転生者くん、頑張ってね   作:SINSOU

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2話

「おっそーい!遅いよ一誠!私ずっと待ってんだよー?」

 

「わ、わりぃ・・・。なんか今日のことを考えてたら寝れなくてさ・・・」

 

公園の噴水まで、俺は宇都に頭を下げた。

チラリと宇都の方を見ると、案の定、顔を膨らませていた。

やばい、こういう時の宇都は非常に厄介だ。

小さい時、時間を間違えて宇都を待たせたことがあった。

あの時の宇都も、同じように顔を膨らませていた。

そして、それを宥めるのにすっごい苦労した覚えがある。

確か、オママゴトで夫婦役をやらされた気が・・・。

 

「ふーん?今日のことを思って眠れなかったのねー?」

 

「あ、ああそうだよ。俺としたら、こういうのは初めてだしさ・・・」

 

宇都の視線を受けながら、俺はどぎまぎして答えた。

すろと宇都の奴、さっきまで膨れていた顔を、ニンマリとさせた。

 

「そっかー、そうなんだー、へー」

 

「なんだよその意味ありげな笑顔・・・って、ば、いきなりなんだよ!」

 

宇都の奴、いきなり俺と腕組みしやがった。

突然のことに、俺は何が起ったのか一瞬分からなかった。

 

「私を待たせた罰ですー。今日は一誠と腕組みしますのでー」

 

「ば・・・やめろって!こんなのを元浜たちに見られたらヤバいって!」

 

「どっちみちヤバいでしょ?今日のことを見られたらさ」

 

宇都の言葉に俺は顔を赤らめるも、言い返せずに黙る。

宇都は、俺の顔を見てニシシと笑うと、絡んでいる腕に力を入れてきた。

 

「さてさてー、それでは行きましょうか一誠!今日は二人のデートよ!」

 

叫ぶ宇都の言葉に、俺は顔から火が出そうだった。

 

 

 

 

 

「にゃははー!楽しいね一誠!」

 

「お、おう」

 

ぐいぐいと俺を引っ張る宇都に半ば引き摺られながらも、

俺はどうしてこうなったのかを思い出す。

きっかけは宇都が俺に告白した日のことだ。

宇都の奴、学校帰りに俺の家に上がるとすぐに、俺の母さんに俺と付き合うことを喋ったのだ。

母さんは一瞬呆けてたけど、直ぐに宇都の両肩を掴むと、

「一誠のこと、よろしくね」と泣きながら感謝してた。

その時の俺は、穴があったら入りたい位に、ものすごく恥ずかしかった。

その日の夜なんか、母さんが父さんにそのことを言っちゃうから、

「そうか!宇都ちゃんなら心配ないな!」って言って来たんだぜ?

あまり話すことがなかった優一も、

「兄さん、僕にも宇都さんって子を紹介してよ」って興味ありげだったし。

それにしても優一の奴、オカルト研究部に入ったからって、夜に出かけることが多くなったなぁ。

何かと物騒なんだから、兄ちゃんとしては心配だけどさ。

学校の方も、活動に許可を出しているみたいだし、ただのお節介なのかもな。

 

それにしても、まさか優一がオカルト研究部に入るなんてな。

彼奴、そういったものに興味ないと思っていたけどさ。

リアス・グレモリー先輩からって、同学年の木場祐斗、通称イケメン王子から誘われてたっけ。

今じゃ、放課後になると直ぐにオカルト研究部に行って、相当に可愛がられてるようだし。

やっぱ、リアス・グレモリー先輩たちも女の子なのかねぇ。

まぁ弟が可愛がられているなら、俺は何にも問題ないんだけどな。

 

っと、そんなことも考えてたら、急に宇都が止まった。

もしかして、俺が上の空だったのがばれた・・・のか?

 

「一誠」

 

「ん、どうしたんだよ?」

 

宇都はくるりと俺の方を向く。

 

「私、なんか唐突にパフェが食べたくなっちゃったなー。

 だからさ、駅前の喫茶店に行こー?」

 

「なんだよ急に。さっきまでクレーンゲームでぬいぐるみをゲットよー!って言ってたのに」

 

「ごめんね、なんか突然食べたくなったのよー。だから予定変更、駅前に行こう!」

 

そう言って、俺を腕を引っ張りながら駅前へと行こうとする宇都。

一体どうしたんだ?と思い、俺たちが行こうとした方向をちらりと見た。

金髪の美少女と一緒に歩いている優一が見えた。

 

 

 

 

「はい、一誠アーン!」

 

俺に向かって差し出されたスプーンに、俺は宇都の方を見た。

宇都はすっごいいい笑顔で俺にスプーンを出している。

 

「宇都」

 

「なにー?」

 

「何してるんだ?」

 

「このパフェ美味しいから、一誠にもおすそ分け」

 

「いやだからさ、なんでスプーンを俺に向けてるの?」

 

「なんとなく、一誠にアーンがしたくなった」

 

宇都の言葉に、俺の顔は一気に赤くなった。

毎回宇都のこういった行動には、どぎまぎしていたけど、

まさかここまで天然だったとは思わなかった。

 

「いやだからさ、それは恋人がやる奴であって・・・」

 

「一誠」

 

俺の言葉を遮るように、宇都は言葉を被せてきた。

 

「私と一誠はどういう関係?」

 

「えっと、幼馴染?」

 

「違う」

 

「友達?」

 

「それも違う」

 

視線を逸らす俺を、宇都は先ほどまでの笑顔じゃなくて、真剣な目で見てくる。

ああ、宇都の聞きたいことはつまりそう言うことか。

 

「言わなきゃダメか?」

 

「うん」

 

俺の心は弾けそうなほどに鼓動し、頭が真っ白になりそうになる。

でも、ここで言わなきゃいけないのは解ってる。宇都の想いを無下にしたくない。

俺は何度も深呼吸をし、顔から汗を流しながらも言う。

 

「恋人」

 

「正解」

 

俺の答えに笑顔を戻した宇都は、既に溶けたパフェをもう一度スプーンで掬い、俺に向けた。

ようは、そういうことだ。

俺はさっきの言葉のせいで逃げ切れないと悟り、視線を逸らしながらも食べた。

その時の味は、俺には全く分からなかった。

 

 

 

 

そうした喫茶店の出来事を終え、俺は宇都に腕を組まれつつも振り回されっぱなしだった。

映画館に行こう!と言われて引き摺られ、欲しいものがあるの!と言われて引き摺られた。

あれ?俺すっと引き摺られっぱなしだった?俺の思っていたデートってこうだったか?

 

「あー楽しかった!ね、一誠」

 

「お、おう」

 

夕暮れになり、俺は家の前にいた。

なんか、散々引き摺られていた記憶しかないけど、宇都の笑顔が見れて良かったよ。

 

「ねぇ、一誠」

 

「うん?」

 

夕日を見ながら俺に背を向けている宇都が尋ねてきた。

 

「私とデートして楽しかった?」

 

宇都の言葉に、俺は言葉が出なかった。

ああ楽しかったぜ!と言えば良いのかと思ったけど、ちらりと宇都の方を見た。

後で組んでいる手が震えているのが見えた。

ああそうか、俺は宇都の想いを察した。

 

「そうだなぁ、確かに楽しかったけどさ。俺からすればまだまだだったな」

 

「そうなの?」

 

「だからさ、今度は俺からデートをさせてくれよな」

 

「いいの?」

 

「もちろんだ」

 

俺の言葉に、宇都はくるりと振り向いた。

 

「だったら楽しみにしてるからねー?絶対に私を楽しませなさいよー?」

 

「おう!」

 

宇都の笑顔に、俺は笑って言った。

 

 

 

 

「それじゃあね一誠。また明日」

 

「じゃあな宇都。お前も気をつけろよ」

 

そうして家の前で別れ、家の門をくぐろうとした時、ふと宇都が俺に声をかけた。

 

「一誠!今日の夜は家から出ない方が良いよー!」

 

「え、なんでだよ」

 

「なんか星占いでそう書いてたからー!じゃあねー!」

 

俺は宇都の言葉に首を傾げながら、宇都に手を振った。

そして俺は、家に帰るやいなや、母さんから今日のことを根掘り葉掘り喋らされた。

ちなみに、その後に父さんからも同じことを聞かれ、俺は恥ずかしさでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、今日なのね」

 

私は家へ帰りながら、今日のことを思い出す。

一誠とのデートで、私なりに計画を立て、一誠に楽しんでもらおうとしていた。

買い物をして、喫茶店に行って、っそしてゲームセンターに行こうと計画をしていた。

しかし、『アーシア・アルジェントと仲良くゲームセンターに行く一誠の弟』を見て、

私は急遽、ゲームセンターと公園をデートのルートから除外した。

なぜなら私の予測が確かなら、今日が原作1巻の大詰めだからだ。

 

アーシア・アルジェントが、本来の一誠とゲームセンターにいく。

これは原作の流れを汲むならなら、最後に公園で1巻のボスであるレイナーレと戦って負ける。

その後は攫われたアーシア・アルジェントを助けるために、

一誠たちが廃教会へと殴り込みをかけるからだ。

ゆえに、一誠を巻き込まないためにも、私はゲームセンターと公園を取りやめた。

一応帰り際、夜に家から出ないことを一誠に言っておいたから問題ないと思う。

まあ転生者の方も原作に従うなら、あの後はオカルト研究部に駆け込み、

そのまま廃教会に行くだろうし。

 

「それにしても、解りやすくていい子ね」

 

私は転生者をそう評価した。

私は、一誠を本来の原作に巻き込ませないために、出来るだけ原作組と距離を置かせた。

それこそ、願いを叶える契約チラシすら目に届かないよう徹底的に。

そのせいで、一体今は原作のどの部分なのか?というのが判断し辛くなった弊害もあったが。

でも、そこは転生者の振る舞いを見ていれば何となくだが理解出来た。

一誠たちは忘れているようだが、転生者が『天野夕麻』に告られたことや、

オカルト研究部に入部したこと、それから見れば大体の状況は察することが出来た。

今じゃ、オカルト研究部の方に時間を割いているみたいだしね。

一誠が心配してたけど、そんなことは転生者からすれば、いらないお節介なだけみたいだし。

そして今日のデートでの光景だ。ようは、今日が原作一巻の終わりと言うことだ。

 

「でも、せっかくのデートなのに水を差された気分なのよねー」

 

転生者は出来るだけ原作を壊さないように、原作の一誠と同じ行動をしている。

まあ、元浜君や松田君が私の方に来ちゃったから、原作のような変態行動はしてないけど。

私の考えが当たっているなら、転生者は私と同じように原作知識を持っている。

持っているからこそ、本来の一誠と同じような行動をとっているし、とれるのだ。

傍から眺めているだけでも、オカルト研究部のみなさん、みんな転生者の虜っぽいのよねー。

まだちゃんとした手順(結婚騒動・聖剣事件・父親、姉問題など)を踏んでいないから、

単に心を許せる関係って感じだったけどー。

 

つまり、『原作に実在しない、私という存在』を理解している。

自分も本来ならいない存在ってことを棚に上げてねー。

 

私が心配だったのが、転生者特有の『俺以外の存在は排除する思考』。

自分と同じ存在がいると知った場合、大体の転生者が『排除』する方向に行く。

そうだったら私としても簡単なのよねぇ。私も全力で殺しに行くだけだから。

まあでも、危惧していた『私』や『邪魔な一誠』を排除する気もないし、

あちらにしてみれば、自分の邪魔をしたら・・・って奴なのかもね。

私も同じだけど。

 

「さて、これからどうしよっかなー」

 

私はこれからのことについて考える。

これが原作一巻の終わりならば、次に起こるのはアーシア・アルジェントのホームステイだ。

原作2巻の当初から、リアス・グレモリーの機転によって、

アーシア・アルジェントが一誠の家に来るのだ。

そこから2巻のメインである、憐れなかませ犬のライザー・フェニックスとの、

リアス・グレモリーの結婚をかけてのレーティング・ゲーム。

それによって、新たにリアス・グレモリーが一誠の家に居候する。

確か、そこからヒロインの居候が段々と増えていき、何度か改築するんだっけ?

ただの一軒家だったのが、最終的には地下プール付きのマンションになってたかなー?

ほんと、周りの人や何もかもが自分たちのために蔑ろって感じよねー。

 

まあそれはさておき

 

「可哀想だけど、一誠をどうにか家から引き離さないといけないのかなー」

 

私はそれを危惧する。

今も言ったが、これから一誠の家には、転生者が行う本来の一誠の行動によって、

これからどんどんと女だけの居候たちが増え、そしてどんどんと家が改築されていく。

肝心の一誠のご両親は、リアス・グレモリーの催眠によって、

そのことに関しては疑問を持たないようになっている。

というか、もう催眠されてるのよねー。

私の『押し付けられた力』で、そう言うのは丸判り。

全く、私のお義母さんとお義父さんに何してくれてるのよー!

でもだからと言って、催眠を解いちゃったら絶対にややこしくなるから、

分かっていても何も出来ないというジレンマ。ごめんなさい。

 

閑話休題。

と言うわけで、一誠のご両親は問題ないけれど、一誠は違う。

たとえ力も立場も失った、『ただのモブである兵藤一誠』でも、私としては不安の種。

先ほども言ったが、下手に『本来の主人公』を『原作ヒロイン』たちと合わせてしまったら、

一体何が起るか分からないのだ。それこそ、唐突に修正力が働くかもしれない。

奪われたドライグが、急に一誠に戻るかもしれないのだ。

そうなってしまったら、下手すれば転生者が本当の意味で『一誠に成り代わる』可能性すらある。

まあその前に、私が全力で転生者をコロコロしに行って、その後は姿を晦ませるつもり。

だっていずれは、私も修正力に何をされるか判らないからだ。

 

「だから頼むよ転生者くん。私と一誠のためにね」

 

君が原作の主人公に成り代わって、原作ヒロインとイチャイチャしようが私には関係ない。

むしろ私にとって、それは願ってもない好都合。

君が主人公として振舞ってくれるだけで、私は一誠と仲良く出来る時間が増える。

君が主人公として頑張ってくれるだけで、私は一誠と楽しく日常が過ごせる。

これを言ったら一誠が悲しむから言わないけど、

君が主人公として傷付こうが、モテようが、果てに原作と同じように、

盛りのついた猿の如く「おっぱいおっぱい」と叫んでいようが、私は一誠の方が大切なの。

君が主人公と言う物語の避雷針になってくれるなら、私はずっと君を見守ってあげる。

私は『良い子の転生者である一誠の弟』のことを思い、そして笑う。

 

でも、もしも欲に目が眩んで・不安に苛まれて・調子に乗って、

私と一誠を何かしようとした時は、どんなチート能力だろうが特典を持っていても知ったことか。

 

『その時は覚悟しておいてね』


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