サービスか、ツケが信用できないのか、案内人はエール達を首都ラング・バウまで送り届けてくれることになった。
シベリアを経由しないせいで行きよりも氷雪地帯を歩く距離が長くなったものの、エール達も少しは雪に慣れて足取りは順調だった。
氷雪地帯を突破し、ヘルマン国内に入ったところとある村を通ることになった。
案内人の話ではそこは魔物や軍隊などがほとんど寄り付かない安全な村であるらしい。
「その村なら東ヘルマンの連中もまずいないでやんす」
「へー、なんかすごい防衛設備でもあるんかな? ヘルマンだしすっげー砦か何か……」
案内人の気遣いに感謝しつつどんな村なのだろうと一行はワクワクしていたのだが、見た目は普通の寒村である。
しかしその村の中央にある像を見た瞬間に固まった。
それは人の形をしているが、世にもおぞましい姿をした像だった。
エール達は見ているだけで次第に気分が悪くなり長田君が割れた。
「あんまり見つめない方がいいでやんすよ。 あっしですらこれ見てると気分が悪くなるぐらいで」
毒液に付けこまれても平気なポピンズにそう言われるとはどういう像なのだろうか。
村人の話によるとこれはブス観音と呼ばれかつての魔人戦争でこの村に奇跡をもたらし魔軍を撃退したという女神の像であるらしい。
「え、これ人なの? しかも女神って……」
像でこの破壊力だが実物は見た瞬間に呼吸困難になり倒れる者が出るほどだったと言うのだから、納得である。
世界には色んな女神がいるんだなぁ、とエールは像から目を逸らしながら思った。
しかし見物人は意外と多いようで村は盛況だった。
「あー、思い出した! ここって怖いもの見たさとか度胸試しで人が来るっていう有名な村だね。ボクもはじめて来たんだけど、うぅ……」
レリコフもヒーローも少し気分が悪そうにしている。
ヘルマンの嫌すぎる観光名所だった。
……この像のモデルになった人物がこの村だけではなく数年前の鬼畜王戦争で魔王ランスに対する最終兵器となり、人類を救う一手となったことを知る者は少ない。
………
そんな村を通りつつ、大きなトラブルもないままエール一行は無事に首都ラング・バウに帰ってくることが出来た。
エール達が帰ってくると城内は大騒ぎだった。
「レリコフ!良かった、無事で!」
「ヒーローも無事か。、随分帰りが遅かったな」
エール達の到着を聞くとシーラとパットンが走ってきて子供の無事を確認する。
特にレリコフは何度も無事を確認された。
「案内の追加料金こっちのツケにしたって? ちゃっかりしてるわねー」
エールはペルエレが案内人に言われ追加料金を支払っているのを見て、後の請求で料金をごまかしそうだなと思った。
「ありがとー! 案内人さーん!」
「へーい。また御贔屓にー」
エール達は手を振って案内人を見送った。
実に良い仕事ぶりだった、とシーラ達に伝える。
「それは良かった、のですが…」
「なんですぐに帰ってこなかったんですか!?」
シーラの後ろからぱたぱたと走ってくる気難しい顔をした眼鏡をかけた女性。
参謀総長であるクリームの怒声が響いた。
「クリームさん。久しぶりー、赤ちゃん元気にしてますか?」
「え、はい。おかげさまで。本来なら復帰はまだ先だったのですが」
怒られるのを気にせず笑いかけるレリコフにクリームは少し面くらったような顔をする。
巨乳で眼鏡で金髪美人、エールは長田君をちらっと見た。
「いや、見た目はすっげー好みだけどさ。人妻みたいだし? それになんか怖いっつーか……」
長田君が食いつかないタイプだった。
とりあえずエール達が温かいお茶を飲みながら、なぜこんなに騒ぎになっているのかを聞く。
「レリコフさん達が巻き込まれた事件でしょう!」
クリームがまたもや声を強めた。
東ヘルマンと停戦交渉中に起きた大統領の娘、誘拐未遂事件。
シベリアの町の人々は無事に保護されたらしく、事件のことはすでに首都に伝わっていた。
事件があったという連絡が来る少し前、南東で西と東の軍同士の小競り合いが発生。
ロレックス達が出陣し睨みを利かせると東ヘルマン軍はすぐに引いたそうだが、タイミング等を考えるに敵軍の予定ではレリコフを人質に取っての戦いを展開するはずだったのだろうと推測がされた。さらにシーラ大統領の娘であるレリコフ達の冒険の動向を知られていたということは、こちら側に東ヘルマンの内通者がいることは明白である。
城を訪ねていたという東ヘルマンの停戦交渉団によると隊長らいわゆる過激派が勝手にやったことだと言ったが、西ヘルマン側…特に警備兵を皆殺しにされ占拠されたシベリアの町の人間は納得いくはずもない。
西ヘルマン国内で起こった町の占拠に誘拐計画、内通者の洗い出しに停戦交渉の事実上の交渉決裂。
産休中だったクリームまでもが緊急召集され、対処に追われることとなった。
「せめてその首謀者が生きていれば良かったのですが」
生き残った東ヘルマンの人間には尋問中とのことだが、肝心の事件を主導していた隊長はエールがざくーっとやって窓からポイしたのですでにこの世にいない。
「エールがそいつをやっちまったのまずかったってこと?」
「その通りです」
クリームがエールを責めるような瞳で見た。
「ちょっと、待て! エールはすげーひでーことされたんだぞ!?」
「そうだよー!エールねーちゃん、オイラ達が見た時酷い怪我しててさー!」
長田君とヒーローがエールを庇う様に怒り出した。
「エール、ボクを庇ってくれて、それでいっぱい蹴られて……」
レリコフはそれを思い出したのか震えて目に涙を浮かべた。
その様子を見てシーラやクリームはたじろいで、エールを見た。
エールは確かに危なかったが長田君とヒーローが危ない所でカッコよく駆けつけてくれた、と話した。
長田君が状況を察して罠を躱し、ヒーローが敵を吹き飛ばしと二人のおかげで助かった、と何度も頷く。
「へへっ、まー、俺も伊達に冒険者やってんじゃないし? エールはちょっと抜けてるとこあるしな!」
長田君はちょっと得意げだった。
「そうか!ヒーロー、よくやったじゃないか」
パットンがそれを聞いてヒーローの頭を撫でると、ヒーローは得意げに笑った。
エールも改めて礼を言って、手が頭に届かないので代わりに鼻を撫でるとくすぐったそうにしている。
「……失礼しました。レリコフさん達は被害者です。エールさんも大怪我をしたとのことですが… そういえば神魔法が使えるのでしたね」
そういえば世色癌やマヨネーズも使ってしまったので、あとで補充をさせて貰おうとエールは考えた。
「エールさんはAL教法王のご息女でもあります。レリコフさんと一緒に攫われるところだったでしょう。 事件が起きた以上、冒険は中止しすぐに戻ってきていただきたかったです」
「そうだな、こっちは本当に心配した。ハンティにすぐに飛んで貰ったんだが、すれ違っちまったみたいでな」
首都にシベリアの町での事件の報が届いた後、ハンティは塔まで移動したが既にエール達は塔を出発した後だったらしい。
エールが自分が冒険の続きがしたいと言った、と自白するとクリームとパットンは呆れてため息をついた。
エールとしては嫌な思いで終わる冒険などしたくなかったので後悔はしていないが、心配させたことは素直に謝った。
「レリコフとエールちゃんを人質に交渉や戦いを有利に運ばせようとしたのでしょうね」
そう言ったシーラは緊張を漂わせた大統領の顔をしていた。
「やっぱ東ヘルマン、交渉とかしないで潰した方がいいんじゃない?」
ペルエレがそう言っうと、エールは大きく頷き、シーラもパットンも、そしてクリームもそれを否定はしなかった。
今回は未遂で終わったものの本当に捕まっていたら東ヘルマンの軍が一気に流れ込んできた可能性もある。
少なくとも停戦交渉はこれで流れることになり、東ヘルマンの対処にはまだまだ時間がかかるのだろう。
「子供達を休ませてあげてはくれませんか? 相手は私の事も知っていたようです、良ければお話いたします」
「日光さん… 分かりました。 ヘルマンのごたごたに巻き込んでしまってごめんなさいね」
シーラは頷いて嫌なお話はこれでおしまい、とばかりに手を叩いた。
クリームは当事者であるエール達にもっと事情を聞きたかったが子供達をこれ以上政治に巻き込むこともないだろうとパットンがそれを制した。
エールは日光をシーラに手渡す
「お預かりしますね。今食事とお風呂の用意してもらいますから」
その日、エール達は温かいご飯と熱いお風呂でもてなされた。
………
……
「なんか大変なことになっちゃったみたいだな―、まぁ、俺達が悪いことしたわけじゃないし?」
長田君はそう言いつつもそわそわしまくっていた。
「なぁ、エール。明日にでもヘルマン出よっか。 冒険も二つやったし今度こそペンシルカウでカラーハーレムってな!」
長田君は楽しいことを考えてそわそわを抑えようとしている。
エールも頷いた。
「えー、明日もう出て行っちゃうの!?」
それを聞いていたヒーローが寂しそうに声を上げた。
「さすがに今の状態じゃレリコフもヒーローも連れてけないぞ。 てか二人ともかーちゃん達安心させてやらねーとな」
シーラもパットンもハンティも寝ずに東ヘルマンへの対処に追われていた。
特にハンティは飛び回っているらしく、話す暇もないようだ。
………
……
長田君はヒーローにまた冒険話をせがまれたらしく、今日は男同士でいろいろ話すのだと二人で部屋に行ってしまった。
アーモンドも妙に懐いていたが長田君は子供に懐かれる才能でもあるのだろうか?とエールは考えていた。
「エール、ボク達も一緒に寝よ?」
そう言われてエールはレリコフの部屋に招かれた。
二人でベッドに入ると明日にはお別れというとことで、レリコフは寂しそうにぎゅーっとエールに抱きつく。
「エール……あの時助けてくれてありがとね……」
助けてくれたのは長田君とヒーローである。
エールは礼を言われるほどのことはしてなかった。
「エール、ボクを庇ってくれたでしょ? す、すごく痛そうだったのに、もっと酷い事されそうになってて、ボク体、動かせなくって」
そういってまたぽろぽろと泣き出す。
レリコフはエールが気にしていないのだから心配させてはいけないと冒険中はなんとか明るくしようと努めていた。
しかしクリームから責められたことであの時の記憶が思い返される。
元はと言えば自分が警戒を怠り捕まったせい、そして東ヘルマンのそもそも狙いはシーラの娘である自分である。
そのせいで本来関係のないエールに何かあったらと思うと恐怖が蘇ってきた。
「うえぇぇん………」
エールは小さく震えて泣いているレリコフを抱きしめると、お互い無事で良かった、とその頭を優しくぽんぽんと撫でた。
元気いっぱいに笑うレリコフが好きだから泣いて欲しくない、と話しかける。
「エールがあいつらに酷い事されそうだった時、ボクすごく怖かったんだ…」
エールとしても蹴られたのはともかく体におぞましい感触が走ったのを思い出すと気持ちが悪く、あんな目にあうのは二度とごめんだった。
シーウィードで触られた時は気持ちが良かったのにな、とエールがぽろっと漏らすとレリコフが涙を引っ込めて驚いた。
「え、ええ!? あっ、そういえばエールってシーウィードで触られてたこととかあったけどあれ、気持ち良かったんだ……?」
レリコフが考えているのは魔王討伐での冒険の事である。
エールはリーザスでの事は胸の内に秘めておこうと思っていたので誤魔化しつつ頷いた。
レリコフは顔を真っ赤にして、エールの胸に顔をうずめた。
「エールは大人だよねえ。なんか良い匂いがする……」
レリコフは頭撫でられるの好きだよね、と聞く。
「うん!わしゃわしゃーってされると楽しいし嬉しいんだけどね。でも何だかたまに胸が締め付けられて、何かがみゃーっと込み上げてくるんだ……エールはこういう経験ってある?」
エールはリーザスでのオノハやシーウィードでの一件を思い出したのだが、もう一つあった。
前の冒険でのシーウィードでレリコフと一緒にアームズと黒髪の女性、つまり日光の儀式を盗み聞きした時だ。
今思うとあれを盗み聞きしていたのがばれたら日光に怒られてしまう、とエールは思った。
「あ……そうだったね、あれはエールとボクの秘密だったっけ」
レリコフはそれを思い出して笑顔を浮かべている。
それが気持ちがいいって事なんじゃないだろうか、とエールが答える。
「そうなのかな? でもあの時はボクは触られたわけじゃないんだけど…」
むにっ
エールは服の上からレリコフの胸を触ってみる。
「ふにゃ…!? な、なにするの?」
気持ち良いだろうか、とエールはむにむにと撫でるように触った。
「だ、ダメだよ!エールのえっち……」
前の闘神大会でもこの前の模擬戦でも勝ったのに何にもしてなかった、とエールが言った。、
「えっと、一日自由にだっけ……えっと、ならボク我慢すればいいのかな……」
大人しくなったレリコフに今度は軽く揉むようにむにむにと触った。
「んっ……んんっ……なんだか変な感じ……」
レリコフがエールの腕をぎゅっと握った。
「なんかお腹の奥がズキズキしてムズムズする……」
感じているような可愛い声を出すようになったので、エールはさすがにやりすぎたと手を離して謝った。
「あっ………もうおしまい?」
レリコフが瞳は潤ませながら離れてしまったエールの手を名残惜しそうに見つめると、ねだるようにエールの腕を掴む力を強めた。
ならもう少しだけと、エールが続けてレリコフの胸に触る。
ついでに自分の胸を触って比べてみると、身長はエールの方がだいぶ高いのだがやはりレリコフの方がやや大きいような気がしてエールは少し落ち込んだ。
ホ・ラガのところで長田君が余計な事さえ言わなければ巨乳になる方法を聞けたかもしれないと、この場にいないソウルフレンドのハニーのことを考える。
そういえばシーラも大きかった。胸のサイズは遺伝なのか、自分の母であるクルックーはどうだったかなと頭の中をぐるぐるとさせる。
シーラから見せて貰った写真の中のクルックーやチルディもエールよりもさらに小柄だったのだから自分にも希望はあるはずだ。
エールがそんな考え事をしながらレリコフの胸を揉んでいると敏感な部分に触れたのか
「ひゃん!」
そういう甲高い声がして、その拍子にボキッといい音がした。
掴んでいたレリコフの手に力が入り、エールは片腕を折られてしまった。
「わー! エール、ごめん! 大丈夫!?」
エールは痛みで悶絶しつつ、急いでヒーリングをかけた。
ぱたぱたと慌てて謝っているレリコフに元はと言えばセクハラしてしまった自分が悪いとエールも謝る。
数年したら男がわんさか寄ってくるようになるだろうが、とりあえずこれだけ力があればそこらの男にレリコフが何かをされる心配はなさそうだ、とエールは一人で頷いた。
「にーちゃんみたいなこと言うんだから。ボクにそういうのはまだ早いよー」
レリコフは赤くなって布団にもぐった。
エールも手当てを終えて一緒に布団に入り、二人はそのまま眠りにつく。
「エールが男の子だったら……」
レリコフは横で眠っているエールにそんなことをつぶやいていた。
………
……
朝になり。エールと長田君はヘルマンを出発する準備を整えた。
別れ際、見送りに来たレリコフとヒーローは泣きそうな顔をしている。
「おーい、泣くなよー! 俺も寂しくなるじゃんかー!」
長田君もつられて泣きそうになっている。
「ほら、二人とも泣かないでしっかり見送りしてあげて」
東ヘルマンのことで忙しい中、日光を持ってきてくれたシーラが代表してエール達を見送ってくれることになった。
しかしその顔からは仕事疲れしている様子がうかがえる。
色々とありがとうございました、とエールと長田君はしっかり頭を下げた。
「こちらこそお仕事と、それに二人と遊んでくれてありがとう。次来るときはもっとゆっくり出来るように……」
シーラは少し話し辛そうだった。
東ヘルマンのことを解決しないとゆっくりできないが、それがまた難題である。
「次はマルグリット迷宮行こうな!」
「うん! またね、長田にーちゃん、エールねーちゃん!」
エールはヒーローの鼻を軽く掴んだ。
ふりふりと顔を振るが、くすぐったそうに喜ぶ様子はとても可愛い。
「エール、長田君。またヘルマンに遊びに来てね!」
レリコフは泣きそうなのをこらえてエールにぎゅっと抱きついた。
エールがまたねと言いながら頭をわしゃわしゃと撫でると、再会した時のように無邪気に笑っている。
横ではヒーローに抱きつかれて長田君が割れていた。
ヘルマン家訓にハニーも割らないように追加しておいてね、とエールが笑った。
レリコフがヒーローの肩にのって、姿が見えなくなるまで大きく手を振っているのが見える。
エールと長田君も何度も振り返りながら手を大きく振り返した。
次に向かうのはペンシルカウ、そしてゼスである。
エールはレリコフにいっぱい甘えられたので、今度は誰かに甘えたい気分だった。
リセットとスシヌ、姉二人に会ったら少し甘えてみよう。
気候は寒いが澄んだ空気の中、エール達は次なる目的地へ出発した。