<ばふっ>
とりあえずエールは長田君の頭からすっぽりと毛布をかぶせた。
「うわわっ、何すんの!?」
視界を封じれば余計な事を考えることも減るだろう。落ち着いて話をするにはこれが一番、仕方のない処置である。
「うぅ……そうかもしれないけど、マジで何も見えない……」
『これじゃせっかくのおっぱい幽霊さんが見えない……」
エールは毛布の上からべしっと長田君を叩く。
「しくしく……なんで俺がこんな目にー…』
とうとう心の中で泣き始めているのが聞こえそれが周りに伝染し、少ししんみりとした空気になった。
「拡散モルルン。そ、そんな怖い呪いがあるんだ」
もし自分がかけられていたら、エールともう二度と顔を合わせられないようなあれこれを聞かれてしまい、生きていけなかっただろう。
そんな事を考えてスシヌは声を震わせた。
「はっ、アホな事考えてなきゃ大した呪いでもねーだろが」
ザンスはそう言いつつ、やはり冷や汗をかいていた。
もし自分かかけられていたら、リーザス赤の将としてはもちろん、一人の男として二度と外に出ることも出来なくなるところだった。
ピンとこないエールだけはきょとんとしている。
「エールちゃんは平気そうだね」
「つーか、こんなんだったらエールがかかってた方が良かったんじゃねーのか。少なくともエロ陶器よりはマシだったろ」
「……え、マジで? いや確かにエールならそんなでもない……俺、庇ったの無駄?」
エールはそんなことはない、と言いつつ長田君から目を逸らした。
長田君からは毛布で見えないが見ていたらショックを受けていただろう。
『でもエールの考えとかちょっと見てみたかったかも。ながーく一緒に冒険してんのに分かんねーこと多いしなぁ』
そうかな?と エールは長田君の心の中の声に首を傾げた。
「だろ? あの法王に似て大事な事話さねーことあるしよ」
「エールちゃんの心の中かぁ……」
確かに何を考えているのか分かりづらいエールの心の中は、覗いてみたいような、知りたくないような……湧きあがる好奇心をリセットもスシヌも否定できなかった。
エールはそう言われて悩んだが突然はっと思いついたようにザンスを見て、ボクがかけられてたらザンスが童貞なことが一瞬でシャングリラ中に伝わってた、と言ってボカンと強く頭を叩かれた。
「おめーはいちいち一言余計なんだよ!」
『ぷふー! まーた童貞言われてやんの!』
「うわー、待って待って! 俺何も言ってない―!」
毛布の上からぐりぐりと踏まれている長田君。
その光景を見て心の声が筒抜けというのはまずい事なのだろう、というのがエールにも理解できる。
「まぁまぁ、誰にでも最初はあるものだから。男の人が経験なくても喜ぶ女もけっこう多いと思うわよ」
「うんうん、ザンスちゃんは良い子だもんね。まだ赤ちゃんの頃にリセットがよく可愛がって――」
幽霊で拡散モルルンの効果がないからだろうか。パセリとモダン、おっとりした幽霊二人はまったりと飲めないお茶を囲んでいた。
人から刀に戻った日光も既に優しく見守るような雰囲気を出している。
「このクソ幽霊共……!」
「はいはい、もう怒らないの」
リセットが怒ったザンスを止めて話を切り替えた。
「てーか、呪いって魔法みたいなもんじゃないんすかね?」
「呪いは魔法は一見似てるけど全く違うものだよ。だからハニーさん達も呪いを使えるんだしね」
『俺ハニーだし当たっても平気かなって思ってたんだけどー……死ぬような呪いだったら俺、危なかったんだな……』
エールはもう無理しないでね、とちょっと怯えている長田君を撫でる。
「あの時よくエールちゃん庇ってくれたね。すごくカッコよかったよ」
リセットも長田君に優しく話しかけた。
エールも庇ってくれてありがとう、と満面の笑顔を向ける。
「いや、へっへー、まぁ、相棒だし? 俺もやる時はやるっつーかね!」
『ちょっとカッコつけて庇っただけなんだけどな!』
二人の笑顔は毛布で見ることは出来ないが、長田君は褒められて嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。
「その勘違いとかっこつけて庇ったせいでお前がエロ陶器だってことが周りにバレまくってるんだがな」
長田君が巨乳好きなのは公然の事実。
大笑いしているザンスに空気の読めるイケメンチャラ男ハニーが空気の読めないえっちなチャラ男ハニーになったぐらいのささいな違いだ、とエールがフォローを入れる。
「それフォローしてんの!? それ全然ヤベーぐらい違うから!」
『てか、俺どうなっちゃうの!? これずーーっとこのままなの!?』
エールの言葉にまたも長田君がそわそわと慌て始める。
確かに呪いにかけられたままでは他の町には行けないし、貧乳だと思われるたびに割るのも大変そうだ。
エールはリセットに呪いが解けないかを尋ねた。
「残念だけどお母さんの呪いはお母さんしか解けない……カラーの女王の呪いは本当に特別なものなの」
リセットが少し真剣な目でエールに話す。
「でも大丈夫。私がちゃんとお母さんと交渉して呪い解いて貰う様にお話するから」
そう言って微笑んだリセットをエールは真剣な目で見つめ返した。
だがあのヒステリーで偉そうなだけの無能ポンコツ女王が素直に話を聞いてくれるだろうか、と問いかける。
「え、エールちゃん、まだすごく怒ってるんだね……」
リセットは耳を垂らす。
もう殺したいとまでは思っていないが、怒って当然だった。長田君の命に別状はなかったもののこのままでは自由都市のはにわ大神殿に行くことも出来ない、エールは頬を膨らませる。
「お母さん、確かにちょっと怒りっぽいけど根っこはとっても優しい人なんだよ。世界で一番の呪術のエキスパートっていうのも本当。だからあんまり悪く言わないで欲しいな……」
「パステルは小さい頃は穏やかで優しい子だったの。でも女王を継ぐことになっちゃってから女王らしく威厳を見せなきゃって、ずーっと肩を張りっぱなしなのよね。本当はとっても良い子なのよ」
娘と母親からフォローをいれられるパステル。
イージスやサクラがきっちりと仕えているように決して悪い女王ではないのだろう、エールはそれ以上何も言わないことにした。
「そうだ。私、ここに泊まってもいいかな? 長田君のことも心配だし、みんなとお話もしたいからね」
エールはぐっと親指を立てて歓迎の意を表した。
「うん! お姉ちゃんと一緒で嬉しいよ」
「おっけーおっけー! エールも話したいこと色々あんだろーし歓迎するぜ!」
『リセットさんがいればなんかあっても大丈夫だろうしな、良かったー』
スシヌと長田君も嬉しそうに歓迎する。
「泊まるってベッドがねーだろ。床で寝んのか? それとも陶器でも外に出すか?」
ザンスの言葉に前みたいにボクが床で寝る、とエールが言おうとしたところで
「いや、別に二階のベッドでエール達と寝ればいいっしょ」
『リセットさん、ちっちゃいしな』
いわゆるカワノジに寝るってやつだね、とエールは嬉しそうに言った。
「そ、それだとエールちゃんと私が夫婦みたいな……」
「お姉ちゃんは子供じゃありません! もー、みんなして小さいって言うんだから」
真っ赤になったスシヌを見つつ、リセットは拗ねるように口を尖らせた。
「リセット様」
そのタイミングでいつの間にか控えていたロナがエール達に頭を下げつつリセットに話しかけた。
「えっ、この人どこにいたの!?」
「一緒に来てもらってたよ? ロナさん、お母さんたちに私は今日エールちゃん達と一緒に居るって伝えて……」
そこまで話してリセットは少し考えるような仕草をした。
「……ううん、長田君を解呪してくれるまで私は家に戻らないって伝えてくれますか?」
エール達は驚いた表情でリセットを見た。
「かしこまりました、リセット様」
「えっ、いいんすか?」
「私が戻らなきゃお母さんもちょっと焦って交渉しやすくなると思うの。ここにいても手紙で解呪のお願いをすることは出来るからね。みんな強いから護衛とかもいらないし」
リセットは話しながらテーブルの上に紙を広げさらさら何かを書いていく。
「ピグちゃん、護衛はもう大丈夫だからロナさんと一緒にお手紙届けてくれるかな?」
護衛としてローブの中に潜んでいたらしい小さいピグが顔を出した。
「任せろー」
「うぉ、また小さい人が出てきた!?」
ピグはさっと手紙を受け取るとロナの上に着地する。
「今、皆さんがシャングリラに戻れば警備隊に捕まえられるかもしれません。警戒が解かれるまでは町に入らぬようお願いいたしします。食料やリセット様の確認がいる書類などは毎日届けさせていただきますが、他に必要なものがあればご用命ください。可能な限りご用意いたしますから」
「ありがとう、ロナさん。よろしくお願いします」
ロナは恭しく頭を下げるとピグを頭に乗せながら素早く静かに魔法ハウスを後にした。
………
シャングリラでのんびり出来ないのは残念だが、その日はリセットがキッチンに立ち料理を振舞ってくれることになった。
前の冒険ではロッキーと共によく料理を作ってくれていたリセット。エールは懐かしさで周りをうろちょろとしている。
「エールちゃん、お話はあとでちゃんと聞くからちょっと落ち着いて?」
魔法ハウスの台所はちょっと高さがあるのでリセットだと下に台を置かなければ届かず、少し大変そうに見える。
「一緒にお手伝いしようね、エールちゃん」
スシヌの言葉に頷いて共に野菜を切ったり、皿を出したりと料理の準備を手伝った。
その間、モダンと話をしていた長田君がひたすら嬉しそうな空気を出していた。
『はぁー、すっごい大きさと揺れ。服もエロいし、優しいし、ありがたや、ありがたや……今のパーティ、悲しくなるほどおっぱい成分がないもんな』
長田君はモダンを一応、心の中で拝んでいた。
「エールちゃん、長田君に包丁投げちゃダメだよ!?」
スシヌがそう言うと同時にパリーンと音がした。
空気が鬱陶しかったのだろう、エールが音のした方に振り向くと長田君がザンスに割られているのが見える。
後で自分も割ろうとエールは思った。
「ご飯できたよー」
しばらくして特別豪華というわけではないが心づくしという言葉が似合う美味しそうな料理が食卓に並ぶ。
色合いも綺麗で健康にも良さそうだ。
「わー、うまそー! リセットさんって料理のレパートリー多いよなぁ」
「世界中を周ってるから色んな所で教えて貰ってるの。シャングリラが色んな国と交易してるのもあって珍しい食材も色々と入ってくるんだよ」
そう笑顔で話すリセットは少し得意げだった。
あとで料理を教えて欲しい、とエールが話す。
「うん、いいよ。いっぱい作ったからおかわりもしてねー」
その日は久しぶりにリセットの料理を楽しんだ。
相棒が呪われてはいるが、和気あいあいとした食事は懐かしくエールはずっとニコニコとしていた。
………
「食後のお茶をどうぞ」
そう言ってリセットがさっとお茶を全員分用意してくれる。
「あざーっす」
『リセットさんって優しいししっかりしてるし絶対いいお嫁さんになるよなー、きっと』
長田君の素直な心の声にエールは大きく頷いた。
「そ、そうかな? えへへ……」
照れている姉は可愛かった。
前回のシャングリラではそういう男どもを殴り倒したような記憶があるが、エールは変な男が寄ってこないようにしないとと一層の決意を固めた。
『これでイージスさんとかモダンさんみたいな見た目だったら完璧なんだけどな』
エールは目を鋭くさせて長田君をじろりと見た。
「い、いやーそうじゃなくって! 前にもカラーってめっちゃ成長早いって話したろ? 前の冒険から結構経ってるわけでペンシルカウのカラーのお姉さん達くらいになってたらなーとか考えちゃうじゃん。大人になったリセットさんってすっげー美人だと思うんだよね」
『今は全く子どもだけどさ。あわよくばばいんばいんに、とかちょーっと期待してたわ。しかもモダンさんがあんだけスゴイとかなれば、成長したリセットさんもヤバイんじゃね!? すっげー見たいわー』
エールはべしべしと長田君を叩いた。
「エールちゃん、呪いのせいなんだから長田君叩かないの」
褒められているような、貶されているような、リセットは複雑な顔をしながらも少し落ち込んでいた。
台所に立つのも台がいる、身長83cmはリセットの悩みである。
それを見て少しは大きくなったんじゃないか、とエールはリセットの頭の上にまたみかんを乗せてみた。
しかし最初に会ったころからみかんを乗せる手の位置が全く変わっていないことに気付くだけだった。
「ととと……エールちゃん、なんでお姉ちゃんの頭にみかん乗せるのかな!?」
『こういう時エールが何考えてるか分かんねーんだよなぁ。リセットさんもだけど』
反射的に落とさないようバランスを取るリセットも不思議に思われていた。
「リセットちゃん、スシヌやザンスちゃんが赤ちゃんのころからずーっとこの姿のままだものね。もう18年ぐらいかしら」
パセリの話で前の冒険の時にリセットから聞いた話を思い出した。
確か魔王であった父・ランスがリセットを誰だかわからなくならないように一緒に居た頃の姿のまま成長していないのではないか、という推測。
ならもう父が魔王でなくなったのだから伸びるはずでは、とエールは首を傾げる。
「う……覚えてたんだ……」
リセットと話したことはちゃんと全部覚えている、とエールが薄い胸を張った。
「いや、エールって結構覚えてない事とかない?」
『都合のいい事だけ忘れたフリしてんじゃねーの』
そんなことはない、とエールは長田君の心の呟きに口を尖らせた。
そういえばペンシルカウで会ったビビッドは小さかった、ということをエールが話す。
「エールちゃん、ペンシルカウに行ったんだっけ。曾お婆様に会ったんだね」
「そーそー! 綺麗でいい所だったよなー」
『カラーのお姉さん達マジ綺麗な人ばっかでさー!』
「あはは……ペンシルカウに男の人を招くって全然ないことなんだよ。それもハニーさんがカラーの里に招かれるなんて本当にない事で……もしかしたら長田君が初めてだったかも」
「え、マジで? ハニーとカラーは相性が良くないっつーけど、大歓迎だったっすよ。まっ、みんなエールの方に群がってたっすけどね」
密猟者を倒したおかげか、リセットがエールの事を話していてくれたおかげか、カラーの里ではみんなが歓迎してくれた。
楽しかった、とエールはリセットに笑顔を向ける。
「陶器は男じゃなくて魔物扱いなんだろ」
「俺はハニー! 魔物と一緒にすんなっての!」
『どうせ、ザンスは行ったことねーんだろ? 綺麗なカラーのお姉さんに囲まれちゃってうはうはハーレムでサイコーだったし、もう一度行きてー』
自慢げな長田君の心の声に、ザンスは思いっきり蹴りを入れる。
「そういえばお姉ちゃんはビビッド様に似てるよね」
「曾お婆様はあの体の頃に魔力のピークを迎えてそこで成長が止まったんだって」
これも前にエール達が聞いた話だった。
『リセットさんはさらに一回り以上小さいけどな』
長田君の心の声にリセットはまた耳を力なく垂らした。
ぴこぴこと感情に合わせて動く耳を、エールは触りたくなったが我慢する。
「お父さんももう大丈夫なんだし、私ももう成長しても良いと思うんだけどね……私の魔力のピークはまだ来てないと思うし、これからちゃんと大きくなるとは思うの。その時はエールちゃんよりもすぐに大きくなって――」
「今更リセットが成長したら逆にビビるわ」
ザンスがリセットの言葉を遮った。
「ここ一年でも欠片も伸びてねーじゃねーか。来年にはアーにも抜かされてんだろ」
「うぅ……次の新年会までに伸びてくれないともうアーちゃんにも抜かされちゃう」
「で、でもお姉ちゃんは昔からずっと頼りになるお姉ちゃんだからっ!」
小さくても、という言葉を抜いてスシヌが優しくフォローを入れる。
「エールちゃんもやっぱり少し背が伸びてるよねぇ」
寝る子は育つと言うし一年間寝ていたから伸びたのかも、エールはなんとなく自分の頭を触った。
『おっぱいは全然大きくなってないのにな』
エールは長田君を割った。
………
既に外は日が落ちている。
冒険の話は明日しよう、と寝る準備に入ろうとしたところで、一階の寝室から楽しげな空気を感じエールは扉の前で耳を傾けた。
『あー、このすべすべ感と腰つきサイコーだぜ』
長田君が何かを読んでいる声が聞こえてきた。
『こっちは色合いが良いよなー、淡い桃色がエロい』
「エロ陶器、お前心の声が漏れまくってんぞ」
廊下まで聞こえてる、とエールが扉をガチャっと開けて顔を出した。
「きゃーー!」
「……ノックぐらいしろよ」
呆れているザンスを無視してずかずかと歩み寄り長田君に近付きのぞき込むとハニ子のグラビアを読んでいたらしい。
ハニ子の違いはわからないのだが、面白いの?とエールが聞く。
「い、いや、そういうんじゃなくて!」
『なんでわかんねーの!? このつや感とかそこら辺のハニ子と全然違うじゃん!? まっ、俺はグラビアに出てる子より清楚で優しそうな子が好みだけどさ』
清楚なハニ子、というとハニーキングに仕えているハニ子さん達だろうか。
『そーそー、ちらっとしか見れなかったけどすっげー可愛い子に綺麗な子ばっかだった。俺も一緒に行って捕まっておけばお近づきになれたかも』
確かに優しいハニ子さん達だった、とエールは納得した。
だがハニーキングにメロメロだったから長田君は全く相手にされなかっただろうが。
「てか、俺の心の声聞かないでくれよー!」
長田君はぺしぺしとエールを叩く。
「ならアホな事考えんな」
『あー、でもあそこじゃリズナさんの破壊力はヤバかったよな。全身から漂うエロさに迫力あるおっぱいで見てるだけで割れるっつーか、実際割れたけど』
そういえばハニワ温泉でリズナさんのおっぱいを揉んだのだがすごい重量感だった、とエールがしみじみと話す。
「お前、マジで触ってたん!?」
触っても怒られず、優しい人だったし、反応もすごくエロかった、とエールは何度も頷いた。
『超うらやましい! 俺も揉みたい!』
長田君の本音は直球だった。
「さっきから陶器がクソうるせぇ。気持ち悪い空気バラまきやがって」
「呪いのせいだってば!」
『てか、これじゃエロ本も読めねーじゃん! 俺、マジでピンチじゃね!?』
そんなにピンチなことなの? とエールが首を傾げる。
「そ、そんなことないぞ」
『新しく手に入れたやつ、まだ読み切ってねーし。シャングリラでも新しいのゲットする予定だったのに……』
「お前、毎晩何してんだと思ったらずっとエロ本読んでんだな」
『ザンスだって俺がやったエロ本楽しそうに読んでたくせに! てか、お前が勝手に新刊横取りするから俺が読みきれなかったんだぞ!』
「……砂漠に捨てて来るか」
エールはそんな二人をじっと見つめた。
仲良さそうで楽しそうだと思っていただけなのだが、責められているように感じてザンスは目を逸らす。
「ちっ……お前にスシヌと色気の欠片もねーからな。こういうもんで補給してんだよ」
そう言われてエールは頬を膨らませながらも自分の胸をふにふにと触ってみた。
リズナはもちろん、サテラの柔らかさにも遠く及ばない寂しいものである。
「そーいや、胸は揉めば大きくなるらしいな。俺様が手伝ってやろうか?」
「そんな事言うとエールが本気にするだろ!? マジでやめろってば!」
ザンスがニヤニヤしているのを長田君が止めた。
『あとエールは全く色気が無いわけじゃないんだよな』
エールとザンスはその心の声に驚いた。
「……は? どういうことだ?」
エールも長田君をまっすぐ見て尋ねた。
「きゃー! きゃー! やめてー! 聞かないで―!」
『エールとキャンプで寝てた時、けっこう柔らかい感触でさ。寝てるエールはアホな事もしないし普通の女の子っつーか、なんか寝息とかちょっとエロくて』
そこまで聞くと、ザンスは長田君を無言でぐりぐりと踏みつけた。
「ち、ちがっ……エールが俺に抱きついてくるのー!」
長田君はハニーである。ハニワ臭さはともかく程よい弾力があり、ひんやりとしている。
エールはその抱き心地が気持ちが良く、暑い日には長田君を抱き枕代わりにしていた。
そんなえっちな事を考えていたのか、とエールがニヤニヤしながら長田君を見つめる。
「ちーがーうーーー!」
『まぁ、おっぱい小さいから冷静になるんだけどな』
エールは長田君を割った。
「う、う、うわーーーーん! もうやだーーー! 俺一人でキャンプしてくるーーー!」
長田君は一人キャンプセットを抱えて、魔法ハウスを飛び出して行く。
エールは謝ろうと焦って追いかけようとしたが
「ほっとけ。そんな遠くに行けるわけでもねーしどうせ明日には戻ってくんだろ」
ザンスに引き止められた。
エールは砂漠の夜は寒いし、魔物だって出るかもしれないと慌てる。
「あいつちゃっかりエロ本のコレクション持っていきやがった」
エールは苦い顔をして長田君が出て行った扉の方を見つめた。
その後、長田君の大声に驚いて降りてきたリセットにエールとザンスは長々と説教を食らうことになるのだった。