エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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エールとスシヌとハニーキング

「わ……私、ずっとエールちゃんのこと、新年会にも来てなくて連絡もなくて、どうしたのかなってずっと、ずっと心配して…」

 

 スシヌは肩を震わせぽろぽろと涙をこぼしながら言葉を絞り出す。

 エールはそんなスシヌの頭を撫でながら自分もずっと会いたかった、と明るく話しかける。

「う、うん! 会いたかった! えへへ、久しぶりだね…」

 涙を目に浮かべたままだが、口をへにゃっとさせて笑ったスシヌにエールも満面の笑みを返す。

 誘拐されたと聞いてからずっと心配だったが元気そうだ。

 

 そんな姉妹の再会を見ながらゼス王家先祖の幽霊、パセリがニコニコしながら現れた。

「エールちゃん、久しぶりね。でもどうしてここに?」

 エールはスシヌを助けに来た、と言った。

「まぁ。エールちゃんがお迎えに来てくれたのね。良かったわね、スシヌ。眼鏡までかけちゃって、スシヌとお揃いかしら?」

 この眼鏡は長田君のプレゼントです、とエールは眼鏡を上げる仕草をしながら自慢げに答えた。

「エールちゃんがゼスからのお迎え? でも今、私を助けに来たって……どういうことなのかな? 会えたのはすごく嬉しいんだけど……」

 泣き止んだスシヌはエールの言葉が分からないという様子で首をかしげている。

 姉妹の再会で感動したり興奮したり割れたりしているハニー達の中、エールは改めて玉座にどーんと座っているハニーキングの前に進み出た。

 

「はにほー! 僕こそハニーキング! 僕の城までようこそ、会うのは久しぶりだ」

 

 改めて名乗ったハニ-キングのオーラに圧倒されつつも、エールもきちんと挨拶をして頭を下げる。そして素早くゼス王国の使者としてマジック女王から親書を預かっています、と恭しく手紙を差し出した。

「エールちゃん、ハニーキング様と知り合いなんだ。でもうちの…ゼスの使者?」

 スシヌがエールの持っている手紙を見るとゼス王家の紋章の入った封蝋で閉じられており、それが冗談や聞き間違いではないことが分かった。

 

「えっ、キミってゼスの人だったの!?」

 エールを案内してきた門番ハニー達が驚いて騒ぎだした。

「こらー、ゼスの人は通すなって王様に言われてただろ!」

「だってそんなこと言ってなかったよ! だましたなー!」

 エールは首を振った。

 自分は重要な用があると言っただけでありどこの人間かは喋っていないので嘘もついていない、と答える。

「そういえばそうだった…くぅ、ボクとしたことが眼鏡にかまけたばかりに」

「眼鏡もかけてるけど杖も持ってないし服も魔法使いっぽくないし、刀も下げてるからゼスの人とか分かるわけないよ~」

「門番ならちゃんと名前と出身地と目的とあとなんか色々ちゃんと聞かなきゃいけないんだぞ!」

「やっぱりお前に門番ハニーは任せておけないな。 明日からボクと交代ね」

「そんなー!やっと順番回ってきたのにー!」

 今日の門番ハニーは周りのハニーから責められている。

 明日からはまた別の門番ハニーになるのだろう。

 

 そうやってハニー達が騒いでいるのをエールはじっと見つめて何かを思いついたように手をポンと叩くと、一つだけ謝らなきゃいけないことがあった、と言った。

「ん? まだ何かあるの?」

 実はオシャレ眼鏡だったんだ、とエールは眼鏡を外した。

 するとその光景を目にしたハニー達はゼスの使者だと名乗った時とは比べ物にならないほど狼狽し、ざわざわわさわさとしはじめる。

「まさか伊達メガネだっていうのかい!?」

「な、なんだってー! ひどい! 眼鏡っこじゃなかったなんて!」

 伊達眼鏡つけてるだけじゃ眼鏡っ子じゃないのだろうか、とエールは少し疑問に思いつつ外した眼鏡を大事にケースに入れ荷物にしまい込んだ。

 万が一でも壊してしまっては困る。

「エールちゃん。視力悪くなっちゃったわけじゃないんだね」

 エールは頷いた。ハニーキングに会うには眼鏡がいるだろうとアドバイスを受けてかけていただけである。

 スシヌとお揃いになれなくて残念、とエールが話すとスシヌはなぜか顔を赤くした。

「貴重なめがねっこ姉妹だったのに……」

「貴重なメガネっこ百合だったのに……」

 そんなことをぶつぶつと言っているハニーからは怨念めいたものを感じる。

「待て! おしゃれするためのメガネが悪いわけじゃないだろ!」

「いいや! 視力が悪くて眼鏡をかけるという自然な流れに反したものは認めないぞ!」

「全ての女の子にめがねをかけさせるためには妥協も必要なんだ…」

「説明しよう! 眼鏡っこ派閥は天然至上主義や全眼鏡愛護派、委員長原理主義など細かく別れているのだー!」

 眼鏡っこ談議で熱くなり始めているハニー達の中から、どこからともなく現れた説明ハニーがエール達に説明してくれた。

 エールはそうですか、と適当に返事をする。

 

「まさか眼鏡っこになることでここまでくるとはね。その策略、実に見事だよ」

 その光景を見ていたハニーキングが厳かに口を開くと辺りのハニーはぴたっと私語をやめた。

 大きくて豪華な衣装なだけのハニーではないそのカリスマをエールは真剣な目で見つめる。

「しかーし! こっちは君がゼス王国の使者としてここに来ることは分かってたよ!」

「えっと…どうしてエールちゃんがゼスの使者なの? 私のお迎えなのかなって思ったんだけど」

 状況が呑み込めないスシヌと余裕たっぷりのハニーキングが対照的である。

 エールはとりあえずこの手紙を読んでくれれば分かる、と言ってぐいぐいと手紙を突き出した。 

「それは受け取れないよ。 中身見たらもう誤魔化せなくなっちゃうからね。 僕は読まないよ!」

 ハニーキングは親書は受け取る気は全くないようにエールの手にのった親書から目を背けた。

 誤魔化せなくなると言っている時点でアウトだと思うがそれも言ってないと言い張るつもりなのだろう。

 

 エールはその言葉を聞いておもむろに親書の封蝋をべきっと折って開くと、おもむろに中身を大声で読み上げはじめた。

 

 その手紙の内容はハニーキング宛てに、今すぐに誘拐したゼスの王女、スシヌを解放するように要請するものだった。そして現在、ゼス王国でハニー達を"大勢招いている"という事やこれ以上は友好条約違反として賠償を求めることなど文章は脅しを含んだものになっている。

 

 さらに具体的に書かれた対応や賠償内容をエールが読み上げようとして

「ちょ、ちょ、ちょ、なんてことするのかなー!」

 ハニーキングが止めたがもう遅い。

 ウルザからのアドバイス通り、これで親書のことを知らなかったでは通せなくなるし、何よりスシヌに少し状況が伝わるはずである。

 エールはしたり顔でハニーキングに近付くと読み上げた手紙をぐいーっと押し付けた。

「王様に対して無礼ですよ」

 脇に控えていたハニ子がそう言って手紙を受け取った。

「今のママからの手紙? 私を解放? えっと、これは…」

 ゼス王国ではスシヌは誘拐されたことになっていて大騒ぎになってる、と自体が呑み込めていないスシヌにエールが簡単に説明する。

「待って! 私、攫われてなんかいないよ!? ここにお仕事として親善大使になってハニーキング様の接待を任されたんだから」

  接待と称して何か酷い事されたりしてないだろうか、一体何をしてたのかとエールが目を見開いてスシヌに詰め寄った。

「だ、大丈夫だよ。 えっとハニワCITYがあんまり観光事業が上手く行ってないからって一緒に考えたり、ゼス王国から欲しい物資の相談を聞いたり、お食事の用意手伝ったり、あと体操着に着替えてハニーさん達と一緒に遊んだり……」

 後半は気になるところだが、前半はきちんとした仕事だった。

 怪我もなく変なことをさせられている様子もなく、とりあえず酷い事はされてないようでエールはほっと一安心である。

「ハニーさんたちって魔法が効かないからって私の魔法の制御の練習に付き合ってもらったりしてくれてるんだ。 あとハニ子さん達に色々と教えて貰って……コロッケが美味しく作れるようになったり」

「そうそう、スシヌは自分の意志でここに来たんだ。 だから頑張ってくれてるんだし、こっちも歓迎してるんだからね。 誘拐なんかしてないよ」

 スシヌの言葉を聞いたハニーキングが胸を張った。

「おーさまに大してなんてひどい言いがかり!」

「名誉棄損で謝罪と賠償を要求してやるー!」

 周りのハニー達が騒ぎだした。

「ハニーキング様もハニーさん達もみんな親切だよ。私の為に人間用のご飯も特別に用意してくれてるんだ。温泉も入り放題にしてくれてるし」

 あの温泉は元々眼鏡っ子は無料だったはずだ、という言葉は飲み込んでおく。

 楽しく生活している様子を優しい表情で話すスシヌに、エールの方は戸惑いの表情になった。

 

 ゼスの人間を追い返しているハニー達の行動や態度は怪しいものの、ハニーキングは接待で招いただけと言い、スシヌもまた残した書置きの通りの親善大使をとしての仕事をこなしつつ頑張っているようで攫われたようには見えなかった。

 だが親善大使などマジック女王をはじめとしたゼス王国側はそんなことを了承するはずもない。

 マジック女王以外にスシヌにそれを信じさせることが出来る存在。 その線を繋ぐのは……

 

 エールはちらりと先ほどから妙にそわそわしているその人をじーっと見つめた。

 

「……てへっ☆」

 

 ゼス王国の偉大なる建国者、パセリが目を逸らして舌を出した。

 エールはそんなパセリに眉根を寄せて、疑いの目をまっすぐに向ける。

 

「いやねー… 話すと長くなっちゃうんだけど。最初は気分転換ぐらいのつもりだったのよ」

 エールの目を受けてパセリがそわそわしながら事情を話し始めた。

「数か月前にね、スシヌってば色々あってまた自信なくしちゃって……すごく落ち込んじゃってね。 ダンジョン作って籠っちゃったりしてたの」

 スシヌは俯きながら頷いている。

 魔王討伐の旅で自信と実力をつけたはずだがまた元通りになってしまったのを情けなく思っているようだった。 

「そんな時にハニーさん達からハニーキング様がぜひスシヌに遊びに来て欲しいって言っているって話が来てるのを知ったの。マジックやウルザさん達には何度かお手紙出していたらしいんだけど全く取り合ってもらえないよーって手紙持ってきてたハニーさん達がすごく落ち込んでてね」

 マジック女王から聞いていた話と同じだ。

「それを偶然会った私が聞いて……良いこと思いついたの。スシヌを少し王宮から離して、遊びに行くんじゃなくてハニーさん達と交流を深める親善大使としてお仕事を成功させれば自信がつくんじゃないかなって。 でもマジック達に言ったらまず通らないだろうしこっそりとね。 首都からハニワ平原は遠出ってわけでもないし、ハニーさん達とは友好条約結んでるんだから危険はないし大丈夫だろうって。 カラフルなハニーさん達がしっかり護衛してくれたしね」

「お、お婆ちゃん? これってママがくれたお仕事じゃなかったの?」

 スシヌは難しくない仕事だからと自分に仕事が回ってきたのだと思っていたようだ。

 

 ハニーたちの呼び出しに応じてスシヌをここに連れて来たのはパセリで、マジックがスシヌが攫われたと勘違いしたのもパセリのせいだ。

 つまり元凶である。

 

「元凶だなんてそんな~…お仕事は順調なのよ。 ただスシヌってばハニーさん達にモテモテで帰して貰えなくなっちゃったのよねー」

 そうなるのはパセリにも予想外だったのだろう。

 エールは少し怒りながら、マジック女王が懸念していたのはまさにそれでゼス王宮はスシヌが誘拐されたと騒ぎになっていることを話した。

「あら~… やっぱりそうなっちゃってるわよね~… ハニーさん達なら眼鏡っこに優しいし安全だと思ったんだけど」

 エールの話を聞いてパセリが大きく肩を落として落ち込んでいる。

 パセリとしては悪気は全くなく、スシヌを思ってやったことである。エールもそれ以上怒る気にはなれなかった。

「え、えーっと。本当にゼスではそんな騒ぎになってるの? もう一か月以上もここにいるし長いなとは思ってはいたけど、私、酷い事は何にもされてないし… ハニーキング様はお迎えが来るまでゆっくりして大丈夫だからって言ってくれてるよ」

 迎えなら何度か出してはいるはずだ。

「でもお迎えが来たのはエールちゃんが初めてだよ…?」

 ハニー達に妨害を受けて誰一人、ハニワの里にたどり着けなかっただけである。

 エールは一週間前、ハニワ平原がボコボコにされたのだが知っているかと尋ねてみた。

「ぷちハニーさん達がいっぱい遊んだ戦争ごっこの跡だって聞いたんだけど……」

 あれをやったのはスシヌを助けに来たアニスだという事をエールは説明する。

「えっ、アニス先生が!? わわ…、心配かけちゃったかな。 アニス先生、ちょっと過激なところあるから」

 心配すぎてパニックを起こしゼスからの救援部隊ごとハニワ平原を穴だらけにし、ついでにゼス王宮でも魔法で怪我人を吹き飛ばし、さらに大暴れしそうになって周りに必死で止められていたが、スシヌはアニスを慕っている様子なのでエールはそこは伏せておくことにした。

「そういえばキングがなんか魔法で大暴れしてる人を撃ち落としてたっけな」

「僕等魔法効かないのに何してたんだろうね」

「あの子、ハニワの里ごと落とそうとしてたから。 おバカな子は嫌いじゃないけどあれは話が通じないっていうか、災害っていうか、キチ〇イっていうか……」

 もしハニワの里が落とされていたらスシヌも巻き込まれていたはずであるがそんなことも考えなかったのだろう、ハニーキングもちょっと引いている。

 

 ともかくとエールはスシヌを心配しているのはアニスだけじゃないという事の深刻さを伝えた。

「あ、ああ……私、また……み、みんなに迷惑かけちゃって」

「悪いのはここに連れてきちゃった私だから」

 また泣きそうになっているスシヌにエールはパセリの言う通りでスシヌは悪くないからと力説した。

「んもう、エールちゃんの意地悪。 マジックにすごい怒られちゃうな~」

 パセリはふわふわと浮いているが、どこか嬉しそうである。

「でもエールちゃんが来てくれたならスシヌの悩みとか相談事とかいっぱい聞いてくれるわね~、うんうん、こうやって駆けつけてくれたんだし怪我の功名かしら」

 別にスシヌが攫われてなくても会いに来たし困ってるならどこからでも駆けつける、とエールは言い切った。

「これは惚れ直しちゃうわねー。 ね、スシヌ?」

「お、お婆ちゃんったら何言ってるの!」

 それを聞いたスシヌは顔を真っ赤にさせつつ、ハニーキングの方へ向いた。

「そ、それじゃぁ。早くゼスに帰らないと。ハニーキング様、私そろそろ帰りま――」

 

 

「ダメーーーー!!!」

 ハニ-キングが大声を出してその言葉を遮った。

 

 

「……ふっふっふ。 スシヌにはずっーーと親善大使してもらうつもりだったけど、バレてしまってはしょうがない!」

 王冠を輝かせマントをぶわっと広げて杖をびしっとエール達に向けた。

「スシヌ、今から君には親善大使ではなく僕のペットになってもらう!!」

 ハニ-キングはついに本性を現した。

 

「というわけだから、ゼスに帰っちゃダメ」

「え、え、え…?」

「今までは親善大使ってことで酷いこと出来なかったけど、ペットにすればあんな事やこんな事が出来るからね」

 また状況が呑み込めないといったスシヌにハニー達が騒ぎ出した。

「いえーい!待ってましたー!」

「靴下履かせて脱がそう!」

「キャー鬼畜ー!」

「ブルマを履かせたままにしましょう!」

「スカートめくりー!」

「コロッケにもお肉を入れて貰おう!」

 ハニーキングを筆頭に周りのハニーもつられるように欲望を口にしはじめる。

 スシヌは本性を現したハニー達に茫然としていた。

 

「うぅ…… 酷い… わ、私、すごい頑張ったのに……仲良くなれたって、思ってたのに……」

 スシヌはここにいる間ハニー達と仲良くやっており、頼まれた仕事をこなしながら頑張っていたのだ、それが裏切られて騙されていた。

 その事を知ったショックは大きく、ぽろぽろと泣き出した。

 杖を持つ手や華奢な足が震えていて今にも泣き崩れてしまいそうな様子である。

 

「ふっふっふ。 やっぱり悲しんでる女の子はいいもんだね~…」

「かわいそうな女の子成分補充ー!」

 ハニーキングやハニー達はそんなスシヌをしみじみと満足そうに見つめている。

 

 エールはそんな視線からスシヌを庇う様に立ち塞がった。

 スシヌは絶対連れて帰る!と叫んで日光を抜いて構える。

 

「女一人で何ができるってんだー! みんな、かかれー! 捕まえちまえー!」

 隊長ハニーが悪役の台詞で号令をかけると、それを合図に周りのハニーがエール達を拘束しようと襲い掛かってきた。

「「「「あいやー!」」」

 

 エールは電光石火で襲い掛かってきた辺りのハニーを叩き割った。

 合図をした隊長ハニーも速攻で間合いを詰められて割られている。

「そ、そんなー! 隊長がやられるなんてー!」

 エールの目は周りのハニーをギロリと睨みつけていた。

 姉の良心を利用し、騙して泣かせた罪は万死に値する、とエールは本気で怒っていた。

「きゃー!」

「わー… 怖い…… すごい、すごい怒ってる…!」

 それを見た襲い掛かってきたハニー達はぴゅーっと逃げたり恐怖のあまり割れたりしていた。

 

「ハニーキング! ここは我々四天王におまかせを!」

 しかし逃げなかったスーパーハニー達がそう言いながらエールの前に立ち塞がった。

 

「まずは一番手! 得意技は三段突き、ただいま彼女募集中! 眼鏡は細めの―」

 エールはそこまで名乗ったハニーを言い終わる前に叩き割った。

「ちょっとー! 名乗り口上の最中に攻撃するのは卑怯だぞ!」

「そんな、四天王の一角が落ちるとは…!」

「やつは四天王の中で最弱ー」

「あいつ彼女募集中ってことは振られたんだな、良い奴だったのに…」

 エールはそう言っている他の四体のスーパーハニーも速攻で叩き割った。

 

 エールは四天王ハニーを速攻で倒すと深呼吸して再度日光を構えなおした。

「かっこいいー! 四天王をあんなにあっさりと倒すなんて」

「武器が刀だから居合い斬りってやつ!」

 エールが使ったのはハニワ叩きであり、居合い斬りは使えない。

「あれって聖刀・日光だよね。 実は黒髪で巨乳のJAPAN美人って噂があるんだ」

「眼鏡は!?」

「いや、眼鏡かけてるっては聞いたことない……」

「JAPANには今川家っていうハニーの国があってーー」

 観戦してるだけのハニー達はエールの強さや戦いを見てやんややんやと楽しそうにしている。

 日光が褒められ、自分もかっこいいと言われると悪い気はせず、エールは少し照れた。

「ここのハニーさん達、裏切るとか騙そうとかそういうことは考えてないと思うわ。悪戯はするけどね」 

 パセリの言葉にエールも納得した。

 

 ハニー達はノリにまかせていろいろやっているだけでそこに悪意があるわけではないのだ。

 

 そういえばと叩き割った四天王を数えると一体多かった気がする、と首を傾げる。

 それもノリで言っただけなのだろうか。

「違うよ。 誰が四天王を名乗るかでケンカになっちゃったから五人で名乗ってたんだ。 王様が仲裁してくれたんだよ」

 エールは説明ハニーの説明に納得した。

 五人なら戦隊でも名乗れば良かったのに、とエールがアドバイスする。

「スーパーハニー戦隊とか全員黄色だからダメでしょ」

「誰がリーダーかで絶対揉めるよね」

「紅一点でハニ子を一人いれなきゃいけなくなって結局一人あぶれるじゃん」

「王様の側近と言えば四天王じゃないと!」

「戦隊ハニーもかっこいいね。誰か組もー!」

「ハニーナイトがいれば良かったんだけどなー」

 エールは良い案だと思ったが却下されてしまった。

 

「スシヌさん、こちらで治すの手伝ってくださる?」

「え? あっ、わかりました……」

 スシヌは涙を引っ込ませると言われるままハニ子達に交じって割られたハニーの修復を手伝っている。エールもまた姉の優しさとハニー達の能天気さに和んでしまい、先ほどまでの怒りが嘘のようにぷしゅーっと抜けていくのを感じた。

 

「ハニー四天王をあっさりと下すとはさすが魔王を討伐しただけある。 ふっふっふ、僕直々に相手になろうじゃないか!」

 

 ハニーキングがばっと手を広げてポーズを決めると、辺りからは歓声があがった。

 エールもそれに合わせて日光を構えなおす。

「ついに王様が直々に相手を!」

「キングの勇姿が見られるなんてなんて幸運なのかしら!」

「きゃー、素敵ー!王様ー!」

 ハニーやハニ子がきゃあきゃあと騒ぐと、ハニー達はエールとハニーキングを囲んで観戦体制をとりはじめた。

 エールもこうやってギャラリーを抱えて戦うのは珍しい事でもない。

 

「君が僕を倒すことが出来たらスシヌは解放してあげよう! その代わりに君が負けたら君もペットになってもらうよ!」

 エールは頷こうとして、日光に止められた。

「エールさん、ここは挑発に乗ってはいけません。ハニーキングは規格外の力の持ち主であることは知っているでしょう。ここは何とか交渉か脱出を――」

 日光が冷静に小声でエールに話しかける。

 エールは落ち着きを取り戻し、辺りを見回した。四方八方ハニーがひしめいているが大した相手ではなく、スシヌを連れて強行突破するのはそう難しそうでもない。

「逃げようとしても無駄だよ。 地上までのエレベーターはもう止めてあるからね。君がここからスシヌを助けるためには僕を倒していくしかないのだ!」

 かっこよく決めているハニーキングに、周りのハニーはさらに盛り上がっている。

 エールはここが浮遊大陸だったことを思い出す。もう後には引けなさそうだ。

「あ、でも僕はハニーフラッシュしか使わないっていうハンデはあげるね。 あとこっちは戦うのは僕だけだけど君の方は何人でかかってきてもいい、ってスシヌしかいないけどね。 ならスシヌには攻撃しないとか… もっとハンデいる?」

 エールはその余裕たっぷりの態度にムッとして日光を構えた。

「エールさん…!」

 日光は止めようとしているが、 どちらにしろ戦うしかないとエールは聞く耳を持たない。

 

 スシヌにもバリアを張って援護だけしてもらう様に伝える。

「魔法バリアだね。 う、うん。 分かった。気を付けてね、エールちゃん」

 

 戦いが始まったが何もしてこないハニーキングにエールが一気に間合いを詰めようとして近づき……ハニーキングはハニーフラッシュを放った。

 エールはそれに言いようのない危険を察知して後ろに飛ぶと、魔法バリアが割れていた。

 

「さすがスシヌのバリアだ。 防げるんだねー」 

 

 少し嬉しそうにするハニーキングをエールは冷や汗をかきながら見つめた。

 魔法バリアがなかったら今ので終わっていた… 音は普通のハニーフラッシュと変わらないのに威力は桁違い。

 元はAL教のテンプルナイトが使う普通の技でもエールのAL魔法剣のように威力が高ければ必殺技並の威力になることがあるが、輝くKの入ったハニーフラッシュもまたそれだけで必殺技である。

 

  エールはそのハニーフラッシュをスシヌのバリアで防いでもらいつつなんとかハニーキングにダメージを入れようとするが、その剣はあっさりと杖で防がれてしまう。反撃を貰えば即倒されるということもあり追撃も出来ず、全く攻め込めなかった。

「エールちゃん、危ない!」

 そして魔法バリアが間に合わない隙に放たれたハニーフラッシュにエールは咄嗟に防御姿勢を取ったがそんなことはおかまいなしとばかりにその小さな体が弾き飛ばされる。

 一緒に吹き飛ばされた日光がエールの手から離れ音を立てながら床に転がった。

 

「え、エールちゃん!?」

 スシヌが急いで駆け寄ると、吹き飛ばされたエールは目を回して気絶してしまっていた。

 

「そ、そんな…… エールちゃんが……」

「ふっふっふ。ボクの勝ちだね!」

 勝負はあっと言う間だった。

「キングつよーい!」

「さすが我等ハニーの王よ!」

「きゃー、素敵よ、素敵すぎるわー!王様ー!」

 ハニー達は口々にハニーキングを褒め称える。

 

「わーい! 刀で武将ごっこしよー! 聖刀・日光ゲーーット! ってきゃー!」

 ハニーが落ちた日光を拾おうとして電撃を受けた。

「エールさん!」

「あっ、黒髪の巨乳美人だ! サムライだ!」

 日光はそれを気に留めず、人の姿になってエールに駆け寄った。

「エールちゃ……エールちゃん……」

 日光の姿に一瞬驚きはしたものの、スシヌは気絶したエールの側ですがるように泣いている。

「ちょっと気絶してるだけだから目が覚めるまでスシヌは側にいてあげるといいよ。 あとその子はスシヌと一緒の部屋に運んでおいてね」

 ハニーキングは満足そうにスシヌを眺めてから声をかけた。

「はーい」

 何体かのハニーがエールを運ぼうと近付く前に、日光が素早くエールの体を持ち上げた。

「エールさんは私が運びます。 スシヌさん、お部屋はどこですか?」

「こ、こっちです!」

 スシヌの後に日光がついていく。

 

「お疲れ様でした。流石ですわ、王様。ではそろそろお夕食の準備しないと間に合いませんわね」

「最近、お城の備蓄も減ってきているのよね。 あとで買い出しに行かないと」

「はっはっは! 勝利のお祝いにちょっといいはに飯だしてねー」

 ハニーキングは楽しそうだった。

 

 

 エールはスシヌと共にハニ-キングに捕まってしまった。

 


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