エールちゃんの冒険   作:RuiCa

8 / 58
エールとザンス 1

「お前、エールに何すんだよー!全然目覚まさないじゃんかー!」

「うるせぇ、陶器は黙ってろ。こいつが寝起き悪いだけだろ」

 

 エールは長田君とザンスが言い合ってる声で目を覚ました。

 リーザス城の泊まらせてもらっている部屋だろうか、見覚えのある天井が見える。窓からは日が差し込んできてすっかり明るくなっていたので、気絶ついでにそのまま眠ってしまったようだ。

 

 エールはむくりと体を起こした。

 頭を揺さぶられる一撃を貰ってしまったせいかまだ少しくらくらとしているが二人を見ておはよう、と朝の挨拶をした。

「やっと目覚ましやがったか」

「おはよう! まだふらふらだけど大丈夫? なんか飲み物持ってきてもらう?」

 エールは心配そうにする長田君の頭をぽんぽんと撫でた。

 ザンスの方はと言うとエールと目が合うと同時に

ポカン!

 拳骨の一撃をお見舞いした。

「てめぇ、新年会もサボったあげく全く音沙汰なしで何してやがった」

「お前、エールふらふらしてるのに叩くなって!」

 エールはくらくらしているところに追撃を入れられ、頭にさすりながらヒーリングをかける。

 それにしても新年会をサボったとはどういうことだろうか?

「まぁ、いい。どうせ陶器とくだらない冒険とやらでもしてたんだろーが」

 エールが二度も頭を叩かれた衝撃でぼーっとしていると長田君が飲み物を持ってきてくれた。

 

「…ったく。エールが俺様に会いにリーザスに来たっつーからわざわざ戻ってきてやったのに。当のお前はなんでうちのコロシアムで見世物なんかになってんだ。しかもサンシャインマスターとかくっそダサい名前で」

 サンシャインマスターの名前には突っ込まないで欲しかったが、とりあえず冒険資金のため、とエールは飲み物をすすりながら答えた。

 長田君が持ってきてくれたのはエールが好きな良く冷えたピンクウニューンである。

 なんとなく口の中が苦かったのもあったので大変美味しく感じた。

 

「そーいや実況がえらい盛り上がってたけどザンスもコロシアム出てたことあんの?」

「ガキの頃にな。あっという間にランキング一位になってくだらねーなと思ってすぐやめた」

「お前、目立つの好きそーだもんな」

 くだらないといいつつ偉そうかつ得意げに話している。

「俺様の時は余裕すぎて撃破タイムですら賭けが成立しなくなっちまったしな。それで今でも覚えてるやつが多いんだろうよ」

 だからザンスの一撃受け止めるだけでワーワーと騒がれたのか、とエールは納得した。

「あれ、でもこれでエール弱いふりってできなくなっちゃったんじゃね? これでコロシアム出るのおしまい?」

「当然だ。あんなくだらねー見世物になってんじゃねーぞ」

 エールが簡単に稼げる仕事だったのに、と不満そうな顔をするとザンスはその頬をむにーっと伸ばした。

 

「若、女性にそんなことをしてはいけませんわ。エールさん、大丈夫ですか?」

 チルディがエールが気絶したという話を聞いて部屋に入ってきた。

「げっ……」

「エールさんが慣れない武器を使っていたの分かっていたでしょうに、あんな本気で叩くなんて大人げないことです」

「俺は手加減してやったわ。なんでチルディがこいつのとこに来るんだよ」

 リーザスにいる間、師匠として自分に稽古をつけてくれていた、とエールが話した。

「ほー…お前、リーザス親衛隊に入る気になったのか。よしよし、エールならすぐ隊長になんだろ」

 やたら嬉しそうにするザンスに、エールはすぐに首を横に振った。

「んじゃ、なんでリーザスに来たんだよ」

 

 ザンスに会いに来た、久しぶりだけど元気そうで良かった、とエールは満面の笑顔で改めて挨拶をした。エールは頭こそ叩かれたものの久しぶりに一緒に冒険をした兄弟に再会できて純粋に嬉しく思っていた。

 

「……あ、ああ。今更だな。あれから結構経つがお前ちっとも体成長してないな」

 ザンスはエールから目を逸らしている。

「若、そんな言い方は女性に対して失礼でしょう」

 チルディはそう言いながらもその再会の様子を微笑みながら見つめている。

「お三方で積もる話もあるでしょうし私はこれで失礼しますわ。エールさんはお客様でもあります。若も失礼のないようになさって下さいね」

「うるせぇ、さっさと出てけ」

「出来れば若からも勧誘をお願いいたしますわ」

 そういうとチルディは優雅に身を翻して部屋から出て行った。

 

「よし、さっそくだが改めて全力で俺様と戦え」

 チルディが出ていくとザンスがエールを見てすぐにそう言った。

 それを聞いたエールは首を傾げる。

「前に闘神都市でお前が優勝したのが納得いかねーんだよ。次会ったらぜってーやるって決めてた。お前を倒せば俺様が優勝したようなもんだからな」

 出会ってすぐに勝負したのにさらに勝負を持ち掛けられるとは思わなかった。

 エールはやりたくないと首を横に振った。

「エールは昨日のことで怪我してんのに! お前ちょっと強引だぞー!」

「陶器がエールの口にしこたま世色癌詰めてたし怪我の方は問題ないだろ。治ってないならさっさと治せよ」

 口の中が苦かったのは世色癌のせいだったようだ。

「準備ぐらいはさせてやるさ。お互いに全力、魔法でも何でも使っていいぜ。なんか必要なもんがあったらメイドに用意させろ」

 とりあえずお腹空いたのでご飯、とエールは要求した。

「お前、なんか余裕だな……」

 

 三人で遅めの朝食兼早めの昼食を取る。

「リーザスの飯は美味いなー」

 メイドが運んできたワゴンには様々な種類のパンや果物、サラダに肉がのせられておりとても豪華で、エールと長田君の二人は遠慮なく結構な勢いでそれを口に放り込んでいた。

「リーザスは世界一豊かな国だからこれぐらい普通だろ。あとエール、お前は女なんだからもっと落ち着いて食え」

 ザンスはエールの食べっぷりに少し呆れつつも、得意げである。

「世界統一しても食い物とかあんま変わんねーんだろうな。今でもリーザス以上の国なんてどこにもないんだから当然だが」

「世界統一マジなん?」

「それで俺様が世界の王になる。終わったら世界中の良い女集めてハーレムでも作るか、そん時はエールも入れてやるからな。ありがたく思えよ」

 楽しそうに笑っているが、そもそもエールにどこのハーレムに入るつもりはない。

「エールをハーレムなんか入らせないからな!」

「陶器には聞いてねぇよ」

 ザンスは長田君を鼻で笑った。

エールは父であるランスと野望が被っているなぁ、と思っていた。

 

「まあ、世界統一の前にさっさと東ヘルマン潰さねーとな、ちまちま嫌がらせばっか仕掛けてきやがって」

 そういえば軍が駆り出されてたのってそのせいか、エールが尋ねる。

「俺が行ってたのは地方貴族の反乱。東ヘルマンのやつが裏から扇動してるのは間違いねーんだろうが、奴ら全然しっぽ掴ませねー……」

 魔王はもういないのに、と言いながらエールは苦い顔をしているザンスを少し真面目な顔で見つめた。

「魔王がいなくなったからってやられた連中の恨みが消えるわけでもねーだろ。むしろ魔王がいなくなったことでここぞとばかりに勢いづいてる連中がいる。そういうのが一時期、散々やってた反乱の扇動とかまたやりはじめてんだよ。リーザスだけの話でもないが全くめんどくせぇ……」

 ザンスがイラついたようにパンを引きちぎって食べている。

「何で一気に潰さねーの?」

「東ヘルマンは一枚岩じゃない。中には魔王を俺達、魔王の子が討伐したことでもうこっちに怒りを向けるのはやめるべきみたいな連中も増えてんだ。一時期の怒りに任せて反乱に加担したせいで国に戻るに戻れないだけの連中とかも大勢抱えてる。 ヘルマンの奴らがそいつらと話し合いで平和的な解決をーとか抜かしてるせいで、攻め込むにしてもだいぶ後になるだろうな。実際、今すぐ潰しに行ったら下手な恨み買って色々と不味いんだろうが」

「はー…、大変だなぁ」

 長田君がそう言う様に、エールにもよくわからないがとにかく複雑そうなことは分かった。

「お前も法王のところ、AL教が狙われることもあるかもしれねーぞ。ただでさえRECO教団とか言うのが台頭してんだろ?」

 RECO教団というのは名前だけは聞いたことがあったが、東ヘルマンと関わりがあるのは知らなかった。

「AL教の法王まで魔王の子を産んでたわけだしおかしい話でもないだろ。ただダークランスの兄貴がやたら気にしてたな、詳しくは直接聞いとけ。俺様は知らん」

 長兄であるダークランスは自分よりかなり大先輩の冒険者でもある。

 そういった事情も詳しいのかもしれない。エールは今度会えたら聞いてみようと思った。

 

「そもそも新年会に来れば聞けただろうが。ミックスまで来てたっつーのにサボりやがって、お前が来ないせいでスシヌなんかやたらめそめそとレリコフなんかもぎゃーぎゃーと……」

 兄弟を随分心配させてしまったらしいが、新年会なんていつやったのだろうか、エールはとにかく知らなかった。

「は?もう4か月前だよ、前回はシャングリラだっただろ。お前のとこにも招待状届いただろうが」

 エールは首を横に振った。

 …だが4か月前に何をしていたかと言うのもあまり覚えていない。少なくとも冒険には出ていなかったはずだ。

「リセットさんがエールの事、誘い忘れちゃったとか?」

 しっかり者のリセットが忘れるはずない、とエールははっきり言った。

「だよなー、リセットさんそんな抜けた人じゃないよな」

「とにかく次の新年会はサボるなよ。あいつら全員、やたらとお前に会いたがってたからな。まあ、俺様はどうでもよかったが」

 ザンスと話しているだけで兄弟全員と会いたくなってきた。

 次はとりあえずシャングリラに行って、その後はゼスかヘルマンかとエールは今後の旅の予定に思いを巡らせた。

 

「まあ、んなことはどうでもいい。飯食ったら俺と戦えよ。本当なら新年会でやってやる予定だったが、随分伸びちまったわ」

 エールは改めてやりたくないと言うが、ザンスは全く話を聞いていないようだった。

「こっちはまともに打ち合える相手すらいないんで体がなまってたとこだ。さっきも言ったが日光でも魔法でもヒーリングでも使っていいぞ。それでも俺様が負けるはずないがな」

 エールは今のザンスに何を言っても無駄そうだと、素直に受けることにした。

 

 エールがザンスの後ろを歩いて行くと、そこは初めてリーザスに訪れた際に赤の軍が訓練していた広々とした中庭。ちょうど昼休憩中だろうか、外でご飯を食べている人達がまばらにいるぐらいで人はあまりいないようだ。

 

 ザンス達がくるとたちまち何が始まるのかと人が注目しだした。

「なんかこれも見世物みてーだな。どうせならもっと集めるか。おい、そこの奴ら、城の連中に今から俺が試合するって言ってこい」

 命令を受けた赤の軍の兵士やメイドが急いで城の中へ走っていった。

 しばらくするとわらわらと人が集まりはじめた。

 リーザス軍の兵士にメイド、おそらく行政や官僚の人達まで様々で、ザンスは注目されて嬉しそうにしている。

 エールの方もコロシアムの延長ぐらいに考えており軽く手を振ったりして見た。

 

「キャー!ザンスーがんばってー!」

 特等席とばかりに席を作られたリア女王まで来ていて、試合の開始の合図などはその侍女であるマリスがやる流れになった。エールとしてはただの模擬戦程度のつもりだったが、観客を見ると果たし合いでもはじまりそうな雰囲気である。

 とりあえず日光をすらりと抜いて軽く振り回してみた。やはり親衛隊の細身の剣と違い、手になじむ感覚がある。

「おお、あれが聖刀日光……」

「ではあれが噂のAL教法王の娘?ザンス様と一緒に魔王を討伐したという……」

 エールの方もこれだけの人の目の中、無様な戦いはできないと気合を入れた。

 

「はじめ!」

 マリスの合図で試合が始まった。

 

………

……

 

 結果はというとエールは普通に負けてしまった。

 ザンスはリーザス赤の軍将として戦う機会は多くレベルは下がっていないようだが、エールはリーザスにきて少し修行したとはいえ村でのんびりと過ごしていた(自称)冒険者。環境に違いがありすぎた。

 

 開始と同時に剣がぶつかり合うが、バイ・ロードの一撃はエールには重すぎる。

 最初のうちはなんとか避けたりいなしたりもできたが、戦っているうちにザンスの剣の速度は増していき反撃に転じる事が出来ない。

 間合いを取ってもすぐ詰められてしまうので、魔法を撃つ隙もほとんどない。たまに入れる魔法はそれなりにダメージを与えられている気もするが、結局受け止める一撃が重すぎて回復が間に合わなくなり、エールはすぐに追い詰められ防戦一方となってしまった。

 修行の成果もあってか一方的にボコられることはなかったもののその戦力差は歴然、それはやり合っているお互いが一番理解出来ていた。

 ザンスの方も途中から闘神大会うんぬんではなく、いつの日かの模擬戦のように剣の威力を緩めエールに稽古をつけるような形となっていた。

 

 剣と刀のぶつかる高い音が響き渡る。

 

 それなりに長い時間二人は打ち合っていたが、最後にザンスがコツンとエールの頭を剣で叩いた。

 絶え間なく続いていた剣戟はそれだけで鳴りやみ、二人の動きが止まった。

 

「それまで!」

 マリスの合図で試合が終わると、観客からは歓声が上がった。

「キャー!ザンス、素敵ー!かーっこいいー!」

 リア女王が息子の勇姿を見て大喜びで抱きついている。

「やっぱ無理か。エールもがんばったな」

 長田君が見ても戦力の違いははっきり分かったのだろう、エールに近付いてねぎらいの言葉をかけた。

 

「お前こんなに弱くなかっただろーが!なんでこんななまってんだ!」

 抱きついてくる母親を引きはがしながら、ザンスは手ごたえのなさに怒っていた。魔王と戦った前後であれば、エールは今の倍以上には強いはずだった。

 エールとしても仮にも闘神都市で優勝した身、肩で息をしながらもこの結果には口をぎゅっと結んで悔しがっている。

 

「ぬるい冒険ばっかしてっからだ。まあ、相変わらず筋は悪くない。リーザス軍、親衛隊あたりに入って剣振ってりゃまた強くなれんだろ」

 もちろんエールは入る気は全くないので首を横に振った。

「何か皆エールの事親衛隊に入れたがってるけどさ。そもそもエールの貧乳で親衛隊のあの格好は無理があるって」

 エールは長田君を割った。

「確かにエールみたいなガキが入ったら色気なくてさぞかし浮くだろうな」

 それを聞いてザンスがゲラゲラと笑っているので、エールは頬を膨らませ日光で叩こうとしたが防がれてしまった。

 

………

……

 

 エール達は医務室まで来ていた。

 わざわざ医務室に来るような怪我ではないが、ザンスの方も大人しくついてきたのは、ここでエールが怪我人を治す仕事をしていると聞いたからである。

 エールはザンスにヒーリングをかけようとしたが

「他の奴らからやっとけ」

 そう言って椅子にどかっと腰かけ、エールの仕事ぶりを眺めはじめた。

 てきぱきと仕事をこなす姿はなかなか様になっていて、AL教徒に手を合わせられ反応に困っている姿などはなかなか新鮮である。

「ザンスー! 大丈夫? 大怪我でもしてたの!?」

 リア女王がバタバタと医務室に入ってきた。

「してねーよ、かすり傷だ」

「ザンス様、宜しければ私が……」

 マリスがヒーリングをかけようとするのをザンスは手で制した。

「あいつの仕事なんだからあいつにやらせりゃいい」

 国のトップが訪れたことでその場には緊張感が漂い、怪我人も治療を受け終わった先から恭しく頭を下げて足早に医務室から出ていく。

 エールが手早く他の怪我人の処置を終えると、横にいる女王と侍女は気にせずそのままザンスの傷をヒーリングで癒しはじめた。

 自分がつけた傷ではあるがそう深くはないようで、エールは何となく安心する。

「やっぱ神魔法って便利なもんだな。さっきの試合でも思ったが、削った先から回復しやがって弱いくせに長持ちだけはしやがる」

「ザンスは大分手加減してあげてたけどね。あなた、感謝しなさいよ。ザンスが本気でやってたら瞬殺だったんだからー」

 言われなくても手加減されていたことぐらいは分かっている、とりあえずエールはむくれておいた。

 

「まあ、俺様の勝ちは勝ち。お前のこと一日好きにしてやれるわけだが何してやっかなー」

 ザンスがニヤニヤしながらそんなことを言い出した。

「何ー!お前そんなこと言ってなかったろー!」

 どこにいたのか長田君がひょこっと現れてザンスに突っかかる。

「勝者は敗者を一日好きにできる、闘神大会のリベンジなんだから当然だろ」

「ザンスの方が負けてたらどうしたんだよ!」

「俺様が負けるわけねーだろが」

「お前、自分が勝ったからってなー!」

 言い合う二人を見つつ、エールはおずおずと長田君の背中を押した。

「ちょちょちょ、エール?何?」

「あ? 何の真似だ?」

 闘神大会で好きにできるのは負けた本人ではなくパートナーである。

 今のパートナーは長田君だから長田君を好きにしていいよ、とエールは言った。

 

「…………」

 

 長田君とザンスがお互い目を合わせるが、ザンスはそのまま無言で長田君を叩き割った。

「好きにできるのは女限定だろうが」

 そういえばそうだった。闘神都市でシュリさんも言っていたが、パートナーが女性のみというのは男女差別のような気がしないでもない。

 しかし仮に自分が長田君を好きにしていいと言われてもあまり嬉しくはないだろう。

「お前なんかちょっと失礼なこと考えてない!?」

 エールはそんなことないよ、と目を逸らしながら言った。

 

「好きにするってエールに何するつもりだよ!なんかエロい事とか酷い事するなら相棒である俺が許さねーからな!」

 割られてもエールに売られかけても庇ってくれる長田君はイケメンハニーである。

「陶器に何ができるってんだ。 そうだな、せっかくだからエロい事の一つや二つ……」

 ザンスがからかうように言うと

「ならSM部屋開けて道具の準備でもしよっか?お薬も色々用意してあげるー」

 リアが嬉しそうにとんでもないことを言い出した。

「好きにしていいって言うんだからちょっとハードなプレイで、人手が欲しいならそういうの得意な子を―― あっ、でもこの子処女よね? ならこう、無理矢理突っ込んでガンガン腰振っていっぱい中出ししてへろへろにしちゃうだけでも楽しいかも」

 エールと長田君、ついでにザンスも目を丸くする。

「誰がそんなことするか!」

「そ-っすよ! 無理矢理とか絶対ダメ! 女の子には優しくしねーと!」

 ザンスも長田君までテンパって慌てている。

「えー、こんな子に優しくするなんて勿体ないじゃない。 それに男の子はちょっと乱暴なぐらいで良いのよ。 私とダーリンがはじめてした時もそうだったけど、女ってそういう男のそういう強引な所に惚れちゃうんだから… もちろんザンスの好きなようにするのが一番だけどね。 ああマリス、カメラの準備は出来て――」

 言い終わる前にザンスがリアを引っ掴むと引きずりながら医務室から出て行った。

 

「エール様、お仕事も順調そうで何よりです。お約束の期間は残り三日となっておりますが延長などは……」

 残されたマリスが茫然としているエールに話しかける。

 予定通り期間が終わったら出ていきます、とエールは言った。

 冒険途中ではあるがリーザスは居心地が良いのもあって、随分と長居してしまっていた。

「かしこまりました。コロシアムでのご活躍等、リア様も大変お喜びです。チルディからの評価も聞いておりますので合わせて報酬の方に上乗せさせていただきます。では残り三日間よろしくお願いいたします」

 一礼して部屋から出て行く。

 しかしエールの方を見ていたその目は何故かとても冷たく、背筋がひやりとした。エールはマリスからはあまりよく思われていないと感じた。

 

「……しかしあんな人だったんだ、リア女王って」

 嵐のような人だったね、とエールが言った。

「エール、あんな約束後から言われただけで無効だからな。でもあと三日、ちょっとマジで気を付けた方がいいぞ」

 長田君が心配するように声をかけると、気を付けるとは言うが当のエールはあまり真剣に考えてはいなかった。

 

 それよりもリア女王は父であるランスに乱暴にされて惚れたと言う方が気になる。

 母であるクルックーはどうだったのだろうか。

 家に帰ったら今まで聞いたことのなかった母と父との馴れ初めを聞いてみようと思った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。