ウルトラマンジード外伝 キラメク未来   作:ローグ5

2 / 2
ジードの完結一周年記念に書き上げました。

ウルトラマンガイアやコスモス、ルーブの要素も入った作品ですがよろしくお願いします。


NEVER GIVE UP NEXUS

夜を迎えた街を一輪の自転車が走っていた。徐々に民家の灯が増えていき朗らかな笑い声が聞こえる中、自転車に乗った青年は安全に十二分に注意しながらも帰り道を急ぐ。青年の自転車の籠に収まるのはネギや肉、それに卵など一家団欒の象徴たるすき焼きの材料。冬も深まったこの時期、青年は家族の様な仲間たちとすき焼きパーティーをやるために材料を買い出しに行っていたのだ。

 

「あっ……まず!」

 

満タンの籠からポロリと食材が零れ落ちそうになるが青年の影から黒い手がにゅっと伸び、食材を籠に戻す。

 

「うわ~危なかったあ~」

 

「しっかりしてよリクー卵のないすき焼きなんて光線技のないウルトラマンと同じだよー?」

 

「ごめんごめん……でも光線技のないウルトラマンているのかな……!?」

 

影から伸びた手と会話していた青年は何かに気づき空を見上げる。まだ青さを残した空から町はずれに落ちたのはどす黒い流星。明らかに自然のものではない不吉な存在だった。

 

青年はその流星が地に落ち、黒い甲殻の怪獣が出現するや否や止めた自転車をよそに駆け出していく。そして周りに人がいない事を確認すると赤いメリケンサックの様な物を掲げた。

 

「ジーっとしても、どうにもならねぇ!」

 

青年の持つアイテムに二つのカプセルが装填される。

 

『フュージョンライズ!! 』

 

「決めるぜ!覚悟! ジィィィィィィィィィィド!! 」

 

『ウルトラマン!  ウルトラマンベリアル! 』

 

『ウルトラマンジード! プリミティブ!』

 

青年の体が光に包まれていく。その光は火との絆から、優しさからあふれる無限の光、ウルトラマンの光だった。

 

そう、青年朝倉リクは地球を守る最強最高のウルトラマン、ウルトラマンジードだった。

 

 

 

 

 

町はずれに出現した怪獣の名前は怪獣兵器スコーピス。その凶暴な甲殻や長く禍禍しい尾を始めとする全身の武装から病的なまでの凶暴性が見受けられる怪獣だった。その凶暴な印象を裏付けるかのようにスコーピスは叫び声をあげ破壊活動を行いだそうとするが幸運にも出現した場所は住宅街のはずれであり、人々がその暴虐から非難する時間はあった。

 

だがそれは大多数の人々にとっての事であり、少数ながら不運な人々はいた。例えば――――ここに番組の撮影に来ていたスタッフや見学に来ていた子供達などだ。

 

「リンブン!これで子供たちは全員か?」

 

「十九…二十…駄目っす!後二人足りませんしかも片方は車いすの子だったはず……!」

 

高見という俳優を始めとしてスタッフたちは子供たちを優先して避難させようとする。だが不運な事にまだ二人の子供が保護されておらず、行方が分からないままだった。

 

「……仕方ない。俺がその子たちを探してくる!確かあっちの道から帰ったはずだよな?」

 

「無茶っすよ光さん!?あっあれ!」

 

スコーピスとは違う青い光の流星が大地に降臨する。そこに現れたのはウルトラマンジード。地球を、地球に住まう人々を守る為に戦うジードは今日もまた来てくれたのだ。

 

「ジード……!」

 

高見と呼ばれた俳優は一瞬ジードと目を合わせうなずきあう。そして二人はそれぞれの戦場に向かった。高見は子供たちを助けに行くため。ジードはスコーピスを倒す為。

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンジードは強かった。初期形態であるプリミティブにもかかわらずその拳や蹴りは容易にスコーピスの甲殻を破壊し、その内部にまでダメージを与える。

 

「ピギャアアアアアアアッ!!」

 

スコーピスは獰猛な叫びと共に頭頂からの光線と口からの光弾で突進するジードを迎え撃つ。だが両腕に展開したエネルギーをクロスさせるように薙ぎ払う事でジードは光線と光弾の両方を消し飛ばした。そしてスコーピスの頭部をひっつかむと大地を蹴って全力の膝蹴りを叩き込む。

 

「ギャギィッ!?」

 

スコーピスはジードの強烈な一撃で吹き飛び、地響きを上げて倒れ伏す。よろめきながら立ち上がるスコーピスは何とかこの状況の打開策を探そうとし―――――見つけた。近くの道に少女二人、車いすの中学生くらいの少女と妹らしき小学生程の少女が逃げ遅れているのを。

 

スコーピスの邪悪な頭脳はその二人を狙う事によってジードの意識をそらしその隙に逃走することを思案する。全ては本隊に情報を伝える為に。

 

が、そんな卑劣な企みを見逃すジードではなかった。

 

スコーピスの尾が伸びると同時に赤黒い切断光線レッキングリッパーが飛び、その尾を切断する。

 

「ギャギャギャアッ!!」

 

悲鳴を上げるスコーピス。そこにジードは一気に勝負を決める。全身を赤と黒の稲妻が駆け巡りそれらはやがて十字に組んだ両腕に集中していく。そしてジードの必殺光線レッキングバーストが放たれ、スコーピスを撃ち抜き爆散させた。

 

 

 

 

 

怪獣の襲撃に被害がほとんど出なかったこともあり平穏さが保たれている街の昼過ぎ、リクは住宅街を一人歩いていた。彼の手にあるのはどこかの中学の学生証。

 

昨日陸は怪獣を倒した後に何食わぬ顔で怪獣の近くにいた人々の手伝いをしていた。そうして瓦礫を片付けていた時に岩の影にあった学生証を見つけたのだ。学生証に書いてあった名前は鷲見千佳。どうやら妹ともに撮影現場を見学に来ていたようだ。

 

年末だという事もあり暇だったリクは今日快く学生証を届けにいった。学生証に書いてある住所はこの辺りのはずとリクはスマホ(無論ドンシャインカラー。料金プランについてはライハ監修の元注意深く組まれてある。)で確認しキョロキョロと確認する。

 

「このコンビニを右に曲がってから三件目だから……あった!でも大きい家だな~」

 

リクがたどり着いた家は周囲の家よりも一回り大きい立派な物。門構えからしていかにも資産家といった家。リクは感心しながら「こういう家の人たちってラーメン食べるのかな。もしそうならチャーシューは鹿児島の黒豚で面の小麦粉は北海道の高い奴なんだろうか」と考える。

 

「我が家に何か御用ですか?」

 

「うおあっ!」

 

リクに声をかけたのは髪を結んだ小学生の少女。学生証を落とした千佳の妹らしき彼女はずいぶんとしっかりしているようだ。ひょっとしたら慌てふためくリクよりも。

 

「ええと…これこれ!君のお姉さんの落した学生証を届けに来たんだ。多分昨日落したんだと思うんだけど」

 

「これは千佳お姉さんの……わざわざ届けていただきありがとうございます」

 

そういって少女は頭を下げる。その後にリクに対してお礼をしたいと母親に紹介し家に招き入れてくれた。

 

リクが招き入れられたのはこれまた綺麗で広いリビング。振舞われた菓子もリクが見た事のないおいしそうな物ばかりだった。

 

(この人達いい人だな~あ、でもお菓子持って帰っちゃダメかなー皆にも食べてもらいたいんだけど……)

 

リクは使用人の持ってきた菓子に手を付けながらも応対してくれた少女と話す。千佳の妹である少女の名前は美由と言うらしい。人懐っこいリクの雰囲気に触発されてか最初は固く見えた美由も朗らかになっていき二人の話は進んでいく。そして明らかになったのはリクにとって驚くべき、そして喜ぶべき事実であった。

 

「えっ!?君もドンシャインが好きなの?」

 

「はい!私もドンシャイン大好きですよ!無論ジードだって大好きです。昨日だってあの怪獣から助けてくれましたし……」

 

「おお、すごい!このドンシャインの下敷き確か少数限定の特別販売品だったはず、良く持ってるな~あっこれもジードの最終形態バージョン!こないだ発売日だったのにもう手に入れてるんだ」

 

そう言って美由が取り出すのはドンシャインやジードのグッズの数々。その充実ぶりにリクは同じドンシャインファンとして、そしてウルトラマンジード本人として関心する。

 

そうして二人は話に花を咲かせていたが美由は時計を見ると怪訝な顔をする。リクがどうしたのかと聞いてみると

どうやら千佳がまだ帰って来ていないと美由は心配そうな顔で答える。そこへなったのは

 

「ちょっとすいませんリクさん電話に出ます。ヘルパーの方かな……」

 

「あ、ああうん」

 

ヘルパーのという言葉に疑問を覚えたリクだがすぐにあの時ちらりと見えた少女は車椅子に乗っていたはず。ならば登下校に介護を頼むのもある意味当然の事なのだろう。リクがそう考えていると電話を切った美由の顔が青ざめていた。いやそれどころか泣きそうになっている。

 

「お、美由お姉さんを誘拐したって…返してほしければリクさんに臨海公園まで来いって……」

 

その言葉を聞きリクは迷わず駆け出す。どこか不吉な予感が背筋を流れた。

 

 

 

 

 

 

 

駆け出したリクがたどり着いたのは海沿いの公園。普段は家族連れや恋人たちが利用する其処は一種異様な雰囲気が漂い、人々に自然と避けられていた。故にいたのは二人のみ。怯えてふるえる車椅子の千佳とその背後に立つ黒衣の男一人のみ。

 

「いや~寒い中ご苦労だったね朝倉リク君。私はまあそうだな……通りすがりのシニストという者だ。以後よろしく」

 

一見朗らかに応える男は190センチ近い偉丈夫。さらに顔立ちはまるで古代ギリシャの彫刻のごとく整っている。しかしこの宇宙の女性たちが彼に好意を寄せることはないだろう。その整いすぎた顔に浮かぶのは醜悪な笑み。ありとあらゆる悪徳を煮詰めたかのようなその笑みは見る者に本能的に嫌悪感を抱かせるからだ。

 

「僕は朝倉リクだ。約束通り一人で来たぞ。千佳ちゃんを放せよ」

 

「千佳?ああこのゴミね。いいよいいよ。どうせもういらないし」

 

そう言って車椅子の千佳を蹴飛ばす。一片の容赦もない強烈な蹴りに千佳は車椅子ごと倒れ悲鳴を上げる。

 

「千佳ちゃんっ!?な、何をするんだよお前!」

 

「別にいーじゃんかよ。どうせそいつ何の役にも立たないだろ?ならさあ俺が適当に扱っても別に良いよねえ。だってこの世は弱肉強食なんだし」

 

「弱肉強食……?」

 

「そ、弱肉強食よ。なあ朝倉リク、いやウルトラマンジードよ。不思議に、不快に思わないのか?君はこの地球の、いや今となってはこの宇宙でも屈指の強さだろう。なのになぜこんな使えない奴らを守る為に戦う?馬鹿らしくならないのか?この世の全てを得たいと思わないか?」

 

「……思わないよ。僕は皆の為に、仲間と一緒に戦うウルトラマンなんだ。そんなくだらない事の為に誰が戦うもんか!」

 

「あっそ。まあいいさ、ちょっと早急だけど俺は明日この星を滅ぼす予定なんだ。もしそれまでに心変わりしたらいつでも言ってくれ。俺の右腕の席を開けて待ってるからさ」

 

今はうるさいのもいるしな、と独りごちたシニストは霞のように消えていく。まるで元からいなかったかのように邪悪な影は一瞬にして消失した。

 

それを見届けて背広姿の二人組や剣を携えた女性が出てくる。彼らはリクの仲間たちだ。

 

「シニストは幾つもの惑星や文明を滅ぼしてきた超好戦的な宇宙人だ」

 

モアとゼナはAIBのデータベースから引っ張ってきたシニストのデータを読み上げる。そのデータは破壊活動の大規模さに反してあまりに少ない。彼の者の暴虐からの生還者があまりにも少なすぎる事がその理由であり、その桁はずれの残虐性を物語っていた。そしてその残虐性をさらに裏付けるかのようなエピソードが一つ。

 

「これはまだ未確認の情報なんだけど別の宇宙でサンドロスっていうシニストの同族がウルトラマンコスモスと戦ったんだけど――――慈愛の戦士と呼ばれるコスモスも迷わず完全殲滅を選んだんだって。本当に凶暴な宇宙人みたい」

 

「強敵ねリク」

 

万が一の場合に備えて周囲に潜んでいたライハがリクに声を掛ける。シニストは単なる邪悪な獣ではない。ベガも協力したライハの隠形を見破れる当たりスペック任せではない相当な力の持ち主だろう。

 

「うん。犠牲になる人を出さないようにして頑張らないと……でもその前に」

 

決意を秘めた表情のリクは踵を返しうつむいている千佳の方に向かう。そしてかがんで目線を合わせた。

 

「千佳ちゃん…話したいことがあるんだけどいいかな?」

 

 

 

 

 

千佳は正確に言えば鷲見家の子ではない。美由や両親とは遠い親戚でしかない関係だった。家族仲が良い鷲見家と逆に千佳の家の家族仲は最悪。両親は毎日のように喧嘩し、何かにつけて千佳に当たる日々、あの頃の人生はまさしく最悪だった。極めつけは千佳が小学校卒業直前に遭った交通事故。回復の兆しはあるものの下半身不随になった千佳を両親は見限り親権を押し付け合い、見かねた鷲見家が千佳を引き取ったのだ。

 

それからの日々は幸せだった。両親も妹になった美由も実の親とは違い千佳を大切にしてくれる。しかしだからこそ思うのだ。自分は家族の足手まといではないかと。

 

医学の発達もあり千佳の脚は手術とリハビリによってやがて治る日が来るかもしれないという。しかしそれまでには多額の金がかかる。資産家である鷲見家にとってもそう安くない金が。さらにそれまでにかかる時間はいか程であるだろうか。下手をしなくても妹は千佳の介助の為に貴重な人生を何年も無為に消費する。それは全て千佳の為に両親や妹が負う負債だ。何の取り柄もなく、家族ですらない自分がここにいるのは、優しい彼らに寄生する寄生虫であるも同然ではないかという思いが彼女にはどうしてもぬぐえなかった。

 

昨日もそうだ。沈み込みがちな千佳を連れ出してくれた美由はそれゆえに怪獣災害へ巻き込まれ、さらに逃げ遅れた。結局のところ千佳は美由の足手まといでしかない。そんなありきたりな事実を裏付ける出来事だった。

 

あのシニストという悪人は千佳の事をゴミと言った。それは道理だと思う。当然だと思う。けれど何故涙が出てくるのだろう。何故心が痛むのだろう。

 

気が付いたら千佳は自分の思いを洗いざらい学生証を持ってきてくれた人、朝倉リク―――あのシニストの言葉が正しければウルトラマンジード本人にぶちまけていた。

 

「……さっきあのシニストってやつが僕のことをウルトラマンジードって言ったよね」

 

「はい……」

 

「あれはほんとの事なんだ。そして前ニュースとかでさんざん言われていた僕がベリアルの息子って言うのも本当の事」

 

「!」

 

「話すといろいろ長くなるんだけど……僕はベリアルがある目的のために作った模造品だったんだ」

 

そう朝倉リクは決して幸福な生まれなどではない。最強最悪のウルトラマン、ウルトラマンベリアルがウルトラカプセルの起動の為に自身の遺伝子から生み出した模造品に過ぎない。そしてヒーローとしての道を歩みだした後も疑いの目に晒されながらも人々を守る為強大な敵に立ち向かってきた。

 

「でもそんな生まれでも僕には仲間が出来た親友のペガに幼馴染のモア、レムにライハにゼナさんにレイトさんに……」

 

だがリクには生きる上で大切な人間が何人も出来ていた。時には喧嘩してもすぐに仲直りして同じ時間を生きていく仲間。彼らと全員で一つのウルトラマンだとリクは思っている。

 

「それに僕に名前を付けてくれた人がいるんだ。朝倉錘さんって人がね。この大地に、しっかりと足を付けて立つ!そして、どんな困難な状態にあっても絶対に再び!また立ち上がる!そんな意味を込めてね」

 

リクの名付け親はもうこの世を去っている。しかしそれは彼がこの世から完全に消えたことを意味しない。

リクがいる限り、その名前の意味を忘れない限りリクの名付け親もこの世に生き続けている。

 

「だから僕は家族や仲間になるのに血のつながりとかは関係ないと思うよ。愛情や絆があればいいんじゃないかな。それに迷惑とかはそんなに気に病まなくてもいいんじゃないかな。家族って支えあい助け合うものだし」

 

「でもっ……」

 

それでも千佳は納得できない。家族だとしても千佳は一方的に迷惑をかけ続けている。それが正しい家族の形と言えるのだろうか。

 

「私こんな体で……両親にも妹にも迷惑をかけているだけで何も役に立ってないじゃないですか……!私の為にあれだけしてくれてるのに……!」

 

「……僕は車椅子の事とかあまり知らないんだけど」

 

そう言ってリクはしゃがみ込み車椅子の背を撫でる。

 

「いろいろな所に油もきっちり差しているし、肘あてや背もたれなんかも千佳ちゃんの背丈に合わせて調整してある。その他にも凄いきめ細かく千佳ちゃんの事を考えて作られている。ここまで細かい調整は心から千佳ちゃんの事を考えていないとできないと思うな。それに……」

 

「それに?」

 

「さっき美由ちゃんと話していたんだけど、美由ちゃんは千佳ちゃんの話をしている時が一番楽しそうだったよ。だから僕は思うんだ。決して千佳ちゃんの家族が優しいからだけじゃない、千佳ちゃんが家族を愛する優しい子だから家族からも愛されるんだって!」

 

いつだって誰もが誰かに愛されている。リクの信じる愛の、絆のつながりを証明したかのような言葉は暖かった。

千佳の心で長い間凝っていた何かが解けるほどに。ポロリ、と千佳の目から涙が落ちた。

 

「だから見てて千佳ちゃん。あいつが言っていたような無価値な人間じゃないって、あいつの言うように力が全てじゃないって僕が証明して見せる。だから今日は帰ろう。美由ちゃんが心配しているよ」

 

リクの言葉とほぼ同じタイミングで千佳の名前を呼ぶ声が響く。リクが事の次第を連絡していたがそれでも千佳が心配になって探しに来たのだろう。リクの言葉を証明するかのような暖かい光景だった。そしてリクは空を見上げる。その背にはどこか崇高な責任感。彼は人々を守る為に戦うウルトラマンだから、どこまでも仲間と共に強くなる。

 

 

 

 

 

夜の街で二つの巨影がぶつかり合う。巨人と異形は地球人の尺度からすると異常としか言いようのない途轍もない力で殴り合い、蹴りを浴びせあう。そして距離をとると光弾を撃ちあい相手をけん制し、あわよくば突破口を作り出そうとする。

 

影の一つは銀と赤、黒の姿のウルトラマンジードプリミティブ。様々な技を駆使して立ち回るも有効打をなかなか相手に与えられない。

 

『レッキングバーストォォォ!!』

 

異形の両腕の剣による交差斬撃を飛びのき躱したジードが赤と黒の稲妻を迸らせながら必殺光線を放つ。だが先日も怪獣兵器スコーピスを葬った必殺の光線は太い腕で弾かれた。

 

『これがレッキングバーストねえ……思ったよりも全然ぬるいな』

 

ジードが戦うのはシニストの正体である異形生命体シニストロス。その文字通り異界の邪神を無理やり人型に押し込めたかのような異形の姿を何と定義するべきだろうか。太い腕は毒花のような不気味なふくらみや線が無数に集まり膨れ上がり、黒くねじれた角が一対ずつ体の各所から突き出している。そしてその顔には四つの切れ込みが入っており四つに分割されていた。その精神の醜悪さを具現化したかのような悍ましき姿である。

 

『それでは……お返しだ!』

 

 シニストロスはジードに巨体からは信じられない程の速度で突進を仕掛ける。必殺技の直後を狙われたジードは回避しようとするも間に合わない。大きく弾き飛ばされてビルを巻き込んで倒れこむ。

 

『ぐあああああああ!!』

 

『さあフルコースの始まりだ!喰らっとけよウルトラマンジード!』

 

更にシニストロスの各所から生えた角が超高速で射出。必死に身を起こそうとするジードを切り刻む。砕けて宙に舞い上がったビルの破片が一秒間に数十回切り刻まれるほどの猛攻撃にジードはなすすべがない。

 

『ははっははははははははははははは!!』

 

余裕の姿で立つシニストロスは哄笑する。他者を踏みにじる悪しき強者の愉悦だった。

 

「う……ぐう……」

 

『これでわかったろウルトラマンジード。弱肉強食はこの宇宙の、いや生けとし生ける者の真理。弱者は強者に滅ぼされるしかないんだってなあ』

 

腕一本でジードを吊り上げるシニストロスの体の各所からは膨大な量の闇が噴き出す。質量すら備えた膨大な闇は周囲を覆い塗りつぶし漆黒の世界へと変えていく。

 

それと同時に天からは先日と同じ邪悪な流星が襲来。シニストロスがサンドロスと同様に眷属として従える怪獣兵器スコーピスの群れだった。

 

『ハハハハハ。完全に詰んだな。さあ誓えよ、俺の右腕になりますってさ。一緒に惨めな雑魚どもを踏み潰す旅に出ようぜ』

 

シニストロスは邪悪に笑う。そうシニストロスはジードを可能な限り利用したいと思っている。宇宙中にその名を轟かすジードを仲間に加えれば用心棒としても使えるしより楽しく殺戮が出来るはずだ。特に救いに来たと思ったジードに惨殺される奴らの顔はさぞ見物だろう。

 

『ホラ誓えよ。じゃなきゃ殺すぞ。手始めにあそこにいる塵共から……』

 

『そんな事……そんな事させるかぁっ!』

 

『ああん?お前何を……ぐがっ!?』

 

ジードがシニストロスへの返礼は頭突き。予想外の返答にひるんだシニストロスはジードを手放してしまう。ズシリと音を響かせて大地にしっかりと立つジードは右腕を大きく引き、そして渾身の力を込めてシニストロスの顔面をぶん殴った。

 

『おおりゃあっ!!』

 

思わず後退するシニストロスに対してジードは悠然と立つ。その目には邪悪への怒りだけではない。勇気や優しさ、そうした感情も混じっていた。

 

『力が全てなわけがない……そんなものだけが大切なわけないだろう!僕が今ここにいるのは大切な仲間がいるから……応援してくれる人たちがいるから……僕が笑顔にできる人がいるからだ!』

 

そうリクは、ジードの強さは一人きりで培ったものではない。これまで絆を結んできた人たち全てに支えられて成立する絆の強さ。決して諦めず運命にあらがい、そして築かれてきたヒストリーの基に成り立っている。

 

『だから僕は戦うんだ……みんなを守る為に』

 

今も避難の支援やリクの援護の為に戦う仲間たち、窮地に陥ったジードに声援を送り続ける人々、そしてリクの背中を見る美由と千佳の姉妹。そのすべての人たちの命を守る為にリクはウルトラマンジードとして戦うのだ。

 

そしてリクは手に持つエボリューションカプセルを掲げる。

 

『うぬぼれるなよ邪悪』

 

決意を新たに光り輝くジードの手には赤い棍。必勝撃聖棍ギガファイナライザー。

 

『僕がいる限り……ここから一歩も通さないぞ!』

 

リクはギガファイナライザーにエボリューションカプセルを装填する。

 

「ジーッとしてても……ドーにもならねぇッ!! 」

 

『ウルティメイトファイナル! アルティメットエボリューション!! 』

 

そしてジードの姿が変わっていく。

 

『つなぐぜ!願い!! ジードッ!!! 』

 

黒よりも濃い闇を吹き飛ばし赤と銀、そして黄金のラインの体のジードが現れる。ウルトラマンジードウルティメイトファイナル最強最高のジードが邪悪の前に誇らしく立ちふさがった。

 

 

 

 

『ジードマルチレイヤ―!』

 

『なっ……なんだと!?』

 

シニストロスは目を見開く。ウルティメイトファイナルに並び立つのは5人のジード、その尋常ならざる光景はさしものシニストロスも驚愕した。

 

ジードマルチレイヤ―はかつてベリアルとの決戦の際に突発的に発動した技。かつてはキングの力を借りて一度飲み仕えた技だったが今のウルティメイトファイナルのジードは時間はごく短いものの自身の力で発動できる。今もなお進歩し続けるウルトラマンジードを象徴するかのような技だった。

 

『シェアッ!』

 

5人のジードはスコーピスに挑みかかる。

 

プリミティブは光線と格闘でスコーピスを倒し、ソリッドバーニングは強烈なパンチで飛翔するスコーピスの顔面を砕く。アクロスマッシャーはアクロバティックな動きでスコーピスを翻弄し甲殻を切り裂く。マグニフィセントは光輪で纏めて数体を両断する。そしてロイヤルメガマスターは聖なる光線でスコーピスを消滅させた。

 

一瞬で形勢を逆転させたジードはシニストロス自身と切り結ぶ。赤い鮮やかな軌跡を描いた斬撃がシニストロスの剣を両断した。そして一回転してそのままライザーレイビームを放つ。

 

『ぐあああああああ!!馬鹿などこにそんな力が……」

 

先程朝倉リク、ウルトラマンジードは無限の可能性を持つウルトラマンであるとした。そしてその無限の可能性を象徴するかのようにウルティメイトファイナルにはある特徴がある。それはすなわちリクの心が折れない限りエネルギーは無限大。どこまでも戦い続けられるという特徴である。

 

『はあああああああっ!!』

 

『がああああああっ!』

 

無限とも思えるエネルギーが込められたギガファイナライザーの斬撃がシニストロスの顔面を深く切り裂きさらに返す刀で振るわれた一撃が空高く吹き飛ばす。

 

『糞が……殺してやる殺してやるぞ!ウルトラマンジードォォォォ!!』

 

強大な念動力で空中にとどまったシニストロスは空中からエネルギーを集中させどす黒い光線を放った。

 

迎え撃つはウルティメイトファイナル。そしてマルチレイヤ―が解けていく中尚も残るマグニフィセントが並ぶ。並び立ちうなづきあった二者はそれぞれ腕を組み、すべてのエネルギーを集めて光線を発射する

 

『レッキングノバァァァ!!!』

 

『ビッグバスタウェイ!!!』

 

赤と緑の二つの光線は混ざり合い互いに威力を高めあいながらシニストロスの光線を容易く貫きその悍ましい姿を貫いた。

 

『これが……お前の……人間の絆の力だというのか……があああああああ!!!』

 

シニストロス白昼で大爆発しかけらも残さず四散していく。空中で咲く爆発の華を見て人々は歓声を上げる。ジードはその姿に手を上げて答えた後街の片隅にいた姉妹に顔を向けうなづいた。

 

光となって消えていくジードに手を握り合った姉妹はうなづき返す。その姿は固い絆で結ばれた姉妹の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後鷲見姉妹はどういう人生を歩んだのだろうか。それを知る者は多くはない。ただ一つ付け加えておくならばシニストロスの出現から数年後、鷲見家の居間に飾られた写真を見れば彼女たちが今も幸福でいる事はおのずとわかるだろう。

 

写真に写るのは車椅子ではなく自身の脚でジードの様にしっかりと立つ千佳と彼女にじゃれつく美由。仲睦まじい二人の姉妹とそれを見守る両親。固いきずなで結ばれた幸福な家族の写った写真だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。