休みしていいからね。 なんだったらお城で続きしても―ー」

「やってねーわ! ちっとからかってやっただけだ」

「あら、セックスしなかったのー? やっぱそんな子じゃザンスのお眼鏡には適わなかったって事かしら。 うーん、確かに色々小さすぎるもんね」

「…当然だ。 俺がこんな貧相なの相手にするわけねーだろが」

 エールはすごいむっとして無理矢理されそうになったので反撃入れて気絶させた、と言った。

「は…? あなた、ザンスに何をしたって?」

 リアがエールを驚いたように睨みつける。

 ザンスもエールの頭を叩いて頬を引っ張った。

「娘を叩いて引っ張らないでください」

 クルックーが口をとがらせてエールを庇う様に抱き寄せた。

 

「日光さんは私が先に受け取っておきました」

 エールが日光を受け取るとどうしてお母さんがここに、と言いながらクルックーの胸にぐりぐりと顔をうずめた。

「母はいつでもあなたを見守っていますよ」

 答えになっていないが、クルックーは抱きついてきた愛娘の頭を優しく撫でた。

 

「あの、これは一体何があったのですか?クルックーさんがここにいるのもそうですか…」

 日光がエールに尋ねると、エールはザンスとのことを話した。

「え!?」

 エールが隠すこともなく恥ずかしがることもなく、すんなりとそのことを話したので日光は面食らった。

 明らかに動揺している様子がエールに伝わる。

「す、すいません。私が前に一緒にいた二人などはそういうことがなかったもので驚いてしまいました… しかしその、大丈夫だったのですよね?」

 エールは頷くと、日光は安堵した。

 元々エールがシーウィードに来たのは日光がカフェに会いたいと言ったからである。

 そのせいでエールの純潔が奪われる様な事態になっていたらと血の気が引く思いがした。

「万が一を考えて避妊魔法はかけておきましたが、とりあえずは心配なかったようですね。エールにも一応、避妊魔法教えておきます」

 知らなかった、と言いながらエールはクルックーから避妊魔法を習った。

 

「母親に抱き着いてガキかよ。まあ、昨日は俺様に触られまくってすっげーいい声で喘いでたけどな」

「…っ! 最低ですね…!」

 ザンスの言葉に日光が怒りを露わにする。

「気持ちよくはしてあげたんだ、ザンスってば優しー! それなのにこの女は投げ飛ばしたわけ?」

「俺様がそんな油断なんかするか! 元からやってやるつもりはなかったのにそいつがマジに受け止めやがっただけだ。 俺様は最高の女を探すって決めてるからな、そいつがそれなわけねーだろ」

「それもそっか。 せっかくザンスのこと誘惑したのに通じなくてあなたも残念だったわね」

 リアはザンスの言葉を聞いてエールを睨むのをやめ、代わりに見下すような哀れむような憐れむような瞳になっている。

 エールとしては誘惑した覚えなど欠片もないが、それを言うと大変なことになりそうだったので口をつぐんだ。

「お前も俺様に処女捧げられなくて残念だったな。 まあ、もうちょっと育ったら考えてやるわ」

 偉そうに言ったザンスはずかずかと、腕に母親を引っ付けた状態で城に戻っていく。マリスも後に続く。

 エールはそんな後ろ姿を見ながら少し口を尖らせていた。

 

「エールは冒険を続けますか?」

 クルックーがそう言うと、エールは大きく頷いた。

 まだ全然目標を達成していない。貝も見つけていないし、兄弟にみんなにも会えていないのだ。

「そうですか。では私は村で待っていますね。 エールは嫌なものは嫌だとちゃんと抵抗出来るようで母は安心しました」

 リア女王と父は無理矢理だったそうだが、母も強引にされたのだろうかとエールは考えたが口には出せなかった。

 母が父を大切に思っていることは知っている、それで問題ないのだから聞くこともないだろう。

「エールが傷ついていなくて良かったです」

 心配させてごめんなさい、エールがそう言うとクルックーは優しく笑った。

「城まで送ります。長田君にもよろしく言っておいてください」

 クルックーはエールの手をしっかりと握る。

 温かい母の手、世界で一番好きな人の手。神出鬼没だとかどこから見ていたのか等はどうでもいいことである。

 腕に抱きつきたい気持ちを抑え、エールはクルックーに手を引かれていった。

 

「エール、お前、どこ行ってたん? 部屋にもいなかったし、仕事にいっちまったかと思ったけどそうでもないし」

 エールが戻ると長田君が待っていた。

「明日、リーザス出るからさー、今日の仕事早めに切り上げて午後から冒険の準備しようって相談しに来たんだぜ? 給料も先に貰える様に言っておいたからな。へへっ、俺って気が利くだろー」

 得意げにしている長田君に、エールが拍手をしながら昨夜のシーウィードの事を話すと長田君が豪快に割れた。

 エールが昨夜は危なかった、と気軽に話す。

「エール!お前、危なかったじゃすまなかったかもしれないんだぞ! 気をつけろって言っただろー! あいつ、そんな悪い奴じゃないと思ってたのに! 乱暴だけどそういうことはしないやつだと思ってたのに! あとで文句言ってくる!」

 長田君は叱りつつ、心配しつつ、怒りつつと一人でバタバタしている。

 エールはそんな長田君を見て口元に笑みを浮かべた。

「あー、もー、世間知らずの親友を持つと苦労するぜ、ほんとにもー!」

 もーもーとどう言って怒ればいいのかわからなさそうにしている長田君を見てエールは師匠であるサチコを思い出した。

 長田君の方がお兄さんみたいだね、と言いながらエールは大事な親友の頭を撫でる。

 そしてエールは何を思ったのか長田君もボクに触ってみる?と言ってその手を取って自分の胸を触らせる。

 ふにっとした感触が長田君に伝わると

「あんっ!」

 長田君が割れた。

「女の子がそういうことするんじゃありません! あとやっぱエールは胸ないな!」

 長田君は割られた。

 

 一方、先に城に戻ったザンスはと言うと、母親と侍女を引きはがしてすぐに赤の軍の将に戻った。

 鍛えなおしてやる、と訓練と称して赤の軍の兵士全員を相手取ると言い出した。

「お前ら、あんなちっさいのに負けてんじゃねーぞ!」

 そう言って次から次に赤の軍の兵士をしばいていく。

「今日の将軍はなんだか気合が違うな…」

「やはり例えザンス様の妹君とはいえあんな小さな少女に敵わなかったなど赤軍の恥」

「さすが赤の将、これだけを相手にして息も上がらないとは」

「すごい気迫だ。東ヘルマンとの戦いが近いのかもしれん。我等も気を引き締めなければ」

 赤の軍の兵士達は気合を入れて訓練に臨んだ。

 

 肝心のザンスはというとバイ・ロードを振りかざし戦闘に集中している。

 赤の軍とはいえもはや打ち込み相手にすらならないが、それでも手を止めて集中が切れると、浮かんでくるのは昨夜の自らの下に組み敷いた一糸まとわぬエールの姿である。

「がーーー!!!」

 ザンスはそれを振り払う様にバイ・ロードを振り回す。

 その日、赤の軍では怪我人が続出した。

 

 ザンスが全員を叩きのめしていると、長田君がザンスの元へやってきた。

 エールにしたことに対して文句をつけに来たのだが、それを聞き終わる前に無言で叩き割って部屋に戻る。

 

 部屋に戻って一人になれば思い出すのはエールの姿。

 細い体を震えさせながら鼻にかかった声を上げ、なんとも艶めかしい反応と柔らかい感触――

 散々強がってはみたが、結局のところ最後までできなかったことを激しく後悔していた。

 あのエール相手にあそこまで興奮するとは思っていなかったとはいえ、もう少し頭を冷静にして時間をかけていれば抵抗もされず――

 エールより先に目を覚ましたザンスはシラセにやんわりと叱られていた。

 同時にいくつかアドバイスも受けたが、ザンスにはそれを気軽に実践できるほど女性に慣れているわけでもない。

 

 思い出しては一人で悶々する。

 

 ザンスはしばらくの間、悩まされることとなった。

 

………

……

 

「長居しちゃったな―」

 修行させてもらえてレベルも上がり、お金も増えた。

 コロシアムやちょっとした仕事の依頼など、珍しい経験をすることも出来た。

 楽しかったね、とエールはしみじみと呟く。

「エールはちっと危なかったけどな。まー、俺がビシッと言ってきてやったけど!」

 実際は全く相手にされず割られてしまっただけなのだが、長田君は大真面目だった。

 

 エール達の出発をチルディとアーモンドが見送りに来ていた。

「エールあね様、また会いましょうね。長田君も」

 小さく手を振る妹にエールがへろへろとだらしない笑顔で頭をぽんぽんと軽く撫でた。

「お前、けっこー姉バカ? なんかダークランスさん似というか」

 家族を大事するのは当然だし同じ師匠を持つ者同士でもある、とエールが言うとアーモンドはにこにこした表情を浮かべている。

「エールさんは体質のせいかレベルが落ちやすいようです。 しっかりと腕を磨き、鍛錬は毎日欠かさず行うように」

 エールはすっかり師匠となったチルディにきちんと頭を下げ、感謝を述べた。

「ふふ、お役に立てたようで何よりですわ。本当なら礼節や女性らしい立ち居振る舞いなどもお教えしたかったのですが。リーザスに入りたいというのであればいつでも歓迎いたします」

 最後まで勧誘を忘れない。

 エールは考えておきます、と笑顔で答えた。

 

「こら! エールにあんま近づくな!」

 そう言った長田君は見送りにきたザンスに思いきり蹴られて吹き飛ばされていた。

「ああ? わざわざお前らなんか見送りに来るか。 出ていく前に顔見に来ただけだ」

「ザンスあに様、それは見送りではないのですか?」

「アー、お前は黙っとけ」

「誰かに似て、素直じゃありませんこと」

「チルディもうるせぇぞ」

 

 エールとザンスはあの朝以降、顔を合わせていなかった。

 二人の目が合うとザンスの方は気まずそうだが、エールの方は満面の笑みでまたね、と言った。

「……ああ、またな」

 嫌われたり、怯えたり、落ち込んでいるような気配はない。ザンスはその笑顔を見て内心胸をなでおろしていた。

 長田君は二人の間に入って、距離を近づかせないようにしている。

 

「次会う時までにその貧相な胸とかちっとは女らしくなってりゃいいな。 そうすりゃ俺の女にしてあん時の続きしてやってもいいぞ」

 エールは笑顔のまま、上から目線で笑っているザンスに蹴りを入れる。

 怒り出すザンスから反撃を受ける前にと、エールは駆けだした。

「ちょっと待てよー、エール!」

 長田君も急いでその後を追いかけていく。

 二人は一瞬だけ振り返って大きく手を振った。

 

 天気は快晴、澄み切った青い空が広がっている。

 エールと長田君はリーザスを出発した。

 

「……あね様が行ってしまいました」

「少し寂しくなりますわね。 …それにしても若、続きというのは何のことです?」

「なんでもねーよ!」

 

 大きく手を振り返して寂しそうにするアーモンド、短い間とはいえ師匠として弟子の出発を微笑んで見送るチルディ、走っていく背中を少しもやもやとした気持ちで見つめるザンス。

 三人はエール達の出発を見送った。

 




アーモンドへのアー呼び … ハニホンXより

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