魔法ハウスにて。
エール達に捕まえられた火炎書士は客人として迎えられていた。
公にはされていないが現在魔物界にいる元魔人のホーネット達と各国は様々な話し合いをしている、と機密だから外に言わないでねとスシヌがエール達に念を押しつつ説明した。
魔物界と隣り合っているゼスは特に話し合わなければならないことが多く、スシヌもゼスと魔人との交渉の場に行ったことがありそこで火炎書士と話をしたことがある。
「それでどうして火炎さんが?」
「お話をする前に仮面返してくださいー……」
食堂でスシヌの入れたお茶を振舞われながら火炎書士はもじもじと恥ずかしそうにしていた。
「エールちゃん、それ返してあげてくれないかな? 火炎さん、仮面をいつも被ってるからたぶんすごい恥ずかしがり屋さんなんだと思うの」
人見知りであるスシヌは火炎の気持ちを汲んでエールに頼んだ。
エールが姉に言われては仕方がないと口を尖らせつつも、すごく可愛い仮面だからつい、と言いながら火炎書士に仮面を返した。
するとその言葉を聞いた火炎書士はぱーっと笑顔になる。
「分かりますか? この仮面、すごく可愛いですよね!!」
仮面を被りながら火炎書士は嬉しそうにした。
自然が生み出した生命の愛らしさが上手く表現されている、とエールは絶賛した。
「えへへへ、前にもそう言ってくれた人がいたんですけどやっぱり中々分かってくれる人がいないんですよね。あっ、でもでも、魔王様もかっこいいって言ってくれたんですよ!」
「いやいやいや! 怖いって! 全然可愛くないって! 仮面外してた方が絶対可愛いって!」
昆虫のような、爬虫類のような不気味な黄金に光る目に棘や牙が生えた仮面はグロテスクと言えるほど不気味でとても可愛いとは言えない。
長田君は驚いて仮面を被ってしまった火炎書士を見ている。
「……いえ、火炎の顔は醜くてむごたらしくてグロテスクなのでいつもこの可愛い仮面で隠してるんです」
エールが首を振って、仮面が無くても眼鏡が似合っていてかなり可愛い、と長田君に頷いた。
「火炎さんはハウゼルさんから聞いたんだけど美醜の感覚が逆転してるんだって」
そうスシヌがエールに耳打ちする。
「んなことはどうでもいい。なんで俺等の後をつけてやがったんだ」
あの仮面は本当に可愛いのに、とエールが言おうとしたところで話をザンスに遮られた。
「えっとですね。話すと長くなるんですが最初はレイさんを監視してたんですよ。ユキちゃんと一緒に」
ユキちゃんというのはサイゼルの使徒である、と気を取り直した火炎書士は説明する。
魔人が魔人を監視?とエールは首を傾げた。
「レイさんは人間側にあんまり顔知られてなかったんですけど少し前に魔人討伐隊っていう人たちに襲われたみたいなんです。そういうのを心配してホーネット様達が魔物界に安全に暮らせる場所を作ったんですけど、レイさんにはどうやら断られてしまったらしくて……」
そういえばメアリーがシルキィに誘われたと言ってたことをエールは思い出した。
「レイさんが大暴れしたり、一緒に居るメアリーさんに何かあったりしたら大変だってハウゼル様も心配してるんですよ。ほとぼりが冷めるまでは人間界に魔人はいるべきじゃないって……魔人に対する人間の恨みはすっごいですから」
「そりゃ当然だな。あんだけ暴れまわってたんだからよ」
鬼畜王戦争で新魔王軍は人間界を好き勝手に荒らしまわった。
エールも廃棄迷宮でその悪行を聞いたばかりである。
「ハウゼル様やシルキィ様はいつも辛そうな顔をしてらっしゃいました」
魔王の命令には逆らうことは出来ず、魔王と一緒に城を出ていくハウゼルがいつも悲しい顔をしていたのを火炎書士は思い出して顔を伏せた。
そして火炎書士は魔王ランスの作った魔人達を思い出す。
リズナを除いて好戦的で怖い魔人ばかり。特にネルアポロンは魔人になったばかりのくせに尊大な態度で、特にラ姉妹とは反りが合わずよく衝突しており火炎書士は大嫌いだった。
リセットのビンタで正気に戻った魔王を見限ったのか勝手に魔物達を連れ出し人間界を荒らしに行き、結局人間に討伐されたと聞いた時は喜んだものだ。
「何とか説得できないかなって機会を伺ってたらレイさん達に魔王の子達が接触してるじゃないですか。特に争ったりはしてなかったみたいですけど、何が目的なのか情報収集しようかなと思って。ちなみにレイさん達の監視はユキちゃんにお願いしました。あの人怖くて火炎ちゃん苦手なんで良かったです」
「情報収集ね。俺様達が向こうよりも気になったってことか」
「そりゃそうですよ。あのホーネット様まで倒しちゃうぐらいに魔王様の子ってすごく強いじゃないですか。それでその魔王の子がいつか魔物界に攻めて来るんじゃないかってみんな心配してるんです。ただでさえハウゼル様達が魔人じゃなくなって従う魔物と従わない魔物で――」
「割れてるってわけだな」
「……詳しく話せないんですけどね」
話し過ぎたとばかりに火炎書士は口をつぐんだ。
「その仮面叩き割られたくなきゃ全部話せや」
エールは割るぐらいなら自分がもらう、とザンスを止めた。
「や、やめて下さいよ。もー…魔人も魔王様もいなくなって元々あった派閥の連中がまた目立ってきたってだけの話です」
火炎書士はランスが魔王になってから魔物界は魔物将軍や魔物大将軍であるハウツーモンやオルブライトを頭とした勢力他、いくつもの派閥に分裂していると語った。
中には魔王を討伐し、魔王になり代わろうとわざわざ新しい魔王城までやってくる派閥まであった。もちろんすぐに撃破されたのだが。
「10年以上前に一度大きな反乱があってまとめて潰したんですけどね」
その中で魔王ランスの統治に不満や反感を持った魔物達が魔人カミーラを担ぎ上げて100万の大軍勢となり反乱を起こした。
エールやスシヌはあのけだるそうな魔人が反乱、と驚く。
「いえ、カミーラさんは勝手に担ぎ上げられたらしいですよ。カミーラさんが魔王様に不満があったのは事実だったので、魔王様に反乱軍があっさり撃退された時にはすごいお仕置きされてましたけど」
そう言って火炎書士はまた顔を伏せた。
その様子を見て魔王のお仕置きというのは残酷なものだったのだろう、とエールも魔王に対峙した時の恐怖を思い出し目を伏せる。
実際にはカミーラへの魔王のお仕置きは何日にも渡ってありとあらゆるエロい事をさせられる事だった。
プライドの高いカミーラには屈辱的だったが魔人は魔王の命令には逆らえない。さらにハウゼルを含めた女魔人全員がそれに付き合わされることになり、魔王城には連日連夜嬌声が響き渡って……それを思い出し火炎書士は仮面の奥で顔を真っ赤にしていたのだがエール達にそれは分からなかった。
「と、とにかくですね! 魔王様は統治になんか興味なかったから魔物界では好き勝手に勢力争いしてたんです。そこに魔王様が唯一命令していた翔竜山の魔王城建設もしなくて良くなって命令を受けてた魔物まで解放されて勢力争いに加わったり人間界で暴れたり、自由にしはじめちゃったんです」
「……それで魔物の被害が増えてんのか?」
ザンスはそれに心当たりがあった。魔王も魔人も消えた、しかし魔物と人間の衝突は以前よりもむしろ活発になっている。
組織立った行動がないので軍からすれば撃退は楽だが、普通の人間にとってはただのイカマンでさえ簡単に勝てる相手ではない。
「でもホーネットさんが頑張ってまとめてくれてるんですよね。ほとんどの魔物は一緒に魔物界へ行ったって聞いてますし、実際翔竜山から魔物はほとんどいなくなったらしいですし」
だからクリスタルの森にカラーが戻っていたはず、とエールも考えた。
「そうですけどみんながみんなホ-ネット様に従うわけじゃありません。火炎だってハウゼル様がついてるから従ってるのであってホーネット様に従ってるわけじゃないです」
火炎書士の主人はあくまでハウゼルであってホ-ネットではない、スシヌの質問に火炎書士ははっきりと答えた。
「魔王様はともかく魔人に従うのは誰も勝てないからって言うのが最大の理由だったところに無敵結界が無くなったから……」
エールはサテラのことが全く怖くなくなったのを思い出した。
日光があることを差し引いても無敵結界のないサテラはそんなに脅威ではないように思う。実際には無敵結界が無いとはいえ魔人だったころの強さがなくなったわけではないが攻撃が通じるのなら勝てる気がする。
「魔物界は派閥同士でよく争ってます。だから人間が攻めて来るなんて噂が出るたび大変なんです。魔王様がいなくなって、魔人から無敵結界が消えて、魔物界が色んな派閥に分かれて争って。人間が攻め込んでくるなら今が好機だろうって」
そう言って火炎書士はスシヌとザンス、二人の王族を見据えた。
火炎書士にその話をしたのは魔物大元帥の学者である。
マエリータ隊を率い、あらゆる魔物達からある意味で魔王や魔人以上に多くの尊敬を集めている彼の言葉は重い。
学者は魔物大元帥として魔王に忠実だったが、人間界を支配し人間を統治することをよく魔王に提言しては興味がないと断られていた。
しかしそれを提言するのは魔王ランスが正気の時だけで、それは正気を失っている時に話をしても正気に戻った時に魔王がまたすぐに統治を投げ出すのでは意味がないと思っていたからである。
全ては魔物の未来を考えての事。
ネルアポロンが倒された時「決して人間を侮ってはいけない」と周りに良く言っていたことを火炎書士もよく覚えていた。
学者は魔王がいなくなった後、派閥の旗頭として担ぎ上げられそうになったそうだがそれを断り今はホーネットに従っている。
しかしそれはホーネットを慕っているわけではなく魔物界が分裂したままでは人間達に対抗できないと考えているからだ。
「ゼスで魔物界に攻め込むなんて話は聞いたことないですけど……」
スシヌは不気味な仮面に見つめられて少し怯えつつ答えた。
「聞かされてないだけなんじゃねーのか? お前、将軍でも四天王でもねーしな」
「スシヌはゼスの最高戦力、魔人さん達との秘密の交渉の場にだって出ているのよ? 本当にそんな話があるなら真っ先に話されるはずよ」
ザンスの指摘に落ち込んだスシヌにパセリがさっとフォローを入れる。
「まぁ、リーザスでもそんな話は聞いてねぇ。リーザスの戦力なしに魔物界に攻め込むなんて出来るわけねーしそんなのはただの噂だろ」
「ならスシヌに意地悪な事言うなよー」
ザンスは軽く長田君を蹴り飛ばした。
「そうは言ってもみんな、火炎もですけど心配してるんですよ。第二次魔人戦争に鬼畜王戦争で魔人は最悪の人類の敵って扱いですから、魔人討伐隊って人達が今も動いてますしそこに魔王の子が加わったらどうしようって」
「確かに今のうちに攻め込んで滅ぼしとけって意見も出たことはある」
ザンスが仮面をにらみつけるように言った。
「そ、そうなの?」
スシヌが困ったような顔をしている。
「ただ
魔物界と接しているのはゼスとヘルマンである。各国で協力して攻め込んだとしてリーザスに領土拡大の旨味はないという判断だ。
「魔物界もゼスや西ヘルマンに浸食されて不満出てますからね。これが進むと人間を押し返すために攻めこもうって言い出すのが増えてまた反乱が起きそう。めんどうだなぁ…」
火炎書士は落ち込んだ声でそう言った。
エールには政治の事はよく分からないのでとりあえずそれは大変だね、と頷いておく。
「この顔は絶対よく分かってない顔だな……」
「ではこれだけ話したんですからこちらも質問いいですよね」
火炎書士は軽く咳払いをした。
「なんでゼスに魔王の子の皆さんが集まってるんですか?」
改まって真剣な声色で尋ねてくる火炎書士にエールは頭にはてなを浮かべて首を傾げた。
「警戒するに決まってるじゃないですか。魔人討伐隊とも会っているみたいですし、日光を捨てるって魔人討伐隊を呼び出して何かしらの交渉するためだと思ったんです」
噂を撒くのが下手だったようで妙な勘違いをさせたようだ。
「あいつらならさっき廃棄迷宮で全員始末しておいたぞ」
ザンスがさらっと言うと火炎書士は驚いた。
「え、ええええ? 倒しちゃったんですか?」
エールも大きく頷いた。
もともと火炎書士の視線を敵意のあるものだと勘違いしておびき寄せるために噂を撒いたことも話す。
「なるほど。でもあの連中の倒してもらえたのはすごく助かったので結果的には良かったのかな。うん、良かったです」
火炎書士は素直に喜ぶことにした。
「ったく、無駄に紛らわしい真似しやがって」
エールはどうせ潰しておいた方がいい連中だった、とザンスに話す。
廃棄迷宮はゼスでも有名な観光名所だから行けて良かったと付け足すと頭がポカンと叩かれる。
「お前、妙に遠回りしたと思えばそっちが目的だったろ」
「ぐるぐる遊園地でもエールちゃんはしゃいでたもんね」
スシヌが思い出してくすくすと笑った。
廃棄迷宮から出る前、エールは併設されているぐるぐる遊園地に立ち寄った。これは遊園地とは名ばかりの足場が動くだけの大きな部屋なのだが試しに乗ってみるとこれがなかなか楽しい。長田君やスシヌを動く足場に押し出してぐるぐるするのを笑って眺めたり、逆にザンスからは押し出されたりしてぐるぐるしながらはしゃぎまわった。
なぜ廃棄迷宮にあんな場所があったのかは分からないが楽しかったのでエールは満足である。
「何でか警戒されちゃってるみたいだけど? 俺とエールはゼスに冒険に来ただけっすよー。色々あってスシヌを護衛する任務を受けて、今からシャングリラ行くとこで」
「リーザスの赤い死神まで一緒にですか?」
火炎書士は不審な視線を送った。
仮面でその視線が分からないが長田君が睨まれたと勘違いして軽く飛び上がったところでエールが最初から説明したら?と長田君を促す。
「そ、そうだな! よし、はじめから説明すっか。別に隠すようなこともないぞ!」
長田君が火炎書士に改めて最初からかくかくしかじかと経緯の説明を始めた。
本来ならスシヌの護衛は内密の話なのだが、向こうも話したから情報交換ということでエール達もお茶を飲みながらそれを聞いている。
「……それでスシヌの呪いを解くためにシャングリラってわけ。分かった?」
長田君の説明に火炎書士はうんうんと頷く。
「長田君は話上手ねー」
話が分かりやすい、とエールとパセリは小さく拍手をする。
「なるほど、良く分かりました。ご丁寧にありがとうございます」
火炎書士から礼を言われ頭を下げられると長田君は褒められたこともあって少し照れくさそうにした。
「ハニーの里でサテラ様やリズナさんにも会ったんですね。魔物界に向かってるってことはもう到着してるかな……?」
エールはサテラ達にも話したがヘルマンでホルスの戦艦でメガラスという魔人にも会ったことを話す。
「メガラス様、復活されてたんですね! ずーっと心配してたんですよ。ハウゼル様達が聞いたらすごく喜ぶと思います!」
嬉しそうに言った火炎書士は主人であるハウゼルのことを慕っている様子が伺えて、エールは笑った。
「とにかく魔王の子達が集まって魔人討伐隊になんてことはないんですね」
「あるわけねーだろ! あいつらはこっちにも平気で襲い掛かってきやがるただの敵だ!」
「お、怒らないでくださいよ。とにかくそれが分かれば安心です。あとやっぱり魔王様は行方知れずなんですね。会いたがってる人も多いですしせっかく安全に暮らせるところ作ったので来て欲しいんですけど」
エールは冒険の途中で父に会ったら伝えておく、と言った。
「火炎ちゃん、どこいったー! 死んだかー!?」
突然、遠くから甲高い声が響いてきた。
火炎書士が驚いたように魔法ハウスから出ていくと、空に向かって大きな手を振った。
そして何かが急降下してくるのを火炎書士が受け止める。
「ユキちゃん! レイさんの方はどうしたの?」
「火炎ちゃん、どこいってやがったー! あいつ話聞きやがらないですよー? 無理の無理無無理、無駄のぎっちょん!」
「え、なにこの……女の子モンスター? ってか使徒?」
「ユキちゃん、お邪魔虫? 虫じゃなくてキチガイだっつーの! ケケケケケ!」
「なんだこのうるさいのは」
「サイゼル様の使徒のユキちゃんです。火炎の大事なお友達なんですよ」
「私も近くで会うのははじめてかな? こ、こんにちは」
火炎書士の紹介を受けてスシヌとエールは挨拶をしたのだがが、ユキはそれはどうでも良いように火炎書士に話しかける。
「んで、こっち来たら火炎ちゃんが人間に取っ捕まったってー? しょうがないなー、骨は拾ってやるぜ!」
「心配 させちゃってごめんね」
心配しているようなセリフには聞こえなかった、とエールは首を傾げる。
「ちょっと捕まったけど普通にお話しできたから大丈夫だよ。シルキィ様も言ってたけどやっぱり魔王の子に危険はないんじゃないかな」
火炎書士はユキにそう話しかけた。
「あっ、サイゼル様をぶっ殺した人間」
「いや、殺してはないだろ?」
「人間のガキにぶっ殺されたーって時のサイゼル様の顔ってば、ぷふー! へそでご飯三杯はいけるぜ!」
「何だ? こいつ、変なもんでも食ったのか?」
主人をバカにするように話すユキにザンスは呆れた顔をした。
「ユキちゃんはいつもこうですよ」
「コオロギ食べる?」
火炎書士の言葉に驚きつつも、エールは首を振った。
「火炎ちゃんはコオロギ食べない?」
「食べない。情報収集できたし一旦ハウゼル様の所に報告しに戻ろー」
「へいへーい。クワガタは?」
「いらない。でもなんかお土産に買って帰ろうか?」
使徒二人は仲が良さそうである。イタリアのカレーマカロロがゼスの名物だよ、とエールが言った。
「あー、クワガタ入ってるやつ?」
「入ってないよ!?」
「パンをくり貫いて中にシチューとギョーザを詰めこんでうどんで巻いている物だっけ。あと人間の本も何冊か頼まれたものがあるから調達していこうね」
火炎書士はユキの言葉が分かるのか分からないのか、マイペースに話を進めている。
良いコンビなのかもしれない、とエールはうんうんと頷いた。
「それでは皆さん、失礼しまーす」
「ばいならー! ケケ毛ケケ!」
魔人の使徒二人は仲良さそうに去って行った。
「使徒にも色んなのがいるんだな」
「ユキちゃんは特別だと思うわ」
手を振って見送りながら長田君やパセリが呟くのにエールも頷いた。
「……んでさー! これで本当にシャングリラ行けるんだよな? もう何もないよな?」
長田君がぴょこぴょこと嬉しそうに跳ねた。
「無駄に遠回りだったがな。とりあえず魔人討伐隊の連中もすぐには動かないだろ」
エールが次会うことがあるならもっと大群で来るかもしれない、と話すと
「上等だ。来る連中が多けりゃ多いほど無くなるのが早くなる」
「ザンスはいいかもしれないけど俺は嫌だぞ!? あんな奴らがぞろぞろ出てきたらすごく困る!」
その時はボクが守ってあげるよ、エールが言った。
「頼むぞ! って、前にエールに見捨てられたような」
気のせいだよ、とエールが長田君から目を逸らした。
「やっと眼鏡が外せるようになるんだね」
「まー、スシヌは眼鏡似合ってるしそのままでもいいんじゃね?」
「顔洗う時とか、お風呂入る時とか、寝る時とかすごく不便なんだってば」
スシヌは眼鏡なくても可愛い、とエールが力強く言うとスシヌは顔を赤くする。
「パステル様、ちゃんと呪いを解いてくれるかな」
「リセットさんに頼めば大丈夫だろ。……大丈夫だよな?」
長田君ははじめてシャングリラに行った時の事を思い出した。
「マジックからパステルさん宛てのお手紙は持ってるから。あら、エールちゃんなんだか嬉しそうね?」
エールの目的はスシヌの呪いを解くこともだが、リセットに会うことでもある。
早く行こう、とエールはスキップするように歩き出した。
「エールちゃん、そっちは道が違うよ!?」
「サバサバからうし車出てんだからそっち向かうんだよ。砂漠を歩くとかどんなアホだ」
「俺等、歩いたけどな……」
エール達はシャングリラまでのうし車が出ているサバサバの町へ向かって歩き出した。
ユキちゃんの口調はとても難しいと思いました。
次回からシャングリラ編に行けると良いなと思います。
※ 独自設定
・火炎書士 … ハウゼルの使徒。ランスには仮面の下の顔を知られていないので抱かれたことはなし。仮面にはまだ意識があるが魔王に睨まれてからは乗っ取られる頻度も下がった。臆病な性格故にとても慎重で、主人のハウゼルを守るために命令があってもなくても周りをよく見ている。バスワルドに関連した情報をユキと一緒に捜索中。
・ユキ … サイゼルの使徒。相変わらず。一時期はドット商会の会長が逮捕され持ち株が大暴落したが、見捨てる事無く持ち続けて支援。結果さらに株価がは元通り、コパンドンからは恩義を感じられている。サイゼルとハウゼルがバスワルドに元に戻ってしまったのをランスが解決したことを知って、火炎書士と共にバスワルドの情報や対策方法を探している。
・魔人ネルアポロン … ランスの作った魔人。鬼畜王戦争では前線で魔軍を指揮した。冷静冷酷で殺戮を好みその残忍さゆえに元からいた魔人とはよく衝突、特に悪魔出身なので天界出身であるラ姉妹とは反りが合わなかった。魔王が正気に戻った後、魔王の元から離れ独自に行動していたが魔王ランス討伐隊によって倒される。魔人になってからの二年間、人間たちに魔人の恐怖を植え付けた。魔血塊はAL教で封印中。
・学者 … 魔物大元帥。魔物達の指揮を担当していたがネルアポロンのように人間にただ恐怖を与えて殺戮していくのではなくあくまで人間の支配を考えていた。常に魔物達の未来を考えており、支配にも統治にも全く興味がない魔王とそれにただ従うだけ、または従うしかない魔人達よりも多くの魔物達から尊敬・信頼されている。マエリータ隊も健在。どんなに優勢でも人間を侮ることはしない、人間からすればたぶん一番厄介な相手。
・元魔人勢(補足) … ホーネットの元、魔物達を治めようと活動中だが上手くいかず魔物界では派閥同士の戦争が頻発。その対応に苦慮している。ワーグのように戦闘を好まないものや魔人に協力して人間界にいられなくなったものが平和に暮らせるよう特別な隠れ里を作った。ランスもここに招く予定。