今からリセットにえっちな事をする、とエールは言った。
「え? 聞き間違い、かな?」
エールは首を振った。
リセットはそんなエールの言葉と真っすぐな視線を受けて目を丸くする。
エールの作戦は単純。
リセットとエールが裸で仲睦まじくしている様子を、魔法カメラで撮ってパステルに送りつける。
「え、ええええ!? どうして!?」
シャングリラ側はエール達がリセットに危害を加えることはしないと思っている。
魔王の子達はみんな仲が良く、家族を人質にとるような真似は絶対にしない。
だからリセットが出て行ってしまっても強引に取り戻しにくることもなく、パステル達からすればちょっとした休暇程度の認識で余裕があるのだろう。
ならばその中が良いを通り越して、深い仲になっているという事になったらどうだろうか?
リセットは大事なカラーの女王を継ぎ、いつかは次期カラーの女王を産む大事な身体である。
エールとリセットが姉妹でそういう危ない関係になりそう、またはなっているとあのパステルが知ったらさすがに急いで取り戻しに来るだろう。
そこで長田君という相棒を失った寂しさをリセットが埋めてくれいると伝えれば長田君の呪いを解いてくれるだろうという作戦である。
エールは完璧な作戦だ、と小さくガッツポーズをした。
「だ、だめです! エールちゃんはまだ子供でしょ! そういうことはいけません!」
リセットは顔を真っ赤にした。
「フリだけなんだから大丈夫よ~」
そういってにゅっとパセリがあらわれた。
「なら実際にやらなくても、そういうお手紙を私が出せば大丈夫で――」
「手紙だけじゃ全く信じてくれないと思うわ」
エールも大きく頷いた。
パステルならしっかり者のリセットがそんな事をするわけがないと鼻で笑うだろう。
だから物的証拠を作らなければならない。
「撮影は私がやるからね。パステルさん以外に見せたりもしないから心配しないで……あっもちろん、二人のお邪魔もしないようにするし、スシヌ達は絶対に二階には来ないし、防音の魔法もかけてあるからちょっと声が出ても安心よ」
エールが感謝の言葉を述べる暇もなく、パセリはどこか楽しそうに小さく手を振りながらすっと消えていった。
また部屋にはエールとリセットが二人きりになる。
しばし見つめ合っていた二人だが、リセットは小さく咳払いをした。
「コホン。えっと、まずエールちゃんとお姉ちゃんは姉妹だからそういうことはしないの。それに女の子同士なんて、えっと、その、非生産的で――」
男の子だったら勢い余ってリセットのクリスタルを青くしてしまうかもしれないが女の子同士だからその心配はない。
「クリスタルを青くってそんなはしたないことを女の子が言っちゃ、だめでしょ!」
リセットは小さい頃は良く分からなかったが、それ――セックスがどういうものなのか今はもう知っている。
父親が魔王になってからもちろん、その前からずっと大のセックス好きであるという事もあり、そういう話は身近な事だった。
しかし、自身はそういった性経験は全くない。
カラーの女王は受精の儀式により一般的な性交渉をすることもなく子供を産むことが出来るので未来的にもその必要も無い。
そうは言ってもリセットにも多少の憧れや好奇心はある。
自分の教育係だったアカシロ・カラーから、パステルたちには内緒で人間の男性と駆け落ちした話を聞いたことがあった。
その話は悲しい結末となってしまったものの、自らに命をささげるような男性と恋に落ちるというのはきっと幸せな事で聞いていてドキドキとしたものだ。
シャングリラの外交官となり、世界中を回る様になって色んな出会いがある。
体が成長しないにもかかわらず、自分に好意を寄せて言い寄ってくる男だって少なくはない。
忙しく仕事に追われる中で、いつか自分も――という期待が全くないと言えば嘘になる。
「えっちな事って言うのは、本来恋人同士がすることなの。冗談とか、フリとか、そういうのでも気軽にしちゃいけない事なんだよ。長田君の事が心配なのは分かるけど、エールちゃんだってそういうことはフリでもしちゃいけないの。と、いうよりも本当は気軽に裸になるのもいけないんだよ」
リセットは姉らしくあくまで冷静に諭した。そのついでにエールが裸を見せるのに躊躇がないあたりにも注意をする。
しかし、その言葉を聞いてエールはといえば不思議そうに首を傾げた。
リセットと違ってエールの性知識は乏しく、また大した忌避感もない。
父親の悪い噂もあって無理矢理するのはいけないと理解はしているものの、結構誰でも気軽にやっているものだと思っている。
シーウィードでザンスに無理矢理されそうになった時は投げ飛ばしたし、ヘルマンで無理矢理体をまさぐられたときは気持ち悪かった。
しかしオノハやシラセに触られているのは恥ずかしさを感じるとともに、それはとても気持ちのいいものだったというのを覚えている。
エールはリセットに無理矢理するわけではない、酷い事ではないはずだ。
「そ、そういう問題じゃなくて――」
リセットが協力してくれないと長田君はずっとあのまま、あの砂漠で一人泣きながらキャンプをし続ける。
シャングリラを燃やすより、パステルを殺すより、リセットに剣を突き付けるより安全な方法なのだ、お願いだから協力してほしい。
そう言ったエールの目は真剣だった。
「で、でも…」
優しくはするつもりだが、実際にえっちな事ではなくちょっと可愛い声を出すような演技だけしてくれればいい。
ちょっと触り合うだけのドッキリ映像みたいなもの、本当にそういう関係になるわけではない。
エールは手を合わせる。
「う、うぅ……演技だけなら、いいのかなぁ?」
あと一押しでいけそうだとさらに畳みかける。
お姉ちゃん、ボクの事嫌い?とエールは上目遣いで少し泣きそうな顔をしてみる。
「こういう時にお姉ちゃんって呼ぶのはずるいよ……」
エールがリセットをお姉ちゃんと呼ぶことは少ない。
姉として頼られれば、断れないのがリセットである。
「……分かった。長田君のためだものね。え、エールちゃんは女の子だし一緒にお風呂入っているようなものだから」
エールは笑顔になってうんうんと何度も頷いた。
前に温泉でリセットの胸を触ろうとしたら抵抗されて志津香に怒られ、結局触れなかったのでそれの続きみたいなものである。
「お、お姉ちゃんの胸を触っても楽しくないから。……私、こういうの経験なくって、よ、よろしきゅお願いしまひゅ……」
自分に色々言い聞かせつつ、恥ずかしくてろれつが回ってないリセットは可愛く、エールはぎゅっと優しく抱きしめた。
そしてぷにぷにと柔らかく小さい手を掴み、ベッドの上にその小さい身体を押し倒した。
………
……
…
薄暗い部屋の中でリセットが目を覚ました。
寝起きは良い方だがその時は特にすっきりとした気分で――体を伸ばそうとして、自らが柔らかい腕に包まれているのを感じた。
はっとして顔を少し上げるとそこにはすうすうと満足げに眠っている少女の寝顔がすぐ横にあった。
「エールちゃん……?」
お互い一切服をまとっておらず、すべすべとした柔らかい肌の感触が直接触れ合っている。
リセットはそこで昨夜の事を思い出し、顔を真っ赤にさせた。
「エールちゃんってばどこであんなこと覚えたの……」
体にまだ痺れるような感覚が残っているような気がして、気を紛らわせるように小さく頬を膨らませる。
ああいう事は本来恋人同士がすることであり、姉としてちょっと怒らなければならない。
そういえば長田君のところでザンスにちょっかいを出されたという事を聞いたが、こういうことをしたのだろうか?
だとしたら怒らなければならないのはザンスの方だろうか。
リセットがもやもやと考えつつ、眠っているエールの頬をそっと撫でるとエールはむにゃむにゃと「お母さん」と呟いた。
それを聞いてリセットは驚いた。
少し変な所はあるが、強いだけじゃなく慣れないながらも魔王の子達を引っ張りまとめあげたリーダー。
神魔法でみんなを癒しながら、聖刀・日光や魔剣カオスを扱うことが出来、多くの魔物や魔人と戦い、最後は魔王討伐――リセットが叶えられなかった「父を取り戻す」という願いを叶えてくれた。
誰にも話さなかった弱音を吐いてしまった事もあるが、そんな不安な気持ちを支えてくれた。
大きな存在だと思っていたが、エール自身はまだ子供なのだ。
あの後、ずっと眠ったままになってしまったと知った時は本当に心配した。
魔王討伐の旅でエールはほとんど弱音を吐かなかったが、相当に無理をさせてしまったのだと思っていた。
久しぶりに会ってみれば元気そのものでその心配は杞憂だったようだが、エールの二回目の冒険の話を聞けば心配なことが多い。
エールは何が良い事で、悪い事なのか、母親に似て常識がちょっとずれているところがある。
前の時も脱ぐことや裸を見せるのに抵抗がないことは知っていたが、あんな事を気軽にしてしまうほど貞操観念がないとは。
……もしかして父親の血のせい、と考えるとどうしようもならなさそうなのでそれは置いておくこととしてこれはいけないことだとちゃんと教えてあげなくてはいけない。
他にも世界でもはや新しく覚えられなくなった神魔法やいなくなったはずのレベル神付き、法王の娘で世界を魔王の危機から救った英雄ともなれば、その力を悪用しようとする人間が出るかもしれない。
実際にAL教ではエールを旗頭にして影響力を取り戻そうとしている一派がいるという情報もある。
魔王の脅威がなくなった今こそ、姉として色んな事をエールに教えてあげなくては。
リセットは決意に満ちた瞳でエールを見た。
女の子だが、どこか父の面影がある顔。
「もしエールちゃんが男の子だったら、か……」
シャングリラに戻り冒険の報告をしたときの事、みんな喜んでいる中でモダンやビビッドがエールちゃんが男の子だったらお婿さんに来てもらえるのにね、と話していたことがある。
パステルは怒ったり呆れたりしていたが、もし本当にエールが男の子だったらどうだろうか。
とても頼りになって、そして自分を慕ってくれる男の子。
思わず弱みを見せてしまうぐらい心を許していた。
エールが男だったらもしかしたら自分はエールの事を――
そんな事をエールの腕の中でぼんやりと考えてリセットははっとなった。
自分は一体何を考えていたんだろう?
「エールちゃん、起きて!」
そこまで考えてリセットは気恥ずかしくなり、エールを起こすことにした。
―――エールが目を開けるとそこには少し頬を膨らませたリセットがいる。
おはよう、とエールは眠気で頭がぼーっとさせながら朝の挨拶を返した。
部屋は薄暗く、普段ならまだ起きる時間ではなさそうだ。
「お姉ちゃん、先にシャワー浴びてくるからね」
昨夜の事は何も話さず、リセットがそそくさとシャワー室に行こうとしたのをエールは止めた。
一緒に行く、と言ってエールが体を起こそうとするとリセットは真っ赤になって首を振る。
「だ、だめです! 今日はお姉ちゃんが先。もう朝日はのぼってるけど、起きるには早い時間だからエールちゃんは私の後にゆっくり――」
なぜかその言葉に顔を真っ赤にしながら焦るリセットをエールがじっと見つめる。
リセットはいつもの朝の動作なのか、カーテンを開けると朝日が部屋の中を照らした。
額にある赤いクリスタルが日を受けてきらりと輝く。
クリスタル、赤いままだね、とそれを見たエールは何気なく呟く。
「変な事言わないのっ」
ちょっと怒ってリセットはシャワー室に行ってしまった。
それを目で追いかけるだけにしたエールはリセットの香りが残ったままの布団にまた顔をうずめながら、昨夜のことを思い出した。
エールがリセットにした事は単純。
自分がされて気持ち良かったことをリセットにしてみた。
もちろん、出来るだけ優しく丁寧に。
自分よりはるかに小さく、ほとんど起伏がない体だが、手を押し返してくる感触と温かい体は巨乳のお姉さん達とはまた違う気持ちが良さがあった。
なんだか母を思い出すような良い匂いがして落ち着く。
演技だったのかもしれないが、可愛い声を出しながら自分の名前を呼ぶリセットはなんとも愛おしかった。
男だったらそのまま襲っていたかもしれないことを考えると危なかったかもしれない。
ともかく、昨夜はとても楽しかった。
いつも大人の雰囲気を漂わせているリセットを驚かせるような"悪戯"をするのはやっぱり楽しい。
エールはいい気分で二度寝に入ることにした。
※ 三か月ぶりの更新です。遅くなり申し訳ありません。
何度か書き直したのですが結局直接的なエロ描写は無しという事に……