朽ちた殺人鬼は何を思う   作:生姜ねる

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朽ちた殺人鬼

「…でも、残念です。やっと望みが、みつかったのに」

 

身体を幾つもの剣で貫かれた彼女は、力無くこちらに寄りかかる

 

「悲嘆する事はない。おまえの望みは、私が代わりに果たすだけだ」

 

彼女の目を、満足げに微笑んでいる彼女を見る

 

「それは駄目でしょうね。だって、私の望みはーーー」

 

 

…光の粒子になり消えていく、先程までキャスターだったもの。

最後に呟いた一言は、どんな意味を成していたのか。

それは、感情のない私では理解する事が出来なかった。

 

…私の目は、彼女を穿いた赤い外套の男を見据えている。

 

「獅子身中の虫と言う訳かーーー」

 

キャスターは外套の男を利用し、男もまたキャスターを利用した。

どちらが上手だったかの話に過ぎず、その結果だ。

 

…両手に剣を持った男を正面に捉える、どこにも隙はない、

 恐らくは、私の"蛇"を既に見ているのだろう。

 

「葛木、キャスターは消えた…お前に聖杯への願いはないんだろう?

 もう戦う理由なんてない筈だ!」

 

…彼女の望みは、故郷に帰る事だと言っていた。

最期、なぜ既に叶っていたと呟いたのか、私には分からない。

 

 既に、私か闘う理由が無いのだとしても。

 

「…だが、これは私が始めたことだ。それを途中で止めることなどできない」

 

私は、彼女の故郷への帰還の為の手段、聖杯戦争に勝利する。

その為には善悪関係無く、良しと成した。

 

…何故…私は…無駄だと分かっていることを行っている?

勝利する確率は限りなく少なく、キャスターの強化も、数の利もない。

拘束していたセイバーもキャスターの術は解け、既に解放されている。

最早、生存すら望めぬ状況なのは明白だ。 

 

…何故、私は構えているのだ。何故、何故 

 

『―――さっきまで、叶っていたんですから。』

 

 

…私は…、私は憤っているのか?

 

 

 

頭蓋を狙う 腕を斬られ。

 

少しでも傷を  胸を 斬られ 。

 

 既に感覚は殆どなく、最早何も見えない。

斬撃による衝撃を胸に受け、激しく背中を打ち付けた。

頭上で何かが崩れた音がする。

  

 

 

意識はそこで途絶え、私の生は終わった。

 

  ー  ー  ー  ー  ー

 

「ぐっ……がはッ」

 

傷は深い。既に右腕は存在していない。視界もぼんやりとしている。

あの金の鎧を纏った男は、圧倒的な力でコチラを襲った。

 

 「キャスター…まだ動けるか…。」

 

一方的だった。一度目、二度目の攻撃で、寺の殆どは損壊し、

三度目の攻撃で、私とキャスターは爆発に呑まれた。

 

「マスター!マスター!!」

 

彼女も無事とは言えない、彼女の技は殆ど通用せず、攻撃が通らない。

宙に浮く者が相手では私も攻撃する術は無い。

逆に、コチラは防ぐ手段が殆どない、先程、咄嗟にキャスターを庇った際の傷は明らかに致命傷だった。

 

「ここから離れろ、キャスター。お前の気配を察すれば、今のサーヴァントがまた戻ってくる。」

 

 

攻撃後、すぐに鎧の男は去ったようだが、我々の生死を確認する可能性もある。 

 

もう一度でも襲撃されたら、キャスターでも逃亡する事は不可能だろう。

 

 ならば、どちらか一方でも生存出来る可能性が有る選択を選ぶ。

キャスターならば、全力で逃げに徹すれば…希望はある。

 

 彼女は叫ぶ、必ず助けると。何度も、何度も回復の魔術を行使しようとする。

…だが傷は、流れる血の量は変わらない。

おそらくは、あの放たれた武器の中に回復を阻害する効能がある物があったのだろう。

 

   …だが、私は続ける

 

「キャスター……いいから、もう行きなさい。

  始めから…ここは、君の居場所ではなかったのだ」

 

倒れている私の顔の上に、キャスターの涙が落ちた。

 

「あああ、あああああ……!死なないで、死なないで…!

  死なないで宗一郎…!!」

 

 彼女は涙を流しながら、魔術を行使しようとする。

私の体は光るが、血は止まらない。そして空に、気配を感じた。

 

「逃げるんだ」

 

腹部にから来る、冷たい感触。

 

キャスターの目は大きく開かれ、涙が溢れ出していた。

 

残った左手でキャスターを押す事が出来たのは奇跡だった。

 

 光を失う最後に目にしたのは、フードを被り、

魔術を行使し消えていくキャスターの姿だった。

 

キャスターがどうか、逃げ切り、その後願いを叶える事を

 

 私は薄れていく意識の中で 強く願った。

 

  ー  ー  ー  ー  ー  ー

 

 

   ーーー雨が 降っているーーー

 

 

 弱いとはいえない強さの雨の、雨粒が顔に当たる。

手をつき、立ち上がろうとするが力が入らない

 

 

「……私は」

 

記憶が…混濁している。

 

私は…誰だ…ここは…

 

 ‐‐‐宗一郎‐‐様‐‐‐

 

そうだ…私は…葛木宗一郎。それが私に与えられた名だ。

 

 段々と意識がハッキリとなっていく。

そして私は、自分が何故ここに居るのか。今がいつなのか。

それが全くわからない事を認識した。

 

 周囲を見渡すと、竹林。大きな寺のような建物。敷き詰められた石と門から建物への入り口へと繋がる石畳。一つ一つ確認し、私は自分がようやくどこにいるか理解した。だが自分の記憶がハッキリとしていない。靄がかかっているようだ。

 

「…何故、柳洞寺にいる?」

 

私は、教会で死んだはず…いや

 

「私は…ここで死んだのか?」

 

金の鎧を纏ったサーヴァントに、私は…

 

「…ここ数日の記憶に異常がある…」

 

私は…キャスターと契約を交した後…

柳洞寺に篭り数日で金の鎧に襲撃されたという記憶,

 

教会に移動しセイバーを捕えたという記憶。二つ存在する。

 

 

そして、まだ、根本的に分からないことがある。

 

「何故…私は…生きているのだ?」

 

どちらの記憶も、最後には死んでいる。

 

「キャスター、なにがあった、状況を説明しろ。

  

                ……キャスター?」

 

 キャスターがいない。

 

 ここで私には2つの考えが浮かんだ。

一つは、これまでの事は全て、白昼夢だったという事

コチラの説の方が現実味を帯びている。

もう一つは、この2つの記憶どちらかが真実だという事。

 

私は、この段階で白昼夢だという可能性を切り捨てた。

あまり深い考えではない。だが、確信があった。

いや、確信ではなく、こちらが正しいとあってほしいという願望のほうが強いか。

私にとって、この2つの記憶は、それぞれ重要な意味を持っている。

 

だが、そうなると二つの記憶のうち、どちらが正しいのか。 

情報が全く無い今の段階では、両方の記憶に可能性がある。

一つは、柳洞寺での記憶が正しい場合で、

キャスターは金の鎧のサーヴァントに倒されたか逃げ延びたという可能性。

または、教会での記憶が正しくキャスターは既に死んでいるという可能性。

 

両方の記憶に共通しているのは、私が死んでいる事だ。

なのに何故、私は、ここに居るというのか。

 

私はこれから、どうすれば良いのか。

 

…何一つ分からないが、行動すべき時だというのは理解している。

現状最も必要なのは現状の把握。それに必要な事は…。

…一度、教会に向かわねばならない。だが、衣服と傘の調達が先だ。

流石にこの濡れた格好で外を歩くのは不審である。

幸いにもどちらの記憶も衣服などの荷物はそのままだったはずだ。

寺の関係者が普段出入りする為の裏にある勝手口から入る。

 

靴を脱ぎ、濡れた上着を脱ぐ。所持していたハンドタオルで濡れた箇所を拭き離れに向かって歩く、この離れは以前キャスターと拠点として利用していた。

タンスを開き、乾いたタオルで全身を拭き、新しい衣服に着替える。

濡れた衣服もこの服も、柳洞寺で借りていた物だ。

教員としての賃金は全て柳洞寺に渡してある。

 

…二年間、私はこの寺で過ごした。だが私はまだわからない。

何故、壊れた人形のような私を拾ってくれたのか。

だが、私もまた、あの雨の中、自らが行った事を理解出来ない。

 

なぜ、キャスターを助けたのかと問われたら救いを求められたからだと答える。

だが救いを求めて居たら、誰であっても助けるのか?

私は高尚な人物ではない。恐らく関係者で無ければ助けないだろう。

 

 私は…何故、キャスターを助けたのか…自分でも未だに理解できていない。

 

『ーーー私の願いは…故郷に帰る事です』

 

『あの時も 雨でしたね』

 

『宗一郎様…』

 

キャスターと交わした、何気ない会話をふと思い出す。

 

 

「…宗一郎兄…?帰ってきていたのですか」

 

「…一成か」

考えつつ移動していた筈だがいつの間にか柳洞寺家の生活スペース…柳洞一成の部屋の前で立ち止まってしまっていた。幾ら気配を消していても、自室の前で暫く立っていれば敏感な者は気づく事もあるだろう。

 

「暫くは帰らないといわれていたのに…どうなさったのですか?」

 

「…少し問題が発生した。荷物を取りに戻っただけだ」

 

「…大丈夫なのですか?その、問題というのは…」

 

「なに、些細なことだ。寺には一切迷惑を掛けぬようにする、気にするな。」

 

「…貴方ががそう言うのであれば、分かりました」 

 

「すまないな」

 

「荷物を運ぶなら、私も手伝いましょうか?」

 

「いや、こんな時間にお前を外に歩かせるわけにはいかない」

 

「そうですか…、ですが、女性の方の荷物というのは多いのでは…」

 

 放浪したてた私に許嫁が居た事、その許嫁が外国人だった事、何故か許嫁が突然柳洞寺に住むことになったのか。疑問を抱いた者も多くいた筈だった。だが、キャスターは魔術を行使し、寺の者に違和感を抱かせないようにした。全ては当たり前の事と認識するように、そして、暫くすれば私と共に国に戻ると。

…柳洞寺の人々は私のような者も受け入れてくれた。だがキャスターが念には念を入れると。彼女は基本的に人間を、自分以外の者を信用しない人物だった。だが彼らの心暖かさに触れて、最近では日常会話程度なら行っていたようだ。一成も良い人と言っていた。

 

「今回は私の物だけだ」  

 

「…?…そうですか、わかりました」

 

 そう伝えると簡単に荷物を纏め、門に近く扉を開ける必要がなく音が出ない縁側から出る、靴は事前に玄関から別の靴を持ち出した。

 

 

「宗一郎兄、雨が強いので…お気をつけて、濡れて体を壊さぬように」

 

 

 

『傘は…』

 

『必要か』

 

 

 

 

「ああ」

 

傘を開き、ゆっくりと歩き出す。

傘に当たる雨音と敷き詰められた石を踏みしめる音だけがなる。

 

 

  …情報が必要だ

記憶の混濁、キャスターの生死。

 

そして、私は…何故生き返ったのか。

どちらの記憶も、最後には死を迎えていた。

死んだ事は確実である筈。

 

門を出て、竹林の中の階段を降りていく。

 

一瞬、強い風が吹き、竹の葉を揺らす。

ふと、柳洞寺を振り返ると、何か、微小ながらも違和感を感じた。

何かが抜け落ちたような感覚。嫌な予感がした。

だが、危険性は感じない。今の優先度としては低い。

 

様々な思考を巡らせながら、私の足は柳洞寺の外へ、住宅街へと向かっていた。

 

夜の闇は深さを増し、殺人鬼は街に溶け込む。

 




読み直したら誤字&描写不足だらけだったので一次加筆
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