若干の恋愛・青春描写がありますので苦手な方はご注意ください。
おまけですので「エールちゃんの冒険」本筋とは繋がりません。
「さあさあ、どっちを選ぶのかしら!?」
パセリがキャ-キャーと騒ぎ、ザンスがエールとスシヌを交互に見ながら悩み始めたのを見て、エールはさっと口を挟んだ。
自分がパセリさんと行けば解決することだ。
長田君がカウントされないのならこっちについて来てもらえばいいだけ、エールは当然のように言い切った。
「あら~、エールちゃんったら私と行きたかったの?」
エールはそういうわけではなかったがパセリさんと行くのも楽しそうだと笑顔を返した。
「まぁ、エールちゃんが男の子だったらドキッとしてたかも…」
「エールちゃん、おばあちゃんと行くんだね」
「ごめんね、スシヌ。でもここはザンスちゃんと二人で行ってらっしゃい。二人なら噂になってもおかしくないもの」
マジック女王は卒倒するのではないか、と思いつつエールはザンスにスシヌに手を出さないようにもう一度強く言っておく。
「はっ、お前の知ったことか」
「さすがにこんな人通りの多いとこで手なんか出せねぇだろ。さっきの声聞いた限り監視もされてるみたいだし」
長田君はザンスに蹴られた。
「行ってらっしゃい」
エール達は先を行くスシヌとザンスに手を振って見送った。
「それじゃ、私達も行きましょうか」
エールはパセリと一緒に道に入って行った。長田君が後からついてくるが、特に何も言われないようなのでやはり人間用のイベントという事なのかもしれない。
エール達が一方通行の細道を進んでいくと、上空から声が聞こえる。
『第一の試練合格』
「今度は合格したみたいだな。ってか、俺マジで魔物扱いなわけ? ちょっとひどくね!?」
文句を言う長田君はエールの横に並んで歩き出した。
ともあれ今回は合格、エールの見たかった桜はもう目の前である。
歩いていると木々は紅葉から桃色の花に変わり、綺麗な雰囲気になっている。
「ここは不思議な森ね。全体に魔法がかけられているみたいだわ」
「おっ、さすが建国王。分かるんすか?」
ハニーである長田君にはさっぱり感じられないようだが、パセリと同じくエールにも不思議な魔力が感じられる。
「ここは私がゼス王国を作る前からあるはずよ。おそらくハニー造幣局もね。来たことはなかったのだけれど秋は実りの季節だから、キノコや果物がいつでも生っているようね」
秋の森には危険なキノコも生えている。間違って踏んでしまうと気力が抜けてしまうということをエールはスシヌから聞いていた。
「危ないものだけではなく食べられるキノコも生えているみたい。 ……もしかしたら食糧難を解決するための魔法がこの森で実験されてそれがかけられっぱなしになってしまっているのかもしれないわね。でもそういう豊かな森になると当然魔物も寄ってきちゃって、とか普通は春に咲くはずの桜が咲いているところを見ると季節がめちゃくちゃになってしまっているのかも。どちらにしろ良い結果にはならなかったのでしょう。逆にここにハニー造幣局があるのはハニーさん達に魔法が効かないから、好都合だったのかもね」
さすが建国王である、エールは解説を聞きながら納得していた。
エールはハニー造幣局について長田君に尋ねた。
「これだよ、これ作ってるとこ!」
長田君がさっと1G硬貨を取り出してエールに見せた。
「これってゴールデンハニーを加工して出来てんだぜ?」
さすがにそれはエールでも知っている。
闘神大会で空から降ってきて倒したザンスが主張をしていたのを思い出した。
「ゴールデンハニーってどこで沸くかわかんねーからなぁ。ゴールデンハニーは本来全部俺らハニーのもんなんだぜ? そもそも加工技術はハニー造幣局独占だし人間が持っててもGOLDは作れねーの」
「そういえば魔物さんたちの間じゃGOLDをたくさん持ってるとご利益があるなんて話があるそうね」
「実際は人間から狙われるだけでいいことなさそうだけどなー。俺等は金があるにこしたことはねーけど!」
わいわいと話しながら進んでいくと魔物が立ちふさがった。
エールが瞬殺すると、またしても頭上から声が聞こえてくる。
『第2の試練、仲良く手をつないで歩け』
「あらあら、さすがは恋人たちのイベントといったところかしら。可愛らしい試練ね」
「手を繋いで歩くのが何で試練なんだろうな?」
長田君とエールは一緒に首を傾げた。そんな二人をパセリが微笑ましく見つめている。
「せっかくここまで来るんだからもっとすごい試練でもいいわよね」
パセリの言うすごい試練はたぶん普通の人には出来ないことなのだろうと思いつつエールはパセリに手を伸ばした。
「きゃ~、手を繋いで歩くなんて何年ぶりかしら」
パセリは嬉しそうにエールの手を握り返した。
そしてエールはもう片方の手を長田君に伸ばす。
「え、俺もいいの?」
「まあ、エールちゃんったら私がいるのに長田君まで誘っちゃうんだ?」
エールは良くなかっただろうか、とパセリの方を見る。
「私は構わないわ。エールちゃんもいっぱい愛がある人なのね」
エールは驚いて首を振った。
風に揺られて舞い落ちる桃色の花びらが美しい。
エールはその美しさに興奮していた。
両手が塞がっているので手は伸ばせないが、きらきらと陽に透ける桃色の花びらを掴んでみたくなる。
「桜見たいって言ってたし良かったな、エール!」
一緒に嬉しそうにしてくれる長田君を見つつ、エールは笑顔で大きく頷いた。
「それに桜貝だっけ? 冒険してる間に見つかると良いよなぁ、貝集めもエールの冒険の目的なんだもんな」
伝説の貝の情報は手に入れているが、桜貝というこの頭上に咲き誇る美しい桃色に匹敵する貝とは一体どんなものだろうか。
エールは大きく頷いた。
「ふふ、なんだかお邪魔虫している気分だわ~。ごめんねー、私が一緒で」
仲の良さそうなエールと長田君を見てパセリはとてもいい笑顔でそう言った。
エールは驚いて首を横に振る。
「ふふ、ここはとっても綺麗だしロマンチックだものちょっとぐらい良い雰囲気に… スシヌ達もそうなってると良いんだけど」
「いやー、ザンスじゃ無理じゃないっすかね? デリカシーのない事言ってスシヌ怒らせるのが関の山っつーか」
ザンスが聞いていたら速攻で割られていたことだろう。
「スシヌ、昔はザンスちゃんのお嫁さんになるって言ったのよ? 事故の事もあってちょっと疎遠になっちゃってたけどね。ザンスちゃんももうちょっとスシヌの事優しく大事にしてくれるか、逆にもっと強引にモノにするぐらいの態度ならいいんだけどね」
「えー。あいつ、すっげー強引じゃないっすか。乱暴だし、人の話聞かねーし、キャンプだろうが魔法ハウスだろうが全然手伝わねーしさ。ちょっと……かなり強くて金持ちだからっていつも偉そうにしててさー! そりゃ、実際偉いけど…」
エールは度々剣の稽古相手をしてもらっていることもありザンスにも良い所は色々あるよ、とフォローを入れておく。
「そりゃそうだけど… あいつが二階占領してるせいでエールと俺が交代でベッド使うことになってるじゃんか」
あの一件以降、相変わらず二階の広いベッドをザンスが独り占めにしている状態だった。
一階を三人で使うことになったが一国の王女を床で寝かせるわけにもいかないということで、エールと長田君は一階のベッドを交代で使っている。
「童貞だってバラされたのずっと根に持ってるしデカいくせに心が狭いっつーんだよな!」
この場にいないからってここぞとばかりに言いたい放題であった。
ザンスが聞いていたら粉々じゃすまないだろう、とエールは声を殺して笑った。
だが女に対して強引に迫るような男だったらスシヌを近づけることはない、とエールはパセリに話す。
「エールちゃんは家族を大事にしてくれているものね……」
パセリはじっとエールの顔を見つめた。
「スシヌの事も大切にしてあげてね」
パセリは優しくエールに微笑んだ。もちろんと頷くがその笑顔は何か含みがあるように見えて、エールは少しドキドキとした。
そして美しい桜並木を堪能するように三人はゆっくりと歩いて行った。
『……ごうかーーーーく』
またしても合格したようだが、桜の通り抜けはまだ奥に続いている。
三人は一旦手を離した。
「ふふ、少しドキドキしちゃったわ」
「まだ先があるみたいだな! さっさと進もうぜー!」
頭上から声が聞こえる。
『第3の試練、熱い抱擁をせよ』
「抱擁って、抱擁って!抱きつくんだよな?なんかやばくね!?」
レリコフとかよく抱きつくでしょうに、とエールが言うと
「かー! エールはガキだなー! 抱擁って言うのはこう男女で抱きしめ合うことを言うんだぜ!? なんかこうちょっとえっちな感じっつーの?」
興奮してちょっとひびが入っている長田君は放っておいて、エールはパセリをきゅーっと抱きしめてみる。
レリコフやスシヌ、エールよりも少し背が高い、お姉さんのようなパセリの体はふんわりと包まれるような柔らかさがある。
「きゃー! もう、エールちゃんったら大胆」
言葉はいつものお茶目さだが、パセリはエールをふんわりと抱きしめかえすとその頭を優しく撫でた。
エールはなんだか母親に甘えている気分になって、ニコニコと笑顔を浮かべる。
「な、なんか俺、割れそう……」
なぜか長田君がその様子を見て割れそうになっていた。
「もう、長田君ったらえっちな想像でもしてるの? だめよ、私には愛する夫がいるんだから」
7人ぐらいいるらしい。
『……ごうかーーーーく』
またしても合格したようだ。
「ちょっとドキドキしちゃった」
そう言ってエールを離しながら余裕そうにしているパセリはやはり大人の女性である。
エールは進もうとしたのだがパセリがそれを制した。
「こらこら。次は長田君の番でしょ?」
「え、俺?」
そう言われてエールと長田君は目を合わせる。
「さっきまで一緒に手を繋いでたじゃない。ならここでも試練を抜けないとね。ほら、エールちゃん、ぎゅーっとしてあげて」
エールは言われるまま長田君をじっと見つめてから抱きしめてみた。
「ちょっ…いきなり!?」
エールは長田君とは抱き合って喜ぶ、手を繋ぐなど普通に触れ合うことも多いが、今回は先ほどパセリがしてくれたように優しく包み込むように抱きしめてみた。
しっかり整えられたふさふさの髪(かつら)に頭をうずめる。
「そりゃ俺等、ソウルフレンドだけど!? こういうのなんか照れるっつーか!? 柔らかい感触が! 良い匂いが!」
長田君がエールの腕の中で焦り、この時はエールもなぜか少し胸がドキドキと高鳴った。
「あんっ!」
エールがそんなことを考えてると長田君は割れてしまった。
「あらー、長田君ってば純情ね」
エールがささっとセロテープで修復しつつ、長田君のえっちとからかうように笑った。
「そういうんじゃないんだけどさ! なんつーか、すっげードキドキしたんだよ! いつもと同じエールなのに、相棒なのに!」
エールはそう言われてなぜか少し顔を赤くなる気がした。
「すっげー柔らかかった……おっぱいないのにな!」
エールは長田君を割った。
「これは不合格かしらね~」
そんな二人を見てパセリは笑っていた。
・長田君とパセリと行く桜の通り抜け
エールちゃんがソウルフレンドを超えて長田君を意識しすぎかなと思ったのでこちらは没になっていたのですが、長田君人形を貰ったので書いてみました。