エールちゃんの冒険   作:RuiCa

53 / 58
エールとリセット 1

 それからキナニ砂漠を背景に何日が経過していた。

 

 

 ピグやロナが持ってくる手紙を読むたびに、リセットは表情を曇らせる。

「……お母さん、一度拗ねちゃうと長いからなぁ」

 ロナから物資や仕事らしき書類を受け取りつつ、肩と長い耳を落とした。

「私からも言ってみたんだけどね。無礼な事を言ったのはそっちの方だから、誠心誠意謝罪があるまでは解呪はしないって。あと手紙じゃなくリセットと直接話すから戻ってくるようにって言っていたわ」

 モダンの話でも手紙での交渉は難しそうである。

 

 業を煮やしたのかシャングリラからリセットの捜索隊のカラー達がやってきた。

 お互いに武器を構えて一触即発の空気になるところだったが、リーダーはイージスでリセットが間に立ち頑として戻らないと伝えると素直に引き返して行く。

 

 もし戻ったらまた最初の時みたいに会わせないようにするんじゃ、とエールがリセットを見た。

「大丈夫、私は長田君の解呪が終わるまで絶対戻らないからね。急ぎの仕事はロナさんが持ってきてくれるし――」

「さっさと交渉すんなら仕事なんておっぽりだせばいいだろが。意味ね―じゃねーか」

 景色が一面砂だけの砂漠では特にやることもなく、砂漠の暑さもあってザンスはイライラとしてリセットを睨む。

「うっ……でもやらなきゃ困る人本当に多いんだもん。急ぎのお仕事だけはやらないと……西ヘルマンで色々あってゼスに行けなかったし本当なら次はリーザスと自由都市を回る予定だったから、それが遅れてるだけでも困ると思うんだけど」

「お姉ちゃんは色々と責任ある立場だもんね。シャングリラの外交官で各国の橋渡し役で次期カラーの女王様でもあって」

 将来、国を導く人たちは大変だね、と言いながらエールはリセットやスシヌを見た。

「むしろ魔王の子で自由にやってんのはお前ぐらいだぞ」

「ふふ、エールちゃんも法王様になったら大変だよ。このままいけばエールちゃんが最後の神魔法の使い手さんだもん」

 エールは首を振った。

 

「でもシャングリラの交渉事とかリセットちゃん抜きで大丈夫なのかしら? パステルさんは昔からそういうの苦手でずっとリセットちゃんが窓口だったわよね」

「お母様はペンシルカウだし、その分のお仕事は全部パステルやサクラがやってるけどすごく大変そうだったわ。意固地になっちゃってるものだから働きづめでますます怒りっぽくなっちゃって」

 パセリやモダンの言葉にリセットは心配そうな表情を浮かべる。

 喧嘩中とはいえ大事な家族、責任感もあるリセットにとってはどちらを選んでもつらい選択だった。

「でも謝るまで解呪はしないってことは――」

「言っとくが俺様は絶対に村長なんぞに頭は下げねーぞ」

 エールも頭を下げる気は全くない、と頬を膨らませる。

 

 

 リセットは板挟みになりつつ、色々と考えたが良い案が浮かばず困り果て机につっぷした。

 エールとしても砂漠は退屈で冒険する場所もなく、長田君も心配。姉と話をするのは楽しいとはいえ、進展がないというのにイライラとしていた。

 

 やっぱりシャングリラを燃やすと脅迫するとか、人質を取るとか……

 

「や、やめて! 余計に怒らせるだけだから! 関係ない人に迷惑かけちゃダメでしょ!」

 物騒な提案をするエールの目は本気だった。

「それにエールちゃんは有名人というか、顔はまだまだ知られてないけど魔王を倒した英雄さんって言われてるのに、そんな物騒なことしたらどんな噂になるか分からないよ」

 自分の評判なんてもはや些細な事だ。

「エールちゃんのお母さん、クルックーさんにもすごい迷惑になっちゃうよ。AL教の評判も悪くなっちゃうかも」

 リセットから母の名前を出されてエールは言葉に詰まった。

 いっそ魔物とか盗賊団とかがシャングリラを襲ってピンチにでもなってくれればそれを助けて――とエールは口を尖らせた。

「エールちゃん!」

 リセットは耳を吊り上げながらエールに怒った。

 

 膠着状態は続いたが、長田君の代わりとばかりにリセットは魔法ハウスでの家事に精を出していた。

 台に乗ったり背伸びをしたりしながら、小さな手を一所懸命に動かしている。

 

 それを微笑ましく眺めていたエールは、リセットは母親にも父親にも似てない、と何気なく呟いた。

「そう言うエールちゃんはお母さん似? お父さん似?」

 モダンがその呟きを聞いて笑顔でエールに話しかけてきた。

 たゆんと揺れる胸元が目にいくが母親似、とエールが力強く返事をする。

「ふふっ、リセットからエールちゃんのお話を聞いててね。私はランスさんに似てるなって思ってたの」

 エールは少し頬を膨らませる。

 父と話したことはほとんどなく噂ぐらいしか知らないが、英雄という話と同時に極度の女好きで素行の悪い人である。

「あっ、褒めてるのよ? ランスさん、周りに色んな人がいてみんなに慕われてて、それにとっても優しくていい人だったから」

 エールは目を見開いた。

 優しくていい人、なんていう言葉は父の評判で初めて聞いた言葉である。

「ランスさんはカラーの皆にとっても優しくてとっても慕われててモテモテだったの。私のお母様にもお婆様にも認められていて、私もパステルのお婿さんになって欲しかったのよね」

 父の女好きは有名だ。優しかったのならそれはカラーが美人揃いだからだろう、とエールは考えるまでもなかった。 

「昔、クリスタルの森が襲われたときにランスさんが颯爽と駆けつけてみんなを助けてくれたのよ。とっても素敵だったわ……ランスさんが来なければパステルもリセットもみんないなくなって、ううん。カラーが絶滅してたかも。魔王になった時のランスさんは怖かったけど……」

 モダンはエールにランスの事を話していく。

 

 固そうに見えるビビッドや苛烈なイメージのあるフルですらランスの事を認めていたこと。

 モダンの初めてのデートの話や、リセットをパステルと一緒に可愛がっていたことなどそれは各国で聞いた英雄・魔王・部類の女好きといったイメージとはまた違う"父親"を思わせるような話だった。

 ほんわかとした話を聞くとモダンが父・ランスを優しいという理由もわかり、エールは興味深くその話を聞いた。

 

 話をしている間のモダンはとても幸せそうで、エールは少しだけ父を誇らしい気持ちになる。

「えっちな事もとってもい気持ちよくて……って、こ、これは違うの」

 モダンもまた父の女の一人なのだろうと推測できたが幽霊にまで手を出すとは一体どうやったんだろう、とエールは首を傾げた。

 

「だからね。エールちゃんはちょっとランスさんに似てると思うの。みんなをちゃんと引っ張ってくれて、あと雰囲気がちょっとね」

 エールは今度は少し嬉しそうに頷いた。

「エールちゃんが男の子だったらリセットのお婿さんにって思ったかもね。パステルは嫌がるだろうけど……あっ、ごめんなさい。エールちゃんは女の子なのにこういう事を言うのは失礼ね」

 ビビッドから男でなくて残念だ、と言われたことを話す。

「お母様もそう感じたのね。うん、エールちゃんが男の子だったらな―…リセットは私の自慢の孫なのだけど恋愛事に関しては疎くて悪い男に騙されないか心配なの」

 モダンは自分がまさにそうだったのに気づかないまま、働いているリセットを目で追いかける。

 未来のカラーの女王になるという重責、父親の事で苦労も多く、魔王が居なくなってなお各国との交渉の場に立ち、橋渡し役を担ってくれている。

 

 だからこそ一人の女の子としても幸せになって欲しい、それはパステル達家族はもちろんシャングリラやクリスタルの森で暮らすカラー達の願いだった。

 

「エールちゃん、リセットの事よろしくね」

 

 それはきっと兄弟姉妹の願いでもあるだろう。

 エールはリセットには変な虫がつかないようにしなければ、と大きく頷いて気合を入れた。

 

……… 

 

 エールが魔法ハウスの二階を掃除していると天井裏から妙な気配を感じた。

 

 くせ者ー!と叫んで天井裏をほうきで突く。

 

「むむっ。気配は消してたのに、さすが主君でござる」

 

 そんな声と共に天井が開いてにゃんにゃんのような一人の忍者がシュタッと降りたった。

「不肖ウズメ、ただいま戻りましたでござる。魔物界近辺からリ-ザス、自由都市、シャングリラと回るのに時間がかかってしまったでござるよ。合流が遅れて申し訳ないでござる」

「ウズメちゃん!?」

 一緒に掃除をしていたリセット達は驚きながらも笑顔でウズメを出迎えた。

「しかし、忍び込んでるのにすぐ気付かれるとはウズメもまだまだでござる」

 敵意はないが確かな視線を感じた、と答えながらエールはニコニコとしながらお疲れ様とウズメの頭を何度も撫でた。

「ウズメちゃん、お仕事お疲れ様。でもどうして天井裏から?」

 スシヌが気持ちよさそうに撫でられ照れているウズメと天井を不思議そうに見比べている。

「天井裏に潜むのは忍者としての常識、と母上殿から賜った忍法帳に細かく書いてあったでござる。憧れの天井裏があったのでつい……程よい狭さと暗さが聞いていた通りでウズメちょっと感激しちゃったでござる」

 掃除用か物置の扉か、エールは今まで気が付かなかった天井の扉をじっと眺めた。

 その目は好奇心にキラキラと輝いている。 

「あっ、主君といえども天井裏は譲れないでござるよ? あそこは忍者が使うものと相場が決まっているでござるからしてっ」

 うずうずとした様子で天井を見つめているエールにウズメが焦った。

 あとでお邪魔させてね、とエールが少し残念そうにした。

「了解。綺麗にしておくでござる」

 ウズメの泊まる部屋が自然と天井裏に決まった。

 

「ウズメちゃん、お仕事、お疲れ様。エールちゃん達からお話は聞いてるけど、一緒にスシヌちゃん達を助けてあげたんだってね。ありがとうね」

 リセットはぎゅっとウズメの手を握った。

「ウズメはみんなのパシリでござるからして。あっ、シャングリラで起きた事情は全て調査済みでござるよ」

 そう胸を張ったウズメに素直に聞いてくれればいいのに、とエールは首を傾げた。

「解呪に行って逆に呪いをもらうとは災難だったでござるな。何でも心の内を隠せない呪いだとか」

 エールが拡散モルルンの事を話すとウズメは冷や汗をかいた。

「詳しく聞けばかなり恐ろしい呪いでござるな……」

 ウズメは身を震わせる。

「しかし、常に心を静かにすることが出来れば例え心を読まれるとしても平常心を保てるでござる。しかしそのような事が出来るのは世界でもほんの一握りでござろう」

 ウズメの脳裏に憧れの母親の姿が思い浮かんだ。

 母上殿ならこんなことで心を乱したりしない、とウズメは思ったがその母親が拡散モルルンをかけられ、とんだ醜態をさらした事をウズメは知るよしもない。

 

「しかし、原因は……兄上殿は本当に無礼な方ゆえ」

「だれが無礼だ、コラ」

 物音がしたのに気が付いてザンスが二階に上がってきていた。

「あ、主君殿。リーザスにはちゃんと事情を伝えたでござるよ。リア女王から手紙を預かってきたでござる」

 本当にお疲れ様、と労うリセットを横にザンスがウズメからそれを乱暴に受け取ると中身を読み始めた。

「………」

 そして読み終わった後、そのまま細かく乱暴に破く。

 掃除してるところなのに、とエールが口を尖らせつつ何が書いてあったの?とエールが尋ねる。

「……どうでもいい事だ。それよりウズメ、お前色々調べたとか言ってたな」

 ザンスは話をはぐらかすようにウズメの方を向いた。

 

「ういうい。まずシャングリラ側は姉上殿には手を出さないって思ってるんでござろう。むしろ主君殿と一緒に居れば安心というか、いなくなった危機感とかは全く無かったでござる」

「ならリセットを人質にって手は使えねーな」

 リセットにそんなことをするはずがない、とエールは頬を膨らませた。

「うん、嘘でも私を盾にする脅迫は効かないと思う。お母さん達に思い出話いっぱいしたからね」

 ペンシルカウに行った際にリセットの話を聞いていたカラーの娘たちがエールを取り囲んだように、リセットはエールの事を良く褒めて伝えていた。

「お姉ちゃんに酷いことなんて出来ないよね。やったらエールちゃんとか逆にすっごく怒りそう」

「レリコフに触ろうとした奴も日光に手を出そうとした奴も、きっちり殺したらしいしな。まぁ、エール自身が一番危なかった……と」

 ザンスはそこまで話してはっと気まずそうな顔をしたが、エールは気にすることなく何度も頷いた。

 

 

 実際、長田君の代わりとばかりに家事に精を出す姉は大変可愛い。

 

 すごく可愛いのだ。

 

 魔王の旅では大勢でいたこともあり、冒険の目的もあって気が回らなかったが、こうして姉であるリセットと改めて一緒に過ごす時間が増えるとその凄さが分かる。

 

 掃除に洗濯に料理まで手際よくこなしながら、外交官としての仕事も忘れない。真剣な眼差しに感じる凛とした大人の雰囲気。

 周りに良く気を配り、側にいるだけで安心感と温かさを感じさせる包容力を持ち、しっかりしていて橋渡し役からまとめ役までこなせる。

 そしてそんな大人顔負けのリーダーシップを持ちながら、腰の身長しかない小さくも愛らしい容姿。

 リセットはそれらが奇跡の融合を果たした存在だった。

 

 長く伸びた青い髪に宝石のような青い瞳は大きくなったらカラーの中でもとびきりの美人になるだろう。

 久しぶりに再会したらしい父や兄がリセットに大きくならないで欲しいと言っていた気持ちがとても理解できる。

 

 エールはリセットが大好きだった。

 そんな姉に酷いことなんてできるはずもないし、そんな奴がいようものなら神聖分解波からAL大魔法で跡形もなく消し飛ばすだろう。

 

「え、エールちゃん!?」

 もちろんスシヌやウズメ、他の家族に手を出す奴も消し飛ばすつもりだ、とエールが力強く拳を構える。

「あ、ありがとう。エールちゃんは本当に助けに来てくれたもんね」

「主君に守られるのは立場が逆でござるなあ……」

 スシヌとウズメは真っすぐなエールの言葉に照れるように頬を染めた。

「エールちゃん、男の子だったらすごいモテそうねぇ」

「やっぱりランスさん似かしら?」

 幽霊二人はなんだか楽しそうにしていた。

 

「こ、こほん。話を続けるでござるよ? ……対外的には姉上は過労で病気ということになってるようでござる。そうすれば会いに来た他国の客人も無理に姉上を引っ張り出そうとは思わないでござるからね。お見舞いの品がいっぱい届いてたのを見たでござる」

「そっかぁ……色んな人に心配かけちゃって申し訳ないな」

 エールはボクからもお見舞いと言ってリセットの頭にみかんを乗せた。

 そろそろ2つは余裕で乗せられるようになってきたところなので、3つにチャレンジしたいところである。

「わわっ、え、エールちゃん!」

「にょほほ。こういうとこ主君は変わらないでござるなぁ」

 思わずバランスを取るリセットとみかんを構えるエールをウズメが笑いながら眺めた。

 

「あと長田君の方はちっと大変そうだったでござる。アウトバーンを行く人達に変態ハニーと罵られたらしく泣き声が聞こえてきたでござるよ……気の毒でさっさとこっちに来たでござる」

 アウトバーンを行く人の中に巨乳の女の人がいたのだろう、とエールは推測した。

「エロ陶器の討伐依頼が出されるのも時間の問題だな」

「長田君、テント移動してもらった方がいいかもね。あとで私、お話してくる。町から離れすぎると魔物が出て危ないんだけど」

「なら魔物に食われるかもしれねーな」

 ゲラゲラと笑っているザンスをエールは睨んだ。

 

 最初にシャングリラに来ようとしたときハゲタカとカラスに襲われていた長田君を思い出し、エールは笑い事じゃないかもと心配になった。

 

 

………

 

 

「長田君、泣いてたねぇ……」

 

 エールはリセットと一緒に長田君にご飯を届けた後、魔法ハウスに戻り一緒にお茶を飲んでいた。

 

 

『そりゃ、あんな格好してたらおっぱいに目が行くのは男なら当然だろ!? ビキニアーマーとかおっぱいまるだしみたいな格好してる方が悪いじゃねーの!?』

 長田君は怒っていた。

『いや、そりゃガン見したけどいつもやってることなのに……それをよってたかって変態ハニーとか魔物扱いして襲ってくるとか酷くね……? 俺、イケメンだけど中身は普通のハニーなのに……』

 長田君は泣いていた。

 エールとリセットの二人で慰めたのだが、二人が貧乳なせいかあまり効果はなく

『うわーん、エールー! 助けてー! 早く戻してー!』

 長田君の心の中の声は悲痛になるばかりだった。

 

 

「……早く戻してあげたいね。手紙の文面また変えてみようかな」

 そう言って便箋の前でリセットは唸り始めた。

 

 エールはそういえば呪いを解くアイテムとかないのか、と聞いてみた。

「昔、呪い消しゴムっていうアイテムがあったんだけどね」

 パセリが話したそのアイテムはは元々ゼスの王立博物館で保管されていたレアアイテムである。

 しかしいつの間にかその行方は分からなくなっていた。

「お母さんの呪いを解くようなアイテムがあるならそれはバランスブレイカー級だと思うけど……」

 バランスブレイカー? エールは首を傾げた。

「バランスブレイカーっていうのは世界のバランスを崩すって言われているぐらいすごく強力な効果のあるアイテムとか技術とかのことだよ。危険だからってAL教で集めて封印してたりするんだけど聞いたことないかな?」

 エールは首を振りながらならお母さんに言ってそのアイテムを貸してもらえば長田君やスシヌの呪いが解けるかもしれない?と身を乗り出した。

「可能性はあるね。そのためにはカイズに行かなきゃダメだけど」

 どうせそのうち行こうと思っていた母のいる場所。

 本当なら冒険で行きたかったのだがこの際先にささっと行ってしまおう、とエールがポンと手を叩いた。

「なら一緒にカイズに行こっか。私はそういう交渉は得意だし、クルックーさんに聞きたいこともあるから。次は自由都市方面を回ることになってたしそのまま行ってもいいかもね」

 リセットはにっこりと微笑んでエールを見た。

「ならさっそく、長田君も連れて――」

「心の声が駄々洩れな陶器をどうやってカイズまで連れてくんだよ」

 ザンスが呆れたように言った。

「カイズって確か観光名所でもあるよね? 今の長田君を人が多い所に連れて行くのは難しいんじゃないかな……」

「そこまで行って確実に呪いが解ける保証もないでござる」

 ここで長田君に待っててもらうというわけにもいかない。

 下手すれば戻ってきた頃には冒険者の経験値にされている可能性もある。

「確実に呪いを解けるのはパステルだけなのよね……ごめんなさい。私、お母さんとしてもう一回お話してきます」、

 モダンは申し訳なさそうにふわふわと飛んでいく。

 とても良い人なのだがどうも押しが弱くふわふわとしている、エールは手を振りなが思った。

 

 

 そのまま思い思いに過ごし始めたが、エールは手元のお茶を見て固まっていた。

「エールちゃん、おかわりいる?」

 リセットが心配そうにエールの顔をのぞき込む。

 

 ぴこぴこと動く姉の耳を見ていてふとエールはふと名案を思い付いた。

 

 

 大事な姉であるリセットに酷いことはできない。

 人質として使うなんてとんでもない。

  

 

 ……だが、逆に考えれば酷いことじゃないならいいのではないか?

 

 

 エールはすくっと立ち上がって部屋から出て行くと、パセリを呼んだ。

「はいはい、どうしたの? エールちゃん」

 エールは思いついたその作戦をパセリに相談した。

 

「えっ? ……ふむふむ。なるほどー……うんうん」

 パセリは驚きながらもエールの作戦に耳を傾けた。

 

「………これはパステル女王、すごく焦るでしょうね。スシヌに同じ事したらマジックとか卒倒するんじゃないかしら。酷い事でもないし名案ね」

 エールは建国王のお墨付きを得てガッツポーズを決めた。

「他の子じゃ難しいだろうし私で良ければ協力するわ」

 

 エールはすぐさまザンスとスシヌ、ウズメを呼ぶと同じ事を説明した。

 

「お前そんな趣味が……」

「え、ええええ!? エールちゃん、なんてこと言うの!?」

「……しゅくんのえっち」

 ウズメとスシヌは顔を真っ赤にし、ザンスは目を丸くしている。

 趣味ではなく、作戦。

 誰も傷つかない、平和的な解決方法である。

 

「みんな、どうかしたの?」

 リセットがひょこっと顔を出した。

 

「はいはい、それじゃみんなは外に出ていてね。」

 半ば固まっている三人をパセリが外へ誘導していく。

 

「えっと何か思いついたのかな?」

 ニコニコとしているリセットにエールは大きく頷き、そして――

 

 

 今からリセットにえっちな事をする。

 

 

 そんなエールの言葉にリセットは目を丸くした。

 




※ COMIC☆15にて「エールちゃんの冒険IF」少部数ではありましたが無事に完売いたしました。お手に取ってくれた方ありがとうございました。
  早々に完売してしまい買えなかった方、申し訳ありません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。