道中 ペンシルカウ 1
ヘルマンとゼスの間にある広大な森。
魔王城のあった翔竜山を囲むように広がったその森はクリスタルの森とも呼ばれている。
この森のどこかにその呼ばれ方の通り、カラーが暮らしているという幻の村ペンシルカウがあるという。
エールと長田君の二人は森の入り口に到着した。
「っはー、緊張してきた! エール、紹介状はあるな?」
エールはパステルから貰った手紙を荷物から取り出して見せた。
「よーし! 幻の村! 美人揃いのカラーの村! ペンシルカウにいざゆかーん!」
いつになくテンションの高い長田君が早足で森の中に入っていく。
ヘルマンでは何日も冒険してしまったが、リセットはいるだろうか?
姉に会ったら小さい体を持ち上げよう。小さい手で頭も撫でて貰いたい。頭にみかんを乗せて、耳を引っ張って悪戯もしたい。
久しぶりに姉に会えるという期待もあってエールも飛び跳ねるように足取り軽く長田君を追いかけて行った。
………
……
「迷ったー!」
森に入って進むとすぐに辺りは暗くなっていった。深い森はクリスタルの森という名称とは裏腹にどこか不気味で、同じような風景に惑わされあっという間に方角を失う。
「てか、カラーのお姉さん全然いないじゃん!? モンスターばっか!」
長田君の中では森に入ったらすぐにカラーがやってきて招待状を見せて村まで案内してもらう、とスムーズに行ける予定だった。
しかし森の中で出会うのは魔物ばかりで、中には翔竜山から流れてきたのか危険な魔物も混ざっている。一般人や生半可な冒険者が迷い込めば一日持たずに骨になる事だろう。
エール達は襲ってくる魔物を返り討ちにしつつ、少し開けた場所で倒れた木を椅子代わりに休憩することにした。
帰り木を使えば戻れるとはいえこのまま当てもなく広大な森をさまよい続けるわけにもいかない。
「カラーの暮らしてる森っていうからもっと綺麗なとこ想像してたけどなんか薄暗いし、魔物は強いし、森の奥からなんか飛び出してきそうで……」
長田君は怯えていた。
持ってきたお弁当を二人で食べつつ、少し視線を空に向けると翔竜山が見える。
「懐かしいなぁ、魔王討伐の旅とかほんっと大変だったよな~」
しみじみと言う長田君にエールも頷いた。
あの山ではいろいろなことがあった。魔人を倒し、父である魔王に挑み、魔王の血と戦ったのが遠い昔のことのようだ。
「ん? あれって焚火の煙じゃね?」
長田君が示した方向を見ると、確かにうっすらと細い煙が立ち上っているのが見えた。
大きさからしてそう遠くない場所だろう。
もしかしたらカラーのお姉さんがいるかもしれない、エール達は急いで弁当を平らげるとそちらに向かって歩き出した。
「……エール、あれ見て。 誰かいる」
エール達が焚火の方へ向かうとそこには10人ぐらいだろうか、男達がキャンプをしているのが見えた。
全員がきっちりと武装しており、この魔物の多い森で平然としている様子からただの盗賊山賊の類ではなくある程度のレベルの高い戦い慣れた者であることが伺える。そして手に持っているのはロープに接着剤といった捕獲道具だ。
「あれ、捕獲ロープ? ってことは、もしかしてあいつらカラーハンターってやつじゃね?」
カラーハンター、カラーの額にあるクリスタルを狙う者たちの総称だ。カラーのクリスタルは膨大な魔力を秘めた宝石で、売れば一人が一生遊んで暮らせるぐらいの金になる。
そのため一攫千金を狙いカラーを捕獲しようとしている者は後を絶たなかった。
「当たり前だけど、今はカラーハンターなんていったらどの大国でも即牢屋行きだからな。 クリスタルを取引したってだけでもけっこうでかい罪になるんだぜ」
エールは長田君の説明を感心しつつ聞いていた。
長田君が話す通り、カラーハンターがいたのはエールが生まれる前の話。
現在はカラーのクリスタルの取引は各主要国家がカラーの上層部と直接する特例を除き、世界中で禁止され厳しく取り締まられている。
それはもちろんシャングリラにいるリセット達の努力の賜物であった。
エールがそのまま男達を観察していると、一人のカラーの娘が肩に担ぎ上げられて連れてこられたのが見えた。
「お、男に犯されるなんていやー…」
酷く怯えた様子で涙を浮かべている。
「エール、大変だ! あのカラーのお姉さん、助けないと!」
声を潜めて慌てる長田君を横にエールは男達の方をじっと見つめた。
腕を後ろで縛られ、ぽいっと地面に投げ下ろされたカラーの娘はまるで物扱いである。
「でもあいつらなんか強そうだよな? カラーの人の応援呼ぶとか出来れば…… で、でも今すぐ助けないとあの人がクリスタル抜かれて殺されちゃうよな!? どどど、どうしよう!」
ケーちゃんの時はあっさり見捨てようかと言った長田君も、捕まっているのがカラーの娘だと話は別なのか一人で飛び跳ね焦っていた。
「あっ、今のエールなら強いし人数はそんなでもないし案外いけるんじゃね?」
そういって長田君がエールを見た。
違法ハンターという職業柄レベルも低くはないだろうが、エールも一時期よりは大分弱くなってしまったとはいえあれから修行もして冒険をして、順調にレベルも戻っている。
しかし自分は強いという慢心がある意味でヘルマンで不覚を取らせてしまった。
今回もカラーの娘を盾にされたら手が出せなくなる、そう考えればここは慎重に行動するべき、とエールは頭を働かせた。
少し悩んで相手の立ち位置をしっかりと確認するとエールは長田君に上手く奴らの気を引いて欲しい、と言った。
「気を引くって…… ちょっと怖いけど、分かった。 俺も男だしやってやるぜ! 相手強そうだしエールも十分注意しろよな!」
エールは頷くと日光をいつでも抜けるように構えながらこっそりと男たちの背後へ回った。
「……やーっと一匹捕まえられたぜ。向こうさんが随分警戒してかなり時間かかったが、これで他のカラーもおびき出せるな」
「しかし手を出すなってのは何なんだよ。どうせ後で犯して殺すなら今やっちまっても―」
カラーの娘がそれを聞きびくっと体を震わせた。
「いやっ……触らないで……」
「バカ。クリスタルが赤くねーと人質にならねーだろうが。それは後のお楽しみ、こいつ一人だけじゃ全員楽しむのも大変だしな」
エールが気配を消しながら男たちのキャンプの後ろ手に回るとそんな風に話し合う男達の声が聞こえてきた。
いやらしく顔を歪めている様子が容易に想像でき眉をひそめるが、とりあえず気を落ち着かせて草むらに潜んでおく。
「あのお優しい魔王の子は絶対に人質を助けに来る。捕まえたら懸賞金がたんまりだ。他のカラーも合わせれば一体いくらになるか…」
「へへへ……俺、シャングリラのアイドルっての最後に見たのもう10年前なんだよなぁ」
「ちっとも変ってねーぞ。でも護衛のカラーがすげーいい女で……」
魔王の子とは間違いなくリセットのことだ。
内容を聞くとカラーの娘を人質にリセットや他のカラーをおびき寄せるつもりなのだろう。懸賞金と言う言葉もあって、エールは怒りに目を剥いて日光に手をかけた。
「エールさん、落ち着いてください。 長田君に合わせるのでしょう?」
殺気を漂わせたエールを日光が宥める。
「クリスタルを裏で取引をしている商人がいるはずです。全員倒すのではなく生かして捕えた方が良いかと。元を絶たなければ、ああいう輩は消えません」
日光の冷静な言葉にエールは大きく深呼吸をして頷いた。とりあえずまずはカラーの娘を助けることが大事、何かあれば悲しむのはリセットだ。
「やいやいやい! お前ら、ここで何してるんだ―!」
エール達が背後に回ってスタンバイしたのを確認し、長田君が意を決したように草むらから飛び出し男達の前に立ちはだかった。
距離はかなり離れているが、いきなり現れて何事かを言い出したハニーに男たちが注目する。
「あ? そりゃ、ここにくる目的なんか一つしかない…ってなんだ、妙なハニーだな」
「カラーじゃねーのかよ。期待させやがって」
そう言っているがカツラをかぶりチャラい恰好をしたイケメンハニーは現れるだけで目を引いた。
さすが長田君だとエールは心の中で親指を立てる。
「クリスタル狩りはもう何年も前に全世界で禁じられてるんだぞー!」
「だからこそ良い金になるんじゃねぇか」
静かな森に長田君の声が響き、男が馬鹿にしたように吐き捨てる。
「そういうことすると後で酷い目にあうんだぞ! 俺だって許さないからなー!」
「おい、あの鬱陶しいハニー。誰か叩き割ってこい」
そう言って男たちが武器を手に取って睨みながら歩き出すと
「きゃー!」
長田君はぴゅーっと逃げ出した。言っていることは立派だったが、やはり長田君は長田君である。
しかし何人かが長田君の方を追いかけ気を取られた隙にエールはすっと草むらから飛び出してカラーの娘の近くにいた男を背中から突き刺した。
「ぐあっ!」
返す刀でもう一人を始末する。
さくっと暗殺気分だったが声を出されたことを考えると狙うのは首の方が良かっただろうか、とエールは今度ウズメに聞いてみようと思った。
「な、なんだ? どうした!?」
「え? え? え?」
どさりと倒れる音を聞いて振り向けば、刀を持った少女が立っていた。
自らを庇う様に立ち塞がった少女にカラーの娘も状況がつかめず目を点にしている。
「は……子供? 女?」
明らかに強そうには見えないエールに油断をしたのが運の尽きだった。
不用意に近づいた男はそのまま真っ二つになる。
「なんだこいつ!?」
残された男達が一斉に臨戦態勢をとるが、その間にもエールから放たれた大魔法により軽々と吹き飛ばされていく。
「てめぇ、不意打ちとは卑怯だぞ!」
人質を取ってカラーを捕まえ、犯してクリスタルを抜こうなどと考えている鬼畜な連中に言われる筋合いはない。
そうでなくともカラーの敵は姉の敵、つまりエールの敵である。何を言われても容赦などない。
「よーし、やっちまえ! エール!」
戻ってきた長田君がちょっと離れたところで踊りつつ応援していた。
エールは反撃してきた男達の剣を受け止める。素早くそれなりに重いがそれでもリーザスの死神の一撃には遠く及ばない。
男達は数名不意打ちで片づけたものの、まだ数はいる。うまく連携をあわせてくる相手の攻撃をいなし、防ぎ、躱し、時に回復しながらエールは上手く立ち回りながら戦った。
ちょこまかと動いては、強力な魔法に剣技、さらに回復まで駆使して戦うエールはたった一人なのに男達にとって化物のように強かった。
「この妙なハニー、てめぇの仲間だな!」
「きゃー!」
劣勢になった男は踊ってた長田君を捕まえその首筋にナイフを押し当て人質に取った。
「こいつを殺されたくなきゃ、武器を下ろして―」
エールは素早く手近にあった石を掴んで長田君に投げた。
「あんっ!」
石はクリーンヒット、長田君は粉々になった。
「な、ちょ、えええ!?」
男があまりの事に驚いている隙に、エールは一気に間合いを詰めて切り裂いた。
ざくざく。
エールはいつもより念入りに切り刻んでおく。
「お前!こいつの仲間じゃないのか!?」
それに答えず、魔法と剣を巧みに操りながらエールはざくざくと男達を全滅させる。
……が、全滅させたらいけないことを思い出しかろうじて息をしている何人かにヒーリングをかけて縛っておくことにした。
「ちょっと、エール! お前、もっと葛藤みたいなのあってもいいんじゃねーの!?」
長田君も無事で良かった、とエールが笑顔でセロテープを渡しながら言ったが治った長田君はぺしぺしとエールを叩いた。
長田君ははっとしてそんなことをしてる場合ではないとばかりにカラーの娘の拘束を解き、エールもヒーリングをかけるとそのカラーは頭を下げた。
「お姉さん、大丈夫?」
「あ、ありがとうございます。 あの人たち、すごく強かったのに…」
「俺のソウルフレンドもすっげー強いんで! 向かうところ敵なしっつーか? あんなのちょちょいのちょいよー」
得意げな長田君にそう言われ、エールは自分の手を見つめた。
手練れのように見えた連中だったが、不意打ちしたとはいえ苦も無く倒すことが出来た。
魔王退治の時とまではいかないだろうが勘もレベルもだいぶ取り戻せているようで一人自信に満ちた笑顔を浮かべた。
「でもあなた達、人間とハニー? 私達を捕えにきたんじゃ…」
「俺らはカラーの味方っすよ!」
エールも大きく頷くがカラーの娘はまだ怯えているのか、信じられないという目でエール達を見ている。
「ちょっと、エール。何してんの?」
エールがごそごそと男達の荷物を漁っていた。探しているのはリセット達を狙っていた理由……懸賞金とやらの手がかりがあればと思ったからである。
ついでに金目の物を見つけるたびに懐に放り込んでおく。
「お前、なんか追い剥ぎみたいだな」
長田君がそんなエールを少し呆れて見ていると、ひゅっ…と頭上から風を切るような音がした。
エール達が音の通った方向を見るとそこには一本の矢が刺さっている。
「そこの人間、止まれ! ルリッカ、無事だったの!?」
「あっ、カラーのお姉さんだ! おーい! って、ひっ!」
長田君が喜んで近づこうとしたところ、今度は足元に矢が刺さった。
エールの方は二射目、三射目を日光で弾く。
「ここは我らカラーの森。人間が侵入して良い場所ではないわ!」
森の奥からそんな声と共にギリギリと弓を引き絞る音がする。姿は現さないが、幾重もの弓がまっすぐにエール達を狙っているようだった。
「わわわ、待ってー! エールも日光さんしまって!」
長田君がそう言って、抵抗の意思はないとばかりに手を挙げた。エールも同じように手を挙げ、ルリッカと呼ばれたカラーの娘をちらっと見つめた。
「みんな、待って! この人達は私を助けてくれたの!」
その言葉を聞いて姿を現したのはカラーの森警備隊の面々である。
ルリッカはその方に走り寄って行き、何事かを説明していた。
「生きている連中は尋問するわ。縛り上げて連れていって」
そう命令が飛ぶと警備隊のカラー達は床に転がっている男達を縛り上げどこかへ運んでいく。
「あなた達はカラーハンターの仲間じゃないってことね。どうしてここにいるのかは分からないけど今回は見逃してあげるわ」
上から目線で話すカラーにエールは仲間を助けた礼ぐらいはあってもいいんじゃないか、と口を尖らせた。
「命があるだけありがたいと思いなさい」
「あ、あのー! 俺達、シャングリラにいるカラーの女王パステルさんから紹介状預かってんですけど。 あとこいつリセットさんの妹なんですよ~」
どうも敵意をぶつけてくるカラーに長田君がそう言って、エールの方に目くばせをした。
目くばせを受けて荷物から手紙を取り出そうとする。
「手を下げない! あなたがリセット様の妹なわけないでしょ! やっぱり何か企んで――」
それが武器に手をかけるように見えた警備隊のカラーは眉を吊り上げ手に持った弓に力を込めた。
エールが仕方なく日光を抜くことも考えていると
「待て! みんな武器を下すんだ」
後ろからすっと現れたのはエール達にも見覚えのあるカラーだった。
「エールと、そこのハニーは長田君だったか。 私を覚えているだろうか?」
「そりゃもう! 綺麗な人は忘れないっすよー!」
カラーの中でも一際美しく凛とした騎士のような雰囲気を纏ったカラー。
シャングリラの警備隊長でありリセットの護衛についていったというイージス・カラーである。
「その通りだ。久しぶりだな」
「隊長のお知り合いですか?」
「彼女はエール・モフスと言ってリセット様達と魔王を倒した人間。 そしてリセット様の妹でもある」
イージスが手短にエール達を紹介した。
「すまない。ルリッカが攫われたと聞いて気が立っていたのかすぐに気が付かなかった。この者たちはクリスタルを狙うような人間ばかりを相手していて警戒心が強いんだ、許して欲しい」
エールの名前を聞いて警備隊の面々は驚いたように武器を下ろした。
「この女の子がリセット様がよく話していらしたあのエール様なんですか?」
「エール様って魔王を討伐したっていう魔王の子たちのリーダーよね。 隊長みたいにカッコいい人だと思ってた」
「ええ、男の人じゃなかったの!? 憧れてたのにー…」
イージスの言葉に警戒心は解かれたようで、警備隊の面々は顔を見合わせ年頃の娘たちのようにきゃあきゃあと騒ぎ始めている。
「俺もいるぞー!」
長田君の存在はほとんど無視されているようだ。
「ですが本当にあのエール様なんですか? 隊長もお会いしたことはほとんどないはずじゃ……」
疑り深いカラーの一人がイージスにそう言いかける。
「世界に二振りしかない魔人が切れる刀、日光を持っているのが何よりの証拠だ。 お前たちも聞いたことがあるだろう」
「なんか日光さん、ホント証明書代わりにいいっすねー、さすが聖刀っつーか」
長田君がそう言って褒めるとエールもそれに続き、さすが日光さんと言って手を小さくぱちぱちと叩いた。
「…それでお役に立てるのならば。 彼女はエール・モフス。私、聖刀・日光のオーナーです。イージスさんもお久しぶりですね」
「本当だ、刀が喋ってる…… ごめんなさい。失礼なことをしてしまって」
そのカラーが頭を下げると、エールは少し得意げにしつつ気にしないで欲しいと言った。
「エールにはルリッカが救われたようだな。 重ねて感謝しよう」
「ありがとうございました、エール様」
ルリッカがエールに改めて頭を下げる。
「私達もあいつらには手を焼いてたのにエール様って強いのね」
「女の子だけど何となく昔のランス様を思い出さない?」
エールが少し気恥ずかしそうに手を振ると、キャーキャーとカラーたちが騒ぎだした。
「俺もいるぞー!」
声を上げるもほぼ無視されている様子を哀れに思ったのか、こっちの長田君も割られてまで囮になってくれたとエールが紹介した。割ったのはエールなのだが。
「そうか。長田君もありがとう」
「へ、へへー、まぁ、俺も魔王退治に行ったし? こんなの大したことないっすよー!」
礼を言われた長田君はとたんにデレデレとしだした。イージスは美しいだけではなく巨乳、長田君にとって大変好みストライクの容姿の持ち主である。
エールは長田君を割った。本日二度目である。
「しかし、こんな森にまで何をしに?」
イージスの問いにエールはリセットに会いに来た、と言った。
「…ふっ、ここまで追いかけて来るほど会いたかったのか?」
イージスが微笑ましいものを見るように笑うと、エールは大きく頷いた。
「いや、俺達ペンシルカウ見学しに来たんだぞ!? 忘れんなよなー!」
エールもペンシルカウに行くのは楽しみではあるものの、リセットに会えることに比べればおまけでしかなかった。
「しかし残念だがリセットはもうここにはいないんだ。 私は森の警備の事で少し残っていたのだが……」
エールはリセットがいないと聞いた瞬間、ショックを受けた表情をして顔を伏せた。
「そう落ち込まないでくれ。 ここで立ち話するのも何だ、村に案内しよう。お前達なら危険はないからな」
そう言ってイージスがエール達を村に招いてくれることになった。
イージスが警備隊に立ち去る合図をすると、警備隊はすでに男達のキャンプを綺麗に片づけていた。
「あれ、もしかしてパステルさんの紹介状いらなかったんじゃね?」
長田君にそう言われて、エールは紹介状を荷物から取り出して見つめた。
結局必要なくなってしまった辺りあのパステルさんの手紙らしい……何となく哀れに思ったエールは紹介状をイージスに出来るだけ恭しく手渡した。
「パステル様の紹介状だと?」
「何が書いてあるんすかね?」
AL教法王の娘エール・モフス、およびそれにくっついているハニーの両名。
この者達がペンシルカウへ入りたいと言ってきた。本来であれば断固として承服しかねることだが、この娘の両親は前科があり、放っておけば無理にペンシルカウに侵入を試み、最悪森を燃やすかもしれぬゆえ一度だけペンシルカウ内へ入ることを許す。適当に中を見学させた後、早々に追い返す様に。
その間、くれぐれも目を離さずしっかりと監視を怠らない事。何かあれば呪うことを許す。
イージスが手紙を見ると、それは言葉の節々からいやいやながら書いたというのが伝わりとても招待状と言える物ではなかった。
「大したことではないよ、確かに受け取った。 私の後について来て欲しい」
イージスは手紙の中身を話すことはなく、エール達を村へ案内した。
「っひゃー、ありがとうございます。イージスさん、クールでかっけーよなー! おっぱいもでかいし!」
エールはリセットが居ないと聞いて、長田君を割る元気も出ないほど露骨に肩を落としていた。
「まあまあ、そう気を落とすなって!、これで無事に幻のカラーの村、ペンシルカウ… 本来ならカラー以外絶対入れないようなとこだぞ? ほら、気合入れていくぞー!」
テンションを高くした長田君はエールの手をぐいぐいと引っ張っていった。