ミラクルのお茶会 1
「いい天気で良かったなー! 冒険日和っつーか、まっ、日頃の行いが良いし?」
エール達の出発はいつも良い天気で迎えられている。
「偶然だ、偶然」
「お天気悪いと冒険も大変だもんね」
「ゼスは雨はあまり降らないけどちょっと乾燥してるのよね」
今回の出発はザンスとスシヌ、そしてパセリが居て賑やかだった。
「それでエール、最終目的地はシャングリラなわけだけどどうやって行く?ゼスだとキナニ砂漠の境界にサバサバって町があってそこからシャングリラへ行ける道路が伸びてるんだって」
「んなもん、出発前に決めとけよ」
「えっと、安全な道だと東へ行ってイタリア経由で北へ行くか、すぐに北に行ってパフィモード経由かどっちかかな?」
ザンスは呆れたがスシヌはそれを聞いていくつかルートを提案する。
しかしエールはまず首都から少し南下してゼス中央にある森に行く、と言った。
「あっ、先に回らなきゃいけなかったか」
「カイゼンの方になるのかな。そんなに遠くはないけどシャングリラとは逆方向だよ?」
エールはウルザから貰ったアイスフレーム孤児院と書いてある地図を見せた。
「エールがその孤児院なんかに何の用があるんだよ?」
「ロッキーさんの出身地っていうか家みたいな、なんかそういうのなんだって。世話になったし、挨拶ぐらいはしておかねーとな」
「めんどくせぇ」
「リーダーはエールなんだからエールが決めたところに行くの!」
言い合っているとザンスは何かに気が付いたようにはっとした表情になった。
「待てよ。そういや俺、ロッキーに闘神都市で金貸してたままじゃねーか。取り立てに行くかー」
それを聞いてエールは心の中でロッキーに謝った。
アイスフレーム孤児院に向かう道中、スシヌはずっと上機嫌だった。
「スシヌってばすごい嬉しそうね。なんてったって憧れの冒険だもんね、冒険」
「これぐらい前もやってただろ」
「前の時はお姉ちゃんやお兄ちゃん達もみんな一緒で賑やかで楽しかったけど、魔王討伐の旅…パパを正気に戻すのが目的で危ない事もいっぱいあったから。それに私達が失敗したらって言う緊張感も凄くて」
「人類の存亡をかけた戦いだったんだよな。俺達って魔王を倒した英雄なんだよな!すごくね?」
「お前が何の役に立ったってんだ。まっ、俺様にかかればあんなん楽勝だったけどな」
終わってみればあの旅も楽しかった、とエールは思い出しながらしみじみと呟いた。
「もうみんな魔人とか魔王に怯えなくて済むんだ。頑張って良かったよね」
スシヌはほわほわと笑っているがそこにザンスがくぎを刺すように言った。
「気は抜きすぎんなよ。今回は目立たないようにはしてるとはいえ、東ヘルマンの連中がどこにいるか、いつどこで俺達を狙ってくる奴が出るか分かったもんじゃねーからな」
リーザスでも反乱や暴動を裏で扇動していると思われている東ヘルマンは脅威ではないがザンスにとって非常に鬱陶しい存在だった。
人間の国家が相手だとただぶちのめせば解決するというほど単純ではなく、ある意味で魔人や魔王よりも厄介な存在である。
「ザンスちゃんが心配してるのってそのこと?」
スシヌが言う通りザンスはその事でボク達を心配してついて来てくれたのだろうか、とザンスの顔を覗き込む。
「お前らがヘマして俺に捧げる用の処女が破られたら困るからな」
「しょ、処女って…!」
ザンスがそんなことを言ったのでスシヌが真っ赤になった。
「お前、もうマジック女王とエールが言った事忘れてるだろ!」
「その心配も今すぐにでも俺に素直に抱かれればなくなるけどな」
笑っているザンスに長田君が抗議をする。
「もー、ザンスちゃん。だからこういう時は二人が心配だからって言ってきゅんってさせる場面なんだって」
パセリがザンスを諭す様に言った。
その会話を聞きながらエールは実際にヘルマンで危なかったことを思い出した。
もしあの時あのまま犯されていたら、ザンスに抱かれてた方がマシだったと思っただろうか。
「エールも心配いらないようにしてやろうか?」
ふざけた様子のザンスにエールは考えておく、と返すとザンスの方が言葉に詰まった。
「あら、エールちゃんってけっこう積極的なのね。スシヌの方がお姉さんなのに」
「ダメだからね!そんなこと!」
………
そんな他愛もない会話をしつつエール一行は首都を囲むように建っている弾倉の塔を通りがかった。
ハニワの里からも見えていた首都を囲むようにたっている塔で、目的地はここからさらに南東である。
「そーいや、この塔って四本あるんだっけ?なんか意味あんの?」
「王者の塔、日曜の塔、跳躍の塔、弾倉の塔。合わせて四天王の塔って言うの。ゼスに何かあった時はこれで結界を張ったりできるんだって」
「首都結界ね。どんな仕組みなんだ?」
「は、話せないよ。元々、四天王になった時に初めて詳しく説明されるらしいから私もそこまで詳しくは知らないけど」
「役に立たねぇな」
ザンスがさりげなくゼスの機密を聞き出そうとしている。
エールはスシヌは将軍や四天王にならないの?と何となく尋ねてみた。
「四将軍と四天王は完全な実力主義だから私じゃまだまだ……」
「いやいやいや! それなら尚更スシヌがダメってありえないだろ?」
魔法LV3という破格の才能、人類全体でもトップクラスの高いレベルを持つスシヌであれば四天王だろうが四将軍になろうが文句をつける者などいないのではないだろうか。
「まず四将軍は軍で経験を積んでからだね。それで実力とか指揮とか人望とかを見られて有望な人が前の将軍に推挙されて選ばれるの。強いだけじゃダメなんだ」
「そりゃそうだ。何の経験もなしでいきなり大部隊の指揮とかできるわけねーだろが」
リーザスの赤の軍将軍の言葉なのだからそういうものなのだろう、将軍に勧誘されているがエールは軍隊はやはり面倒くさそうだと思った。
「前任の人が優秀過ぎると大変らしくてゼス雷軍将軍のカバッハーンお爺ちゃんが亡くなってから、雷軍の、その、後任がまだ…」
「副将軍に臨時将軍がいるぐらいで実質雷軍は将軍無し状態、もう何年だったか。四将軍職に穴が開くとかゼス軍人材不足すぎんだろ」
「そ、そんなことはないよ。雷帝様が他の将軍さん達や教えを受けたお弟子さん達からすごく尊敬されてて慕われていたから、その後なんて継げないって皆が言ってるだけ。ママはそのうち落ち着くからって言っていたけど」
聞いたことないがその人はどんな人だったのだろうか、とエールが聞くと知らないということに全員が驚いた顔でエールを見る。
「ハニーである俺ですら、雷帝の名前ぐらいは知ってるぞ!?」
「厳しいけど優しいお爺ちゃんだったよ。私の魔法LVが高いのをすぐに見抜いて魔法力が強力すぎるのを心配してくれてた」
「…やたら迫力のある雷ジジイ。ビシビシ雷打ってきやがって」
「ザンスちゃんが双葉ちゃんたちに意地悪しようとするからでしょ。あとね、ホムンクルスの作製に成功していて魔法科学の分野でも一流だったんだ」
エールが雷と聞いて思い出すのは魔人レイぐらいだが、なんかすごい人だったらしいというのは伝わった。
「そうだ、エールちゃんって電磁結界使えるんだよね?なら、エールちゃんがゼスで将軍になってくれればきっと雷軍の―」
「だからエールはリーザスのもんなんだから勧誘すんな」
ザンスはスシヌをポコンと叩いた。
「リーザスのもんでもゼスのもんでもないぞ!エールは俺の相棒!」
人望ある人の後継ぎなんて出来るはずがない、とエールは軽く笑って首を振った。
「えっと、四天王だっけ?そっちはどうなん?」
ウルザに千鶴子の地位である。政治的に優秀な人がなる役職なのだろう。
「四天王にはまず選抜試験っていうのがあるんだ。政治的な能力とか国営への意欲や政策の論文とか大勢の前で演説したり?そういう審査で適性を調べられて、認められてはじめてなれるの。ママは私の歳の頃はもう四天王だったらしいんだけど……私もいつかは四天王にって思って頑張ってるんだよ」
スシヌは手に力を込めてそう言った。
エールはその仕草にスシヌの強い決意を感じて、スシヌなら成れるよと言った。
「えへへ…あっ、そういえばザンスちゃん、雷帝様のところにいた萌ちゃんと双葉ちゃんだけどクラウン家に引き取られて――」
「ちょ、何あれ!」
スシヌが話を続けようとしたところを長田君の言葉が遮った。
エール達の進行方向を塞ぐように、道のど真ん中に黒く蠢いている異質な何かが見えた。
「うわ、これって異界ゲートだよな?」
「くっそ邪魔なところに作りやがって。あのババア、こっちを監視してやがったな」
道の真ん中にあるので避けていくことも出来ない。近付くとやはり前にゼスに来た時に出会った異界ゲートだった。
「異界ゲートって、これもしかしてミラクルさんの?」
『我と再び相見える資格を持つもの達よ。このゲートを潜るが良い……』
荘厳な口調でそのゲートの奥から語りかけてくる。
「よし。俺らは何も見なかった。さっさと進むぞ」
ザンスはゲートからの言葉に応える事無くゲートの横を抜けようとする。
「関わると面倒だからって見なかったってのは無理があるだろ…」
「いーや、あのババアに関わると碌なことがない」
何より覗かれていたのが不愉快なようだ。
「ミラクルさんには修行でお世話にもなったし挨拶ぐらいは」
エールはスシヌの言葉に頷いた。
そして前のように眠らされるなら素直に入った方が賢明だ、と続けるとものすごく嫌そうな顔をしながらザンスは異界ゲートに入って行った。
「先行くなよー!」
長田君がザンスを追って入っていく。
ボク達も行こう、エールはそう言いながら万が一を考えてスシヌへ手を差し出した。
「…うん!」
スシヌがエールの手を握り返し二人は手を繋ぎながらゲートへ足を踏み入れる。
………
――入った先には足場がなく、エール達は落下した。
エールがスシヌを庇いながら落ちると下はふわっとした柔らかい地面だった。
「わわ!大丈夫?エールちゃん!」
エールはスシヌを上手く受け止めつつ、怪我はない?と聞くが心配はなさそうである。エール達の着地を確認すると地面から徐々に柔らかさが消えて普通のカーペットの床に戻る様に固くなった。
「これも魔法かな。粘着地面の効果に似てる……」
スシヌが魔法使いらしく分析している。
「おいこらババア! いきなり何しやがる!」
エール達が体を起こすと怒っているザンスと、その奥に前と同じように大きな玉座に座っている黒いドレス姿の美しい女性が目に入った。
ザンスの上に落ちただろう長田君は割られて転がっている。
「はっはっは。久しぶりだな!!」
ザンスの怒りを気にせずエール達に笑いながら挨拶をしたのは最高に上機嫌な様子のミラクル・トーであった。
「余の茶会に二度も招かれる幸運を噛みしめながら席に着くといい。これからティータイムだ」
ザンスの言葉を無視し、上から目線での歓待の言葉がかけられる。
既に茶会の準備がされており、色とりどりの珍妙な菓子がテーブルいっぱいに広がっていた。
「誰が座るか!」
「余が入り口を開けない限り、戻ることも出来んぞ」
エールは怒っているザンスを宥めながら席に着く。すると骸骨の手によって目の前に菓子と同じく色とりどりのお茶が運ばれてきた。
「っはー!前も思ったけどすっげーなぁ!」
「きゃー、たい焼きがー!」
エールがスシヌに噛みついているたい焼きを引きはがして自分の口に入れるとなぜかスシヌは顔を真っ赤にしている。
「悪趣味なもんばっか並べやがって」
文句を言いながらも口に菓子を運んでるザンスにエールはそういえばチルディさんが作ってくれたお菓子は美味しかった、と話してみた。
「あいつ、菓子作りの才能もあるらしいからな。良くアーにせがまれて作らされてるみてーだ」
「チルディ・シャープか。自らが目指しているものと違う才能を嫌がっていたように見えたがやはり母親、娘には甘いようだな」
「あら、ミラクルさんだってミックスちゃんには甘いでしょ?母親ってそういうものよね」
エールも良くクルックーにへんでろぱをねだった事を思い出した。
どこにあるかもわからない空間、骸骨の給仕に不気味な菓子という状況ではあるがそのお茶会は前以上に和やかな雰囲気だった。
「法王ムーララルーの娘にして魔王の子、エール・モフス。魔王の子をまとめあげ、魔王の脅威を世界から取り除き、カオスマスターを魔王の血から解放した件、褒めてつかわす」
一通り菓子を食べ終えたエールにミラクルが改めて労いの言葉をかける。
言葉こそ上から目線ではあるが純粋に褒めてくれているのは間違いないのでエールは笑顔になりつつ、自分だけの手柄じゃないと言って修行では大変世話になったと素直に礼を返した。
「未来の民を導くのもまた王の務めである」
ミラクルはミックスの…無愛想ではあるが根の優しいの姉の母親だ。
素直になれないところが親子そっくりだがこれをミックスに言うとたぶんすごく怒るのだろう。その顔を想像してエールはくすくすと笑った。
「その働きの褒美としてお前を余の"真"トゥエルヴナイトに入れてやろうではないか。余の右腕であり元魔王であるカオスマスターと並べてやろう。
そうだな……トゥエルヴナイトでの名はサンシャインマスター、いやサンライトマスターか。ふさわしいものを考えておくことにしよう」
エールはリーザス闘技場で名乗ってしまった名前と重なって茶を吹き出しそうになった。
「サンシャインマスターって何だか可愛い名前だね」
チルディにその名前を突っ込まれたとき、スシヌも魔法少女サンシャインのファンだったと聞いていた。エールはサンシャインマスターはやめて欲しいと訴え、日光さんは刀なのでもっとJAPAN風な呼び名でお願いします、と提案してみる。
「余は呼称を分かりやすい名で統一しているのだがな。しかし、どうしてもと言うなら他の呼び名も考えておいてやろう」
「やめてください…」
日光が小さく呟いた。
「そもそもトゥエルヴナイトって何よ?」
「世界の王たる余の剣となり盾となる12名の精鋭の総称だ。世界でも最高峰の能力を持った余に選ばれし者達。先の鬼畜王戦争では余と新トゥエルヴナイトの活躍によって魔王を正気に戻すことが出来たのだぞ。これに選ばれることは世界最高の栄誉であると言えよう」
ミラクルが長田君に説明する。
「ふむ、長田君だったな。お前も入れてやろうと考えてはいるのだ」
「えっ、なんで俺?」
「実力は見劣りはするが、我が娘ミックスを闘神大会でパートナーにした豪胆さに余の魔法を受けて堂々と立っている姿、普通のハニーでありながらあの魔王の子の中で居場所を作るとは実に面白い。何より余の個性的なトゥエルヴナイトにあって絶対に被ることがないからな。気に入ったぞ!」
「被るって何が!?」
上機嫌に話すミラクルに長田君は自分の相棒なのでダメです、とエールは頬を膨らませる。そして長田君は普通ではなくイケメンハニーであるということを強調した。
「ならば二人して余の部下になれば良い!」
「いやー!闘神大会から思ってたけどこの人なんか怖い!」
長田君はバットで殴られた瞬間を思い出すらしく怯えている。
「陶器はともかくエールはリーザスのもんだ。ゼスの連中もだが、どいつもこいつも勝手に勧誘しやがって」
「相変わらず口が減らないな。ザンス・リーザスよ。余はお前の実力とその上昇志向、余に反発する気概を気に入っている。研鑽を積み余に認められたリック・アディスンのようにトゥエルヴナイト入りたければいつでも言うが良い」
「誰が入るか! あとリックは鬼畜王戦争でお前に協力しただけでそんな変なのに入ってねぇよ。勘違いすんな」
「ははは!相変わらず生意気だが王を目の前にしてその態度、やはり面白いな」
ミラクルとザンス、二人の夢は世界征服なのだ。兄である乱義もであるが、どこかでぶつかったらいやだなぁとエールはフォークで刺されて暴れているたい焼きを口に運びながらその様子を眺めた。
その後、ミラクルはスシヌに目が向ける。
「お、お久し振りです」
「……スシヌ・ザ・ガンジー。余と同格の魔法LV3という破格の才能を持って生まれておきながら、相変わらず普通の魔法使いの延長線のようなことしか出来ないとはつまらぬ者だ。極めれば一国の女王などに収まらず、どんなことでも出来ように」
ミラクルにつまらなさそうに言われ、自覚があるのかスシヌは悲しそうに俯いている。
エールはスシヌは自分を助けてくれた、とムッとしながらミラクルに言い返した。
「引きこもりを見ると余の役に立たずな従姉妹を思い出す。才能を持ちながら殻に籠り、歩みを止め、諦めるような者など評価に値せん」
「わ、私は四天王を目指して頑張ってます」
エールが庇ってくれたのを見てスシヌも勇気を出してミラクルに言い返した。
その様子を見てミラクルは口元に笑みを浮かべた。
「そうか。エール・モフスと再会して自信が戻ったようだな」
「これも魔法っすか?」
長田君が骸骨を見ながらそう尋ねた。
「その通りだ。この死霊騎士団は偉大なる祖母様から賜ったものだが、余は自身で作り出した様々な魔法が使える。この秘密の空間のようにな」
そういえばスシヌにはオリジナルの魔法や必殺技とかないよね、とエールが聞いてみた。
「白色破壊光線なら出来るんだけど……」
「あの力のアニスほどの桁違い、いや次元違いの魔力があれば黒色破壊光線等でも他とは違うものになるがな。余の役に立たん従姉妹ですら遺失魔法を復活させて使っていた。お前も何か自分だけの魔法を作ってみればさらに自信がつくのではないか?」
ミラクルはさりげなくスシヌにアドバイスをしている。
エールはこういう所はやはりミックスの母親だと感じていた。
「魔法の必殺技ってーと。魔人のホーネットさんがなんかかっけーの使ってたよな。まっ、俺には効かねーけど?」
ハニーである長田君は得意げだった。
「六色破壊光線だな。あれもまた魔人の性質ゆえに強力足り得るものだが、もし新たな魔法を作りたいのであればまずは模倣から始めるのも良かろう」
ならば対抗して十六色破壊光線にしよう、とエールは提案する。
「多すぎるよ!?」
エールの適当な言葉に思わずスシヌが驚き、ミラクルが笑っていた。
「実は一応、作っている魔法ならあるんです」
スシヌがおずおずとそう話した。
「ほう? 余と同格の才能が編み出した魔法とはどのようなものだ?」
「そ、そんなに期待されても困るんですけどマジカルドリルって言う魔法で…」
「なんだ、そのアホみたいな名前」
ザンスはそう言うが可愛らしい名前だね、エールはマジカルという言葉に反応してそう言った。
「これはまだ仮の名前だから!」
スシヌは恥ずかしそうにしている。
「ふむ……聞いたことがない。余の知識を持ってしても名称からはおそらく攻撃魔法という推測しか出来んな。どのようなものだ?」
スシヌは深呼吸してその魔法について解説し始めた。
「まずゼスではどうしても魔法が効かないハニーさん達に対して抵抗があると思うんです」
「うんうん、そうだよなー!ハニワ平原って元々ハニーを隔離してるところだったっていうし」
ハニーである長田君が大きく頷いている。
「だからハニーさん達にも効く魔法があればいいのかなって思って…」
「うん?」
「マジカルドリルは魔法が効かないハニーさんにも効く攻撃魔法なんです」
「なんでそういう発想になるの!?」
長田君が思わずすごい勢いでツッコミを入れていた。
その概要を聞いたミラクルは驚いた表情をしてすぐに上機嫌に笑い出した。
「……はっはっは! なるほど確かに面白い発想だ! 余としたことが長田君に魔法が全く通じなかったのはハニーだから当然という固定観念に捕らわれていたとは実に不覚であった」
どうやらそれはミラクルにも思いつかなかった発想であったらしい。
「面白い、面白いぞ! スシヌ・ザ・ガンジー! して、その魔法どこまで出来ている?」
「まだ全然……ハニーさん達にお願いするのも大変で」
「そりゃ的になりたいハニーなんかいねーだろ」
「ううん。下手にスシヌが頼んだら集まり過ぎちゃうからって事よ」
パセリが言う通り、スシヌはハニーキングお墨付きの可愛い眼鏡っこである。
「ちょうどここに実験できる陶器がいるじゃねーか。試してみろよ」
「やめてー!?」
ザンスにそう言われ逃げようとした長田君をエールがさっと捕まえた。
「エールはどっちの味方なんだよー!」
セロテープあるから、と言ってエールは長田君に笑顔を向けた。
スシヌの手に膨大な魔力が集まり始める。
さすが魔法LV3、エール達が思わず無意識に警戒するほどの魔力である。
そしてスシヌの手から放たれた魔法が長田君に直撃した。
「きゃー!」
エールも衝撃に備えて目を瞑ったが…こつんと何かが当たるような音がして膨大な魔力の気配が消えた。
「あれ? なんていうかびっくりしたけど痛くない?」
「ご、ごめんね、長田君。でも全然痛くはなかったと思う」
すごい魔力の集約だったがどれぐらいの威力だったのかを訪ねてみた。
「エールにぺしぺしされてるより弱いくらい」
エールは長田君をぺしぺしと叩いた。
「そうそう、これより弱いぐらい…って叩くなよ、エール」
ザンスがべしっと長田君を叩くとピキッとひびが入る音がした。
「何すんだよ、お前ー!」
「攻撃っつーなら最低でもこれぐらいの威力がねーとな」
怒る長田君にザンスは笑っている。
「まだ攻撃と呼べるほどの威力はないという事か。しかしハニーであれば攻撃魔法は全く感じないはず。基礎の理論は出来ているようだな」
「はい。これはアニス先生と一緒に作ってる魔法なんです」
「なるほど、見たところその魔法を扱うには相当強い魔力が必要なようだな?」
ミラクルが見様見真似で手に魔力を込めている。
スシヌは魔法理論の解説もしていないのに見ただけで魔法を真似できるミラクルを尊敬の眼差しで見つめていた。
「……ふむ、これは並の魔力では攻撃魔法と呼べるものにはならないだろう。並外れた魔力あってこそはじめて形に出来るものだ」
「そうですか……」
スシヌは少し落ち込んだ。使えるのが自分たちのような魔力の強いものだけならば普及は望めそうにない。
「良かったな。魔法が効く陶器とかまじで存在してる意味ねーし」
「ひどくね!?」
「しかしマジカルドリル、完成すれば革命的だ。その魔法を極めれば世界で初めて魔法でハニーを倒した人間として歴史に名を刻むやもしれんな」
「な、名前を残したいわけじゃないんですけど」
少し褒められてスシヌは口をへにゃっと綻ばせる。
その時は長田君は世界で初めて魔法で倒されたハニーになれるかもしれないね、エールは何となくガッツポーズをした。
「嫌だよ!?」
「ふふ。楽しそうね、スシヌ。ミラクルさんもね」
「建国王パセリ・リグ・ゼス。まだ成仏していないようでなによりだ」
「スシヌの子供を見るまでは成仏なんてできないわ。 …これずーっと言ってたりして」
エールは親し気に話している二人が少し意外だった。
「今でこそ幽霊ではあるが、かつて王と呼ばれたもの。王である者同士、交流があって不自然なこともでもないだろう」
パセリが王?とエールは首をかしげたが、前にそんな話を聞いていたような気がする。
「おばあちゃんはゼスの歴史の教科書に一番最初に名前が出てくるんだよ。当時迫害されていた魔法使いを救うために立ち上がって国を興した英雄様なの」
「ゼスを作り上げた伝説の建国王。国を興す、と言葉にすれば短いが今なお続く大国を創るという事がどれほどの偉業であるかは想像に難くないだろう。当然、魔法使いとして一流の才能を持つ。さらに神魔法をも操る魔法科学の第一人者。まさに歴史に名を刻むにふさわしい人物だ。偽パセリの乱と呼ばれたその名を騙るものまで出てきたことがある。余が部下を連れて会いに行ったところ拙い偽物であったがな。その後に本物に会えるとは思っていなかった」
「なんか照れちゃうわね」
エールはそれを聞いて驚いた。
「スシヌの学校行ったら質問攻めにあっちゃったし、歴史の先生とか研究者みたいな人にモテモテで困っちゃうわ」
ただのおちゃめな人にしか見えない。
「パセリさんってすげー人なんすね。なんかおばあちゃんって呼ばれるには綺麗な人だなーぐらいにしか思ってなかったっす」
「あら、お上手」
「まっっっったくそんな風には見えないだろ。ただの悪霊ババアだ。しかも何人も男作ってたらしいぞ」
「そんな言い方ひどーい。そりゃ恋人はいっぱいいたけど、みんなちゃんと平等に愛していたし、愛してくれたもーん」
確かに怒らないしいつもにこやかで朗らかな態度は男にモテそうな気がする、とエールは何故か納得した。
「あら、エールちゃんもお上手。女の子はね、こうさりげなく褒められるのに弱いのよ、ザンスちゃんも見習わないと」
「うるせぇ、女の子なんて歳でもねーだろが」
楽しくティータイムで談笑していると、エールはミラクルが真っすぐに自分を見ているのに気が付いた。
何か自分に話したいことが?とエールが聞いてみる。
するとミラクルは口元の笑み絶やさないまま、しかしその目を鋭くさせる。
「エール・モフスよ。魔王の子達と魔王討伐を終え、再度冒険に出るまでの一年間。お前はどのように過ごしていた?」
マジカルドリル …… ランスクエストマグナムに存在するオリジナル作成キャラと上杉虎子が習得出来たハニーにダメージが与えられる謎の魔法(パッシブスキル) 正史ではもちろん存在しない。