ジードが好きな方、ドンシャインが好きな方がいらっしゃいましたら、是非読んでいただきたいと思います。
人生の全盛期、誰にもあるその輝かしい時をいつかと聞かれれば高見光は不承不承であるが、20歳の頃と答えるだろう。あの頃の光はヒーローを演じる俳優となり、子供たちに夢を与える事が出来る人間になりたいと考えていた。その為に光は努力を惜しまず、体を鍛え、演技を勉強し続けていた。金はなくても希望はあった、紛れもなく光の黄金時代と言えた。
そんな若いころの彼を象徴するエピソードがある。
あれは光がスーツアクターのアルバイトをしていた時の事だ。その日光が演じていたのはドンシャイン、やや昔に放送された作品であるが、再放送により再ブームが起き多くの子供達のあこがれとなっているヒーローだ。
「みんなー!大きな声でドンシャインをよぼう!せーの」
「ドンシャイー――ン!!」
大勢の子供たちが光の扮するドンシャインの名を呼ぶ。どの子供達も笑顔で、まだ幼い顔は希望で満ち溢れており、我先にとヒーローとの握手をねだる。だが光は彼らに朗らかに応えながらも観衆の間を通り抜けていく。
「う・・・ぐす・・・」
その先にはまだ幼い少年がいた。光がその存在に気づいた少年は何らかの事情があるのか、彼の周りには保護者がおらず、周囲の輪から離れ、一人泣いていた。少年のもとにたどり着いた光はしゃがんで目線を合わせるとすっと拳を突き出す。
「君の笑顔を取り戻す。HERE WE GO!」
「・・・・・・!?」
ドンシャインのきめ台詞を聞くと少年は泣くのをやめ、おそるおそるだが拳を突き出し、光の拳と合わせる。泣き止んだ少年の顔には笑顔が戻り、それを見た周囲の人々も自然と笑顔になっていく。ドンシャインのスーツの中で光自身も笑顔だった。
この記憶は今も光の心の中にある。だがそれは今の光にとって活力を生み出すような物ではない。むしろ負の感情を引き起こす苦い記憶となっていた。
「はいカットぉ!」
撮影現場に監督の声が響き渡る。神林町にあるこの廃工場は現在この冬放映予定のアクションドラマの撮影に使われており、多くの人間働いていた。。監督の声と共に役者を始めとするスタッフが弛緩し、雰囲気が軽くなる。
その雰囲気は今日の撮影はもう終わりであり、かつ出来もよかった為監督の機嫌も悪くないという理由に根差している。
「・・・・・」
やられ役の一人としてその辺に転がっていた光はのそりと立ち上がる。ようやく長い撮影が終わった。欠伸交じりに立ち上がった光はそのまま駐車スペースの止めた自分の車に乗り込もうとする。
「お疲れ様です高見さん!今日もありがとうございました!」
「あ・・うんお疲れさま」
「いやー今日中にあそこのアクション撮れてよかったですよねー。あの回転蹴りの所難しくて困りましたよー。」
「ははは・・・・よくできていたと思うよ。」
光はこの青年、ドラマの主演である売り出し中の若手俳優が苦手だった。別に彼の性格が嫌味ったらしかったりするわけではなく、むしろ善良な人柄で誰からも好かれている。最もそうだからこそ苦手なのだが。
「じゃあ俺は帰るから・・・・」
「あっ、はい!お気をつけて!」
光はそのまま車に乗り込み自宅への道を行く。仕事終わりにもかかわらず優れない気分は彼にとってここ数年来ずっと続いているものだった。
「ありがとうございましたー」
出来合いの弁当や清涼飲料水の入った袋を片手に光はコンビニの外に出る。夜空は満天の星空だったが、それは光に何の感慨も及ぼさない。昔はそうでなかっただろうが。
(はあ…こんな日がいつまで続くんだか・・・・・。)
あこがれの俳優業についてはや十年、一向に光の人気は出ることはない。一度ドラマでいい役がもらえたことがあったが、そのドラマは不出来すぎる脚本で世間から酷評され、それが原因で光が良い意味での注目を得ることはなかった。
(今回の役だってモブと変わらないやられ役・・・人気なんて出る訳ねえしな。)
光はため息をつく。いい加減芽の出ない役者生活に彼は疲れていたし、モチベーションも失われていた。いっそのこと地元へ帰って就職しようか―――――そう考えていた瞬間、あたり一面に轟音が鳴り響く。
「―――――え!?」
光が唖然として振り返ると湾岸の倉庫のあたりに巨大な影がある。否居た。
青い体のそれは甲殻類か昆虫を思わせる骨格に身を包み、さらに背中にはマント状の羽のような触手を持っていた。光を含むほとんどの地球人が知らない事であるが、その者の名は極悪宇宙人テンペラ―星人ヴィラーフ。ある目的を秘めて地球に来襲した宇宙人の一人だった。
「どこにいるウルトラマンジードォ!お前が出てこなければ地球人共が死ぬぞお!」
テンペラ―星人は脅すように空中に向けて光弾を撃ちこむ。そうヴィラーフの目的はウルトラマンジードを倒し、自身が覇権の派遣を握る事。そのために今地球で巨大化し暴れているのだ。
(うっそだろこんなに近くに・・・・早く逃げねえと・・・・あっ)
その暴れっぷりを見て光は即座に逃げだそうとする。だがその前にあることに気づいた。逃げていく人々の中に一人足をくじいたのかうずくまっている子供がいる。光はとっさに駆け寄り助け起こそうとするが体が動かない。本能が一刻も早く逃げなければと訴えていた。
(そ、そうだ。どうせ他に誰かが助けるだろうし・・・)
自身の中でそう結論付け、子供に背を向け光は逃げようとする。その時のことだった。夜空を切り裂くように赤い流星が飛翔し、ヴィラーフの前に立ちふさがる。
「あっあれは!」
「来てくれたんだ!」
逃げていた人々は足を止めそこに立つ巨人を見る。赤と銀、そして黒の体色を持ち、悪役チックな吊り上がった目。その姿は見ようによっては禍禍しくも見えるが巨人を見る人々は皆目を輝かせ声援を送る。
彼の名はジード。この星を守るために戦うウルトラマン、ウルトラマンジードだ。
夜空を貫き光線や光弾、電撃が飛び交い巨大な物が動き回る衝撃や足音が轟音となり、響き渡る。
人々の避難の済んだ街で戦う青い姿のジードとテンペラ―星人ヴィラーフが機敏に動き目まぐるしく位置を変えて動き回る。どうやらこの宇宙人はそれなりの手練れの様だ。ベリアルやギルバリスという宇宙規模の敵を打倒してきたジードにとっても一蹴できる弱卒ではない。
だが戦いがジードの優勢であることには変わりない。ジードは爪状の武器で切りつけひるませると、赤く機械的な姿に変わり、強烈な拳を打ち込み、ヴィラーフを空中へと吹き飛ばす。それを見ると戦いを見守っていた人々の中でも男性から多くの歓声が上がった。ジードの形態の中でもこの形態はメカニカルな物やパワフルな物が好きな男性から圧倒的な支持を受けている。
「ぐう・・・・ならば空中戦で勝負だ!」
背中のマント状の触手を広げヴィラーフが飛翔し、最初の最もベージックな形態に戻ったジードもそれを追う。
超高速で飛ぶ二者は湾岸地帯の上空で地球上のあらゆる戦闘機になしえない激しいドッグファイトを繰り広げている。
「いけ―ジードー!」
「がんばれー!」
人々の声援に応えるかのようにジードは手から放つ光弾をまるで軌道を先読みしていたかのような正確さでヴィラーフに当て続ける。だがそれはヴィラーフの計算内のことだった。
「ぬう・・・・さすがベリアルを倒しただけある。だが、この勝負俺の勝ちだあ!」
ジードの猛攻にヴィラーフはエネルギーを温存しつつ耐えていた。全てはジードを穿つ必殺の一撃を放つために。
体を守るような動きをとっていた両腕の鋏から凄まじい光線が放たれジードに当たり大爆発を起こす。
「ああっ!そんな・・・・」
「いやちがうぞ!見ろ!」
一瞬人々は落胆するが、すぐにまたしても歓声が上がった。両腕に禍禍しい稲妻をまとい、爆炎を切り裂き現れたジードは自身の貼ったバリアで光線を完全に防御したようだ。
地球の重力を振り切るように高く跳ぶジードが両腕を広げるとともに、周囲に赤黒い稲妻が大量に発生する。そして十字に組み合わせた腕から稲妻と対照的な青と白の光線が放たれ、ヴィラーフを貫き、激しいスパークを起こす。
「ぬおあああーーーー!!」
ヴィラーフは壮絶な断末魔を上げ爆発四散する。それを見て人々はより一層の歓声を上げそれと共にジードが上空を飛び去っていく。
地球を守る最高のヒーローの勝利に皆笑顔だった。光を除いては。
「みんなー!大きな声でジードを応援しよう!せーの」
「ジードー!!」
(うっお・・・・こんな側転できんのかよ・・・)
怪獣の着ぐるみの中光は必死に体を動かし、切れのあるジードのアクションに対応する。どういった人間が入っているのか知らないが予想以上の動きで体力が下り坂の光にとってついていくのは大変だった。
今日の光の仕事はヒーローショーの敵役だ。スーツアクターに急病人ができ、学生時代から着ぐるみを着たアクションの経験があった光に白羽の矢が立った。その為今角の生えたロボットのような着ぐるみを着て必死に動いている。
無論ショーの題材は地球最高のヒーローウルトラマンジードである。数々の映像資料を基に作られた再現率の高いジードの着ぐるみが動く度に子供達から歓声が上がる。
その歓声は光にとって痛みを覚える物であった。その理由は二つある。一つはかつて子供達の歓声を集めていたドンシャインからジードへヒーローが変わってしまった事への寂寥感、そしてもう自分はヒーローじゃない、ヒーローになれなかったことへの失望感が光を苛んでいた。
(早く・・・・・終わらねえかな・・・)
怠惰からではなく苦しみから光はショーの終わりを願う。しばらくしてショーの午前の部が終わり、子供達は帰っていった。
「はあ・・・・・・・」
昼休憩の時間に先程と同様に光はため息を吐く。いつも以上に気分は憂鬱だった。まだ自分がこの会場でドンシャインを演じていた頃、夢も希望も未来もあった。それが今はどうだ。何の希望も夢も持たず、ただ漫然と日々を過ごしている。一体いつから自分はこんな惨めな存在になり果てたのだろうか?
あの宇宙人が現れた日もそうだ。昔の自分なら
逃げ遅れていた子供を一瞬の迷いもなく助けに行っただろう。今はもう心の中で言い訳をして事の成り行きを見ているだけだ。もはやかつて自分が描いていたヒーローになるという夢を叶えるのに値しない人間になり果てたのは
明らかである。
(もう田舎に帰ろうかな。そうだよな俺はやるだけやったしもういいか。田舎に帰って何か職でも探そう。最近は建設業も景気がいいし・・・・)
まだ自分の人生は終わったわけじゃない。まだ幸せになれる機会はこの世の中でもいくらでもあるはずだ。
なのに涙がこぼれそうになるのは何故だろう。こんなにも惨めな気持ちになるのは何故だろう。
「まさかリクがジード役になるなんて奇遇な事もあるんだねー」
「まさかジードとは思わなかったけど結構新鮮で面白いよこれ。」
光の鬱々とした気持ちを切り裂くようにまだ若い声が廊下から響く。突然の事に泥いて思わず控室のドアを開け、見てみるとそこにいたのはまだ20歳くらいの青年だった。
「君は誰かと話していなかったか?」
「あ・・・・すみませんケータイで友達と話していたんで・・・・ご迷惑でしたか?」
「いやいいんだが・・・ん?ちょっと待ってくれ!」
何故か青年の影に違和感を覚えたが最早青年が誰と話していたなんて小さなことだった。光はその青年に見覚えがあった。あの時、今から十年以上前ドンシャインを演じていた頃に遭った事が――――――
「君は前ここにドンシャインショーを見に来たことがないか!?」
「えっはい。子供のころからよく来てますけど・・・・・っえ!もしかして」
どうやら光の勘は当たっていたようだ。光の言葉の意味を理解した青年の顔はぱっと輝く。
彼の名前は朝倉リク、かつて夢や希望があった頃の光が救った少年だった。
ショーの為に拵えられた観客席に並んで腰かけながら二人は話す。あの時はリクには現在まで続く自分を作った転機として、光にとっては自分の中にあるただ一つの輝かしくも苦い思い出として。正反対の思いを抱きながらも懐かしさから二人の話は弾んだ。
「僕は正直あの時までドンシャインにあまり興味がなかったんです。」
リクは言う。あの日の思い出の事を。
「でも・・・・あの時のショーがあって僕に笑顔をくれたドンシャインが大好きになって・・・・それで思ったんです。ヒーローになろうって。」
リクは自分の思いをかみしめるように話す。これまでの自分が辿ってきた道を思い返すように。
「それで今ヒーローになれたんです。誰かの笑顔の為に戦う、あの時のドンシャインのようなヒーローに。」
リクはそう言った。ヒーローになれたとはどういう意味なのだかは分からない。だが光にはその言葉だけで十分だった。
「そうか・・・ありがとう・・・本当にありがとう」
光は必死に涙をこらえてリクに礼を言う。自分はもうすでに誰かのヒーローに成れていたのだ。なのに一度や二度の失敗が原因で、その事から目を背け時間を浪費して来た。これまで目をそらしていた後悔が光を苛む。自分はなんであの時のことを忘れていたのだろう。あの時の思い出を胸に頑張ることは出来なかったのか。本当に自分は愚かだった。
でももし、もし今からでも遅くないのなら――――――
「なあ・・・・リクくん今からでもヒーローに成るには遅くはないと思うかい?」
「大丈夫ですよ!」
リクはさわやかに即答する。彼の答えは決まっていた。
「誰かの笑顔を取り戻す!そんな気持ちがあれば遅いなんてことはないですよ!」
そう言ってリクは拳をぐっと突き出す。一瞬光は虚を突かれたがすぐに自分も拳を突き出した。
満天の星空の下、光は今日の午前中までが嘘のように明るい気分だった。
(俺一度だけ、一人だけだけどリクの・・・・誰かにとってのヒーローになれたんだ。一度出来た事が絶対に出来ないはずがない。後少しだけでいい、もう少しだけヒーローを目指して頑張ってみよう)
かつての夢をまだ追い求めようと光は決意する。そう、まだ夢を諦めきるには早すぎる。
(その為にやることは沢山あるな。まずは鍛錬を再開して体を鍛えなおして、後オーディションへ参加できるように説得して――――)
その時のことだった。晴天を切り裂きどす黒い稲妻が再開発地帯の空き地に落ちる。それはこの間のテンペラ―星人の侵略の再来の様でどこか異なっていた。
「我が名はチブル星人ベクセル!どこにいるウルトラマンジード!」
「また宇宙人かよっ・・・・・!」
光のその言葉は正確には間違っている。確かに今地球に来襲したのはタコの様に肥大した頭部を持つチブル星人と呼ばれる宇宙人の一人である。だが彼は怪獣兵器を操縦し、この地球に降り立っていた。
赤を中心とした体色に右手に鋏、左手に巨大な眼球を生やした怪獣はまるで複数の怪獣を模した粘土をくっつけて作ったような異形だった。その名はファイブキング。かつてある世界でチブル星人が切り札として使用し、一時はウルトラマン二人すら圧倒した強力極まりない怪獣である。
「さあ出てこい!ぼやぼやしていると君の大好きな地球人が死んでしまいますよお!」
ファイブキングは建設途中のビル群を破壊し始める。夜で人がいないからいいものの、もし昼間だったら多くの死者が出ていただろう。その破壊は人が抵抗することのできない圧倒的な物であり、人々は逃げ纏う事しかできない。その光景もまたあの日の夜のリフレインの様であった。
だが、この光景があの夜のリフレインというのなら次に起こる行動は一つだった。
青い光が降り注ぎ、人々が足を止め、そして重厚な足音が鳴り響く。
ファイブキングとべクセルがそれに振り向き敵意をむき出しにして構える。
両肩を隆起させたウルトラマンがビルの鏡面にその姿を映しながら現れ、仁王立ちし、人々が歓声を上げる。
そう、ウルトラマンジードがまた来てくれたのだ。
ジードとファイブキングが強大な力をぶつけ合う。どちらも絶大な防御力と攻撃力を持ち、生半可な怪獣や宇宙人では一撃をしのぐ事すら難しいだろう。そんな強大な力を持った者同士の戦いが行われているにもかかわらず周囲への被害は流れ弾を始めとしてほとんどない。
それもそのはず。ジードは打ち込む拳の角度で、位置取りで、光線技で巧みにファイブキングの動きを制限している。ベリアルを始めとして幾多の強敵と戦ってきたジードの技量は当初とは信じられない程の上達を見せており、その様には熟練の戦士のような老練さすら見受けられた。
「ジードが押してるぞ!」
「行けー!ジードォー!」
右の鋏を抜き手のように放つファイブキングに対して重厚な形態のジードも合わせるように右の拳を裂帛の気合とともに放つ。余人の目にはその速さの為見えなかっただろうがジードは回り込むような拳で、強度の比較的低い鋏の可動部を殴り、砕いたのだ。
「ぐぬう・・・・おのれジードォッ!」
ひるんで距離をとり、上をとるため翼をはためかせたファイブキングに対してジードは頭頂部から電気の鞭を放出した。頭の動きと連動し動いた鞭がファイブキングの翼を切り裂き地に堕とす。
「ぐおおおおおおおお!!」
いかに強力な怪獣と言えどこうまで各部を破壊されてはたまらない。もはや戦いの大勢は決したかに思えた。だがチブル星人べクセルは歯噛みしつつも体勢を立て直す中、見つけてしまった。足をくじき逃げ遅れた子供を。
「これはいい物を見つけましたぁ!」
卑劣にもべクセルはファイブキングを操り子供に向けて光弾を連射する。ジードはその射線に立ち、その身を盾にするが光弾の弾幕は止まらずジードのエネルギーは消耗していく。
「おいあそこに子供がいるぞ!」
「誰かうちの子をっ!誰かあ!!」
「くそ・・・・自衛隊や警察はまだか!?」
その光景の理由を知った者たちが次々増えていくが、誰も子供を助けに行くことができない。無理もない。大怪獣の繰り出す光弾が降り注ぐ戦場は人間にとって地獄とも呼べるべき場所である。生存本能が足を踏み出す事を止めさせるのは当然な事だろう。だが、それでも。
(あそこまで何秒かかるかな?・・・・でもやらねえと)
光は足を一歩踏み出す。ただの人間である自分がやるには危険すぎることは分かっている。しかし、それでも今そうしようと光には思えた。迷いを振り切るように一気に走り出す。
(うおっ!瓦礫が飛んできたあ!怖えっ!マジ怖え)
今この瞬間も光は怖くてたまらない。光弾が着弾して轟音を立てるたびに、瓦礫が足元に転がるたびに身がすくむ。だが光は進む。それが自分のやるべきことだと心から思えたからだ。
(前と同じだ・・・・誰かの笑顔を取り戻す、一度できた事ができないはずがない!)
「はあはあ・・・君!もう大丈夫だ!」
瓦礫に足を取られながらも光はとうとう子供にたどり着きその身を抱き上げる。
「君の笑顔を取り戻す! HERE WE GO!」
かつて自分がヒーローにあこがれていた時、好んでいた科白を言うと共に来た道を全力で駆け戻る。
「人間風情がこのっ・・・・こざかしい真似を!ぐぎゃっ!」
光の存在に気づいたファイブキングがなんらかの対処を行おうとするが、それは果たすことができない。一瞬でマントを羽織った形態に変化したジードが瞬間移動のような速さで隙を突き、ファイブキングの巨体を手にした剣で切り裂く。
その一撃でファイブキングが吹き飛ばされ、数秒だが戦闘不能になったのを見届けると、息も絶え絶えになりながらも親の元に子供を送り届けた光に向き直った。
そして無言で拳をぐっと突き出す。万感の思いを込めて光もそれに応じて拳を突き出した。かつてのあのドンシャインショーの時の様に。
一瞬の邂逅の後、ジードはファイブキングに向き直る。そしてさらに姿を変える。
ジードの変化した姿は赤銀黒の体色に金色のラインが入り、マッシブな体形となっている。それだけではなくその右手には赤い棍のような武器が握られている。人々はウルティメイトファイナルというジードのその形態の名を知らない。だが人々はそれを見て歓声を上げる。人の思いを背負ったジードは無敵なのだから。
人々の歓声をバックにジードはファイブキングに躍りかかる。ファイブキングは再生した両腕で返り討ちにしようとするがそれは意味をなさない。赤い棍で逆に打たれ斬られ傷を増やしていく。
「ぐおおおおおっ・・・・ならばこれで!」
たまらずファイブキングは飛び下がると共に体中から冷凍光線や火球、電撃などを解き放つ。ただでさえ強力な攻撃を幾つも同時に放ったそれはとてつもない威力で物体を粉砕するだろう。
しかしジードは堂々と腕を十字に組み合わせて光線を放ち、それらの全てをかき消す。その堂々とした立ち姿は微塵もゆるぎない。
「ば、馬鹿なジードがこれほどまでに・・・・・これほどまでに強いとはっ!!」
べクセルの狼狽と共に動きを鈍らせたファイブキングに対して棍に光をみなぎらせたジードが飛翔する。その姿は人々が願いを寄せる流星の様だった。
「行けーーーーーーージードォーーーーーーー!!!」
多くの人々と共に光は願いと希望を込めてジードへ声援を送る。そして一段と光を増したジードの刃が、闇に浮かぶ三日月のような軌跡を夜空に刻み付け、ファイブキングを切り裂いた。
「ベリアル帝国ばんざあああああああい!!」
何処かありがちな断末魔の叫びをあげたべクセルと共にファイブキングが跡形もなく爆発四散した。
夜の闇に浮かぶ街の中ジードは堂々と立ち、それを人々が笑顔で見守る。その光景は先日のテンペラ―星人の時と同じに見えたが、一つだけ異なる点があった。
光も、笑顔だった。
星雲荘の中、朝倉リクは特撮雑誌にを片手にうんうんとまるで腹痛のさなかにあるかのように唸っていた。
「ねえどうしたの今日のリク。いつもに増してなんか変よ。」
「それがねー今度やるドンシャインの新シリーズでどちらを応援するか悩んでるんだってー。」
リクの様子をいぶかるライハにベガが答える。曰く今度やるドンシャインの新シリーズは白と黒の二人のドンシャインが主役となるらしい。それだけならどちらも応援すればいいのだが、リクが読んでいる雑誌ではシリーズ復活を記念してどちらか好きな方の豪華グッズセットをプレゼントするという。そのどちらに応募するかリクは迷っていた。
「う~んやっぱり正統派の白の方かな・・・・いやでも武器は黒い方がファイナライザーみたいでカッコイイし。う~~ん。」
悩んでいたリクだったが、やがて待望のドンシャイン新シリーズの衝撃で見落としていたことに気づく。それを見てリクは一瞬驚くが、すぐに笑顔になり急いではがきを書き始める。
「リクーどっちのドン心を応援するの?」
「白い方も捨てがたいけど・・・今回は黒い方かな!えーと拝啓ドンシャイン制作委員会様と」
リクの持っていた雑誌にはある人物の顔写真が乗っていた。その人物は長年の苦労が実り、ついに夢だった特撮ヒーローの演者として抜擢されたのだという。
その人物の名前は高見光。かつてドンシャインとして朝倉リクの希望となり、今また子供達の笑顔を取り戻す、希望となろうとしている人物だった。