エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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ゼス四天王と味方殺し

 クリスタルの森を出て、パリティオランから南へ。

 エール達はゼス国内を進んでいた。

 

「ゼスは飯美味くていいよなー」

 長田君が言う通り、首都まで歩く道中ではどの町でも美味しい食事にありつくことが出来た。

 エール達にとって各国での食事はすっかり冒険の楽しみの一つとなっている。

 首都から東にあるイタリアにはカレーマカロロという名物があることや、ゼス南方のオールドゼスに「サクラ&パスタ」という有名なレストランがあるという話を聞く。親子二代でやっているというそのレストランははかつて魔人の舌まで唸らせた、という凄腕の料理人がいるという。

「一般人はとても行けない超高級店らしいけど、ゼス王家の人に頼んだらそこ奢ってくれねーかな? なんたって俺達、魔王討伐したんだし?」

 カラーにちやほやされたせいで気が大きくなってるのか、そんなずうずうしい事を言っている長田君にエールも大きく頷いた。

 リーザスで稼いだ路銀も目減りしてきたところ。ゼスでも割の良い仕事を紹介してもらいたいね、とエールも大分厚かましいことを言っている。

 

 温暖な気候で出くわす魔物も大したことはなく、旅はとにかく順調だった。

 

………

 

 そうしてエール達はゼス王国首都マジックに到着した。

 

「相変わらずでっかい王宮だな。 さっさと行こうぜー! んで、なんか美味いもんでも食わせてもらおう」

 そう言って長田君が首都に足を踏み入れると、エール達を見た警備隊がわらわらと近づいてきた。

「おっ、もしかして俺達が来るの知ってて出迎えかな? ごくろーさーん!」

 長田君がのんきに手を振ったのだが…

「そこのハニー! 大人しく我々について来てもらおう!」

 そう言ってゼス国の警備隊に取り囲まれてしまった。

 魔法大国では珍しい戦士タイプの警備兵達である。

 

 囲まれた長田君に一体何をしたの、とエールが真顔で尋ねる。

「ちょ。ちょ、ちょ! 待って、待って! 俺、何にもしてなーい!」

 ぶんぶんと体を振って抵抗しようとしている長田君にエールは疑いのまなざしを向ける。

「本当だって! てか、ずっと一緒に居ただろー!」

 ゼスは温暖な気候のせいか、薄着の人が多い。それにつられて胸の大きい人をギンギンと視姦したとかじゃないだろうか、とエールは分析する。

「そんなんで捕まるの!?」

 冗談はさておき、エールもさすがにそれはないと思っていた。もしそうならゼスに長田君の居場所はないだろう。

 冷静に考えてゼスは魔法大国ゆえに魔法が効かないハニーへの差別が考えられる。しかし前に訪れた際はハニーと言うだけでいきなり逮捕されるほど酷くはなかったはずだ。

 

 一体長田君が何をしたのか、とエールは警備隊の人に尋ねる。

「君はハニーではないようだが何者かね?」

 質問を質問で返されたが、このハニーの相棒で一緒に旅をしている仲間、と答えた。

「そうそう、エールは俺のソウルフレンドで……」

「人間のように見えるがお前もハニーの仲間と言うわけか? 怪しいな、一緒に来てもらおう」

 そう言われ、エールも取り囲まれることになってしまった。

 見たところ大した連中ではなく抵抗するのは簡単そうだが、ここで問題を起こしてはマジック女王やスシヌの迷惑になってしまうかもしれない。

 エールは自分がゼス王女であるスシヌの妹である、ということを話してみる。

「はぁ? 嘘をつくならもっとマシな嘘をつくんだな」

 案の定、全く信じて貰えなかった。

「ホントだってー! マジック女王に話通してくれよー!」

「エールさん、ここは私が…」

 聖刀・日光が交渉しようとしたところである。

「武器は没収する! 他に何も持ってないだろうな!」

 男が日光をエールから引き剥がし、エールの腕を乱暴に捻りながら縄を回そうとした。

 

 ふわっと男が宙に浮いた。

「え…?」

 

 そのままドサリと地面に放り出される。

 エールが男を反射的に投げ飛ばし、日光をさっと回収していた。

「な、なんだと!?」

 軽々と飛ばされた仲間を見ながら警備隊が声を上げた。

 日光さんに触るな、とエールが頬を膨らませた。

「このガキ!」

 武器を振り上げた警備隊の男を鞘に入れたままの日光で殴りつけ、気絶させた。

「魔法兵を呼んでくれ!」

「ちょ、ちょっと、エール! ダメだって! この人達、盗賊とかじゃないんだぞ!」

 分かっているが、悪い事も何もしてないのに逮捕され、ましてや日光を没収されるいわれはない。

 エールはヘルマンの一件でかなり疑り深くなっており、これが何かの罠であることも考えていた。

「大人しくしろ!」

 エールは掴みかかってきた警備兵の男を打ち倒すとそのまま応戦することになってしまった。マジック女王やスシヌに迷惑がかかるというのはもはや頭から抜けていて、殺さないように手加減しつつ警備兵を蹴散らしていった。

「見た目と違って強いぞ! 応援を呼べ!」

 警笛が高らかに鳴らされると、何事かと辺りがざわつきわらわらと本格的に警備隊が集まってくる。エールはそれに怯えるようなことはないがさすがに数が多いな、とその光景に頬をかいた。

「エール、何大ごとにしてんだよ~!」

「エールさん、ここは大人しくした方が……」

 エールは二人に首を横に振った。万が一、東ヘルマンの手先だった場合はそのまま殺されてしまうことも考えられる、と最悪の事態を想定して頭を働かせている。

 とにかく話の分かる人に会わなければならないと、エールは半泣き状態の長田君を連れて王宮の方へ向かうことにした。

 

 ゼスでの知り合いはスシヌとマジック女王ぐらいで王宮にしか知り合いがいない。

 エールはたまに飛んでくる魔法を長田君を盾にガードしながら走りだした。

 つまり強行突破だ。

 

「うわーん! なんでこんなことになってんのー!?」

 

「王宮に向かってるぞ! 至急、応援を!」

 

 首都はちょっとした騒ぎとなった。

                                      

………

                                      

「止まりなさい!」

 

 王宮に向かって走っているエール達の前を車いすに乗った女性が塞いだ。さらに周りを幾人もの警備隊が固めていて魔法の構えをとっている。

 また背後や脇道もいつの間にか警備隊に塞がれているのが見えた。

 辺りの建物上部にまで警備隊の姿があり、まるでエール達がそこに来るのが分かっていたかのように包囲されていた。

「どうなってんの!? これが本当の八方塞がりってやつ!?」

 上手い事を言った長田君にエールが首を横に振った。

 出来るだけ警備兵と戦うことが無い様に走っていたはずなのだが、それを見透かされていたのかまるでこの場に追い立てられたかのような周到ぶりである。しかし、囲まれているならば穴をあければいいだけのこと、と言いながら長田君を魔法の盾にする構えを取る。

「確かに俺、ハニーで魔法効かないけど! そうやって盾にされんのイヤなんだけどー!?」

 

「あなた達は何者です? 一体、何が目的ですか?」

 その女性はエールに真っすぐにボウガンを向けながら言った。

 さすがにボウガンは長田君では防げない。

 姉に会いに来ただけだ、とエールが答える。

「お姉さん、ですか?」

 その女性は車いすに乗っているため動きは大したことないはずで、戦ったらエールが負けることはないだろう。

 しかしその目は鋭く厳しく妙な迫力がありエール達は思わず後ずさった。

 仕方ないとばかりにエールが日光を抜こうとすると…

「ウルザさん!」

 日光が声を上げた。

 

「その声、いえ、その刀は…」

「お久し振りです。 彼女はエール・モフス。私、聖刀日光のオーナーにしてゼス国のスシヌ王女の妹君です」

 車いすに乗った女性……ウルザは日光の話を聞いて驚きつつ手のボウガンを下げた。

 周りにもさっと手で合図し、魔法の構えを解かせる。

「え? この人、日光さんの知り合い?」

「本物……エールという名前…… いえ、なぜ暴れていたのですか?」

 しかし警戒を解かせてもエール達を見つめる瞳は依然厳しいままだった。

 身に覚えもないのにいきなり乱暴に逮捕されかかったから、とエールが目を逸らしながら答える。

 見つめているとすごく叱られているような気分になるウルザの目がどうも苦手だった。

「何か行き違いがあったようですね」

 そっちが悪いんだ、と言わんばかりに拗ねているエールをウルザはじっと見つめた。

「申し訳ありませんが話をする前に、大人しくしていただきます」

 ウルザがさっと手を上げると、警備隊がエール達を取り囲んだ。

「捕えてください。ですが先ほど聞こえた通り、彼女はスシヌ王女の妹君です。扱いは丁重に、武器も没収はしないように。 彼女は私が王宮へ連れて行きます」

 エール達は再度警備隊に取り囲まれた。

「エールさん、ここはウルザさんを信用して下さい」

 そう日光に言われると頷くしかない、エールは大人しくすることにした。

 

「こちらのハニーはどうしますか?」

「手筈通りに。そちらも手荒な真似はしないようにして下さいね」

「うわーん、エールー!」

 長田君は泣きながら連行されていった。

「……安心してください。これには少しばかり事情があるのです。大人しくついて来て下さい」

 素早くエールに近付いたウルザが小声で囁いた。

 近くで見ると綺麗な人だった。

 車いすというハンデを全く感じさせない機敏な動きはどこか優雅でイージスの騎士のような雰囲気とはまた違う、頼りがいのありそうなキリっとした雰囲気がある。

 

 エールの腕には緩い縄がかけられ、警備隊に囲まれながらウルザの後をついて行った。

 

………

 

 案内されたのは懐かしきゼス王宮だった。

 

 王宮内にある一室に案内されると、ウルザはすぐにエールの腕の縄を解いた。

「大変、失礼いたしました。こちらにも面目と言うものがありますから」

 警備隊を一方的に打ち倒し暴れていた者が捕まった、という形にする必要があったそうだ。

 おかげで外の騒ぎはすっかり落ち着いている。

「私の名前はウルザ・プラナアイス。ゼス四天王の一人で国政に携わっております」

 優しい表情で挨拶をしたウルザにエールもAL教法王の娘です、と自己紹介をしつつ乱暴に縄をかけられそうになったことへやや怒りながら苦情を伝える。

「決して手荒な真似はしないよう通達してはいるのですが。指導不足により不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありません。門番兵には改めて指導しておきますのでお許しください」

 ウルザは町でエールが警備兵を怪我をさせてしまった事は責めず、そう言ってただ真摯に頭を下げた。

 あれこれと文句を言ってやろうと思っていたエールだったがその真摯な態度に思わずこちらこそ暴れてすいません、と頭を下げた。

「エールさんのお噂は聞いております。魔王討伐を果たした、魔王の子達のリーダーで英雄と呼ばれて差し支えないご活躍。他にも神魔法が使えるとか、闘神大会で優勝したとか……」

 エールは首を横にぶんぶんと降った。

 魔王討伐は自分だけの手柄ではなく、英雄などと仰々しく褒められるのはむずがゆくなる。

「ご謙遜を」

 少し笑ったウルザの口調はどこかからかうような響きがある。

 

 ウルザが最初町中で暴れていると聞いたときはどんな人物かと警戒したが、スシヌから話に聞いていた通り話せばちゃんと分かる子のようで一安心していた。

 ――今、ゼスでこれ以上の厄介事を抱え込むわけにはいかない。

 

 エールは話を変えて、それよりもなんで自分達を捕まえようとしたのか、長田君はどうしたのか、といくつか質問をぶつけてみる。

「詳しい事情は後程。ですが長田君でしたか。この国に訪れたハニーは一か所に集められ、もてなされています。自由はありませんが今頃美味しいと言われているはに飯でも振舞われていることでしょう」

 捕まえて、もてなす?わけのわからなさにエールは頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。

 それではスシヌに会いに来たのですが、とエールが言うとウルザの目はまた少し真剣なものに変わった。

「その事ですが……一緒にマジック女王に会いに行きましょう」

 

………

 

「う、うぅ……」

 王宮内を案内されていると、どこからかうめき声が聞こえてきた。

「エールさん、そちらは道が違います」

 ウルザの制止も聞かず、エールが気になってうめき声のする方に向かってみると広い室内にまるで戦争があったかのように怪我人が溢れていた。

 医務室に入りきらなかったのだろうか、世色癌の箱が大量に積まれているのも見える。一体何があったのだろうか。

「……幸い死人は出ておりません」

 これもさっき言った事情とか関わる事なのか、ウルザは今はそれだけを語った。

 ヒーリングしましょうか?とエールが言うがウルザは小さくかぶりを振る。

「それよりも先を急ぎましょう。今はまだ薬で間に合いますからお気遣いは…」

 

ボカーン!

 

 ウルザがそう言いかけたのを遮るように大きな爆発音がして怪我人が何人か吹き飛んだ。

 かなりの威力だったようで室内は爆発の煙に包まれ、建物の欠片がぱらぱらと舞う。

「あ、アニス様が出たぞー!」

「うわあああああ! だ、誰かー!」

「助けてくれー! もういやだああー!」

 そして阿鼻叫喚の悲鳴が上がった。

 動くのも辛いであろう怪我人達が真っ青な顔で這いずり我先にとその場から逃げようとしている。

「あんったはなにやってんのよーーーーっ!!」

「せめて薬運ぶのだけでも手伝いをっ! そしたら箱に毛虫がついてましてー!」

 さらに煙の中から女性二人の叫ぶ声が響き渡る。

 

 エールは非常事態を察してそちらに走り寄り吹き飛ばされた人に咄嗟にヒーリングをかけた。

 かなり虫の息だったが、命はなんとか無事なようだ。

 ウルザも車いすを急速前進させて近寄る。

「ありがとうございます! エールさん、そのまま怪我が酷い方だけでもヒーリングを! 救護兵は急いで怪我人を運んで! 警備兵も応援に呼んでください!」

 エールはウルザの指示の下、吹き飛ばされた人々に次から次にヒーリングを施していった。

 

「千鶴子様! なんでアニスさんが脱走してるんですか!」

 ウルザが激しく言い合ってる二人に近付いた。

「はっ、そうでした。こんなことをしている場合じゃないのです! 師匠として弟子を救出しに行かねばっ!」

「あんたのせいで失敗したんでしょーがー!」

「弟子は、私の大事な弟子はどこ行ったんですか!?」

「いいから、大人して! 部屋に戻りなさい!」

「いやです!いくらぺちゃぱい行き遅れオールドミス千鶴子様の命令でもそれは聞けません!」

「結婚は出来ないんじゃなくて、しないだけよー!」

「わーん! 私の、私の弟子はー!?」

 何を思ったのか、アニスと呼ばれた青い髪の女性の手に魔力を込めはじめた。

 目はぐるんぐるんとしていてパニックを起こしているようだが、その手に集められている魔力は周りの誰もに圧倒的に凶悪なものだと感じさせる。 

 

 また魔法が放たれるというところで危険を察知したエールがアニスに向かって鞘のままの日光を振り下ろした。

 しかしそれはボカンと大きな音がしただけで、アニスを包んでいる結界に弾かれる。

「むむ、あなた誰です? 敵ですか?」

「いいえ、彼女はスシヌ王女の…」

「わかりました! あなたも私の弟子を攫ったやつらの仲間ですね! 許しませんよー! とー!」

 アニスの手に集約された魔力が放たれる。

 エールはとっさにそれに大魔法を当てて、間一髪で魔法の軌道を変えた。

 一部弾きそこねてダメージを食らうものの、アニスの魔法が反れた天井には大穴が開きジュウジュウと音がしている。

 直撃していたらダメージでは済まされなかっただろう。

 かつて戦った魔人ホーネットの魔法を凌ぐのではないだろうかと言うその威力に、エールはこの場にハニーである長田君がいればと思わずにはいられなかった。

「むむっ、やりますね! さすが私の弟子を攫ったやつ!」

 エールはとても手加減をしていられないと日光を抜き放つと、再度詠唱に入った隙をつき結界を切り裂いた。

 そのまま懐に入り込むと、驚きバランスを崩したアニスに向かって背負い投げを決める。

「わわーっ!?」

 魔法使いらしく耐久力はなかったようで、痛そうな音と共に地面に叩きつけられたアニスはそのまま気絶した。

「きゅう……」

「アニス確保! 急いでゴブリン部屋に! 見張りも倍に増やして!」

「ははっ! 目を覚ます前に急げっ!」

 ゼスの魔法兵がささっとアニスを運んでいく。

 エールは自分のダメージをヒーリングで癒していると、周りからは歓声が上がった。

 

「おかげで助かったわ… エールさんだったかしら?」

 そう言ってアニスに怒鳴っていた女性がエールの前に進み出た。

 煙が舞っていたこともあり見えにくかったのだが、エールが女性の方を見ると驚きに目を見開こうとして目を手で覆った。

 

 彼女だけ周りから浮いているどころではないほどエキセントリックでサイケデリックでキンキラキンのピッカピカ。

 派手な、の一言で片づけるには足りないその服装の眩しさにエールは思わず一歩下がる。

 

「はじめまして、私はゼス四天王の一人で山田千鶴子です。先ほどは私の……不肖の弟子を止めてくれて助かりました。ですが、もしかしてどこか大怪我でも…」

 目を覆って固まったままのエールに千鶴子が近付きながら心配そうな声をかけた。

「千鶴子様。こちらはAL教法王の娘さんでスシヌ王女の妹君でもあるエール・モフス嬢です」

 ウルザがエールと千鶴子の間に割って入った。

「名前を聞いたときに気が付いたわ。 あの魔王を倒したっていう魔王の子達のリーダー。アニスをさっと止められるとは流石ね。見た目は本当にまだ小さい女の子なのに…」

 山田さん、と目が慣れてきたエールが呼んでみると、

「名字で呼ばれるのは好きではないので、千鶴子と下の名前で呼んでください」

 確かに食べ物みたいな名前だと思いつつ、エールは改めて千鶴子に挨拶をする。少し目が慣れてはきたがウルザの鋭い瞳とは別な意味で目を合わせにくい格好の人だと思った。

 

 スシヌに会いに来ました、とエールは急いで自分の用件を話す。

「……ウルザ。まだ話していないのね」

「ええ、マジック女王から話をしてもらおうと思いまして。それにエールさんなら、魔王を倒したという彼女なら力になってくれるかもと思いまして」

「分かったわ。すぐにマジック女王に謁見できるよう取り計らいます」

 エールは事情を秘密にされてばかりだとちょっと口を尖らせた。

「拗ねないでください。こちらとしても本来であれば王宮外の人に知らせることは出来ない機密事項なのです」

 ウルザの真剣な言葉に、エールもしぶしぶ頷くしかなかった。

 

 

「マジック女王。お客様をお連れしました」

 そこは前にエールが訪れたこともある、女王の執務室だった。

 人がバタバタと動き回っていてあわただしい様子である。

「千鶴子から聞きました。 お久し振りね、エールちゃん。スシヌに会いに来てくれたそうね?」

 マジック女王の顔は最初に会った時よりはるかに憔悴しきっていた。かろうじて女王らしい気品はあるものの目にはクマができていて力がなく、覇気が感じられない。

 

 エールは挨拶をする以前にその様子は一体どうしたんですかと聞かざるを得なかった。

「そんなに心配されるほど顔に出てるかしら」

 エールは大きく頷いた。

 スシヌもすごく心配しているはずだ。

「その事なのだけど。落ち着いて聞いてね ……スシヌは今、王宮に居ません」

 マジックは一呼吸おいた。

「……攫われてしまったの」

 

 スシヌが誘拐された…?エールは大きく目を見開き、口元に手を当てた。

 相手は東ヘルマンですか、と怒気と殺気を漂わせた声色でマジックに詰め寄る。

 それは少女の見た目からは想像できないほどの迫力で、ゼス国女王であり修羅場も潜ったマジックですら思わず後ずさるほどだった。

「落ち着いてください!」

 千鶴子がそう言ってエールをマジックから引き離そうとするが、エールは一歩も引かなかった。

「い、いいえ。スシヌを攫ったのは東ヘルマンではなく……」

 

「全てのハニーの王、ハニーキングです」

  

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