エールちゃんの冒険   作:RuiCa

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「エールちゃん。護衛、お疲れさまでした。寂しくなっちゃったねぇ」

 リセットが背伸びをしてよしよしとエールの頭を撫でる。

 

 エール達は館に戻ってお茶を飲んでいた。

「エールちゃんのおかげでスシヌちゃんは安心して冒険出来て楽しかったと思うよ。また会いに行こうね」

 いつもなら茶菓子を遠慮なく口につっ込んでいるエールが出された茶をじっと見つめているだけだったのが心配で、リセットは出来るだけ明るく話しかける。

「これからも冒険は続けるんでしょ? 次はかなみさん、ウズメちゃんのお母さんの所に行くのかな。自由都市はいっぱい行きたいとこあるんじゃない?」

「へへっ、自由都市の地図買ってあるぞ。見ながら次の計画たてようぜ」

 長田君が得意げに懐から大きな地図を取り出して広げる。

 エールは顔を上げて小さく拍手しながら長田君を褒めた。

 

 

 前にも冒険したが、自由都市は広い。

 

 

「ロックアースはここでござる。パラパラ砦から自由都市地帯に入ってそんなに遠くないでござるよ」

「んで、AL教の本部があるカイズ行きの船が出てるのが……どこ?」

「ジフテリアだね。シナ海岸沿いの港町で、ここから川中島への船が出てるんだよ」

 リセットはロックアースから海外沿いを指でなぞっていく。

 海岸沿いと言えば前にエールが初めて海を見た、みんなで浜辺で遊んだあたりだろうか。

「うん、そこからさらに南で、ここがジフテリア。エールちゃんの暮らしてたトリダシタ村からもそんな遠くないでしょ?」

 そう言われてもトリダシタ村はどこにあるのか、エールにはわからない。

「いや、自分の育った村の場所ぐらい覚えとけよー」

「しかし主君殿が育ったトリダシタ村は実際とても分かりにくい場所でござる」

「あの法王、コイツの事隠して育ててたしな。AL教は外敵が多いからだろうが」

「うちと同じでござるね。ウズメは別に隠されてはいなかったけど」

 そんな会話を聞いているとエールは村が懐かしくなり、一旦帰ろうかと呟くと

「別に寄らなくてもよくね? エールの村って別に何かあるわけでもねーし」

 美味しいパン屋とかある、とエールは頬を膨らませながらぺしぺしと長田君を叩いた。

「二人とも本当に仲がいいね。クルックーさんに会いに行くならとりあえずカイズに行った方が良いと思うよ。カイズは観光地でもあるから」

 エールが悩んでいるとリセットがそう提案する。

 大きな荷物があるわけでもなく里帰りにはまだ早いのもあり、エールは大きく頷いた。

 

「それで志津香さんやナギちゃんがいるカスタムがここだよ。マリアさんの研究所もあるからお兄ちゃんもいるかもしれないね」

「カスタムは早めに行っときたいっすねー、てか真っ先に行きたい」

「他にはMランドとか? またお小遣い貰えるかもしんねーしさ!」

「あはは……コパンドンさんには事前に言っとかないとまず会えないと思うよ」

 

 あとはミックスがいるシヴァイツァーにも行きたい。

「シヴァイツァーは東の方、ポルトガルに近いぐらいだね。前は行くのも結構大変だったけど、最近はシヴァイツァーに医療を受けに行く人が増えたおかげで色々整備されたからアクセスはだいぶ良くなったんだよ」

 

 あとピッテンさんがいるらしいパランチョ王国も気になる。

 地図を見ると闘神都市に近い、自由都市の南にあるようだ。

「誰それ?」

「前に特訓してもらったでござるよ。……って長田君はしてないでござるね。かっこいい御仁だったでござる」

「あの金ピカのおっさんだろ。どこがいいんだ、クソ役にも立たねーし」

 ザンスにとって防御関係の教えは必要の無いものでリックやチルディ、謙信と剣の特訓ばかりしていた。

「特訓も懐かしいでござるね。母上殿が参加してたらもっと楽だったろうに、何分多忙な御方ゆえ」

「俺、特訓とかずっとチルディさん見てたからな。あと謙信さんとか」

 エールは長田君を蹴り飛ばした。 

「何すんだよー! そーいや、あの特訓って世界でもめっちゃ有名な人たち勢ぞろいだったよな。サインもらっときゃ良かったわ……」

「今更何言ってやがる。俺様の方があいつらよりよっぽどつえーぞ。サインはやらねーがな」

「いらねぇよ!」

 役立たず度ではサーナキアさんがダントツだったんじゃないかとエールは特訓の事を思い出す。

 甲斐甲斐しく世話をしてくれていたロッキーさんや模擬戦をしてくれたタイガー将軍よりもだ。

 あの人は別に強くもなかったし。

「エールちゃん、それは言わないで上げて……えーーーっと、苦労してる人なんだよ」

 リセットはフォローの言葉を探したが、そういうのが精いっぱいだった。

 

 

 とにかく自由都市の冒険の計画を立てると、まだ楽しい冒険が続きそうだ。

 

 

 明日からはリセットも一緒だし懐かしい冒険だね、とエールが笑顔を浮かべたのだが……

 

「え、私?」 

 リセットが驚いた表情でエールを見る。

 

「私はまだシャングリラでお仕事あるから一緒に行くのは無理かなぁ」

 

 エールはリセットは自由都市を回る予定があると言っていたので当然一緒に行くものだと思っていた。

 一緒に行けないという言葉にショックを受けつつ、目的地が同じなら渡りにナントカで一緒に来るべき、と言いながらリセットの目を見た。

「エールちゃん達と楽しそうだけど、私が行くと護衛さんがぞろぞろがいっぱいで冒険できなくなっちゃうよ?」

 ボクが護衛すればいいし、ザンスやウズメもいるのだから普通よりどんな護衛よりも安全安心。

 一国の軍隊ですら退けられる、とエールは必死な目を向ける。

「あれ、なんか俺だけハブられてね?」

 

 長田君の言葉は聞かないふりをして、そもそもリセットはカイズに行きたいって言ってた、とエールは口を尖らせる。

「あの時は長田君の呪いが解けるかもしれないからカイズに行こうって話だったから。クルックーさんとはお話しはしたいんだけどね」

「ならちょっと休み貰って一緒に行きません?」

 長田君もエールに続く。

「そういえば姉上殿は休みとかあるんでござるか?」

「うーん……前の冒険が終わってからお休みは全然ないねぇ。魔王が居なくなってからシャングリラにいることの方が少ないぐらい。昨日までエールちゃんの所にいたのが久しぶりのお休みだったかな」

「うへー、ハードワーク。なら尚更、ちょっとぐらい休み貰ってもバチはあたらないっしょ!」

 大変じゃない?とエールが心配そうな顔を向ける。

「そんなことないよ。……一年前まではもっと大変だったもん」

 リセットは自分のクラウゼンの手を撫でた。

 

 力のチャージはもういらない。

 いつ魔王や魔人が攻めてくるのか。人類が、家族が、そして父が、一体どうなってしまうのか。

 もしどうにもならなかったら……そんな不安で押しつぶされそうなっていた日々はもう過去の話。

 今はシャングリラの外交官として、各国の友好の懸け橋になるのが自分の仕事である。

 

 リセットは不安を取り去ってくれた大切な妹の頭を慰めるように撫でた。

 エールはその手に気持ちよさそうな顔をしつつ、残念そうに顔を伏せていた。

 

「俺もそろそろリーザス帰るぞ」

 エールは驚いてザンスを見る。

「ゼスにもAL教にも恩は売れたからな。十分だろ」

「ザンスちゃんは赤の将だし、リーザスの人達待ってるよね」

「やっぱ国が心配なん?」

「リーザス軍は世界最強だ。んな心配いるか」

 ザンスは長田君を蹴りとばす。

「リア女王の手紙に何か書いてあったでござるか?」

「寂しいから早く帰ってきてほしいんだと」

 ザンスはエールの方をじろじろと見ている。

「……他にもあるがそっちは急ぐこともねーしな。とにかく俺様は戻る。リセット、パラパラ砦まで迎えに来るようにリーザスに連絡入れとけ」

「うん、分かった。少し早いけどザンスちゃんもお疲れ様。スシヌちゃんの事守ってくれてありがとうね!」

「あいつは将来の俺の女だからな。俺のモンに手を出されるのが腹が立っただけだ」

「そんなこと言って。ザンスちゃんは優しいからきっと誰が困ってても手を貸して――」

 リセットの頬をザンスが伸ばした。

 

「どうした、エール。俺様と離れるのがそんなに寂しいか?」

 ザンスをまっすぐ見つめていたエールは大きく頷いた。

「……は?」

 そのいつもからは想像できないしおらしい様子に調子が狂ったが、すぐに嬉しそうな顔になる。

「おーそーかそーか、やっと素直になったか! なら冒険なんかやめてこのままリーザスに来いや。戦いの勘も戻ってるとなればうちに入っても問題ない、なんならすぐにでも俺の女にしてやるぞ」

「エールは俺とまだまだ冒険するのー! お前の女になんかなんねーからな!」

「陶器も連れてってやっても良いぞ。紫の軍で的に良かったっつー話は聞いたし、魔人にして俺様のサンドバッグにでもしてやるわ」

「ならねーってば!!」

 ザンスの勧誘は置いておいて、ここにきて冒険の仲間が減っていくのはやはり寂しい。

 

 エールはしょんぼりと肩を落として顔を伏せた。

 

「エールちゃん……」

「まあまあ、ウズメも一緒に行くでござるよ?」

「でもウズメちゃんもロックアースいったらたぶんお仕事だよねぇ」

「修行中の身でござるからして。魔物界の動向まで監視を頼まれてしまい母上殿も手が足りんのでござるよ」

 

 エールは寂しそうにしている。

 

「まっ、エールには俺がいるって! このイケメンハニーで元魔人の長田君がさ」

 元気づけるように軽い調子で言った長田君の頭をエールは弱々しく撫でた。

「実際、長田君はなかなかやれるハニーでござる」

「何かあったら陶器を見捨てるか囮にでも使えよ。死んだら破片でも拾って供養してやりゃいいから」

 ウズメに褒められて照れたり、ザンスにからかわれて怒ったり。

 

 そんな長田君を横目に、エールはリセットをじーっと見る。

 

 お姉ちゃんが冒険ついて来てくれないんじゃ寂しい、とエールは悲し気な様子で訴える。

「何やってんだ……」

 そのわざとらしい様子を見てザンスが呆れている。

「だ、ダメだってば。サクラさんがゼスに行ってる間、お母さんの事も手伝ってあげたいもの」

 母親の手伝い、と言われるとエールはそれ以上言えなくなって押し黙ってしまった。

 エールは長田君が呪われたままだったらリセットと冒険に行けたのに、と口を尖らせる。

「ひどくね!? そんなこと言うと俺、泣くぞ!」

 長田君はエールをペシペシと叩いた。 

 

「エールももうわがまま言うんじゃありません! 自由な俺等と違ってシャングリラの外交官って立場もあんだからさ」

「てか魔王の子でふらふらしてんのお前ぐらいだぞ」

 冒険者としての仕事はしてる、とエールは頬を膨らませた。

 

「リセットさんがいれば冒険もスムーズに進みそうだったのにな。……そーいや、やっぱ100%当たる占いとか嘘だったかー」

 エールは長田君の言葉で思い出したように、占いではリセットも一緒に行くって言ってたのに、と怒り出した。

「そりゃフツーに考えてそんな占いなんかあるわけねーよ。まぁ、あの子小さかったしそこは大目に見てやれって」

「いや、あいつ何年も姿変わってねーぞ。リセット(こいつ)と同じでな。どっちにしろ評判や噂なんか所詮当てにならねーってこった」

 リーザスで雇わなくて良かった、とザンスが吐き捨てる。

 

「占いで小さい子っていうと、もしかしてアーシーちゃん?」

 会話を聞いていたリセットが驚く。

「知ってるんすか?」

「うん、すごく有名だから。たまにシャングリラの町中で占いのお店開いてるのは知ってたけどエールちゃん占って貰ったんだ?」

「あー、いやいや。エールの事は占えないって言われたんすよ」

「えっ?」

 見て貰ったが何も見えないと言われたことをエールはリセットに話した。

「なら私と一緒に行くって言ったっていうのは?」

「エールが占えないっつーんで俺を見て貰ったんすよ。そしたらリセットさんと一緒に南へ行くと良いよーみたいなこと言われて。南ってざっくり自由都市っしょ? それでエールがリセットさんと一緒に冒険行けるって喜んでたんす」

 

 リセットは目を見開いてエールを見た。

 

 アーシーはゼスの永久客人であるルーシーと共に占いを外すことはない。

 彼女達ははぐれ使徒であり、その能力の便利さや魔人の使徒として恨み等で利用されたり狙われないように大国間で情報操作がされているほどである。

 リセットは数少ない、そのことを知っている人物だった。

 

「……一緒に行くと良い、か」

 

 そのアーシーが自分と一緒に行くと良い、と言った。

 

 さらにエールの占いは出来ない、ではなく見えないと言ったらしい。

 不思議な話であるが、エールには不思議な部分がとにかく多い。

 契約なしで日光を持てる事、クエルプランを追い返した謎の力、神魔法にレベル神。そして前の冒険から一年、眠り続けていた事。

 

 今回の冒険でもザンスと取り返しのつかない関係になってたかもしれないし、東ヘルマンに襲われかけたりしている。

 

 ここで自分が一緒に行かなかったらどうなるのだろう。

 アーシーが「良い」と言っていた冒険が、出来なくなってしまうかもしれない。 

 

 

 リセットはエールが心配だった。

 

 

「……エールちゃん、やっぱり私も一緒に行く」

 

 そんな不安を覚えた時、無意識にその言葉が出ていた。

 

 エールはそれを聞いてぱーっと目を輝かせる。

「え? マジ? 占い大当たり?」

「おー! 姉上殿も一緒ならウズメも安心。母上殿も喜ぶでござる」

「散々渋ってたくせに、占いごときで変えるのかよ……大体シャングリラ外交官の仕事はどうすんだ」

 ザンスは眉根を寄せる。

「うーん、エールちゃんに護衛をお願いするよ。スシヌちゃんのこと、ちゃんと護ってくれたんだし実績は十分だもんね」

「あのポンコツ村長が許さねーだろ」

「そ、そこは説得してみる」

 

 

「エールちゃん」

 リセットはエールに向き直った。

 

「私はシャングリラの外交官として、エールちゃんに護衛の依頼をします。自由都市を回っている間、しっかり私の事守ってね」

 エールは大きく何度も何度も頷いた。

 

 そして長田君の手を取ってぴょんぴょんと跳ねる。

「良かったなーエール!」

「良かったでござるね、主君。主君の喜びはウズメの喜びでござる」

「ガキか、お前は」

 

 

 エールはリセット達と行く次なる冒険に心を馳せた。

 

 

………

……

 

 

「んで、説得できなかったんだな! がはははは!」

 暴走するように猛スピードで走るうし車の中でザンスが大笑いしていた。

「うん、ダメだった。頑張ったんだけど、取りつく島もなしだったよ」

 リセットは耳を垂らす。

「……だから出てきちゃった」

 今度は悪戯っぽく笑った。

 

 

 今から数十分の前の事。

 

 空が白みはじめたばかり、砂漠の夜の寒さが残っている時間帯。

 

「急だけど今からシャングリラを出発するよ」

 エール達はそう言ってリセットに起こされ、シャングリラの町を歩いていた。

 昼間はごった返していた市場も静かで、人通りもまばらである。

「うー、寒いし、眠いし、髪をセットする時間もないし……」

 長田君がぐずっているように、エールも寝ぼけ眼である。

 

 

 ふらふらしつつシャングリラの門の前まで来ると、そこでは見慣れた人物がうし車の用意をしているのが見えた。

 

「おはようございます。お荷物はこちらへどうぞ」

 そう言ってイアンがエール達の荷物を手早くうし車に乗せていく。

「こちらお預かりしておりました、魔法ハウスです。清掃等させていただきましたので、後ほどご確認下さいませ」

 ロナがエールに魔法ハウスを恭しく差し出した。

 小さい状態のままでも綺麗になっている気がして、エールはロナにお礼を言った。

 

「それじゃ、今からこれに乗ってパラパラ砦まで行くから急いで乗ってね。詳しい事はうし車の中で説明するから。……言わなくても分かると思うけど」

 リセットがそう言うのでエール達は素早くうし車に乗り込んだ。 

 

「リセット、行ってらっしゃーい」

「ピグちゃん……ピグパトロール隊長。私がいない間、シャングリラの事よろしくお願いします。カロリアさんにもよろしくね」

「まかせてー。今回は見送り出来たねー」

 数人のピグが手を振っている。

「行ってらっしゃいませ、リセット様。楽しい旅であることをお祈りしております」

 ロナはそう言って薄く笑って手を振った。

 

「勝手に出てきて大丈夫なんでござるか?」

「いいのいいの。お母さんってば本当に分からず屋なんだから。お仕事で行くって言ってるのに自由都市に行く必要なんかないとか、次期女王としての心構えがなってないとか。お休みが欲しいっていってもダメって言うし」

 リセットが唇を尖らせる。

「ちゃんと置手紙は残してきたし、皆にはいつもの通りお仕事に行くだけって伝えてあるから大丈夫。ロナさんも、イアンさんも、ピグちゃんも、門番さんもね。そういうことになってるの。 ……表面上は」

 みんながリセットの協力者。

 都市長であるパステルよりもリセットの方が人望あるんだろうな、とエールは思った。

「では参りましょう。猛スピードで良いのですね」

「うん、追いつけないような速度で行っちゃって!」

 

 

 そして現在、エール達は猛スピードのうし車でアウトバーンを駆けていた。

 

「揺れるけどいいねー! この早さ、あっという間にシャングリラ見えなくなった!」

「悪くねースピードだな!」

 長田君とザンスはスピードを楽しんでいる。

 エールもアウトバーンを行く商人が一瞬で見えなくなるほどのスピードで進むうし車にワクワクとしていた。

「これなら気付いて追いかけようとしても追いつけないよ」

 リセットが少しそわそわしているのは罪悪感があるからかもしれない。

 

 エールは一緒に来てくれてありがとう、と言った。

 

「ふふ、自由都市はけっこう周り慣れてるから道案内はお姉ちゃんに任せてね!」

 

 ニコニコとエールを見つめるリセットに、エールも満面の笑顔を返した。

 

 

 エール達はあわただしく次の冒険に出発した。

 

 

 ―― 一方シャングリラでは。

 

『お母さんへ

 少し予定が早いですがエールちゃん達に護衛を依頼して一緒に自由都市を回ることにしました。

 定期的に連絡はいれるので心配しないでください。 リセットより』

 

 リセットの部屋の机に置かれていたシンプルな手紙。

 

「私もちゃんとお見送りしたかったのになー」

 パステルはその手紙を読んでモダンの呑気な言葉にわなわなと震えるが、すぐに大きくて長いため息をついた。

「今から追いかければ間に合うかも?」

「……言って聞くようであればそもそもこんな真似はせんでしょう」

 前の冒険でも閉じ込めたと思ったら部屋から抜け出し、出て行ってしまったのだ。

 普段は母のいう事をよく聞き、カラーからの人望も厚い素直で優秀な娘だがこういった行動力を発揮したリセットは誰にも止められない。

「今回は仕事で行くという名目もあり前よりは危険も少ないはず。それに……」

 パステルは窓の外を見る。 

 

「たまには羽を伸ばさせるのも良いでしょう」

 

 交易都市シャングリラの都市長は忙しい。しかし、それ以上に世界各国のパイプを担い、世界中を飛び回っているリセットには休みがない。

 カラーの女王や都市長としてそんな娘が誇りであり頼りにできる存在ではあるが、母親としては少し休息を入れさせてあげたいというのが本音だった。

「パステルもけっこう甘いわね、いい子いい子」

「戻ってきたらちゃんと ってやります」

 手紙を机にしまって、パステルは仕事に戻った。

 

「心配はあの法王の娘か――何者だ、あれは?」

 

 法王とあの男の娘、エール・モフス。

 

 自分に敵意を向けた時のあの目は一体何だったのか。

 リセットの事を好きだと言った以上、危害を加えることはないだろうがパステルはどこか不安を感じていた。

 




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