エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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VS ハニーキング

 エールはウズメに抱きついて、会いたかったと言いながらその頭をぽんぽんと撫でた。

「なんか照れるでござるにゃあ……」

 彼女もまたエールの大事な姉妹である。

 一緒に魔王討伐の旅に出ていた時よりも一回り大人になっている気がした。

「ウズメもあれから修行の旅にでてちょっとは成長したのでござる。主君どのもあれから新年会も忘れて旅に出ていたのでござろう?」

 そう言って笑いつつもどこか気恥ずかしそうにしているウズメはにゃんにゃんっぽい雰囲気があった。

「長田君がここにくるまで主君どのの事をずーーっと心配してたゆえ、ウズメまで何だか不安になってたでござるよ。本当にご無事で何より」

「エールがあんだけ余裕でハニワ平原に向かったのに全然帰ってこないもんだから、こっちはすごい心配してたんだぞー!」

 ぺしぺしとエールを叩く長田君とウズメに、エールは心配させてしまったことを謝った。

「こいつにそんなまともな心配なんかいるわけねーだろが」

 エールがそう言ったザンスを見つめる。

「…こっち見んな」

 そういってエールの頭をぐりぐりと押さえつけた。

 あれから時間が経ち大分収まったもののザンスの中ではシーウィードの夜のことがまだ尾を引いている。

 

「魔法しか出来ねえスシヌは分かるが、何でお前まで陶器なんかに捕まってんだ」

 エールはかくかくしかじかとハニーキングに負けてしまいペットにされてしまったことを説明した。

「ペットって何かやばいことされてねーだろうな!?…なんでお前がスシヌの服着てんだよ」

「そうそうエール、どうしたの、その恰好。いつもの服は?」

 今日はスカートめくりの日だからといつものレディチャレンジャーの格好ではダメと言われた、と全体を見せるようにくるっと一回転してスカートをふわりとさせつつエールは答えた。 

 この制服は姉妹でお揃いという事にやたらとこだわりのあるハニーが調達してきたものである。スシヌの通っているゼス応用学校は歴史の古い名門校、それゆえにゼスではその手のエロいラレラレ石でこの制服は人気があるらしくレプリカぐらいなら手に入れるのは難しくなかったらしい。ちなみにそれを知ったスシヌはお揃いというのは喜んでくれたもののあたふたとしていたのが可愛かった。

「エール、マジで何やらされてんの!?」

「…ここにいる陶器は全部割っとくか」

 エールがそう言って剣を構えようとしたザンスを止めようとしたところで、

「ど、どうしてザンスちゃんがここにいるの!?」

 エールが話していると様子を見に来たスシヌがぱたぱたと走ってきて、ザンス達の顔を見て驚きの表情を浮かべた。

「ウズメちゃんまで…長田君もゼスで捕まっちゃってるって聞いてたけど…」

「もしかして助けに来てくれたのかしら?」

 パセリもふわふわと浮かんでいて三人に手を振った。

「スシヌ姉上、久しぶりでござる。不肖、ウズメ。姉上達が攫われたと聞いて助けに参ったでござるよ」

「お前がハニーキングに攫われたって情報が入ってな。対処に手こずってるっつーから恩売りに来てやったわ」

 ザンスはそう言ってスシヌの頭をぐりぐりとする。

「い、痛いよ、ザンスちゃん…」

「ついでにAL教にもな」

 さらにエールの方をちらっと見ながら呆れるように言った。

 自分を助けたところでAL教に恩が売れるわけではないし兄弟間でそういう貸し借りはすべきじゃない、とエールが言うとその頭がポカンと叩かれる。

「もー、ザンスちゃんってばここは二人を助けに来たって言う場面なのに」

 そう言って睨まれたパセリは照れ隠しねーと言ってふわふわ浮いている。

 

「しっかし陶器ごときに負けるとか情けねーな。お前、弱くなりすぎなんじゃねーのか」

「そ、そんなことないよ! エールちゃんは頑張ってくれてるよ。 でも何度も挑んではいるんだけどハニーキング様、本当に強くって」

 スシヌの言葉に頷きながら負けているのは悔しいがハニーキングの強さは尋常じゃない、とエールも口を尖らせた。

「母上殿やリア女王が言っていた通りでござるな。ハニーキングはかつて父上殿や母上殿と幾度も死闘を繰り広げた強者だとか」

「そりゃ王様だからな。 もはや王様ってか神っつーの?マジで次元が違うっつーか、王様ならエールが負けるのも無理ないわー」

 ウズメと長田君はうんうんと頷いている。 

「…ってそもそもなんで王様と戦うんだよ!眼鏡やっただろ」

 眼鏡では戦闘は回避できなかった、とエールが事情を説明する。

 自分とスシヌで挑むこと数回、勝てる見込みは全くない。

「ふん、張り合いのねー相手ばっかで退屈してたとこだ。お前らが手こずってるならまぁ期待できるんだろうな」

 ザンスは少し嬉しそうである。

 エールはウルザからこのことは機密だときつく言われていたのだがザンスやウズメはどこで自分たちが攫われてることを知ったのかと尋ねてみる。

「リーザスの情報網は一流、ゼスの情報ぐらい何てことないぞ。 まあ、俺様がゼス王宮行った時は中は大混乱だったな。あのケバいのとか情報漏洩が何とか言って大騒ぎしてたわ」

 ザンスが胸を張って大笑いしている。

「キンキラキンの眼鏡で貧乳の人、卒倒しそうになってたな。ウルザさんが支えてたけどね」

「目に痛い人だけではなく、マジック女王にもめちゃくちゃ嫌そうな顔されたでござるよ」

「あわわわ…ご、ごめんね」

 わざとらしくしょんぼりしたウズメにスシヌが謝った。

 

「いやいや、実は姉上が攫われていると言う情報はウズメの母上殿が偶然手に入れたものなんでござる。リア女王にそれを届けたところ、ハニーキングの強さを良く知っているらしく有象無象が何人行っても意味がないという事で主君…兄上殿と二人して行って来いとの命を受け―」

 そこまで話したウズメの頭をザンスが叩いた。

「お前は黙っとけ。こっちはゼスの顔を立ててわざわざ非公式で来てやったっつーのに事情隠して協力はいらないだのなんだの言いやがって」

 

あのリア女王の事だ、これはリーザスの好意ではなく外交政策の一環というのはさすがのエールにも分かる。

ザンスというリーザス最高の戦力を派遣しそれをわざわざゼスの顔を立てて非公式、これでゼスはリーザスに対して大きな借りを作ることになるだろう。さらにゼスの機密がリーザス側に知られているという情報上での圧倒的な優位性を分からせることも出来て、ついでにザンスがスシヌの好感度まで稼ぐことが出来る。

エールは大人同士の政策事情などは理解できないが、リア女王の見下すような得意げな顔とマジック女王の悔しそうな顔が思い浮かんだ。

 

「それにしても捕まってるハニーの中に長田君を見つけた時はびっくりしたでござるよ」

「こっちもびっくりしたぜ。いきなりにゅっと出てきて事情を聞いたら王様がスシヌを攫っちゃったとか言うし、そこでエールがなんで王様に会いに行ったのか知ってさ。んで、ザンス達が助けに行くっていうから俺ももう待ってられないって頼み込んで出してもらったんだ。 エールってマジで俺が見てないと無茶しまくるよな」

「陶器なんざ足手まといになるだけだから来んなっつったのに大騒ぎしてくっついてきやがった」

 長田君はザンスの足をぺしぺしと叩いている。

「しかし大暴れしてた魔法使いの猛攻を止められたのはハニーである長田君のおかげでござる」

「そうそう!俺が出たらなんかすげー魔法使いの人が暴れ始めちゃってて王宮半壊させてさ。怪我人も出てて」

 間違いなくアニスのことである。

 また抜け出して暴れていたのだろう、今回は被害もさらに大きそうだ。

「あわわ、アニス先生。本当に心配させちゃってるんだ……」

「そいつなら俺がこいつを盾にしてぶん殴っておいた」

「そりゃ俺は魔法効かないけどさ! すごく怖かったんだぞ!」

 今回はザンスと長田君に倒されたようだ。エールは長田君の頭を撫でる。

 ここゼスではハニーである長田君は普通に心強い仲間である。

 

「とにかく陶器がエールまで取っ捕まったんじゃないかって言い出してよ。 そりゃゼスの連中も素直に事情を話すわけないわな」

 エールはその言葉に首を傾げた。

 自分が攫われたのは自分の失態である、冒険者の失敗ぐらい大したことはないはずだがエールは自分の顔を立ててく隠してくれてるのか、と話した。

「全然違うわ。エール、お前自分が何なのか忘れてるだろ」

 ザンスの呆れた目をエールは不思議そうに見つめた。

 

「お前は! AL教法王の! 娘だろーが!」

 

「お前は顔はほとんど知られてねーがレベル神付きで日光持ち、神魔法まで覚えられる魔王を討伐した法王の娘って事で、名前だけはやたらと知られてんだよ。それがゼスで事件に巻き込まれて誘拐されたとか最悪、ゼスはAL教全部敵に回しかねないだろうが」

 ザンスに頭をぐりぐりとされながらもエールはピンとこない話だった。

「二次災害つーんだっけ。助けに行った奴が捕まってどうすんだよ。ウルザさんまで顔青くしてたぞ」

 エールは言葉に詰まった。

 ただでさえ、エールが来たことでスシヌまで親善大使からペットに格下げされてしまったのだ。結果的に被害を増やしただけ、改めて申し訳ない気持ちになりさすがのエールも肩を大きく落とした。

 さらにゼスとしてはAL教法王の娘に何かあればゼスの責任になってしまうのだからウルザ達が顔を青くさせるのも当然の話である。

 

 例えゼス側がどう止めようとエールはスシヌを助けに向かっただろうというのは置いておく。

「まあ、お前が馬鹿やったおかげで俺様は色んな所に恩を売れるわけだがな」

「え、エールちゃんは悪くないよ」

「そもそもおめーがとっ捕まったせいだろうが」

「それはちょっと事情があるのよー」

 謝りながら俯いているスシヌを庇う様にパセリが簡単に事情を説明した。

 

 それを聞いてザンスは眉間にしわを寄せてパセリを睨みつけた。

「よし、エール。 おまえその悪霊ババア浄化しとけ」

 エールは考えておく、答えた。

「や、やめてー!」

「きゃー、二人とも意地悪なんだから」

 スシヌの杖を折ろうとするザンスをスシヌがポカポカと叩いて止めていた。

 

「まぁ、いい。とにかく陶器ども全員叩き割ってさっさと帰んぞ」

 だからハニーキングに勝たないと解放してもらえない、エールがちゃんと説明をした。

 エレベーターを動かしてもらえないのだからザンス達も閉じ込められるのではないかと話したところで

「スシヌ、エール、その人たち知り合いなの?」

 仲間が瞬殺されたのを見て逃げ出してたハニーがわさわさと戻ってきた。

 エールは頷きながら兄弟や相棒のイケメンハニーを紹介する。

「はにほー。エールから聞いてたけど相棒って本当にハニーだったんだね」

「はにほー、俺はハニー界きってのハンサム男長田君、よろしくな!」

 ハニー達と長田君はハニー式のあいさつを交わしている。

「こっちはくノ一だ、えっちな術とか使うんだぞ。えろえろだー」

「拙者はくノ一ではなく忍者でござるよ。 あと服をめくらないで欲しいでござる」

「エールに負けず劣らずの鉄壁スカート、じゃなくて着物?装束?」

 そう言ってどさくさにまぎれてスシヌのスカートをめくろうとしたハニーもいたが、エールやザンスに叩き割られている。

「そこのお前ー門壊したの弁償しろー!」

「てめーらが門開けねーからだ」

「ここは今ハニーキングが滞在しておられる偉大なるハニー城だぞ。人間は可愛い眼鏡っこか眼鏡が似合いそうな女の子しか入ることを許されてない―」 

 ザンスはそう言おうとしたハニーをまたしても叩き割った。

「きゃー!」

 ハニー達はまたもやぴゅーっと逃げようとしたが、一匹が逃げ損ねて頭を掴まれる。

「俺様はハニーキングとやらに話しつけて来るわ。たぶんやり合うことになるんだろうがな。おい、案内しろ」

「眼鏡っこならこの態度も許せるのに…」

 ハニーをずるずると引きずりながら、ザンスは行ってしまった。

 

 

「そうだ主君どの、ここに父上殿を探してる御仁がいると聞いたことは?」

 取り残されたエールにウズメが尋ねた。

 エールはリズナとサテラが父を探しているはずと、話すとウズメは納得したようだ。

「ふむふむ。元魔人のお二人……なら心配はいらなさそうでござるね。情報感謝でござる」

 エールは何故そんなことを聞くのか尋ねてみた。

「実は姉上殿が攫われたというのは、ここハニワCITYに父上殿の居場所を探っている者がいるとの情報から偶然手に入れたものなんでござるよ。父上殿に害をなそうとする人間の多さから、母上殿は父上殿に関わる情報を抑制し操作しているのでござる」

「ウズメのかーちゃん、すごい人だなぁ」

 エール達は感心しながらそれを聞いていた。

「まだ半人前ゆえあまり話してはくれないのでござるが、ウズメはいつかそんな母上殿の右腕となるべく修行の旅をしているのでござる。しかし旅の合間にも常に母上殿と連絡が取れるように言いつかってこうして情報を集めたり時には派遣されることもある。我が母上殿ながら実に抜け目のないお方でござる」

「娘も手札の一つってか、結構厳しいな。エールのかーちゃんのほとんど放任主義とは偉い差だ」

 エールは母からAL教の手伝いなどを頼まれたことはない。おかげでこうして冒険ができるのでありがたいと思っているが、それは頼りにされていないような気もして少し寂しい気持ちにもなった。

「ウズメちゃんはすごいし、おばさんも自慢だろうね」

「それでもハニーキングの元へ行くのはかなり反対されたでござるよ。主君どのや姉上でもかなわぬ相手となれば当然でござるな……」

 パセリはそんなウズメの話を内心、笑いながら聞いていた。

 母親である見当かなみは娘ウズメにだいぶ甘い。仕事を手伝いたいウズメの意思を尊重はしているものの、行方不明が長かったのだ常に連絡を取るというのは娘に過保護になっているからだろう。

「そういえばかなみさんはリア女王と仲が良いんだったわね」 

「リア女王と拙者の母上殿は昔は主従関係、今は友人という間柄でござる。そのせいでリーザスとは懇意にしてるんでござるよ」

「うへー…あの怖い女王様の友人ってやっぱめっちゃ怖そう」

 エールが志津香から聞いたウズメの母親、見当かなみは中の上ぐらいの実力であるらしい。

 だがリア女王と対等に付き合えるならやはり大人物なのだろう、とエールは想像した。

「そういうのを全く表に出さないのが母上殿のすごいところでござる。いつになったら追いつけるやら」

「……私も頑張らなきゃ」

 ウズメにスシヌ、そしてエールもみな母親があこがれの女性であることに違いはない。

 

………

 

 エール達はとりあえずザンスを待つ間、コロッケ作りの続きをすることになった。

「主君どのはすっかり馴染んでるでござるな」

 長田君やウズメも手伝ってくれると言うのでハニ子に混ざってコロッケづくりを進める。

「うわー、なにこのハニ子さん達。レベルたっけーな!」

 エールは長田君をじっと見て首を傾げた。

「あれ、見て分かんない? グラビアの表紙飾れそうな可愛い子や綺麗な人揃いじゃん。さすが王様、羨ましいぜ…」

「ふふ、お上手ね」

 褒められたハニ子が口に手を当てて笑った。

「この品の良さとか最高じゃね!? エールもちょっとは見習うと良いぞ!」

 エールはテンションが上がっている長田君を叩き割った。

 

 大量に作ったコロッケを皿に積み上げていると交渉決裂したのか、一戦やり合ったのかザンスが戻ってきた。

 エールが駆け寄って流石に一人で挑むのは無茶が過ぎる、と言いながらヒーリングをかける。

「うるせぇ。あの白陶器、絶対殺してやるわ」

「王様を倒すとか無理だってー、ザンスも思い知ったろ?」

 なぜか得意げにした長田君がムカついたのかザンスは剣で長田君を叩き割った。  

 

「いただきまーす」

 それはともかくご飯が出来たのでハニーのみんなをよんで一緒に食べることにした。

 もちろんハニーキングも一緒でいつものようにハニ子を侍らせている。スシヌもエールもちょこんと脇に座ろうとしたが、ザンスに引っ張られた。

「まだその二人は僕のペットだよ」

「こいつらは俺様の女共だ!」

「二人共ってどういうこと!?」

「この人、リーザスの王子なんだって。だからハーレムに入れるんだ、きっと!」

「うはうはハーレムで3Pとかするんだ!?」

「眼鏡もかけさせ放題なんだって!」

「うるせーぞ!陶器ども!とにかくこいつらはお前のペットじゃねーよ!」

 そのままハニーとザンスがぎゃーぎゃーと騒いでいる。

 ボク達はザンスのものではないしハーレムを作るほどの甲斐性もない、とエールが口に出すとほっぺたがぐにーっと伸ばされた。

 エールがぱたぱたと手を振って痛さを訴えるのを、スシヌやウズメが止めに入る、長田君は王様に頭をぺこぺこ下げてる等、騒がしい食卓である。

 

「うんうん、エールの方もいよいよ戦力が整ったようだね」

 ハニーキングが食事の後片付けをはじめているエールに話しかけると今日は本気で挑む、とエールはびしっとハニーキングを指さした。

「ふっふっふ。 その意気や良し! しっかり準備をすると良いよー」

 

 エールは久しぶりに冒険者の服、レディチャレンジャーに着替えると気合が入る思いがした。

「今日は本気で行くのですね」

 エールは大きく頷いた。

 ちなみに脱いだ制服と靴下は興奮した様子のハニーがさも当然とばかりに回収していった。

 

………

 

 エールは助っ人だと言ってハニワCITYからリズナとサテラ、そしてシーザーを引っ張ってきた。

 

「なんだ、へっぽこ魔人どもじゃねーか」

 ザンスがサテラ達を見て露骨に眉を顰める。

「誰がへっぽこだ! サテラ達はそこの奴に助けて下さいと泣きつかれたんだ。普段なら絶対助けたりしないが、そいつらが捕まったままだとこっちにも不都合があるんでな。仕方なく手を貸してやるんだ。ありがたく思え」

 別に泣きついてはいないが、ここでサテラの機嫌を損ねると大変そうなのでエールは黙って頷き、ザンスが何か言おうとしたのを口をふさいで止めた。

 

「あの時のハニーさんも一緒なのね。長田君だっけ、エールちゃんもハニ―さん達に好かれるのかな?」

 そう言ってにこやかに近づいてきたリズナを見たとたん、長田君が粉々に割れた。

「えっ、えっ?」

 突然飛び散った長田君にリズナが困惑しつつ、前はそんなことはなかったのにとエールも驚いた。

「あんときはそんな場合じゃなかったから! エロい巨乳のお姉さんとかリズナさんって俺、なんかもうやばいぐらいどストライクなんだよー!」

 ちなみにサテラを見ても長田君が割れる。

「陶器に好かれるリズナは分かるが、サテラを見て割れるんだな」

 自分の魅力のせいだと思ったのかサテラは少し得意げだ。

「だってサテラさんってさ、前に戦った時に粘土をさ……その、言わせるなよー!」

 長田君はぺしぺしと恥ずかしそうにエールを叩く。

 そういえばいつも粘土をこねていた、それを思い出して割れたのだろう、とエールは納得した。

「誰がビッチだ! 叩き割るぞ、このハニワ!」

「そこまでいってねーっすよ! 思ってはいるけど」

 

 そんなこんながありつつ、エールは即席パーティを確認する。

 エール、スシヌとパセリ、ザンス、ウズメ、リズナ、サテラとシーザー、そして長田君。

 レベルだけなら世界でも最強クラス揃いである。

「これだけ揃ってたら勝てそうね。がんばれ、スシヌー」

「むしろこれでダメだったら、もうどうしようもないでござるな」

 ハニーキングは魔王並に強い、これでも心配である。

「魔王様がこんなでかいだけの陶器と同じなわけないだろう!」

 サテラが吠えてるのをエールは無視した。

 

「ふっふっふ。また僕のペットが増えるだけかもしれないよ? あっ、男はいらないからね」

 しかしハニーキングはこのパーティを見ても余裕の表情を浮かべている。

 

 しかし、エールにはもう一つ秘策があった。

 エールは長田君をじっと見つめる。

「何? 俺なら王様相手には戦えないぞ。応援はするけどさ」

「マジで役に立たねーな」

 ザンスに何か言いたげにした長田君の前に、エールがさっと荷物からそれを取り出して掲げて見せた。

 

 エールが掲げたのは禍々しい光を放つ真っ赤な宝石である。

「な、何だと!? 何でお前が魔血魂を持っている!? 誰のものだ!?」

 サテラがそれを見て目を見開いた。

「魔血魂ですって? 魔王の血が消えた時になくなったはずでは……」

 リズナもそれを聞いて驚いていた。

「ん、何か書いてあるな」

 魔血魂が放つ禍々しい雰囲気は油性ペンで書かれたハニーという文字で台無しにされている。

「ハニーってことはあいつか。魔人ますぞえ。前に地下で出会った時は決着がつかずそのまま見逃してやったがお前に倒されてたとはな」

 

 エールはそれを長田君に差し出した。

「え?」

 飲んで欲しいとエールが言った。

「えーー!ちょ、なんで俺がそれを飲むの!?」

 魔人の無敵結界ならハニーフラッシュが効かない。それは例えハニーキングのものであっても同様だろう。

 エールの作戦は単純明快で長田君を魔人にしてすべての攻撃を受け止めて貰おうという作戦だ。これなら万が一、エールに攻撃が当たっても長田君を盾にしながら回復が出来る。

 

 名付けて真・長田君ガードである。

 

 ちなみに勝ったらすぐに長田君を叩き割って元に戻すとエールはセロテープも構えた。

「お前、そんなこと考えてたの!?」 

 エールはこれをまさに切り札、最高の案だと思っていた。エールが間違って日光を当てでもしない限り魔人は無敵。これに勝てるのは唯一カオスを持ってる父ランスだけでまさに無敵のコンビネーションである。

「やだよ! 俺がもし魔人に乗っ取られたらどうするんだよー!」

 長田君は長い事魔人になっていても無事だったのだ、今回もきっと大丈夫だろう。

「そうだけど、今回はだめかもしれないじゃん!?」

 どうしても負けられない戦いなのだ。負けてしまえばエールもスシヌも解放されず、ウズメにリズナ、サテラまでもがペット行きである。

「そりゃ、負けられないってのは分かるけど!」

 エールは手を合わせて長田君にお願いした。

「ダメダメ! いくらエールの頼みでも――」

 そう言って断ろうとした長田君にパセリが声をかけた。

「ギャラリーのハニ子さんたちも見てるし、ここはかっこよく一肌脱ぐ場面よー」

 パセリが周りの女性に何やら耳打ちする。

「私のせいでこんなことになっちゃったけど、お願い! どうしても帰りたいの。力を貸してくれないかな」

「体を張って女性を守る、かっこいいでござる。憧れちゃうでござるよー」

「えっと長田君、お願いできないでしょうか…?スシヌちゃんもエールちゃんもここにずっといるわけにはいかないでしょうし、私達も困ってるんです」

「え…? へへ、そうかな?」

 ウズメやスシヌ、リズナにまでお願いされると長田君はデレデレと顔をほころばせた。

 

「エール、それ貸せ」

 そうしているうちにザンスがエールの手か魔血魂をひったくって長田君の口に放り込んだ。

「あっ…」

 

 ぴかーっと光って、長田君がずずんと大きくなり魔人ながぞえに変身した。

 エールが声をかけても何も答えないがとりあえずハニーキングに対し、ぺこぺこしなくなり立ちはだかってはくれるようである。

 

「まさか魔人まで連れて来るとはね。恐れ入ったよ」

「王様は魔人ますぞえ様とは懇意にされていたのでは?」

「いや、彼は魔人ますぞえじゃないね。あえていえばながぞえってところかな?」

 

 さしもの展開にハニーキングも驚いているようだが、それでも余裕の態度は変わらない。

「準備万端だね! かかってこーい!」

 

 いくぞー!とエールも声を張り上げる。

 強敵にパーティで挑む、久しぶりの感覚にエールは高揚感を味わっていた。

 

………

……

 

 ハニーキングは滅茶苦茶に強かった。

 

 エールとスシヌが相手をしてた時は本当に力をセーブしていたのだろう。

 まずハニーキングにぺこぺこするハニーの習性からか、魔人がハニーキングと懇意にしていたせいか魔人ながぞえこと長田君は攻撃はしてくれないようだ。

 しかし動きはぎこちないもののハニーキングからの攻撃を防ぐように動いてくれる。リズナのそばに寄り気味なのは好みの女性だからだろうか、エールは少し面白くはなかったがとにかくカバーしてくれるだけも助かっている。

 そんな長田君やシーザーを壁にしつつ、スシヌのバリアで防御、ウズメの手裏剣で動きを封じつつ戦うがそれでも完全に防ぎきれない。

 今まで知らなかったことだがハンデにハニーフラッシュだけとは言われたもののハニーフラッシュにはいくつか種類があるようだ。

 

 リズナがエールとザンス、サテラに攻撃付与をかけ、エール達は攻撃し続ける。

 エールは合間に回復を挟みながらハニーキングの体力をじわじわと削っていく。

 

 パーティの構成もこれ以上にないぐらい世界でも最強クラスなはずだが、本気を出しているハニーキングはエ―ルが思っていた通り魔王だった父ランスを思い出すような強さだった。

 ハニー達のお供一切なし、スシヌに攻撃しないというハンデはそのまま、さらに魔人もいるパーティですら一切油断できない本物の強さである。

 エールとスシヌだけでは絶対勝てない相手だっただろう。

 

 何度も倒れかけては回復をしつつ、戦いは自然と長期戦となった。

 

………

……

 

「お見事! よくぞ私を倒したー!」

 

 やたら余裕のある台詞をいってハニーキングがばたーんと倒れた。

 

「か、勝った…? 私達勝てた、の…?」

「サテラ様、ゴ無事デスカ?」

「うぐ……たかが陶器がこんなに」

「さ、流石はハニーキング様です…」

「はぁ…はぁ… けっ、こんなやつ余裕だろ」

「息があがってるでござるよ… 疲れたでござる」

 

 エールは疲れた体に鞭打ちながらぼーっと立っている魔人ながぞえを叩き割り、散らばった破片をセロテープでいつもより丁寧に修復していく。

「うわーん、エールー!」

 エールは泣いている長田君に謝りつつ、お礼を言いながらぎゅっと抱きしめる。

「へへ、まあ今回はしょうがないけど! もう勘弁してくれよな、って聞いてる?」

 エールは照れている長田君の頭を撫でてからそのまま仲間にヒーリングをかけて回り、最後に自分にかけるとぺたんと膝をついた。

「エールさん、お疲れ様。頑張りましたね」

 日光の優しい台詞にクルックーを思い出したエールは満面の笑みを浮かべガッツポーズをした。

 

 エールたちはまだ全員肩で息をしているが、ハニーキングはすぐに復活して立ち上がった。

「王様、お疲れさまでしたわ」

「わー、キングもとうとう負けちゃったねー」

「今回は時間がかかったね。人間もなかなかやるじゃん」

 ハニ子が寄って飲み物を差し出している。周りのハニー達にも王が負けたという悲観的な様子はない。

「ちっ……白陶器はまだ本気じゃなかっただろーが」

「ふっふっふ。 久々に思いきり戦えた気がするよ。 君達のチームワークはあっぱれだ」

 ハニーキングはうんうんと頷いている。

 本気を出していようとなかろうととにかくボク達の勝ちだから解放してもらうぞ、とエールはハニーキングにびしっと向き直った。

「うん、いいよ。約束通りスシヌもエールも解放してあげよう。二人ともお疲れ様だったね」

 ハニーキングの方はあっさりと二人を解放した。

「それマジック女王とリア女王への親書ね。渡しておいてー」

 あらかじめ書いていたのか、ハニ子がザンスとスシヌにそれぞれ手紙を渡している。

 負けると決まっていたかのように手回しが良いなとエールは首を傾げた。

「実はゼスでみんなが捕まったり、交易も物資も止められちゃって外交上けっこうまずいと思ってはいたんだ。ハニワCITYでもお城の中でも困っているって訴えもいっぱい来てるし、マジック女王からもリア女王からも脅迫めいたお手紙貰っちゃったし」

 リア女王から、ということはザンスも渡していたのだろう。

 まずいと思っていたならなんでこんなことをしたのかとエールは少し頬を膨らませた。

「スシヌが可愛かったからしょうがないね!」

 王様オーラを溢れ出させながら堂々と話すハニーキングにエールは頷きつつも、それ以上言葉も出なかった。

 

「スシヌもちょっとは自信ついたかい?」

 ハニーキングはスシヌに話しかける。

「は、はい。色々とお世話になりました」

「うんうん、最初に来た時は緊張してたけどすっかり顔色も良くなったね。みんなも楽しそうだったしスシヌは親善大使としてとてもいい仕事をしてくれたよ。こんなのちょっと帰りが遅くなったぐらいなものさ」

「何ふざけたこと抜かしてんだ、この白陶器」

 エールも良い話にして誤魔化そうとしないで欲しいと口を尖らせた。

 そんなエールをハニーキングが見つめる。

「でもエールも楽しかっただろう? みんなにイタズラされてる時も、遊んでいるときも、戦ってる時だって君は楽しそうだった。君が楽しいと思えれば世界は平和なんだから僕は良い事をしたのさ!」

 エールはその言葉が分からず首を傾げるが……少し考えるように目を瞑った。

 そして目を開けると楽しかった、と素直に答える。

「それは良かった。 んじゃ、最後にちょっとスシヌこっちに来てー」

「はい?」

 スシヌがおずおずと近付くと、ハニーキングは怪しげな呪文を唱えた。

 

<ほわほわほわ~ん>

 

 なんだか間の抜けた音がした。

「きゃあああっ……って、あの、何でしょうか?」

 エールがそれに驚いてスシヌに駆け寄るが、体に変化があるわけでもないらしい。

 

 エールはスシヌに何をしたのかとハニーキングに問いただそうとしたが

 

「これでよし! みんな、撤収ー!」

「「「あいやー!」」」

 

 ハニーキングとハニー達はささっと荷物をまとめるとハニー城を飛ぶように去って行った。

 

「……何だったんだよ?」

 ザンスもあまりの撤収の早さに驚いている、

「キングはね、また別な別荘地かダンジョンに新たな眼鏡っこをもとめて旅立ったのさ」

「んじゃ、スシヌ達もみんな出てってね。次に王様がくるまでハニー城はお休みするから」

 

 残されたハニーがエールに説明をした。

 

 とにかくエール達は解放されたようである。

 

 城の去り際、また来てねーとハニー達が手を振っている。

「誰が来るか、こんなとこ!」

 エール達は小さく手を振り返すが、ザンスが悪態をついているようにもう次はないと思いたかった。

 

 




※ ハニーキングの強さ=ランス03と6を混ぜたような裏ボス級想定
  エールの年齢はハニーキング的にストライクど真ん中

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