エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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桜の通り抜け

 ゼス首都マジックを出発して幾日。

 シャングリラに大分近付いてきた道中の事。

 

「そういえば今ちょうど桜の通り抜けやっているんだったかしら。少しシャングリラまでの道から逸れるけど寄っていかない?」

 パセリがそんなことを言い出した。

 

 その目がらんらんと輝いている様子を見るに、パセリとしてはぜひ行きたい場所のようである。

「桜の通り抜け? ってもしかしてハニー造幣局がやってるイベントっすかね?」

「さすがハニーの長田君、良く知っているわね。ええ、秋の森で毎年やっているゼスの有名イベントよ」

 長田君は本で読んだことがあったそうだ。

 そういえばエールも前に受け取ったハニー観光名所特集号の表紙にその名前が書いてあったのを思い出した。

「あれ、でもなんか俺には縁がないなーって思って来る気はなかったんすよね。 ……何でだっけ?」

 

 首を傾げる長田君をよそにエールは桜と聞いて一人、目を輝かせていた。

 しかし同時に桜というのはJAPANにある植物ではなかっただろうか、と考える。

 

「確かにJAPANのものが有名だけど、他の場所にもあるんだよ。今まで世界がどんなにピンチになっても毎年ちゃんとやってるって、ゼスでは有名な観光名所なんだ。ハニー造幣局っていうハニーさん達が主催っていうのはゼスでは珍しいから」

 ゼスでは昔からハニーに対して差別が強いはず。それを考えるととても珍しい事だろう。 

「あ、あとそれにその、桜の通り抜けは私の学校でも憧れられてるというか……」

 スシヌは何故かもじもじとしている。

 スシヌは行ったことがあるのか、とエールは尋ねた。

「う、ううん! 一度もないよ! だってあ、あ、相手がいるわけじゃないし…」

「スシヌを誘いたい人ならいるんでしょうけどね。ああ、でもスシヌが誘いたかった人なら今―」

 相手とは何の事だろうか。それを聞いたスシヌが何故か今度はとても焦りだしていた。

 

「まあまあ、行けば分かるから。とりあえず行ってみましょ?」

 エールは大きく頷いて秋の森の場所を教えて欲しいと言った。

「俺等はさっさとシャングリラに向かうんだろーが。寄り道ばっかしてんじゃねぇぞ」

 ザンスはそう言うが、エールは自分がリーダーなのだから行きたいところに寄っていくと全く譲らなかった。

「地図見るとそう遠回りでもねーし俺も冒険者ハニーとして有名どころは抑えておきたいし? ちょっと行くぐらいいいだろー」

「くっそめんどくせぇ…」

「スシヌもそんな眼鏡が取れないの困ってる様子もないしそんなに急いでシャングリラに向かうこともないわよ」

「けっこう困ってるよ!? 秋の森に行くのはそ、その私も行ってみたかったけど、今行くのはまだ早いっていうか…」

 ふてくされた様子のザンスと慌てるスシヌを見つつも、エールは次の目的地は秋の森!と叫んで歩き出した。

「わー、待って!」

 強引に出発を決めたエールに、他の皆もついて行くしかなかった。

 

………

……

 

 秋の森。

 不思議なことに魔法の力で年中ずっと秋だというその森は、魔物が沸くことがある一般人が迷い込めばそれなりに危険な場所である。

 

 今更、経験値の足しになるような魔物はいないがエールは率先して魔物をしばき倒しながら進んでいった。

 

「エールちゃんってばやる気がすごいねぇ」

「そんなにこのイベントが楽しみだったのかしら。ふふふ、なんだか意外ね~」

 

 桜である。

 

 貝マニアの間でその優しい色合いと光沢、圧倒的な可愛らしさで有名な「桜貝」というものがある。もちろんエールもいつか手に入れたいと願っている貝ではあったが、美しく珍しいものともなれば家が買えてしまうような値段で取引されているような貝であり今のところ図鑑でしか見たことがなかった。

 そしてその貝の語源となった植物もさぞ美しいのだろうと思い、実物の桜が見られる日をひそかに楽しみにしていたのだ。

 本来ならばJAPANまで見る機会はないと思っていたがまさかこんなにはやく見られる日が来るとは…

 

 エールの足取りはスキップしているように軽かった。

 

 しかし周りは秋の森と言う名前だけあって綺麗だが、桜と言うよりは紅葉が広がっているばかりだ。

 エールは本当に桜なんか咲いているのか、と不安になってきた。

「ここはまだハニー造幣局の敷地じゃないからね。桜は敷地内に咲いていてこのイベントのために敷地を特別に解放してくれてるの」 

 なかなか粋な事をするハニーもいるものだ、とエールは感心した。

 

 進んでいくと賑やかな笛や太鼓の音がしてきた。

 

「おぉー、なんかお祭りみたいな音が聞こえね!?」

 俗にいう祭囃子と言うやつか、エールは気分が高揚していた。

「急に人が多くなった気がするね」

 エールは迷子になったり攫われたりしないようにとスシヌに手を伸ばした。スシヌはおずおずとその手を握り返す。

 

 そのまま歩いて行くとなんだか美味しそうな匂いも漂ってくる。

「色々屋台も出てんじゃん?」

 少し進むと開けた場所に町からも離れていて魔物が出るというのにも関わらず、屋台が何店も出ているのが見えてきた。

 人の出は中々多いようで賑やかな雰囲気である。

 屋台の店員がみんなハニーなのを見ると、ハニー造幣局からの出店なのかもしれない。

「観光名所だからね。去年、魔王がいなくなって平和になったせいか今年は特に人が多いのかも?」

 アカメフルトにカラカラ焼きのような定番のものからクレープやパフェ等オシャレなものまで色々と並んでいるが、それもこれも値段は相場の二倍以上である。

 それを見てエールが思わず高い、と呟いた。

「うへー、はに飯もたっけー…観光地価格ってやつ? 弁当作ってきて良かったな」

 しかし屋台はそれなりに盛況なようでエールは首を傾げるばかりだった。

 

「…なんかさっきからすれ違う人みんな男女カップルばっかじゃね?なんかイチャイチャしてるつ-か、空気がピンク色っつーか…」

 先ほど屋台で買ったであろう食べ物を仲良く分け合って食べているのが見えた。

「ふふふ、桜の通り抜けっていうのはね恋人たちのイベントって呼ばれているのよ」

 パセリが杖の中からそのピンクの空気を味わうかのように話し始めた。

 エール達は驚いてパセリ(が入っている杖)を見た。

「私達みたいに観光で来ている人もいるんだろうけど、ほとんどが恋人同士なんだと思うわ。みんなラブラブね」

「なるほど! …ってイチャイチャしてる連中を見ながら屋台で物売りとか俺なら絶対やりたくない、寂しくて死んじゃう」

 屋台のハニー達の目が軒並みギラギラしているようにも見えるのはそのせいなのかもしれない、とエールは納得した。

 

「恋人たちのイベントね、なるほどそりゃ陶器には縁がねーだろうな」

 さっき長田君が自分には縁がないと言った理由、エールもポンと手を叩いた。

「ムキー! ザンスだって人の事言えないだろ! エールも!」

 ボク達みんな縁がない場所だ、エールがそう言うとザンスがニヤリと笑った。

「俺様と来たい女はいくらでもいるがな。スシヌが慌ててたのもエールがやたらここに来たがったのも理由が分かれば可愛いもんだ」

 ザンスは得意げに笑っているがエールは桜が見たいだけで恋人のイベントのことはさっぱり知らなかった、と言って首を振る。

 それも照れ隠しだと思っているのかザンスは上機嫌になっていた。

 

 さらに秋の森を進んでいくとエール達の前に一匹のグリーンハニーが立ち塞がった。

 

「皆さん、こんにちはー。あいやあいやー」

「また魔物が出たか。エール、叩き割っとけ」

「ボクは悪いハニーじゃありません!」

「あいやー!見たところここの説明ハニーかな?」

 そのグリーンハニーは頷いた。よく見るとハニー造幣局と書かれたバッジをつけているのが分かる。

「桜の通り抜けははじめてかな?」

 エールが頷いた。

「造幣局の裏庭に咲く伝説の桜。その桜の元でキスをした恋人は永遠に別れる事のない契約がかけられます」

 契約とは何だろうか?

「互いに永遠に愛し合う事になるのです。他の誰も目に入らない、決して浮気はしない」

「わぁ…ロマンチックだねぇ」

 スシヌはそれを聞いてうっとりと感動しているようだ。

「なんつー、うざい契約だ。呪いじゃねーか」

 ザンスがそう言って嫌そうな顔をしたので、スシヌは少し頬を膨らませた。

「ただし、その美しい契約を得るためにはいくつかの試練があります。二人の力で道を切り開かねばならないのです」

 

 思わせぶりな事を言った説明ハニーはエール達に道を譲った。

 

 進んでいくと先ほどよりも明らかにカップルらしき男女の姿が多く、嫌でも目に入ってくる。

「俺、こういう空気ダメなんだよな……みんな、イチャイチャしちゃってさ」

 この場にこういうのが得意な人はパセリだけだろう。

 しかしどうも注目を集めている気がする。

「一見してザンスちゃんが女の子二人連れに見えるからじゃないかしら? 恋人たちのイベントだっていうのに堂々と二股してるように見えるもの」

「そういう注目だと思うと悪くねーな」

「そんなの不誠実だよ」

「男なら俺もいるってのにー!」

「お前じゃ精々ここのスタッフだと思われるぐらいだろ。それか従魔かなんかと間違われるのがオチだろうな」

 エールはそれよりも何人かスシヌの事を知ってる人がいるのかもしれない、と少し身構えておく。

 

「そこが入り口ですが、参加する場合は男女一人ずつのパーティで入って下さいね」

 ハニーがそう言いながら案内をしていた。

「男女一組なんだね…」

 スシヌがなぜか少し残念そうにつぶやいた。

 とりあえず二人じゃなければ入ることも出来ないようで、ここで二組に別れる必要がありそうだ。

「これはドキドキね。私は幽霊だからカウントされないだろうし後からこっそり覗いて、じゃなくてついていくわ。お邪魔はしないから安心してね」

 パセリが楽しそうに話している。

 

「あっ、今年も来たんですねー。ここからは禁煙ですよ」

 ハニーが愛想よく声をかけている。

 エールはふとその声に気を取られるとくすんだ紫の髪に加えていたタハコを手でつぶした男性がエールと同じぐらいの小柄な茶髪の女性と一緒に桜の通り抜けに入っていくのが見えた。

 その後ろ姿はどこかで見たような気がするが、すぐに姿が見えなくなってしまった。

 

「エール、どしたん? さっさと組み合わせ決めようぜー」

 エールは長田君の声で気を取り直しどうしようか、と悩み始めた。

「エールとスシヌはケンカすんなよ。あぶれた方は可哀相だが陶器と行くしかねーしな」

「お前、俺をハズレみたいにー!」

「どうしよっか、エールちゃん。私はどっちでも良いんだけど」

 ボクは長田君と行くからスシヌはザンスと来てね、とエールはそう言った。

「あれ? エール、俺、即決なん? やっぱソウルフレンドだもんな」

「あら、あっさり決めちゃうのね。ここはもっとみんなで悩んで欲しい場面なのに」

 長田君が嬉しそうにしている中、あっさりと組み分けを決めたエールを全員が見つめた。

 その目線にちょうど修行の時の組み合わせだから、とエールが答える。

「あっ、それもそっか。ザンスちゃんと一緒に修行に行ったのも懐かしいね」

 スシヌに変なことしないように、エールはザンスに念を押した。

「エールは残念だったな。まぁ、俺様は一人しかいないから今回は陶器で我慢しとけ」

「残念じゃないっつーのー!」

 ムキになっている長田君をエールは引っ張って桜の通り抜けに向かった。

 

 エールはとにかくはやく桜が見たかった。

 

「はい、次の方どうぞお通り下さい」

「へへっ、楽しみだなー!」

「行ってらっしゃい、エールちゃん。先に着いたら待っててね」

 

 エールは意気揚々と出発した。

 

 道は細くどうやら一本道のようだ。森の中ではあるが日は高くて明るく温かい、良い散歩日和である。

 

 進んでいくと魔物が現れ、それを退治すると頭上から不思議な声が聞こえてきた。

 

『貴方……不合格。愛の桜ルートにふさわしくありません。お引き取り下さい、出直してきなさい』

 

 え、どうして?エールが驚いたように声のした方を向いた。

「ちょ、ちょっとー何でだよー!」

 

『どうしても』

 

 エールや長田君の抗議に返答はないまま、足元がぐいっと動いたかと思うとエールは脇道の方へ押しやられてしまった。

 理由が分からないが、どうやらエールと長田君では不合格であるらしい。

 お互い気まずそうに顔を見合わせる。

「……とりあえず戻ろっか?」

 エールは頷くしかなかった。

 

 まだ出発していなかったスシヌ達は戻ってきたエール達を見る。

「あれ? 随分帰ってくるの早かったね、何かあったの?」

「いや、なんか俺等不合格って言われちまって追い出されたっぽい。桜見れなかったし…」

 

 エールは遠くにちらりと見えた桃色の花をじっくり見ることもなく追い出されたので少し怒っていた。

 そしてもしかして長田君はハニ子だったの?と聞いてみる。

「んなわけないだろ! エールこそ実は男だったんじゃないか? 胸もないしさ」

 エールは長田君を割った。

 

「えっと。確かこのイベントは相性が良くないと不合格って言われちゃうんだったっけ。もしかしたらエールちゃんと長田君、相性が良くないとかじゃ」

 スシヌがそんなことを言っている。

 

 その言葉にエールはかつてないショックを受けた。

 長田君は冒険をはじめてすぐに出会い冒険と苦楽を共にし、修行の際もくじで選ばれ、ハニーインザスカイまでいった仲である。相性が悪いなどという事はないはずだ。

 

 エールは何かを考える仕草をすると、いきなり手に魔力を集中しはじめた。

「え、え、何するの? どうしたの?」

 ただならぬ様子のエールにスシヌが尋ねる。

 

 覚えてまもない炎の矢である。

 ボクは母と違って火はそこまで好きじゃないけれどきっとこの森はよく燃える、と言った。

 長田君と相性が悪いと判断するなんてそんな全く役に立たないイベントはなくしてしまった方がいいだろう。

「やめてー! ここゼスの大事な観光スポットだから! 火事に、大火事になっちゃう!」

 スシヌは焦りながらも器用にエールが放とうとした炎の矢を相殺するように氷の矢を詠唱している。

「エールさん、落ち着いてください!」

 今まで黙ってた日光もエールをたしなめるように声をかける。

「単純に陶器がモンスター扱いされてるだけなんじゃねーのか」

 ザンスはアホなものを見るような目で二人を見て冷静に言った。

 そういえばこの森には野良ハニーが出る。ここまでも数体叩き割っていた。

「なんだよー! それってハニー差別じゃね!?」

 長田君は憤慨するがここは魔法大国ゼスで元々ハニーは隔離されてたのだ、そういうこともあるかもとエールは納得した。

「で、でもハニー造幣局のイベントなんだけどな……」

「人間用のイベントってことなのかしらね。案外、可愛い女の子と歩いてる長田君に嫉妬して通してくれなかったのかも?」

 

 エールはそれを聞いて魔力を引っ込めると、スシヌはほっと胸を撫で下ろした。

 しかし、そうすると困った事態になる。

 このパーティにザンスしか男がいないことになり、どう頑張っても一組しかいけない。

 

「別に女の子同士でも男の子同士でもいいんじゃないかしら。愛の形は色々だものね」

 パセリさんが言った。

「え? 確か前見た雑誌本じゃ男女カップルって書いてあったような気がするんだけど… 説明ハニーさんも男女一組でーとか言ってなかった?」

「さっき女の子同士で入っていく子達もいたしきっと大丈夫なのよ」

 どっちにしろ三人しかいないので全員行くのは無理だ。

 エールは腰にさしている日光を見るが、こんなことで出来るだけ避けている日光に人間になって貰うわけにもいかない。

 そう考えてエールは露骨に肩を落とした。

 

「…ここはしょうがないかな。みんな、ちょっと周りに人がいない所まで行ってくれる?」

 エールは首を傾げながらその広場から外れて少し森が深いところまで移動した。

「ここなら大丈夫かしらね」

 そう言ってパセリが小さく怪しげな呪文を唱えるとポンっと煙が舞い…

「あんっ!」

 その煙の中に裸のパセリ立っていたので、長田君が割れた。

「おばあちゃん!?」

「服忘れちゃった~」

 そう言って改めてポンという音がすると、今度はスシヌが着ている制服に似た色合いの衣装をきたパセリが立っていた。

 違うのは透け感が全くなくなっているという事である。

 

<にゅむっ>

 

 エールが思わずパセリに触ってみると柔らかい女性の体の感触が手に伝わってきた。

「あんっ…もう、エールちゃんたらどこ触ってるの」

 実体がある、とエールが驚いた。

「うわ、悪霊が蘇った。ゾンビかなんかかよ?」

「違うわよ。魔法でかりそめの体を作っただけ」

「おばあちゃんが実体化してるの久しぶりに見たなぁ」

「幽霊らしくないからね~、それに実体だと杖にも入れないし壁も抜けられないし」

「おー、魔法ってすごいっすね! てか、パセリさん結構小さいんすね」

 いつも浮いているせいで分かりづらかったが、身長はエールよりも少し大きいぐらいだろうか。

「まあまあ、私のことは良いのよ。これで四人になったから二組に分かれていけるわね。長田君がカウントされないならどっちかについていけばいいんだし」

 長田君は納得いかなさそうな顔をしているが、桜を見るためなので我慢して貰おう。

 

「それじゃザンスちゃんが一緒に行きたい子を選んでね」

 

「…は?」

 突然パセリにそう言われ、ザンスは素っ頓狂な声を上げる。

「男の子が一人、女の子が三人、選ぶのは男の子の権利でしょ?」

「自分を女の子とか図々しいにも程があんだろ」

「ひどーい。心は何年たっても女の子なんだから」

 ザンスはエールとスシヌを交互に見て何かを悩んでいる。

「さあさあ、どっちを選ぶのかしら!?」

 パセリがキャ-キャーと騒いでいる中、エールとスシヌは何故か緊張していた。

 

 エールも何度かザンスと目を合わせ、またスシヌとも目が合った。

 

 そしてザンスが数分悩んだ結果、指さしたのはパセリだった。

 

「あら、私でいいの?」

「なんとなく、ホッとした…」

 スシヌがそう言って緊張を解いた。エールもその言葉に頷く。

 そして実はパセリさんが好みだったのか、とエールが少しからかうように尋ねた。

「ごめんね。ザンスちゃんには悪いけど、私にはたくさんの夫がいるの…」

 その声にパセリも乗っかり、からかうように言っている。

「お前ら、分かってて言ってんだろ。 エールとスシヌどっち選んでも選ばなかった方が泣くだろーしな」

 別に泣かないしその時はパセリさんと行く、とエールが話した。

「あー…それはスシヌが悲しんじゃう――」

「おばあちゃん!」

 スシヌはパセリの口を塞いだ。

 

 とりあえずエールはスシヌと一緒に行くことになった。

「こ、恋人達のイベントをっ……え、え、え、エールちゃんと……」

 スシヌは出発前からがちがちに緊張しているようだ。

 エールは桜楽しみだね、と笑顔を浮かべている。

「あ、俺もそっちついてくー! へっへー、両手に花ー! ひゃっほー!」

 そう言ってぴょんぴょんと跳ねながらエール達に近付こうとした長田君の襟をザンスが掴んだ。

「陶器は俺等と行くんだよ」

「え、ええ!? なんでだよー! 俺、エール達と一緒に行きたい!」

「ざけんな。俺様の女共に混ざってんじゃねぇ」

「長田君、ここは二人だけで行かせてあげて? 空気を読みましょ? ほら、日光さんもいるし。私と来れば三人ずつだから」

 

「わーん、エールー!」

 無理矢理引き止められて泣いてる長田君にまたあとでね、と手を振ってエール達は改めて桜の通り抜けに挑戦しはじめた。 

 

 

 

 さっきと同じ道を行き、またもや魔物を蹴散らすと上空から先ほどの声が聞こえる。

 

『第一の試練合格』

 

 今度は合格みたいだ、とエールは胸を撫で下ろした。

「ほ、本当に女の子同士でもいいんだね。知らなかったよ」

 スシヌは何とか気持ちを落ち着かせようとエールに明るく話しかけた。

 ゼスの王女でも知らないものなのだろうか。

「桜の通り抜けはハニー造幣局主催のイベントで、ゼス王国との直接な繋がりはないんだ。有名な観光とデートスポットなんだけど、魔物が出るからって一般の人が来るのはちょっと大変だから。でもカミーラダークに魔人戦争、鬼畜王戦争の時ですら毎年ちゃんとやっていたんだって聞いたよ」

 エールですら聞き覚えのある戦乱である、ハニーには人間の戦争等あまり関係ない事なのかもしれない。

 

 途中で立ちふさがった敵を倒しつつ、そんなことを話しながら先に進んでいく。

 どうやらこの先はずっと一方通行で、引き返すことはできないようだ。

 目の前には既に桃色の花びらをつけた花の木――桜が咲き誇っていてとても美しい光景である。

「綺麗だねぇ……」

 エールとスシヌは二人で感嘆の声をあげた。

 そうしているとまたもや頭上から声が聞こえる。

 

『第2の試練、仲良く手をつないで歩け』

 

 手をつないで歩けがなんで試練なのだろうか、よくわからないがとりあえずエールはスシヌに右手を伸ばした。

「え、え、え? て、手を繋ぐの?」

 エールにとってはスシヌの手を握るのは珍しい事ではない。

 しかし改めて言われると何だかはじめて出会った時のことを思い出すね、とエールがスシヌに笑いかけた。

「そ、そうなんだけどっ。でもここ、恋人たちのイベントでっ…」

 エールは伸ばした手を中々掴もうとしないスシヌに、手をつながないと先に進めないよ、と言って少し強引にスシヌの手を握った。

 

<ぎゅっ…>

 

「ひゃ、ひゃあああ…」

 スシヌは細い悲鳴を上げて顔を耳まで真っ赤にした。

「お、落ち着いて。これは桜を見るためだから、エールちゃんのため、だから…」

 小声でぶつぶつと何かをつぶやいている。

 

 エールは気にせずスシヌの手を引っ張って桜並木を歩き出した。

 

 桜は綺麗だった。はらはらと舞い落ちる花びらをエールが掴んで眺める。

 薄い桃色が可愛らしい、これが桜貝の語源になったという花、とエールは目を輝かせていた。

 

 テンション高めなエールと違い、スシヌの方はずっと目を伏せていた。

 そんなスシヌをエールが心配する。

 足取りがフラフラとしていて、握った手は熱く、心臓の音まで聞こえてくる気がしてエールは風邪でも引いているのかと心配そうに顔を覗き込んだ。

 桜に気を取られていて姉の不調に気付かなかったのは護衛として失格だ、とエールは少し俯いた。

「だ、だ、だ、大丈夫だからっ! 桜すごく綺麗だよね!」

 その様子を見てスシヌは握られたエールの手を誤魔化すようにぶんぶんと振って手を引っ張る様に早足で歩き出した。

 元気ならもっとゆっくり桜を見たい、とエールが言うが

「これ以上エールちゃんと手を繋いでたら…わ、私……」

 やたら慌てているスシヌはもはや走り出す勢いだ。

 エールはスシヌに引っ張られて桜並木を通り抜けた。

 

『……ごうかーーーーく』

 

 よく分からないが、合格したようだ。

 その声を受けてエールが手がさっと離すと、スシヌは名残惜しそうにその手を見つめる。

 さらに進んでいくと頭上から声が聞こえる。

 

『第3の試練、熱い抱擁をせよ』

 

「抱擁…? 抱擁って!? だ、抱きつくってこと……?」

 スシヌは目を丸くして言葉が呑み込めていないように唖然としていた。

 レリコフがよく抱きついてくるからあんな感じだろう、とエールがスシヌに話す。

「そ、そうだけど……」

 エールはスシヌをきゅーっと抱きしめてみる。レリコフの真似で無邪気な感じである。

 レリコフよりも背が高い、スシヌの華奢で柔らかい体は抱き心地がふんわりしていて良い香りがすると思った。

 

「あっ…………」

 スシヌはもはや完全に固まってしまった。

 

 微動だにしなくなったスシヌに、そういえばレリコフと一緒に居た時に甘えられていた反動か姉に会ったら甘えたかったんだという事を思い出し小さくお姉ちゃん、と呼んで顔を胸に押し付けてみた。

「エールちゃん……」

 冒険の話を聞くと楽しい事も多かったが苦労もあったようだ。そしてゼスに来て真っ先に自分を助けに来てくれて、ずっと側にいてくれ、今でも自分を護衛してくれている。

 前の冒険ではみんなのリーダーでエールが兄弟姉妹を集めたからこそ世界の誰もが成し得なかった魔王討伐……父を助けることが出来た。剣に魔法に神魔法を巧みに操る実力者、突然頭にあんまんを乗せてきたり裸洞窟を平然と歩いたりと想像も出来ない行動をとることもあるが、とにかくエールはスシヌにとって憧れの存在だった。

 

 ……スシヌはそんなエールに今まで一度も姉と呼ばれたことはなかった。

 突然姉と呼ばれて自分を取り戻したのか、姉としての自覚が出たのか、スシヌは心を落ち着かせる。

 エールは憧れであると同時に大切な妹でもある。自分に無邪気に抱きついている様子がレリコフの姿と被り、スシヌは優しい笑顔でその頭をそっと撫でた。

 

『……ごうかーーーーく』

 

 そんな声がしてエールはスシヌから離れた。

 エールとスシヌがお互い何となく顔を見合わせるとくすくすと笑い合った。

 

 頭上から声が聞こえる。

『君達は、素晴らしいカップルだ。永久の愛をあの桜の元で誓いたまえ』

 目の前には一際大きな桜の木がある。

「あれが伝説の桜だね。ここで永久の愛を誓うと生涯離れることは無くなるっていう有名な……」

 花びらをつけた枝がその重さのせいか枝の柔らかさからか垂れ下がっていて他の桜とは少し違う風情がある。

 下からのぞき込むと桜の雨が降ってきそうだ。

 じっと見つめているとその美しさに桜貝への憧れが高まるばかりである。

「ロマンチックだよねぇ…」

 うっとり話すスシヌに水を差したくはないのでエールはそうだね、と相槌を打っておくことにした。

「前に会ったサイアス将軍も奥様とここに来たんだって。誓い合ったかは分からないけど国中で憧れられている二人が来たって言う事もあって、桜の通り抜けはゼス中の女の子が恋人と来たがるデートスポットなんだ」

 いかにもこういう場所が似合いそうな気がして、話を聞くだけでもむず痒くなりそうだ。

「私もエールちゃんと来れて――」

 

「ちっ! てめぇら…こんなとこまで追ってきやがったのか」

 スシヌの言葉を遮って、バチバチと雷がはじけるような音と共にエール達に声がかけられた。

 

 その声で振り向くとエールが先ほど見た、見覚えのある後ろ姿の男が立っていた。

 どうやら気のせいではなかったらしい。

「ま、魔人…?」

 正確には元魔人の雷男、レイである。

 垂れ下がった前髪の奥から睨むように見つめてくる、その明らかに敵意のある視線にエールはスシヌを庇う様に立ち塞がり、日光を抜く。

 確か魔人の中でも好戦的で危険な人物だったはずだ。

 エールはスシヌに援護を頼んでおく。

「ここじゃ戦い辛いってのによ……」

 戦闘態勢を取ったエール達に吐き捨てるように言うが、それはエール達の台詞である。

 スシヌはもちろん他の人々や桜に被害が出ないようにしなければいけない。

 周りの他の人間たちもそんな不穏なピリピリとした空気を察してか、震え怯える者が出始めている。

 

 

 

 ……そんな緊張の中である。

 

「何やってんのさ、レイ! 周りの人たちに迷惑かけるんじゃないよ!」

 

 威勢のいい女性の声と共にレイの頭がバシッと叩かれた。

 エールが驚いて見るとレイの後ろに長い茶色の髪を持った女性が立っている。

 

「メアリー……」

 それは魔人の頃からのレイの恋人、メアリー・アンであった。

 

 




・桜の通り抜け … ランス6でランスとほとんどの主要キャラと行くことが出来る桜の通り抜けイベント。女性陣はもちろんロッキーやパットンとも行くことが出来る。15年の間にさらに観光地化が進んだという独自設定。元ネタは現実の大阪造幣局の桜の通り抜け。

※ 1/6 後の展開にあわせるため一部文章を修正。ご指摘ありがとうございました。
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