「エール、起きろー! 帰りもうし車用意してくれるってさー」
エールが長田君の声で目を覚ます。
体も頭もとてもすっきりしていて、気持ちの良い目覚めであった。どうやらオノハの膝で眠ってしまいベゼルアイによってベッドに運ばれ、そのまま朝までぐっすりだったらしい。
エールは体を思いっきり伸ばしながら、昨日オノハにして貰ったことを思い出していた。
「あれ、風邪でも引いた? ちょっと顔赤いけど」
そう言って顔をのぞき込み、心配そうに額に手を伸ばした長田君をエールは反射的に割ってしまった。
さすがに理不尽な割り方だったのでエールは慌てて謝る。
そんな事があってエール達が外に出ると既に帰りのうし車が用意されていた。ここは公になっていない秘密の施設、のんびり居座るわけにはいかないらしい。
エールはオノハとベゼルアイに昨夜の事でお礼を言った。
「ううん。お礼になったなら良かった……」
「礼儀正しいわね。私もすぐに出るから、冒険しているならまたどこかで会うかもね」
ベゼルアイはまた新しいモンスターを産むために世界を放浪するらしい。
「助けてくれてありがとう。エールちゃんもベゼルアイもまたきてね……」
「ええ、またね。エールちゃんもチルディちゃんにお菓子のお礼よろしく言っておいて」
帰り際、オノハやスタッフ、女の子モンスター達も見送りに来てくれていて、みんなで手を振ってくれている。
ベゼルアイも軽く手を振ってくれた。大きい剣を担ぎ上げてさっそうと歩いていく後ろ姿はやはり神様なのか、小柄なのに大きく堂々としているように見えた。
エールと長田君もうし車の窓から大きく手を振った。
………
……
リーザス城に帰還し、エール達はチルディに事件のことを報告した。
「なるほど、女殺しとは私が行ってたら危なかったかもしれませんね。まさか長田君が役に、いえ切り札になるとは思っていませんでしたわ。お二人とも、よく頑張ってくださいました」
チルディは二人にねぎらいの言葉をかけた。
オノハや女の子モンスターも無事、ベゼルアイに会ってお菓子を喜んでいた等も話すと
「お給料の方にご活躍分の色を付けてもらう様に伝えておきますわね」
エールと長田君は手を合わせて喜び合った。
久しぶりにエールが城で借りている部屋に戻ると、そこには滞在中世話になっているメイドが待機していた。
「おかえりなさいませ、エール様。 こちらをお受け取り下さい」
恭しく差し出されたメイドの手には二つの紙が乗っている。
片方は戦っていいよと書かれたカードである。
「コロシアムの参加証?」
長田君は覚えていたようだがエールは頼んでいた事をすっかり忘れていた。無事に発行して貰えたようである。
こちらもお読みください、と言うメイドの手を見るとさらにもう一つ小さな手紙が乗っている。
『接戦を演じて、戦いを盛り上げること。素性を伏せて、聖刀・日光と神魔法の使用を禁ずる』
手紙の中にはこのような短い文章が書かれていた。署名などはないようだ。
「これ、もしかして戦い方の注文? でもコロシアムってなんでもありっつーじゃん。さすがのエールでもきついんじゃね」
チルディがエールの素性は出来るだけ隠した方がいいと言っていたのでそれ対策だろうか。
神魔法禁止でさらに愛刀の日光まで使えないとなるとかなりきつくなりそうだ。
さらに日光以外の武器の持ち合わせがないのでどうしよう、と悩みはじめた。さすがに武器も魔法もない状態では戦えない。
「メイドさーん、なんかエールの武器になりそうなもんないっすかね?剣か刀で軽そうなやつ」
エールの悩みを解決するように長田君がメイドに相談するとしばらくして一本の剣を持ってきてくれた。
お礼を言いつつ、エールはそれを抜いて振り回してみる。
「どう? 大丈夫そう?」
親衛隊で使われている細身の剣。悪いものではないが使い慣れている日光と比べるとかなり頼りない武器だった。
「慣れない武器で戦うとなると危険だと思いますが……」
日光が心配そうにするが先ほどの手紙で日光禁止と書かれている以上、この武器を使うしかない。とりあえず頑張ってみる、と言って日光を長田君に預けて早速コロシアムに向かった。
……‥
コロシアムまでやってくると相変わらず内部は熱気に包まれており、歓喜の声に怨嗟の声が飛び交い、とにかく盛り上がっていた。
熱気にあてられ震える長田君とは対照的に、エールはさらりとした表情で近くにあった受付に出場します、と言いながらコロシアムの参加証を見せてみた。
「はい、確かに…… って、君がこれを?」
そうすると受付が眉を寄せながらそのコロシアムの参加証とエールの顔を交互に見た。
「ああ、本当に君が例の子なのか。少しだけど事情は聞いているよ。そんな……まだ小さいのに大変だろうけど、危なくなったらすぐにギブアップしてくれれば殺されるってことはあまりないはずだから……頑張ってね」
どんな話が通っているのか知らないが、受付はなぜか非常に同情的な視線をエールに向けている。
「エール、見た目は女の子って感じだしこういうとこに出るのは危険に思われてんのかもな。胸もないせいで子供っぽいしさ」
エールは長田君を割った。
「ではまず、お名前は?リングネームでもいいですよ」
素性を伏せる、ということはエール・モフスの名前はまずいだろう。現AL教法王の名前がクルックー・モフスなのでそのまま登録したらバレてしまいそうだ。
エールは少しだけ悩んでからサンシャインマスター、と名乗ってみた。
「サンシャイン……え?」
受付はそれにちょっと驚いたような顔をする。
「な、なるほど、わかりました。サンシャインマスターですね……魔法が得意なのかな? それともまだそういう夢を見るような年頃なのか……そんな子がこんなところで戦わなきゃいけないなんて」
受付はサラサラとノートに書き込みながらまたもやエールをあわれむ様に言った。
「…なにその名前?」
長田君が呆気に取られている。カオスの使い手がカオスマスターならば日光の使い手はサンシャインマスターになるはず、とエールがそっと耳打ちする。
「まあ、エールが良いならそれでいいけど安直と言うか?もっとこうカッコいいのなかったん?」
エールは即興で考えた割には良いリングネームだと気に入っていたが、長田君はそのネーミングセンスが理解できなかったようだ。
エールは長田君をぺしぺしと叩いた。
「ではルール説明をしますね。反則はありません。武器もお好きにどうぞ。ただし生死は関知しません。相手を殺すか無力化させれば勝ちで、ギブアップさせても構いません。出場できるのは通常、一日に一回です」
ルールはとてもシンプルなものだが、反則なしという部分で闘神都市で場外から毒を受けたことを思い出した。
場外からの支援はありか、と聞いてみる。
「賭博ですからそれが許されたら場外乱闘になってしまいますよ」
場外支援はさすがにアウトらしい、警戒するに越したことはないが少し安心した。
「俺がそういうやつがいないかどうかちゃんと見張っててやっから!」
長田君がそういって胸を張るが、エールはありがとうといいつつ期待できないなと感じ、警戒心を強めることにした。
「それではサンシャインマスターさん、さっそく会場へお越しください」
どうやら早速、試合を組んで貰えたようである。エールは若干緊張しつつ、会場へ向かった。
「エールさん、お気をつけて」
長田君に抱えられた日光が小さくつぶやく。
「頑張れー、俺はお前に全額賭けるからなー!」
「すいませんが、出場者の関係者の方も賭けることはできませんよ」
「えー!?」
長田君が残念そうに叫ぶのが後ろから聞こえてきた。
エールが会場に足を踏み入れると円形上に囲んでいる観客席から歓声が上がる。
「レディースエンドジェントルメン! 続いての対戦カードはこちら!」
司会実況が試合を盛り上げるべく声を張り上げていた。
「生活の為か、はたまた借金か!貧しさゆえに暴風吹きすさぶこのコロシアムに足を踏み入れることになった哀れな少女、サンシャインマスター選手!対するは対戦相手が泣き叫ぶ声が何よりの楽しみというー――」
エールはその自分の紹介文句に驚いた。
確かにお金は少ないが、生活の為、借金、貧しさ、と言われるほど現状が切羽詰まっているわけではない。
おそらく試合を盛り上げるために城から参加証発行時にそんな情報が回され、受付の人から同情的な視線を向けられたのもそのせいだろう、とエールは冷静に分析しつつ頷いた。
「さあ、最後に立っているのはどちらだッ!」
いよいよ試合が始まった。
そういえば対戦相手のこと全く聞いてなかったなあ、と思いながらエールはとりあえずすらりと剣を抜いて構えた。使い慣れていない剣ではあるが決して質の悪い剣ではない。
「へへへへ、お嬢ちゃん。可愛い顔してんなぁ……」
対戦相手である目の前の男は武器を構えて、舌なめずりしながらエールの全身を下から上まで嘗め回す様に視線を這わせる。
そうして露骨にいやらしく目を細めた。
「観客は女が切り刻まれて泣き叫ぶのが好きなんだぜ?いい声聞かせてくれよな」
エールは不快そうに眉間にしわを寄せた。
下卑た顔でそう言いながら、大きく振りかぶってきた男の一撃をとりあえず受け止めてみた。
その一撃を受け止めたエールは思った。
……この人、かなり弱いのでは?
「おっと、うまく受け止めるじゃねーか」
偉そうに言っているが、軽くしかも遅い攻撃。
妹であるアーモンドの方がよっぽど強いのではなかろうかと思うような一撃。
エールは闘神大会で戦ったような猛者、例えばアームズ・アークぐらいの鋭い一撃がくると想像していたので拍子抜けであった。
とにかく相手の剣が大したことないので他に必殺技でもあるのだろうかと改めて構える。
「しゃしゃしゃしゃしゃー!」
謎の奇声をあげながら、ぶんぶんと武器を振り回す男の剣をとりあえず受けたり避けたりしていたが、他に何かをやってくる気配はなかった。
エールは困惑しつつ、とりあえず突っ立ったままというのも不味いだろうと思い反撃を試みた。
相手を倒さない程度に力を抜いていたせいか振りが遅く、その剣は空を切る。
「そんな剣じゃ俺には届かないぜ? そんな名前なのに魔法も使えねーのかい?」
剣が届かなかったのは今握っている剣が日光よりも丈が短かかったので間合いを見誤ったからでもある。名前と魔法の関係は分からないが、神魔法は禁止、魔法も電磁結界ぐらいしか使えず得意ではない。
相手の強さを考えるとエールが電磁結界を全力で打つだけで一瞬で消し炭に、仮にAL大魔法など打とうものなら塵も残らないだろう。
ならば剣で思いっきり間を詰めて切り込めばいいかと思ったが、それでも一撃でざっくり真っ二つにしてしまい試合は盛り上がらないだろう。慣れない剣では手加減も難しい。
エールは悩んでいた。
「おおっと、やはり辛いか!防戦一方だー!」
実況ではそんなこと言われているがエールは接戦を演じる、試合を盛り上げる、という手紙の内容のことで頭がいっぱいである。
「おーい!さっさと決めろー!こっちは撃破タイムで賭けてんだぞー!」
「殺せー!切り刻めー!」
「殺す前に剥いちまえー!」
観客席からは血の気の多い言葉が飛んでいる。エールに分かるのは自分が勝つ方に賭けてる人は少ないだろうなという事ぐらいだ。
「わー!負けるな、エールー!」
長田君が応援してくる声が聞こえる。
「うおおおーーー!」
エールが観客に意識をとられているのを隙と見たのか、男がまっすぐにエールの頭を狙って大きく振りかぶってきた。
ざくー!
「ぐふぅ…………」
エールがしまったと思った時にはもう遅く、相手は地面につっぷしていた。
とっさに反撃してしまい相手の腹にかなり良い一撃を入れてしまったらしく、男は倒れ伏してぴくぴくしている。死んではいないようだが立ち上がれないだろう。
エールは接戦を演じるという指示を思い出してとっさに片膝をつき、剣を杖代わりにふらふら立ち上がると言った演技を入れてみた。
「お、おーっと!決着ゥゥ!まさかのニューカマー、サンシャインマスター選手の勝利だッ!」
その演技はとくに気にされることもなく、会場内では大ブーイングが巻き起こっていた。
「何、子供に負けてんだー!」
「金返せー!」
「死ねー!トドメ刺せー!」
賭けの倍率的にも、痛めつけられる少女を見たかった観客にも美味しくない展開だろうが、エールはそそくさと控室に戻っていった。
控室にいくと長田君とコロシアムのスタッフだろう人が待っていた。
紹介文のようにか弱い少女が借金で無理矢理出場させられたとでも思っていたのか、その人は安心したような表情をしていた。
「お疲れ様です。見かけによらずお強い……これが勝者への賞金とサービスの世色癌です」
会場の宣伝看板にもあったがスポンサーに世色癌の販売元であるハピネス製薬がいるらしい。
エールはゴールドが詰まった袋と一緒に世色癌を受け取るが、怪我はしていないし怪我したとしてもヒーリングがあるので無用の物である。
「エールー!よく頑張ったな!てか、危なかった!?あいつそんなに強かったん?」
長田君がぴょんぴょんと跳ねながら駆け寄ってきた。
エールは首を横に振った。接戦の演出は悪くなかったようである。闘神都市ぐらいの相手を想像していたのだが、これなら日光なしでも全く問題なさそうだ。
エールは貰った世色癌を長田君の頭の上に乗せた。
………
……
それからエールはリーザス城で怪我人の治療、訓練相手、それが終わったらコロシアムで戦うというのを繰り返した。
「サンシャインマスター。出場に事情があるというニューカマーの少女で今の戦績は出場以来負けなしの5連勝。しかし勝ち続けているようでその試合内容は非常に危うい。試合を長引かせては相手のスキを伺うという消極的な戦法でギリギリの勝利をおさめているというのが実情だ。今のところ大怪我こそ負っていないものの、対戦相手の強さ次第ではあっさり負けてしまうだろう。いつこの少女の華奢な身体が引き裂かれてしまうのか我々はただ見守ることしか出来ないが、今後も注目される選手なのは間違いない。撃破タイムを含め、いつ負けてしまうのかを見極めも大事そうだ。だってさー」
長田君がそんなコロシアム下馬評の情報をどこかから持ってきて読んでくれた。
単に見る目のない解説なのか、それともこういった下馬評すら運営側の根回しによるものなのかはわからないが、とりあえずコロシアムでの稼ぎは上々で懐が温まってきていることにエールは満足していた。
「接戦を演出しているような戦い方は一体なぜですか?」
チルディもエールがコロシアムに出ている姿を見たらしい。
出るのは良くなかったですか、とエールが聞いてみた。
「賭場でもあるコロシアム出場など野蛮だとは思いますが、実戦経験にもなりますし咎めるようなことではありません。しかしあの無様な戦い方は仮にもリーザスでの師として気分の良いものではありませんわ」
エールは素直にコロシアムの参加証を貰った時の指示を話した。
「なるほど、運営の指示……おそらくリア様のご指示と。確かにエールさんのような少女は出場するだけで色々と注目度も上がりますし、その強さを知らなければ今までの接戦続きの試合内容的にもほとんどの方は対戦相手方に賭けるでしょうから運営側には好都合でしょうね」
チルディは少し呆れている。
エールは自分の素性がばれないようにする事と試合が盛り上がるようにという観客への配慮だと思ったが、同時に稼ぎの元にされていたらしい。
どの相手もエールにとって大した敵でなかったのはそういう対戦相手を選んでくれているからだったのかもしれない。
「エールさんは自分が見世物にされるのに抵抗はございませんの?しかもサンシャインマスターなんてそんな子供みたいな名前、スポンサーの用命なのでしょうが少し恥ずかしいのでは」
お金を稼ぐためなので、とエールがさらりと答えた。その答え方に淀みはなく、気分を良くも悪くもしている様子はない。
しかしサンシャインマスターの名前は自分でつけたものを恥ずかしいと言われるのは心外だった。
「あら、そうですの?失礼、バカにするつもりではなく……小さい頃の憧れというものですかしら。アーモンドも好きですのよ」
チルディが優しく笑った。
前もこの名前のことで色々言われてしまったのだがサンシャインマスターというのはそんな変だっただろうか、エールがチルディに聞こうとするとアーモンドがとてとてとエールに近付いてきて一冊の本を見せた。
「あね様もこれ好きなのですか?」
渡されたその本には大きくハッピー魔法少女サンシャインというタイトルがで表紙にはきらきらのふりふりで派手な服を着た少女が描かれている。
もちろんエールは初見である。
「これは魔法ビジョンで長年やっている子供番組ですわ。アーモンドもこれが好きで、確か紫の軍にいるアスカさんやゼスのスシヌ王女なんかも小さい頃お好きでしたっけ。エールさんもてっきりこれから名前を取ったのかと思ったのですが」
エールは驚いて大きく首を横に振った。
「あら、ということはもしかして日光さんからですか?そういえばランスさまはカオスマスターと呼ばれていましたものね」
チルディは名前の由来をすぐに察する。
「ですがサンシャインと聞くとリーザスではこれを思い浮かべると思います」
どうりでまだ夢を見るような年頃とか、魔法使わないのか、とか言われるわけである。
「なるほど、知らなかったんですのね、エールさんも存外可愛いところがあるのだと思いましたわ」
「あね様もサンシャインのファンなのかとー」
「あはははははは!これは子供っぽいとか言われるわなー!」
微笑ましい瞳で見るチルディ、純粋な目で少し残念そうにしているアーモンド、遠慮なく爆笑している長田君。
エールは長田君を割りながら、想定外の子供番組ヒロインとの名前かぶりに恥ずかしくなって顔を覆った。
………
……
そんなことがあってからさらに数日後。
エールがまた一稼ぎとコロシアムに向かおうとするとなにやら城内が騒がしいような気がした。
「エールー!はやく行かないと間に合わないぞー」
気にはなるが、それよりも出場が先とエールは急いでコロシアムに向かった。
大分顔も知られたようで、コロシアムに行くと手を振ってくれる人がいる。
「そろそろ負けてくれよなー」
「すぐにやられんなよ」
鬱陶しいので中指を立てる、という事はしないが負けを望まれている事やいやらしい視線がとても癪に障るので絶対勝ってやろうとエールは少し苛立ち気味に気合を入れた。
しかしその日、控室に通されたはいいものの中々試合が始まらなかった。
「なんか今回すげー待たされるな。こんなんなら急がなくても良かったんじゃね?」
武器の手入れは万端、鏡の前で身支度を整えていると遅くなりましたが出番ですとコロシアムのスタッフに呼ばる。
「レディースエンドジェントルメン!」
「続いての対戦カードは予定を変更し特別試合となります!」
特別試合? エールはそれを聞いて首を傾げた。
「毎回ギリギリの試合を見せながら最後には隙をついて勝利をおさめる、逆転につぐ逆転で試合を盛り上げる謎の貧乏少女、魔法は使わないサンシャインマスター!」
「対するはリーザスでいや世界で知らぬものはない、リーザスの赤い死神にして赤の軍将軍ザンス・パラパラ・リーザス!」
エールは目の前に現れた相手に目を丸くさせて驚いた。
いつのまに戻ってきたのだろうか、エールの冒険の目的の一つでもある姿がそこにあった。
見慣れた赤い鎧と長くて重そうな剣を構えた青い髪で長躯の男。
見間違えようもない、エールの兄であるザンスであった。
エールは気づかれない程度に小さく手を振ってみたが、それは無視されむしろ睨み返されてしまった。
とにかく今日の対戦相手であるらしく、とりあえず剣を構えてみた。
試合開始と同時にいきなり間合いを詰めてくる。
エールはなんとかその一撃を剣を使って受け止めるが、今までの相手の攻撃の全てを合わせてもはるかに届かない重い一撃に腕がじんじんと痛み剣がきしむ音がした。
「え、えー!あの赤い死神の一撃を防いだー!?」
間を置かず飛んできた二撃目を防ごうと剣を構えるが今度は間に合わないと踏んで今度は大きく後ろに飛んで避ける。
とにかく距離を詰められないように一定距離を置くしかない。
「さらにあ、あの赤い死神の攻撃を躱した!? いったいどういうことなのか、サンシャインマスター選手、実は相当の使い手だったのでしょうか!?」
観客席がざわめいている。
「おー、やるじゃねーか」
ザンスは嬉しそうにしているが、エールの方は正真正銘、防戦一方だった。元々、間合いを詰められたら例え神魔法が使えたとしても勝つのは難しい相手である。
なんとか反撃を試みて剣を振るうが易々と防がれてしまう。
そもそもなんでザンスを相手にしなければならないのか、せめて日光があればと色々考えてみても今はどうしようもないことだ。
さらに飛んできた攻撃は躱すことができないと踏んで再度剣で受け止めようとしたのだが、その斬撃の重さに耐えきれず剣がポッキリと折れ、その衝撃で体を弾き飛ばされる。
受け身を取れはしたものの、そこを的確に狙われ頭に一撃いれられてしまい、エールはそのまま気絶してしまった。
はたから見れば勝負はほんの1分程度の出来事だが、世界でも有数の高レベルにして強者である二人の戦いに会場は大いに盛り上がったようだ。
ワーワーと歓声を上げて騒ぐ実況や観客席を気にせず、ザンスはエールを軽々と肩に担ぐと会場を後にした。
※ハッピー魔法少女サンシャイン … アスカ食券ででていた魔法ビジョン子供番組