エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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番外編・スシヌと母と祖父の話

「ママ、お墓のお手入れすんだよ」

「ご苦労様、スシヌ」

 

 ゼス王家の秘密の墓所、首都内にも魔人戦争の慰霊碑があるがそことは違う都会の喧騒から外れた静かな場所にそれはある。

 そこにはスシヌの祖母、そして前王だった祖父であるラグナロックアーク・スーパー・ガンジーが眠っているのだそうだ。

 そこへマジック母娘はそっと手を合わせる。

 

(おじいちゃん、か…)

 生前に会うことは出来なかったが、正義に燃え常に前線に立ちゼスの腐敗と戦い…王宮で働く全ての人、多くのゼス国民から慕われていたガンジー王の話は色々と聞いている。

 

 昔、スシヌが生まれる前の話。ゼスは魔法使いと魔法が使えない者で大きな差別があったという。

 魔法使いは魔法を使えない者を奴隷のように扱っていたらしく、今のように政治に魔法を使えない者達が多く関わる等当時は考えられないことだったそうだ。

 その差別がきっかけとなりテロと暴動が発生、そこを魔人に襲撃され王都は陥落。ゼス存亡の危機に陥った「カミーラダーク」は歴史の教科書にも載っている。

 

 今でもそういう差別がうっすらと残っているのも知っているし、魔法使いの復権をもくろむ人間がかの東ヘルマンと組んでゼスで反乱を起こしたこともあった。

 スシヌは自分が今から4年前、魔法使いに攫われ血を入れ替える儀式をされそうになった事件も根本は魔法使いの復権を目指す者達のせいだと聞いたことがある。

 

 …そういえば魔王城でカミーラという魔人がいた。

 教科書通りの美しい姿をしていたが、どこか疲れたような全てを諦めたような表情で姉であるリセットが優しく話しかけていた事もあり恐ろしいとは思えなかった。

 きっと魔人にも色々あるのだろう。

 

「私も会ってみたかったわ。スシヌのお爺ちゃんに」

 ふわふわと浮かんだ幽霊、ゼスの建国王パセリも共に手を合わせながら呟いた。

 祖父は魔法使いで王族という高い地位にありながら、この差別を良しとせず差別や魔法貴族、ゼス上層部の腐敗と戦っていたそうだ。

 

 四天王や四将軍、既に亡くなっているあの雷軍のカバッハーン将軍ですら一目置いていたという偉大な祖父。

 魔法使いではないウルザが話すときは感謝を含ませ、共にゼスの上層部の腐敗と戦ったという千鶴子が話すときは愛おしそうな響きがある祖父。何でも千鶴子が結婚しないのもガンジー王が忘れられないからだと師匠であるアニスが話していた。その後に、だからすっかり行き遅れてしまったと続け、お仕置きを食らっていたが。

 さらに男に興味がないあのスシヌの父と二人で酒を酌み交わすほどの仲でもあったと聞いている。

 

(みんな覚えてて、みんな口を揃えて言うの。ガンジー王はすごい立派な人だったって)

 スシヌにとって祖父は誇りだった。

 

 しかし残念なことにスシヌはそんな偉大だった祖父の事をほとんど覚えていない。

 ガンジー王が亡くなったのは、魔人戦争での事。その頃、スシヌはまだ赤ん坊だった。

 他国を上回る80万という魔物の大軍勢を引き連れゼスを襲ってきた魔人メディウサに、ガンジーとその護衛だった二人は惨殺されたのだという。そのあまりに惨たらしい光景はゼス国中に放映され、15年と言う時が流れてなおゼス国民の心に深い爪跡を残しているのだそうだ。

 

 スシヌはそれを見ていないが、それを聞いてガンジーの事をマジックに聞くことも出来なかった。

 スシヌが祖父の事を考えていると母であるマジックが小さく身震いをする。

「ママ、大丈夫?」

 そう言ってマジックをのぞき込む。

 毎年、墓参りに来るたびに普段は立派な女王で弱みを見せないマジックは沈痛な面持ちで肩を震わせる。

 その姿を見るのは辛く、王族の義務と知りながらスシヌはこの墓参りが好きではなかった。

 

 しかし今回は違う。

 

「大丈夫よ。今日はスシヌが、親父の孫が魔王を倒したんだって最高の報告をしにきたんだからね。親父も向こうで泣きながら喜んでるわ」

 そう言ってマジックが笑顔を浮かべている。

 いつも疲れた顔をしていたマジックが浮かべる心からの笑みに、スシヌもつられるように笑った。

 

「魔王討伐に行くなんて事になって本当はすごく心配だった。捕まったとか、クエルプランに飲み込まれたとか聞いたときは身を切られるような思いがした……でもあなたは見事にやり遂げた。本当に自慢の娘だわ」

 頭を優しく撫でられると、スシヌは誇らしい気持ちになった。

「私がやったわけじゃないよ。お兄ちゃんにお姉ちゃんに、それに……」

 

 頭に浮かんだのは引きこもっていた自分に手を伸ばしてくれた妹の姿である。

 裸になるのが恥ずかしくなかったり、自分の頭にあんまんを乗せてきたり、空気が読めない発言を言ったり、突然冗談を言ったりと予想がつかない行動をとることも多いが、剣や魔法を巧みに扱うその実力、魔王討伐隊という自分達魔王の子達を率いた頼りになるリーダー。

 魔人や魔王にも臆さず、負けても挫けずに諦めないという気持ち教えてくれて頼めば優しく手を伸ばしてくれた人。

 その姿を思いだすとなぜか顔が紅潮するのを感じる。

 

「スシヌの気になる人のおかげよね~」

 パセリが目を輝かせながら言うと、マジックが驚いた表情になった。

「なっ! あなたまさかリーザスの……」

「ザンスちゃんじゃないよ!?」

 スシヌは思わずそう言ってしまい、顔を真っ赤にした。

 幼馴染であるザンスの事が気になってたのは事実で少し前まではいつかお嫁さんになるとすら思っていたのだが、今は普通に友人だという認識以上の感情が沸いていない気がする。

「ふふふ、他に気になる人が出来ちゃったのよね~」

「コホン。 いつかスシヌにもそういう日が来るって思ってたけど、相手はどんな人?魔王の子の中だと乱義くんかしら。恋人がいるダークランスくんや話の通じなさそうな元就くんってことはないと思うけど…」

 きゃーきゃーとはしゃぐパセリを見てマジックは驚くが軽く咳ばらいをして冷静に言う。

 スシヌは首を振った。

「冒険の最中に会った人って線もあるかしら。詳しくは聞かないけれどその人にはあなたと一緒にゼスを継いで欲しい… ううん、せめて私と同じ轍は踏まないで欲しいぐらいかしらね。ちゃんとあなたを愛してくれる人を選ぶのよ。ランスに似た人なんて絶対認めませんからね」

 

 あちこちに女性を作っている父に比べればどんな人でも大抵は認められるんじゃないか、とスシヌは思っているがマジックに気になる子の事を話したらどう言うだろうか。

 男の子だったらその強さに才能、リーダーシップ、法王の子と言う身分もあってもろ手を挙げて歓迎してくれとても応援してくれたような気がするのだが……相手はどんなに凄い人物でも女の子である。

 きっと反対されるだろう。そもそも女の子を好きになってしまった自分はおかしいんじゃないかとスシヌはとても悩んでいる。

(でももし男の子だったら頼りになるリセットお姉ちゃんとか、スタイルの良い深根ちゃんとかいるから。みんな可愛いし、私なんか相手にしてもらえない…)

 スシヌは色々と考えて何故か勝手に落ち込んでしまっている。

 

「で、でもママはパパのこと大好きなんでしょ?」

 スシヌはそんな考えを吹き飛ばし、誤魔化すようにマジックに聞いてみる。

「うんうん、マジックはランスさん一筋だものね。やっぱり愛があるのが一番よ」

 スシヌとパセリの言葉に今度はマジックが顔を赤くしている。

 

 魔王になって、世界で恐れられ忌み嫌われる存在になってもマジックは変わらずランスの事を愛し続けている。

 王族なのだから、もっと子供をと再婚を勧められることもあったはずだがガンとしてマジックはそれを断っていた。

 スシヌは父の事を覚えておらず話したこともなく、知っているのは魔王である父が各国で暴れているということだけだったが、マジックが父一筋なのを素直に嬉しい事と思っていたし、自分が父と初めて会った時、マジックの子だとすぐに分かって貰えてさらに「とても可愛い」と言ってくれたのも嬉しかった。

 父はまたすぐにどこかにいなくなってしまったが、母に会って欲しかったし、自分も話したいことがあったと思っている。

 

「そ、それはそうだけど! 私がそのせいで苦労したんだからスシヌが結婚するのは側にいて支えてくれるような人が良いって言いたいんです」

「ランスさんはいっぱい愛のある人だったものね。でも私にはその気持ち分かるなぁ、ハーレムっていうか恋人がいっぱいいるのも良いものよ。逆にその中の一人になっても……」

「分からないでください! あとスシヌに変な事教えるのはやめて下さい!」

 

 マジックはいつも通り恋愛関係にやたら積極的なご先祖様に語気を強めたが、パセリの方はどこ吹く風できゃーきゃーと騒いでいる。

 ザンスがスシヌを正室にと言っているのだが、つまりそれは側室も作るという事だ。

 スシヌも女性として愛されるなら自分だけを好きになってくれる男性が良く、ロマンチックな恋にも憧れている。

 そういえばザンスはスシヌの憧れの妹にも俺の女になれと迫っていたようだ。

 

(もしかして二人でザンスちゃんのお嫁さんになったらずっと一緒に居られるんじゃ…?)

 

 祖母の影響なのか、スシヌがそんな少女漫画からはるかに外れた斜め上の考えを思い浮かべているとマジックがスシヌに改めて向き直った。

 

「と、とにかくスシヌも自信をつけてきたようだし、これからはいつか私の後を継げるように更に頑張って貰わないとね」

 

 スシヌはその言葉に驚いて目を大きく開いた。

 今までマジックがはっきりと自分に「後を継いでほしい」と言った事はなかった。

 それは自分の歳の頃には既に四天王であり、学校でも主席だったという優秀な母がとうとう自分を認めてくれた言葉だった。

 

「う、うん! 頑張る!」

 スシヌはパセリが宿っている杖をぎゅっと握って気合を入れた。

 思わずはしゃぎたい気持ちになったが、代わりに満面の笑みを浮かべてマジックを見る。

「気になる人にも振り向いてもらえるように頑張らなくっちゃね」

「スシヌの気になる子か……せめて将軍の、クラウン家の子ぐらいしっかりした子であって欲しいわ」

「スシヌは年下OKだものね。恋人いっぱい作っても良いのよ?」

「おばあちゃん、何言ってるの!」

 スシヌがパセリの言葉に焦り、それにまたマジックが怒りつつ、三人は少し騒がしく墓所を後にする。

 

(じゃぁね、おじいちゃん。また来年)

 スシヌは小さく手を振ると、姿も覚えていない祖父が感動の涙を流しながら自分を見送ってくれているような気がした。

 その傍らには母が小さい頃亡くしたという緑の髪をした祖母、そしてJAPANの服を着た黒髪の女性もいるような気がする。

 

 来年もまた誇らしい気持ちでここに来たい。

 いや、来年だけではなくこの先ずっともう愛する母に暗い表情をさせないようにしたい。

 

 いつか四天王になれるように政治の勉強も頑張ろう。

 新しい魔法を作ったり自分の絶大な魔力をきちんと制御して、魔法の勉強ももっと頑張ろう。

 もっともっと修練を積んで自分が生まれたこの国、ゼスの人々の為に役に立てる存在になろう。

 

 スシヌは青い空を見上げながら気合を入れた。

 

 …この気合が空回りしてしまい、スシヌはその後また色々あって自信を無くしてしまうのだが…

 そのおかげで憧れの妹と再会し、また一緒に冒険に出るのはそう遠くない話である。

 




※ エールちゃんの冒険・前日譚 ミニSS「マジック母娘とガンジーの話」の視点変更と加筆を施したもの
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