エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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エールと姉と親友

 朝になっても長田君が戻ってくることはなく、エールは早朝から長田君を探しに出かけた。

 

 アウトバーン周辺をうろうろとしていると、少し離れた場所に小さなテントがぽつんと張られているのを見つけた。

 二階建てで豪華な内装の魔法ハウスと比べると寂しくなるようなサイズであるが、冒険の思い出が詰まった懐かしのハニワ臭が染みついたテントである。

 

 エールがテントに近づくとその中からしくしくと泣き声が聞こえてきた。  

 

『うぅ、寒いよー……俺、どーなっちゃうんだろ……』

 朝早くはまだ夜の寒さが残っている。

 薄手の寝袋だけでは寒く、長田君は体を震わせていた。

 風が吹く度に砂漠の砂がテントに当たる音が響き、それもまた寒々しく、定期的に叩き落とさなければテントが砂に埋まってしまいそうだ。

『エール、大丈夫かな。あの後ザンスになんかされてたりしないよな? 俺がいない隙にエールが何かエロい事とかされてたり、いや、二階にはリセットさんとかスシヌもいるし大丈夫だよな? あー、でもエールはちょっとどころじゃなく警戒心が足りないっつーか、お人よしっつーか、世間知らずっつーか。ガードが甘いとこがあるんだよな、女って自覚がなさげ』

 エールがそんな独り言が聞こえるテントに向かって長田君に謝りつつテントに入る。

「あっ、エール?」

 長田君はちょっと嬉しそうにエールを見た。

 あの後リセットに説教を食らったのでザンスには何もされてないよ、ともエールは話を続ける。

「え? ……もしかして、ってーか今のも聞こえてたん!?」

 エールは大きく頷いた。

 外からだと長田君の独り言のように聞こえた、と素直に話す。

『マジかよー…もう隠し事とか出来ないじゃん。うわー、ヤッベーー…エロ本読んでなくて良かった』

 

 魔法ハウスに戻ろう、とエールは手を差し伸べた。

 

「それなんだけどさ。俺、解呪できるめどがたつまでちょっと離れてるわ」

 エールは目を見開いた。

「俺もさ、心の中とか聞かれたくない事いっぱいあんだよー」

『エロ妄想とか聞かれたらもう、生きていけない。エロ本収集もばれちゃったし』

 別にえっちな本を収集するくらいじゃ怒らないけど、とエールは言うけど。

『巨乳モノばっかだからさ。エールはおっぱいないの気にしてるから俺も気を使ってんだぞ』

 そんなものは大きなお世話である、とエールは頬を膨らませる。

「きゃー! 聞かないでってば! やっぱり聞こえまくってんじゃん! もー、やだーーー!」

 

 ばたばたと慌てている長田君をエールはぎゅっと抱きしめた。

 

「え、エール?」

 

 

 長田君を心の底から心配してる。

 自分を庇ってこうなったのだから心の声も気にしないし、絶対に助けるから。

 

 

 エールは真剣な鋭い目をしながら抱きしめた腕に力を込めた。

 長田君はエールの目を見ると、少し背筋が寒くなるような悪寒を感じる。

「うわー、何か無茶やりそうですっげー心配! エール、変な事はするなよ。別に死ぬような呪いでもねーし?」

『社会的には死ぬかもしんねーけど』

 長田君は優しい。

 

 あの時、パステルを殺していたらきっとすごく怒って悲しんでいただろう、エールは大きく頷きながらそう思った。

 

 

「長田君? エールちゃんもいるよね」

 そうしていると可愛らしい声がテントの外から聞こえてきた。

「あ、リセットさんじゃね?」

 エールが声をかけるとリセットがテントの中に入ってきた。

 手には大きめのバスケットが抱えられている。

「簡単なものだけど朝ご飯持ってきたの。エールちゃんの分も持ってきたから、一緒に食べよ?」

 

 二人でリセットの気遣いに感謝しつつ、持ってきた簡単なサンドイッチとポットに入った温かいお茶で朝ごはん。

 長田君がほんわかと落ち着いているのが伝わり、テント内はのんびりとした空気に満たされた。

 

「温かさが身に染みるなぁ……さっすがリセットさん。ファンクラブとかできる理由めっちゃ分かるわー」

『つか、これで見た目がモダンさんみたいんだったらパーペキすぎだったよな。ナギさん達も言ってたけど、悪い男とかわんさか寄ってきそうだしこのままでいいのかもな』

 エールは何度も頷いて同意をし、リセットは複雑そうな表情を浮かべていた。

「昨日の夜にね。お母さんに解呪してくれるまでシャングリラに帰らないって改めて手紙を書いたんだ。エールちゃんはみんなを助けてくれたのに恩を仇で返すような事をするのはカラーの女王として情けないってしっかりした文面にしたよ。おばあちゃんも一緒に説得してくれるって言うしそんなにかからないと思うから、もうちょっと待っててね」

「うぅ、ホントすんません……リセットさん」

『リセットさんは何も悪くねーのに、パステルさんにエールに手のかかる家族持つと大変だな』

「みんな私の大事な家族だから。エールちゃんもお母さんも……それにお父さんもね」

 そういえばお父さんはあの後一回シャングリラに来た、という事をパステルから聞いていた。 

「その時、私外交に出てたんだけど大変だったみたいなの。お母さんやイージスさんとかカロリアさんをハーレムに入れるって騒いで暴れたらしくて、ピグちゃんやおばあちゃんは楽しそうに話してくれたんだけど、何があったのか町で大騒ぎしたらしくて」

「酒場で騒ぐぐらいならエールもやってたっすけど」

「サクラさんから聞いたけど、私の困ったファンというかそういう人たちを懲らしめてくれたらしいね。暴力はだめだけど、実はちょっと困ってたんだ。ありがとね、エールちゃん」

 エールは酒が回って余り覚えていなかったが、とりあえず頷いた。

 幽霊さんとドンパチやったのは覚えている。

「その時に一緒に暴れたのが私のおばあちゃんのおばあちゃんでフル・カラーって名前なの。幽霊じゃなくて英霊っていって、カラーの女王が死後にああやって霊体になってカラーの皆を守っていくんだ」

 英霊とかかっこいいね、とエールは感心した。

 リセットはビビッドからそれが後付けで作られた話であることを聞いているが、それはカラーの女王以外は基本的に秘密とされている話である。

『マジであの幽霊さんもリセットさんのご先祖様なのか。似てないなぁ。まっ、俺はいくら美人でおっぱい大きくてもあんな怖そうできつそうな人はパスだけど。やっぱモダンさんだよなー! いやー、リズナさん以来の超ストライク』

 エールは長田君の頬をむにーっと伸ばした。

 

「ふふふ、エールちゃん達はいつでも仲良しさんだねぇ。そういえば目が覚めて、すぐに二人で冒険に出かけたんだって?」

 リセットがクルックーから貰った手紙にはエールが目を覚まして長田君と冒険に出かけたこと、近くに寄ったら笑顔で迎えてあげて欲しいという事がシンプルに書かれていた。

 二人の楽しそうな様子を見るとヘルマンで聞いた事件を引きずっている様子もなくリセットは優しい微笑みを二人に向ける。

「エールちゃん、目が覚めてからの事、冒険のお話聞かせてくれる? ヘルマンで大変な目にあったって言うのはレリコフちゃん達から聞いてるんだけど」

『おっ、俺の出番きた? 俺の活躍とか聞いちゃう? 話しちゃう?』

 わくわくとしている長田君の声に応えるように、エールは長田君の方が話すのが上手いから、と任せることにした。

 

 

 長田君は嬉しそうに、楽しそうに、時に震えたり、怯えたりもしつつ、リセットにエールの冒険の話を語った。

 

 カラーの娘たちに話したものと変わらないが、時々長田君の心の声が混ざるのでエールにも新鮮だった。

 

 

『リア女王とそのお付きの人は怖くて苦手』『アーモンドは昔のチルディに瓜二つだから将来もばいんばいんになりそう』

『女の子モンスターはちゃぷちゃぷが好み』

『ヘルマンは重装備が多くて残念』『シーラの昔とレリコフは似てるからレリコフも将来は成長しそう』

『ゼスは全体的に露出度が高くてよかった。眼鏡も豊富』

『いくら眼鏡のお姉さんでもケバいのは無理、いくらおっぱい大きくてもアレな人は無理』

『スシヌは眼鏡が似合ってて可愛いけどおっぱいが小さいのが残念』『ハニーの間ではフチなし眼鏡は邪道、丸くて太めの眼鏡が好み』

『リズナは雰囲気を含めてパーフェクト』『サテラはどこでも粘土をこねる超ビッチ』

『RECO教団のお姉さん見てて入信したくなった』

 

 長田君は基本的にそういうことばっかり考えていたようだ。

 そんな邪念がつまった話にリセットはずっと苦笑しつつ、エールの方も何度も割るのを我慢して頬を膨らませる。

 

「あ、ありがとう。長田君」

 リセットは長田君の心の声に気を取られるばかりで肝心な冒険の様子がほとんど頭に入ってこなかった。

 そこで長田君は困惑した様子のリセットに気付いた。

『あ、あれ!? なんかめっちゃ性癖暴露しちまった気がする!』

 気がするどころじゃない、とエールは話し終わった長田君をべしべしと強く叩いた。

 ついでに冒険の物資補給ついでにエロ本の収集をしていたことまで知ってしまった。

『エールは世色癌とかいらねーしついてこないからなー、ちょうどいいタイミングだったわけ』

「べ、別に悪いことしてるわけじゃねーし!」

 やましい事ではある、とエールは頬を膨らませた。

 

 

「えーっと。エールちゃん、ヘルマンで大変だったんじゃないの? 私、その情報を聞いて急いでヘルマンに行ったんだけど」

「ならレリコフとかヒーローから聞かなかったんすかね?」

「レリコフちゃんからはホルスさん達のところとかホ・ラガさんの塔に行ったことは聞いたよ。エールちゃんはとっても優しかったって楽しそうに話してくれた」

 エールは冒険は楽しかった、と笑顔をリセットに向けた。

 ホルスの戦艦で魔人メガラスに会ったが問題はなさそうだったから放置で大丈夫だろう、ということも話す。

「うん。でもシーラさんやクリームさん達は東ヘルマンがレリコフちゃんを捕まえようとしてエールちゃんも危なかったって……」

「あっ、それは――」

『思い出させたくないんすよね』

 先ほどの軽い調子とは打って変わって長田君のちょっと真剣な心の声が聞こえる。

『ギリギリ間に合ったみたいだけどマジでヤバかったわけで。エールも怖かっただろうし、俺もあの時はヒーローやレリコフもいたしで何とか冷静にしようとしたけど、何があったのかとか聞くの怖いし。わざわざ話して掘り返しちゃいけないって――』

「えっ……!」

 リセットと長田君は二人であたふたとしている。

 長田君とヒーローが助けてくれたし、ボクもレリコフも無事だった、とエールは長田君に笑顔を向ける。

『いや、でもエール脱がされててさ。全身に痣があって、酷い乱暴されたんじゃねーかなって、でもそういうのって心の傷みたいなのになってたらヤバくて詳しく聞けないし』

「わー、わー!」

 冷や汗を流している長田君にまだ処女だよ、とエールは声をかけた。

「あっ、よ、良かった~……」

 聞いてはいけないと思っていた事だったが、心の奥底でずっと心配していた。そのエールの発言は直球で一瞬固まったものの、長田君は今更ながら胸を撫で下ろした。

 エールはそんな長田君をポンポンと撫でる。

「二人とも嫌なこと思い出させちゃったね。ごめんなさい……」

 頭を下げるリセットにエールは気にしてない、と言いながらその頭を撫でる。

『あっ、んじゃーザンスにもエロい事されてないんだ。あいつ、なんかエールの体は意外と柔らかかったとかエロい声出してたとかやたら偉そうな事言ってたくせに』 

 それはされたよ、とエールが言った。

 ザンスの手というよりは一緒にいた娼婦のシラセの手管のおかげなのだが、確かにちょっと気持ち良かったしそういう声も上げさせられた。

 裸にもされたし、とエールがまっすぐに長田君を見る。

「え、えぇっ!?」

 口を大きく開けて驚いたリセットもつかの間……

 

 

 長田君の頭の中にリアルなエロ妄想の光景が流れた。

 

 

<パリーン!>

 

「~~~~!!」

 

 

 長田君は割れ、そして近くにいたエール達はその妄想の直撃を受けた。

 リセットは耳まで真っ赤にさせながら慌て、エールもそんなエロラレラレ石みたいなことにはなってない、とぶんぶんと頭を振った。

 もしこの場にザンスが居たら長田君を粉々にして砂漠の砂に仲間入りさせていたことだろう。

 

 長田君が割れるときはこんなエッチな事考えてるのか、とエールは思わず軽蔑の目を向けてしまった。

 

 

「……う、うわぁああああん! 俺、死ぬーーーーー! 死んでやるーーー!!」

 

 

 テントを飛び出して地平線まで続く砂漠に走り出そうとした長田君をエールとリセットで必死で引き止めた。

 

………

……

 

「ちょっと落ち着いた?」

 

 リセットが長田君の頬をポンポンと叩く。

『しくしく…』

「呪いのせいだから。長田君は悪くないから……」 

 クラウゼンの手の力がなければ、長田君は砂漠のどこかで砂に埋もれ化石ハニーになるところだった。

 長田君は心の底から泣き、テントにはまたしんみりとした空気が広がる。

 

 

「……エール、俺やっぱ解呪されるまで戻らねーわ」

 長田君はエールに向けてそう言った。

「これって周りに感情が伝染するんだろ? なら迷惑かけちゃうしさ……」

『一人は怖いし、寂しいけど、これ以上エロいこと考えてるの知られたら俺マジで首くくることになりそう。一緒に冒険できなくなんぞ』

 ハニーの首とはどこなのか、と思いつつもエールは少し悲しそうな目を長田君に向ける。

「うぅ……リセットさんも何とかしてくれるって言うしそう暗くなるなって」

『かっこつけて庇った手前、今更泣き喚くのもカッコ悪いしなぁ……』

 心の中の声は不安を抱えていながらもエールの表情を見た長田君は出来るだけ明るく声をかける。

 エールは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

『もうあの女王様に土下座でもするかなー、なんかそれも情けないよなあ。そもそも許してくれんの?って感じだし』

 エールは長田君が謝る必要はない、と真顔で言った。

 

「リセットさん、エールが変なことしないように見ててくれよな。シャングリラに単身乗り込むとか何か無茶すっかもしれねーからさ」

「うん、エールちゃんの事は任せて」

 リセットはエールの手を握った。

「ご飯とかは後でまた持ってくるからね。……エールちゃん、魔法ハウスに戻ろっか」

 

 

 不安げな空気を感じたまま、エールはリセットに手を引かれてテントから離れていく。

 

 

 エールと長田君が仲良く使っていた楽しい冒険の思い出が詰まったそのテントは砂に埋まってしまいそうなほど小さく見えた。

 

 

………

 

 

「町が近いとはいえ砂漠にはモンスターも出るし一人じゃ危ないんじゃないかな……?」

 長田君がしばらく戻ってこないこと告げると、スシヌは心配そうに俯いた。

「確かに陶器の心の声はうるさい上にしょうもないが、通りすがりのやつにモンスターだと思われて経験値にされるんじゃねーのか」

 ザンスの問いに、 長田君はああ見えても魔王討伐の冒険を一緒にこなしたハニー、そのあたりの魔物に負けるほど弱くはない。

 それどころかハニーの中でも珍しいほど高レベルでスーパーハニーにも匹敵する実力を持っているはずだ、とエールは答えた。

「あのハニーさんすごいのね。気のいいハニーさんなのは分かったんだけど」

 モダンがふわふわと浮きながらそう言った。

 セクハラ的な事をさんざん思われ――言われてもほんわかとしているのが、長田君が一押しという理由も分かるなとエールは一人その豊満な胸をじっと見つめる。

「そういえば長田君はハニーさんなのに眼鏡よりもおっぱいが好きってすごく珍しいわよね。うちは眼鏡をかけてる人が多くてマジックとかいつも困っているものだから」

 長田君がスシヌは眼鏡が似合っていてとても可愛いと言っていた。

「えっ? そ、そうなんだ」

 少し嬉しそうにするスシヌを見つつ、胸が小さいのが残念と言っていたのでエールは自分の胸を触ってみる。

 大きさはスシヌと同じぐらいだろうか。エールは大きくなると良いね、と呟いた。

「えっ……?」

 スシヌは目を点にした。

 

 

 その日はパステルからの返事が来るまで、冒険話で盛り上がった。

 長田君の視点とは違う、ハニー城で捕まった時の話をスシヌとエールが話す。

「それでスシヌちゃん呪われちゃったんだ。二人とも、大変だったねぇ」

 でも終わってみればあれも楽しかった、とエールはしみじみと語った。

「ふふふ、ハニワの里温泉に桜の通り抜けか。私も近くまでは行ったことあるんだけどどっちも体験はしてないな」

 今度一緒に行こう、とエールが誘ってみる。

「今はお仕事あるから難しいけど、エールちゃんとまた冒険は行きたいな。とっても楽しそう」

 

 リセットを中心にわいわいと楽しく話をしている中、ザンスだけは仏頂面をしていた。

 そしてザンスはついでとばかりにリーザスの近況を話すと、エールとレリコフが捕まった事件と東ヘルマンの事を話し始めた。

 

「次の新年会では東ヘルマンを潰す相談しねーとな。お前や大統領とかヘルマンの連中はあくまで和解がどうとか言ってたが、それが甘っちょろいって少しは分かったろ」

「潰すって……戦争はだめだよ」

 ザンスはリセットを軽く睨む。

 リセットは悲し気な瞳を浮かべつつもザンスをまっすぐ見返した。それは姉ではなく、シャングリラの外交官の表情である。

「東ヘルマンには魔王や魔人に苦しめられて逃げてきた、罪のない人達だって大勢いるんだよ。元からその土地に住んでいる人達だって……大きな戦争になったらそんな人まで巻き込んじゃう」

「バカどもが溜まってるうちにまとめてさっさと掃除すんのが楽なんだよ。少し前に魔人討伐隊とやらがエールの日光目当てに狙ってきやがったし、敵は潰せるとこから潰さねーとキリがねーぞ。魔王はまだ生きてるってデマまで流しやがって」

「それでもお父さん――魔王がもういないのは真実。あれからもう一年、東ヘルマンの人達だっていつまでも誤魔化し続けられるわけじゃないよ」

 東ヘルマンには世界中から反ランスを掲げている人間が集まっている。

 形だけの和平をしたところで、魔王や魔人への恨みが消えるわけでもなく、魔王の子達を狙う過激派はいなくならないだろう。

 東ヘルマンと隣り合っており、地方貴族の反乱の裏側にその存在があると睨んでいるリーザスとしては多少の犠牲はあってもさっさと潰してしまいたい、としか思っていなかった。

「魔王の脅威がなくなって東ヘルマンから元の国へ帰りたがってる人が多いのはザンスちゃんは良く知ってるでしょ? 誘拐事件を起こしたのは過激派って呼ばれる人たちだから」

 シャングリラ外交官であり世界中で顔が広いリセットは西ヘルマンのシーラと組んで東ヘルマンとの決着を穏便にすませようと動いている最中だった。

 その矢先に大統領の娘であるレリコフ、さらにAL教の法王の娘のエールまで巻き込んだ誘拐未遂事件が発生。

 それは和平交渉が白紙に戻るほどの衝撃だった。

「過激派だぁ? 大方、レリコフを人質に和平交渉を有利にしようとしたそいつらの仕業だろうよ。大体、今更手のひら返すような連中なんぞどこも受け入れてやるわけねーだろが」

「東ヘルマンで活動してた中には、元々各国で有名な人もいるし、ヘルマンが分かれた時に家族が離ればなれになっちゃった人達も大勢居て――」

 リセットとザンスは言い合っている。

 

「実はね、リーザスが東ヘルマンを潰すついでに大きな領土拡大を狙ってるって噂があるの。元々ヘルマンの領地だったところを切り取ろうとしてるって、実際にシャングリラ方面から領土を伸ばしてるから」

 スシヌが隣で難しそうな顔をしているエールに小さく囁いた。

「エールちゃんが危ない目にあったんだから私もそれは許せない。けど戦争すればきっとまた大きな被害が……」

 スシヌもゼスの王女として思う所があるようだ。

 

 とにかくなんだか大変なんだな、とエールはとりあえず頷いておくことにした。

 

 エールは自分が狙われた話ではあるがあまり興味がなく、頭に浮かんでいるのは長田君のことだけだった。

 

 たぶんパステルはリセットの手紙を読んでも意地を張ってそう簡単に呪いを解いてはくれないだろう。

 

 こういう時にタイミングよくシャングリラが魔物や東ヘルマンに襲われてそこをさっそう助けてお礼に解呪、というのが頭を過ったがそんな都合のいい事が起きるはずもない。

 場所が砂漠のど真ん中であり、そして国際共同都市として栄えるシャングリラの防衛は見た目以上に整っていて攻められたとしても易々と攻め切られることもない。

 

 エールは魔法ハウスの窓から外を見上げた。

 日が高くなればまたうだるような暑さになるだろう。長田君はテントの中で暑いと叫んでいるだろうか。

 

 ……本当にいざという時は誰に止められても実力行使をしよう。

 だがそうなればリセットはとても悲しむ。

 前の冒険でもたった今も世話になっている可愛く優しく頼りになる姉にそんな真似はしたくはない。

「エールちゃん? だ、大丈夫?」

 

 

 スシヌに心配されながらエールは姉と親友への思いを天秤にかけつつ一人唸った。

 




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「エールちゃんの冒険」の番外編のような18禁小説本ですので詳しくはTwitter(@Ruika5503)をご覧ください。本文のみいずれ無料公開予定ではありますが、イベントにいらっしゃる方はどうぞよろしくお願いします。
 
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