映像は見せてくれないの?
エールは朝のご飯にパンを齧りながら、魔法カメラの中身を確認してる様子のパセリに話しかけた。
「あら、エールちゃんってば自分がどんなことをしたとか気になっちゃう?」
エールはこくこくと頷く。
「見せちゃダメですからね!」
「ふふふ、リセットちゃんの言う通り見せることは出来ないわ。パステルさん以外には見せない約束だもの」
全員分の朝ごはんの用意をしているリセットがキッチンから大きな声でけん制するとエールは口を尖らせて残念そうな顔をした。
「……うぅ、本当に恥ずかしかったんだからね。もうああいう事は絶対しないんだから。ああいう事は好きな人とするものだって……」
ぶつぶつと呟きながら小さく恥ずかしがっているリセット。
(何されたんだろう…? いいなぁ、お姉ちゃん……)
その横で手伝っていたスシヌが羨ましそうに見つめていた。
「何をやったのかは分からないでござるが……」
ウズメは好奇心から詳しい事が気になるのかちらちらとエールをとリセットを見比べていた。
「主君どのは姉上殿と違って今日も変わらぬご様子」
エールはウズメの視線を受けて少しニヤニヤとした笑みを浮かべながら
主君を守るというなら主君がえっちな事ををしているときも見張りをする必要があるんじゃないの?とからかうように言った。
「にょえっ!? そ、それは覗きというものでっ……」
そう返されたウズメはびくっとした。
「しかしくノ一の暗殺は体を使った色仕掛けや同衾中に狙う場合も多いとか……主君の安全を守るという事は、四六時中主君の様子から目を離してはいけないという事でいつかはそういう場面も……?」
それを想像したのか目を泳がせながら焦る。
「エールちゃん、ウズメちゃんに意地悪言わないの」
しどろもどろに小さくなっているウズメの頭をリセットがお茶を置きながらポンポンと叩く。
「は、母上殿ならそういった場合も心を乱すことなく冷静に見張りを続けられるんでござろうが、その、ウズメはまだまだ修行が足りないでござるからして」
ウズメが母から受け継いだ忍法帳にはそんな場面に遭遇した際のことなどは書いていなかった。
きっと書くまでもない事だったのだろう、ウズメの脳裏に浮かぶのは屋根裏からそう言った場面でも一切取り乱すことなく主君の身を守っていたであろう母の姿である。
実際は母が女をとっかえひっかえしている父の夜の様子を見ながら毎日のように悶々としていたことなどウズメは知る由もない。
「エール、お前女が好きなのか?」
不機嫌そうにしているザンスがエールに呆れた目を向けた。
エールは少し驚きながら、長田君を助けるために仕方なくやったこと、とさらりと答えた。
「ならいいが。……やっぱその刀の影響じゃねーだろうな」
日光は口に出さないままザンスを少し睨みつけているような気配を感じて、エールが首を傾げる。
「そうそう仕方なく、よね。大丈夫、二人とも"演技"はばっちりだったわ。パステルさんも驚くはずよ」
演技という言葉を強調しつつ、パセリが魔法カメラの準備が出来たようで、
「エールちゃんがどこでああいう事覚えたのか私も気になるけれどとっても上手だったわ。それじゃ、届けてくるわね~」
いってらっしゃーい、エールが見送るとパセリはシャングリラの方へ飛んで行った。
………
エールは気にしていないが、リセットはエールの顔を見るのが朝から恥ずかしかった。
今もまだ昨夜のことを思い出してもじもじとしている。
そんな姉をエールは可愛いなぁと思いながら見つめていた。
「これでダメだったらどうしよう……」
視線を誤魔化すように呟いたリセットの言葉を受けて、
その時は最後の手段、リセットのクリスタルを青くするしかない、エールが言うとその言葉にその場の全員がぎょっとする。
「ああ、青くするって! 何てこと言うの!」
「いやいや、それはいかんでござるよ!?」
「そもそもエールちゃん女の子でしょ!?」
青い絵の具かフィルムをクリスタルに張り付けて再度ドッキリ写真を作る。
「え、あ、ああ、そういうことか!」
エールが言い終わる前に焦ってしまったのでエールの姉達はあたふたとしている。
「エールさん、冗談でもそのようなことは言ってはなりませんよ」
日光の言葉に頷きつつ、その時は女の自分じゃダメなのでザンスにも協力して貰おう、と手をポンと叩く。
「俺はロリコンじゃねーぞ。どう考えても勃たんわ」
「お姉ちゃんはロリじゃありません! あとザンスちゃん、エールちゃんにえっちな事したでしょ! 知ってるんだからね!」
「なんだ? お前、こいつにシーウィードの事話したのか?」
エールは首を振った。
長田君がそういうの考えてたからバレたんだけど話を盛って自慢してたんだね、とエールは思い出したようにじっとザンスに頬を膨らませる。
「……あのクソ陶器、砂漠の砂になりてーみたいだな」
「長田君は悪くないでしょ。大丈夫だったみたいだけど」
「二人にはちゃんとお話しする必要があるみたいだね」
リセットは姿勢を正すと改めて姉らしく真っすぐ二人の前に立った。
「ザンスちゃんにエールちゃん、二人とも冗談でも興味本位でもそういうえっちな事は気軽にしちゃいけないの。エールちゃんもはっきり断らないと」
「別に無理矢理やったわけじゃねーぞ」
エールもそれに頷いた。
「なら、それじゃ二人は好き合って――」
「んなわけねーだろ!! 闘神大会のリベンジってんで模擬戦したんだが、こいつがクソ弱くてな。軽々と負かしてやったんだが負けた方を24時間好きにするってのは闘神大会のルール、当然の権利でエロい事してやっただけだ」
エールは別にそんな約束はしてないのだが、大体合ってるとリセットに説明する。
「……たまたま近くにシーウィードが来ててな。そこでちょっとからかってやっただけだ」
途中で投げ飛ばされたので結果的に未遂で終わったということは伏せる。
ザンスはあれからしばらくの間、初めてじっくりと触れた女の――エールの裸体を思い出しては上手くやっていたら童貞を卒業できていたのではないか、と悶々と頭を抱えていた。
ハニワの里で久しぶりに再会したエールが普通に接してきて拍子抜けするほどだった。
エールの方は、あの時は目が覚めたばかりでレベルが低かっただけ、と弱いと言われたことに対して口を尖らせる。
「男の子と女の子なんだからからかうだけじゃすまなくて、取り返しのつかない間違いが起きることだってあり得るでしょ? 昨夜の事もそうだけどエールちゃんはそういうのがあんまり良くないことだって分かってなさそうだし、本当ならザンスちゃんがお兄ちゃんとして教えてあげる必要が――」
セックスはいけない事なの?とエールが首を傾げた。
「好きな人同士、恋人か夫婦がやることなんだってば」
ボク達のお父さんは?とエールがさらに首を傾げる。
「私達のお父さんはちょっと、いやかなり特別な人だったの! みんなのお母さんはともかく、私のお母さんは今でも怒ってるでしょ?」
リセットは自分が生まれた経緯を知っている。自分はそれで父を嫌いになることはなかったが、母が嫌う理由も分かる。
一度仲直りはしたし、母をからかう父はどこか楽しそうでなんやかんや相性は悪くないように見えていたのだが、父が魔王になってから本格的にカラーがペンシルカウにいられなくなり自身がまた一方的に凌辱された事で毛嫌いが再発したようだ。
「確かにランスさんは色々と特別だったわよね。マジックは幸せそうだったけど」
「母上殿も父上殿が大好きだったでござる。何度も話聞いたでござるよ」
エールも母はきっと父が好きなのだろう、というのは何となくわかるのでうんうんと頷いた。
「特別と言えば聞こえは良いですが、あれはただの無節操というのです。手段も選ばず、女性と見れば誰にでも強引に」
呆れたように言う日光は父に良いイメージはなさそうだ。
エールが詳しく聞こうとしたところで
「そうだ。エール、お前が少しは強くなったって言うなら再戦してやっても良いぞ」
ザンスが話を遮った。
修行と冒険であの時よりは強くなっていて新しい魔法も覚えたし、ザンスにあんな軽々と負けたままでは悔しい。
再戦したい、とエールは大きく頷く。
「よしよし。どうせ俺様が勝つに決まってるが、そん時はあれの続きをしてやるからな」
「だからダメだってば! エールちゃんもどうして気軽に頷いちゃうの!」
「どうせこいつの処女は俺様が破るんから問題ないだろ、もちろんスシヌもウズメも」
「ザンスちゃん!!」
「リセットは流石に無理だがなー、がははは!」
ザンスが笑ったのでリセットがとうとうぎざぎざの歯を見せながら怒り出す。
スシヌやウズメはザンスの言葉に焦り、エールはその光景を見て楽しそうに笑った。
………
ウズメがすっと窓の方に顔を向けた。
「……何やら気配が近づいてくるでござる。うし車か、かなり大勢」
リセットの説教をザンスとエールが聞き流している間に、テントの外から地響きが聞こえるほど何かが近づいてくるような音がする。
察知が早いのは流石ウズメだ、と言いながらエールは日光を手に取って少し警戒した。
「な、何かな?」
「くだらねー作戦だと思ったが、あのポンコツ村長には効果覿面だったんだろ」
ザンスもそう言いながら戦闘態勢に入れるように構える。
魔法ハウスの扉が乱暴に開かれる音がして、ぞろぞろと大勢のカラーが食堂に入ってきた。
「囲まれたでござるなー」
武装もしっかりとしており、先ほどまでの和やか(?)な雰囲気はあっという間に物々しい雰囲気にかわる。
「り、り、り、リセットーー!」
そして大勢のカラーを押しのけるようにバタバタとパステルが顔を出した。
「お母さん!?」
パステルがリセットの無事を確認し安堵したのもつかの間、その隣に座るエールをギロリと睨みつけた。
わなわなと体を震わせ、殺気立っている。
「おのれ、この色情魔の娘がー! やはりあの男とあの法王の血をひいておるものなど、あの場で殺しておくべきだったわ!」
半泣きで冷静さを完全に失っているのが誰の目にも明らかだった。
「よくもリセットに手を出しおって! 殺す! 絶対に殺してくれる!」
早口で捲し立てると、パステルが手を大きくかざす。
長く青い髪がはためきながら、その手に周囲の光が急激に収束していく。
それは周りのカラーが怖気づくほどに悍ましさを感じる呪いの塊だった。
エール達が思わず戦闘の構えを取ろうとしたところで
「お母さん! 落ち着いて!」
かばう様にリセットが立ちふさがった。
「リセット、そこをどかぬか! そのような色情魔を何故庇う!?」
そして小さく咳ばらいをすると事前の打ち合わせ通りに演技がする。
「えーっと、エールちゃんが長田君がいなくなっちゃってすごく寂しそうだから慰めてたんだけど、そしたら私、エールちゃんのこと好きになっちゃったのー(棒)」
リセットは舌を出しパステルから目を逸らしながら演技を続ける。
「エールちゃんが寂しそうだからー、長田君がいればこんなことにならなかったんだけどー、お母さんが呪いを解いてくれないからー(棒)」
昨夜の名演技はどこに行ったのやら、すごい棒読みなうえ、誘導が雑であった。
ザンスやウズメがそんなリセットの必死の演技に肩を震わせていた。
「な、な、な、リセット! お前は未来のカラーの女王なんじゃぞ!」
パステルは血が頭に上っているせいなのか、そのたどたどしい演技にも気が付かないままリセットの言葉の意味を理解するのが精いっぱいだった。
エールも笑いそうになりつつ、仲の良さのアピールとばかりにリセットを後ろから抱きしめた。
後ろにいなければ即死するような呪いが今にも飛んで来る気がしたというのもある。
「貴様、リセットから離れんかー!!」
エールは首を振った。
長田君のかわりにリセットとずっと一緒にいる、と言ってパステルにべーっと舌を出す。
「エールちゃん一人じゃ寂しいもんねー、このままエールちゃんのお嫁さんになっちゃおうかなー(棒)」
スシヌは「お嫁さんなんて、そんな」と言いながら焦っている。
「呪いを解く方法を探してー長田君の代わりにエールちゃんと冒険にいってシャングリラから出ていっちゃおうかなー(棒)」
リセットとまた一緒に冒険するのは楽しそう、と言ってエールがリセットを抱きしめる手に力を込めてニコニコと笑顔を浮かべながらリセットの頭に自分の顔をうずめる。
「エールちゃん、くすぐったいよ~……」
困ったような笑顔を浮かべるリセット。
その仲睦まじい様子を見たパステルは手から呪いを消し、口をあんぐりと開けている。
「……あのハニワはどこにおる!?」
「近くでテントを張っていたようです。連れてくるよう伝えてあります」
サクラの指示によりすぐにカラーの警備兵にひったてられるように長田君が連れてこられる。
「え、どうしたの?」
『何、カラーハーレム?』
美人のカラーに囲まれ少し嬉しそうな雰囲気を放っている。
エールが長田君!と声をかけたと同時に、パステルが長田君をものすごい目で睨みつけながら手をかざした。
「きゃー!」
『うわっ、怖い! めっちゃ怖い! 何でこんな怒ってんのー!? 』
恐怖で割れそうになりながら内外騒がしい声を出している長田君をキィーンという音と共に光が包んだ。
それと同時にふっと長田君の騒がしい心の声が聞こえなくなる。
「……これで良かろう! さぁ、リセットを離すのじゃ!」
「あ、あれ? 俺どーなったの?」
エールはリセットをそっと床に置いて長田君に走り寄った。
「もしかして、俺の心の声もう聞こえてない感じ??」
エールは大きく頷いた。
「うわーーーん、エールーーー!」
安心した長田君がエールとぎゅっと抱き合う。
長い間砂漠にいた長田君は砂だらけだったが、エールは気にならなかった。
「良かったね、長田君、エールちゃん」
「やっと元通りか。ったく手間かけさせやがって」
「元はと言えばザンスが怒らせたのが原因だろー! こっちはホント大変だったんだぞー!」
「アウトバーン付近にいる変態ハニーの退治、とか言って依頼とか出されそうだったでござるね」
「えっ、俺そんなやばかったん!?」
長田君が加わってまたいつもの騒がしさが戻ってきた。
ハニーだがちょっとやつれた気がする。
今日は美味しいものをいっぱい食べさせてあげよう。
エールはそんな事を考えながら、満面の笑みを浮かべた。