エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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エールと兄姉と魔法ハウス 2

 魔法ハウスで食事をとった後の事。

 

 エールはスシヌが入れてくれたお茶を飲みながら、魔法の練習をしていた。

「やっぱり火力が強すぎるね。エールちゃんは潜在魔力がすごく強いからだと思う」

 ぷち炎の矢やぷち氷の矢でも、イカマンぐらいなら粉砕できそうな威力になってしまう。

 レベルが高いせいかエールの魔法は才能以上に威力のあるものになってしまっているようだ。

「魔力が高いとただ魔力を練れば良いってものではない繊細な操作はちょっと難しいのよね。剣でも手加減って逆に難しいものでしょう?」

 パセリも一緒にエールの魔法を見ている。

 最初、パセリはまず魔法の理論と知識をエールに覚えさせようとしたのだがエールが途中で目を回して頭を抱え始めたので理論よりも使って慣れた方がいいだろうと判断した。

 スシヌも師匠であるアニスから与えられた課題だと、エールの横で一緒に魔法の訓練していて左手と右手でそれぞれ魔法を出していた。

「魔法ってどうしても詠唱しなきゃいけないから隙が生まれるでしょ?だからせめて同時に出して二回攻撃出来ればなって…」

「これ、実はとってもすごい事なのよ~」

 優秀な子孫にパセリは自慢げだった。

「アニス先生はどうやってるのかポンポン打ってるし、私なんてまだまだ…」

 あの人は魔力をセーブしようなんて思ってないから出来る芸当なんだと思う、エールはパニックになって魔法を乱射してたアニスを思い出した。

 

 エールは魔法制御の練習として、飲み終わったカップを宙に浮かべようとするがびよーんと上に跳ね上げては素早く動いて手でキャッチをした。

 何度も繰り返すがふわふわと浮かばせることなどは出来ない。

「エール、さっきからそれなんか新しい芸?それとも遊び?」

 何度か試すがそのたびに吹き飛んでしまい、その動作が大道芸のようになっているようで、長田君につっこまれてしまった。

 芸ではなく魔法の修行だ、とエールが口を尖らせる。

「へー!エール、魔法の訓練とかしてたんだ。せっかく優秀な魔法使いがいるんだしいい機会じゃね?」

 エールは大きく頷いた。

 魔法の師匠は魔法Lv3のゼス王女に魔法大国ゼスの建国王という、魔法使いでなくともゼス国中で憧れられる二人である。

「これでエールもますます強くなっちゃう? まっ、俺には魔法Lv3だろうが効かないけど?」

 エールはちょっと得意げな長田君に向かってぷち炎の矢を飛ばすが、ぺしっと当たって掻き消えた。そのまま何度もぷち炎の矢の的にしてみる。

「へっへーん。全然痛くねーぞー」

 長田君はやっぱりハニーだった。

「お茶のおかわり持ってきたわ~」

 パセリがさっとエールのカップにお茶を注ぐ。

 ちょうど良い所に、と言ってエールは長田君の頭に熱い茶の入ったカップを乗せた。

「ちょ、やめて!こぼれるー!割れるー!」

 うまくバランスを取り始めたのを見て長田君の方が芸人みたいだ、とエールは笑った。

 

「何やってんだか」

 ザンスはバイ・ロードの手入れをしていた。

「そういやザンスってお忍びだからって赤の鎧ないけど武器はそのままなんだな。他の剣使えないん?」

 長田君がバランスを取りながらザンスに聞いた。

「んなわけねーだろ。ただ相手だっつーハニーキングはかなり強いって聞いてたからな。慣れてない武器で戦うわけにはいかなかったんだよ。慣れない武器で戦うのがやばいってのはエールなら分かるだろうが」

 コロシアムで慣れない細身の剣を使ったことがあるエールは大きく頷いた。

 

 エールが使っている聖刀・日光は魔人が切れるというだけ特性だけではなく、武器としても非常に優秀であった。

 振った時の軽さ、切った時にも重くならない鋭い切れ味、何よりも手と一体化しているように馴染む感覚がある。

 ついでに見た目も人間時の日光に負けないぐらい光が揺らめく白い刃が美しく、手入れも簡単だ。

 

「でも儀式をすりゃ誰も使えんだろ?」

「私を無理矢理使おうとすれば手に馴染むことも、軽く感じることもありません。聖刀などと呼ばれていても本質はカオスと同じ魔剣なのですから」

 アームズのように無理矢理、儀式か契約とやらをして使うことも出来るようだがそれでは扱いきれない、という事だろう。

「エールさんが儀式もせず見事私を使いこなせているのを見ると驚くほど相性が良かったのでしょうね」

 優し気な日光の言葉にエールは少し得意げな表情になった。

 

 エールはバイ・ロードを手入れしているザンスにちょっと触らせてほしい、と頼んでみた。

「は? 誰が触らせるか」

 ボクの方が上手く扱えるかもしれないから?とエールが挑発するように言うとザンスは鼻で笑ってエールにバイ・ロードを持たせた。

 

 バイ・ロード。リーザス赤の将に代々受け継がれてきたという由緒ある武器。

 

 エールの背丈よりも長い剣、持ってみると分かるが魔力が感じられるので魔法剣のようだ。だがそれ以上にその長さに反して異様なほど軽いことに驚いた。

 エールがやや真剣な面持ちで軽く振るってみると剣先が少し伸びたような妙な感覚と共に、恐ろしい長さと軽さに体の重心が振り回され思わずよろめいてしまった。

 そんなエールの様子を見てザンスがほくそ笑む。

 

 代々伝わっている武器と聞いていたから見た目に反して癖のないものだと思っていたが、とんでもなく癖のある武器だった。

 一振りでその使い辛さが分かってエールは思わず眉を寄せながら振るった時に少し伸びたような気がする、とエールが話した。

「そういう武器なんだよ。お前じゃ扱いきれねーだろ」

 エールは大きく頷きながらバイ・ロードをザンスに返した。

 

 そしてもう一つ、エールは訓練でも…もっと前のコロシアムの時から本当に手加減されていることも分かってしまった。

 必殺技であるバイ・ラ・ウェイすら使わせられるどころかこの剣の本気の一撃も出されていないのだろう。エールは模擬戦のリベンジが出来るのは先が長そうだと感じた。

 

「超有名な剣、俺にも触らせてー!」

「剣も扱えねーやつが触るんじゃねえ!」

 長田君が近づこうとしたがザンスに蹴り飛ばされた。

 

「そういえばザンスちゃんってヘルメットはつけないわよね。ほら、リックさんが昔被っていた…あれも代々赤の将に受け継がれているものじゃなかったかしら」

「誰がつけるかあんなくっそダサいヘルメット(もん)。押し付けてきやがったがリックに突っ返してやったわ。俺様のハンサムな顔が隠れたら女共が悲しむだろ」

「確かにカッコイイものじゃなかったけど…ザンスちゃんにそんなこと言われてリックさん悲しまなかったかなぁ」

 

 どうやら他にも受け継がれているものがあるらしい、エールはちょっと見てみたいと思った。

 

………

……

 

 夜遅く、そろそろベッドに入ろうかという時間になってザンスと長田君が言い合いを始めた。

 

「俺様はデカいベッドがある二階を使うから、お前らは下で寝とけ」

 事の発端はザンスがさも当然とばかりにそう言い出したことにある。

 

「こらー!お前何もしなかったくせにいいとこで寝ようとかずうずうしいぞ!」

「俺様があんな使用人部屋みたいなとこで寝るとかそっちの方がありえねーだろうが!」

 

 ザンスとスシヌは王族である。エールはむしろ小さいベッドではないと落ち着かないが、大きなベッドの方が寝慣れているのだろうか。

 エールはスシヌに聞くと

「私はどっちでも大丈夫だよ?」

 キャンプでは普通に寝ていたことを考えるとつまりザンスの我儘だろう。

 

「うーん、でもベッド3つしかないのよね?」

 パセリがそう言った。

「陶器を外か床で寝かせりゃすむ話だろ」

「そ、それはちょっと酷いよ…」

 エールもスシヌに頷いた。

「二階のベッドは二人で寝られるぐらいは大きいだろ! そこにエールとスシヌが一緒で寝ればいいのー!」

 長田君が当然のように提案する。

「え? えええっ!? 私、エールちゃんと一緒のベッドなの!?」

 しかしそれを聞いたスシヌは目をぐるぐるさせながら動揺していた。エールとしてはキャンプも一緒のテントだったのだから今更なのだが、一緒の布団となるとそれとはまた違うようだ。

「まぁ、スシヌったらラッキーね。エールちゃんと一緒に寝られるなんて」

「ベッドで暖めあうなんて、そんな!?」

 スシヌは何を想像したのか頭からプシューっと蒸気を吐き出さんばかりに焦っている。

「確かに一人じゃあのベッドはでかいな。よし、エールかスシヌかどっちか一緒に寝てやるから一緒に来いや。やってる最中、下に声が聞こえないように我慢してろよ。声だけでも刺激が強いだろうからな」

 ニヤニヤしながらエールとスシヌを見ているザンスの横で長田君が何を想像したのかぱりんと割れた。

 エールはスシヌに手を出されたら腹を切って詫びなきゃいけない、とスシヌの前に立ち塞がる。

「そうだったな。ならエールでいいわ。…ちょうど話したいこともあるしな」

 話って何?とエールが聞こうとする前に長田君が大声を出した。

「いいわけあるかー! 男と女が一緒のベッドとか! ダメ!エールは嫁入り前なんだぞ!」

 なら長田君とザンスが二階のベッドで一緒に寝るのはどうか、とエールが提案する。

「そん時は陶器を窓から投げ捨てる」

「俺も嫌だ!エールやスシヌならともかくー!」

「あら、長田君もけっこうえっちな事考えてるのね~」

 パセリの言葉に長田君が焦っている。

「てめぇ、陶器の分際で俺の女狙ってやがったのか」

「そんなんじゃなくて!ベストは可愛いハニ子か柔らかい巨乳のお姉さんだけどせめて女の子がいいってこと!」

 エールは長田君を割った。

 スシヌはと言えばエールちゃんと一緒のベッドは…と顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせて話が聞こえてないようだ。

 

「でも実際、二階の部屋にはシャワー備え付けられてるの考えるとそういう事をする部屋として作られているわよね。ちゃんと防音もされているみたいだからどんな声を出しても安心。…マジックは知らなかったでしょうけれど」

 知っていたらそんなもの絶対にスシヌには渡さないだろう。

「あのベッドの広さだったら二人どころか三人もいけるでしょうね」

 なら全員、二階に寝られるのでは?

 ヘルマンでは全員一つの部屋で寝泊まりしていたし、それも楽しそうだとエールは思った。

「暑苦しくなるだろうが。陶器以外は上に来て良いが」

 

 

 エールは前と同じように手をパン!と大きく叩くと全員がそれに注目する。

 

 そして今回のパーティのリーダーも、この魔法ハウスもスシヌから譲ってもらったからボクのものだ、と言った。

「魔法ハウス、エールにやっちまったのか?」

「う、うん。私が持ってるよりエールちゃんが持ってた方が役に立つからって」

「お前、これがどんだけのもんか分かってんのかよ…」

 魔法ハウスが本来、一介の冒険者が持てるようなものではなくリーザスにも数個しかないアイテムだと知っているザンスとしては呆れたように言った。

「んで、エール。部屋割りどーするん?」

 

 ボクとザンスで二階に行くからスシヌと長田君は一階で、と言った。

 

「キャー、エールちゃんったら大胆なお誘い!?」

「がははは! 分かってんじゃねーか。まぁ可愛がってやるから安心しろよ!」

 パセリが騒ぎ、ザンスが勝ち誇ったように笑った。

「だ、ダメだよ!ザンスちゃんと一緒って、そんな、なななな、何かされちゃうよ!」

「そうだぞ!お前、前危なかったんだろ!?覚えてねーの!?」

「エールさん、それはいけません。リーザスでのこと忘れたわけじゃないでしょう?」

 心配そうに話す二人と愛刀にエールは大丈夫だと頷いた。

「リーダーが決めたことなんだから従えばいいんだよ。よしよし、んじゃ二階に行くぞ」

 ザンスはそのまま二階に先に上がって行った。

 エールは万が一スシヌに手を出したら長田君を粉々にして外に撒くからね、とエールが凄みつつ日光を長田君に渡す。

「やんねーよ!? スシヌは眼鏡はポイント高いけど貧乳だし!」

 ショックを受けるスシヌを見てエールは長田君を叩き割ると思う存分マジカルドリルの練習台にしてやって、と言ってザンスの後に続いて二階に上って行った。

 

「がははは!自分から誘ってくるとはいい心がけじゃねーか」

 エールが二階に上がって大きなベッドに腰を掛ける。

 一階にあるベッドよりもふかふかとしていて見るからに高級そうだ。

「あー、よし、ならさっそくだな…」

 エールは伸びてきたザンスの手をぺちんと払って首を振りながら、何か話があるっていうから、と話しかけた。

「ああ、そうだ。お前、ヘルマンで危ない目にあったって言ってたよな?陶器が助けたとか言ってたが」

 エールは素直に頷く。

 

 ここで二人して黙ってしまった。

 

 ザンスはそれ以上聞いていいものか悩み、エールは詳しく言うべきかを悩む。

 

 エールは黙ったままのザンスを見て少し考えた後、自分はまだ処女である、と答えた。

「……それをわざわざ言うってことはお前、やっぱり犯られかけたってことだな?」

 エールは言わないほうが良かったかもと思いつつ、またしても頷いた。

 レリコフもであるがエールは実際、かなり危なかった。ヒーローと長田君が来るのがあと少し遅かったらと思うとそれはあまり考えたくないことだ。

 

 しかしそれを考えた時、何よりも東ヘルマンの男に投げつけられた言葉が思い出される。

 

 

――法王が魔王の子なんて産んだから、神に見捨てられた。お前なんか産まれてこなければ良かった。

 

 

 母は父を愛しているし、自分はその間に生まれたはずだ。母も自分を愛してくれていると感じていたから言われたときは気にもしなかった。

 今になって腹部を蹴られたことよりも服を剥かれて体をまさぐられた気持ち悪さよりも、その言葉が痛く感じるのは母クルックーが一年間のことをエールに秘密にしていると知ったからだろうか。

 

 クルックーは秘密主義なのだという。実際、エールに色々な事を話さないままだった。

 なんと言っても父が魔王である事すら知らされてなかったのだから今思うと驚きである。

 エールは母に会って話がしたくなった。

 

 小さく頷いたエールがいつもの笑顔を消して顔を上げない様子を見てザンスは苦々しそうに歯噛みした。

「東ヘルマンの連中は一人残らず皆殺しにしてやるわ」

 その時はボクも行く、エールと答える。あいつらはこれからもきっとエールの大事な家族を狙ってくるだろう、出来るだけ早く潰したいところだ。

「エール、お前は自分が強いと思ってるんだろうが俺様はともかくお前は無敵じゃねーんだ。中にはお前みたいな色気のない貧乳に手を出すアホもいんだから、これからもうろうろすんなら常に気張っとけ」

 エールはザンスの言葉になんとなく自分をやたら心配してくるダークランスの姿を思い出してくすくすと笑った。

「人が心配してやってんのに何笑ってやがる」

 その色気のない貧乳に真っ先に手を出したアホが目の前にいる、とエールはからかう様に言うとその頬がむにーっと伸ばされた。

 

 手を離されるとエールは笑顔でザンスに改めて礼を言った。

「あ? 何のことだ?」

 思えばハニーキングから助けて貰ったのにきちんと礼を言っていなかった気がする。

 そして今回の冒険もスシヌやエールを心配してるからリーザスに帰らず付いて来てくれたこともありがたかった。

 レリコフのそばにいながら危ない目に合わせてしまったこともあり、エールと長田君だけでスシヌの護衛をすることになってたら気を張りすぎて冒険を楽しめなかったかもしれない。

「…バカに素直で気持ち悪いな。悪いもんでも食ったか?」

 エールは口を尖らせた。

 

「だがその礼で今から俺様に抱かれようと思ってるわけだな?よしよし、ちゃんと可愛がって―」

 ザンスがいつものようにからかうように大口で笑った。

 エールは東ヘルマンに襲われて体を弄られた時にシーウィードで大人しくしてれば良かったと後悔した、と素直に答える。

 思い返してみると腹を蹴られて数人がかりで犯されかけるというかなり怖い経験をしたのではないだろうか。結局、無事だったのでエールはもう気にしてはいないが人によってはトラウマになりかねないだろう。

 

「……は?」

 その予想外の返答にザンスは目を丸くした。

 体を弄られたという部分は東ヘルマンを潰そうという怒りが沸くのだが、それ以上に自分に抱かれなかったことを後悔しているとエールが話していることに頭が追い付かない。

 

 ザンスは見た目では分からないがエールがその事件で内心かなり傷ついているのだと思った。

 この世界では無理矢理犯されるなんて珍しい事ではないが、だからと言って平気でいられるかというとそうではないのだろう。

「お前、中身はけっこう普通の女だったんだな。まぁ、経験ないくせに突然そういう目にもあったら無理もねーか…」

 そう言って頭をぽんぽんと撫でてくるザンスを見て、エールは悪い方向に勘違いさせたのに気が付き誤解を解こうとしたのだが…

 

 

<ばたーん!>

 

 

 そのしんみりした雰囲気を吹き飛ばすかのように扉が勢いよく開け放たれた。

 

「ザンスちゃん!エールちゃんに酷いことしちゃだめー!」

「エールー!無事かー!やっぱ男女が一緒の部屋とかダメだってー!」

 土煙の奥からスシヌと長田君の声が聞こえる。

 

「もー、せっかく甘酸っぱい雰囲気だったのに~」

 

 エールとザンスを覗いていたのだろう、とても残念そうな声を出しつつパセリがにゅるっとベッドサイドから顔を出した。

 

「悪霊ババア、いつからそこにいやがったんだ!」

「エールちゃんが心配だってスシヌが言ってたから。別に覗こうとしてたわけじゃないのよ?」

 エールはパセリをじーっとに見つめた。

「ごめんなさい…実は最初から見てたの。てへっ☆」

 舌を出してお茶目な様子でいるが、それはただの覗きです、とエールが口を尖らせた。

「つい体が勝手に。 ……それにしてもエールちゃん、怖い経験したのね」

 パセリがエールを幽体のままよしよしと頭を撫で、抱きしめる仕草をする。実体の温かさこそないが、エールは少し心が温かくなった。

 

 エールは別にその経験は大したことじゃないしあまり気にもしてない、とザンスとパセリの目を見て言った。

 後悔しているというのは最初は乱暴にされたくないぐらいの気持ちである。

 

「勘違いさせんな!アホが!」

 

 エールは頭に重たい拳を食らってしまった。

「え、えーっとよく分からないけど!エールちゃんは私達の妹なんだし、だ、大事しなきゃいけなくて、えっちな事とかまだ早いでしょ!そういうことはちゃんと結婚してからするものだよ!」

 入ってきたスシヌにはエール達のやり取りの意味がよく分からないので、とにかく早口でまくし立てた。

 

「ザンスちゃんはいっぱい女の子とそういうことしてるかもしれないけど!本来、そういうことは本当に好きな人だけとするべきで―」

 その言葉にエールと長田君は驚いた。

「あれ?スシヌってもしかして知らんの?」

 

 エールはザンスはまだ童貞で女の子とそういうことはしたことないだろう、とさらっと口に出してしまった。

 

「え?」

 スシヌはその言葉にとっさにザンスの方を見た。

 

 ザンスの方は突然スシヌに童貞をばらされたので固まっていた。

 

「え、えええ?だ、だっていつもザンスちゃん自慢してて…リーザスの人達もザンスちゃんはいっぱいそう言うことしてるってすごい噂になってたよ?」

「リーザス軍きっての性豪って呼ばれてるのよね。メイドさんとか食べ飽きてるとか、親衛隊の女の子を食い散らかしてるとか、貴族の女の子集めて乱交パーティしたとか」

 その噂は尾ひれ背びれが付いてゼスにまで伝わっているようだ。 

「ママもパパそっくりだって言ってたし」

 マジックが過剰なまで心配していたのはきっとこのせいもあるのだろう、エールは納得した。

「私はわかっていたわ… ザンスちゃんが無理して見栄を張ってるって。マジックはランスさん以外経験ないからそういうのって分からなかったのね」

 パセリは知っていて黙っていたようだ。

 

 だが、幼馴染であるスシヌが全く知らなかったのはエールにとっても予想外だった。

「わ、私も絶対外に話さないから。その、ごめんなさい」

「あー、うん。なんかごめん… エール、お前ちょっと酷いぞ」

 思わずスシヌと長田君が謝っている。

 

 エールも謝ろうとしたのだが…

 

 

 「…おまえら」

 

 

「全員出てけやー!」

 

 

 エール達は全員部屋を蹴り出された。

 

 さすがに気の毒なのでそっとしておこう、ということでバラしてしまったエールは責任もって一階で寝袋をしいて寝ることにする。

 その日、二階でバタバタと物に当たり散らしているような音がして、エールは心の中で謝った。

 

 それから数日の間ザンスは非常に機嫌が悪く、ことあるごとに長田君が割られ、エールも叩かれ、スシヌも当たられるのでエールは深く反省した。




・バイロードとヘルメットと鎧 … 赤の将に代々受け継がれている魔法剣バイ・ロードと"忠"の文字が入っている兜。しかしザンスは赤の将だがヘルメットはつけてない。この小説の中ではお忍びなためいつもの赤の将の鎧(特注)はつけてないがバイロードは脱着式なためそれが出来る装備はつけている。
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