過剰能力少年のヒーロー生活 作:ナラナラ
自分は何をこなすにも中途半端な人間だった。
初期のアイアンマンのスーツを作れる技術と才能はあったけど、肝心の動力であるアークリアクターは作れない。
格闘術も並みの大人を倒せるくらいは持っていたけど、自分以上に強い人間は幾らでもいるし、ヤクザやニンジャには文字通りの子供扱いの末殺されるだろう。
でも、あの日に自分の人生が全て変わった。
アベンジャーズがフェニックスの力を一身に得たサイクロプスを倒した日。フェニックスの力は全世界へと散りばめられて世界各地の人間が後天的に新たなミュータントなった。
自分もその一人だった。
最初は戸惑いこそあったけど、直ぐに天からもたらされた力に酔いしれた。
与えられたのはクイックシルバーのように超高速で動ける物だったようだ。
その分を最後に日記にしているノートは残り全てが余白になっている。
「あの子が居なくなってもう一ヶ月、高校も決まって寮生活になるからこの施設を出て行くと言っていたのに、どこに行ってしまったのか……」
妙齢の女性はため息混じりに呟き、窓から空を見上げた。
拝啓、サナおばさん。
何も言わずに施設を飛び出してごめんなさい。家出なんてするつもりじゃ無かったんですが、結果的にそうなってしまった事を謝りたいです。
調子に乗って全力で走っていたらどうやら時空とやらを超えてしまって異世界までやって来てしまいました。クイックシルバーには時空を超える力があったみたいです。
それでも悲しまないでください。
俺はこの世界でも楽しくやって行けると思います。運良くこの世界の日本にたどり着けましたので。
同じ事をすればそっちに帰れるとも考えたのですが、住んでいたサナおばさんの施設が九州で時空を超えた場所も福岡だったのに調べてみたら僕が飛んだ場所は中部地方でした。
もし、同じ事をしてもそっちに戻れる保証は無くて海外の紛争地域や太平洋のど真ん中、宇宙空間違う世界に行く可能性だってあります。残念だけど、今の僕には試す勇気がありません。もし、この世界が嫌になってどうしようもなくなったら試してみます。
そうそう、この世界にはアベンジャーズやX-MEN、ファンタスティックフォーは居ないみたいです。ただロキもウルトロンもマグニートーも居なかった。
それでもヒーローとヴィランは存在した。
そっちとは違う、でもどこか似たこの世界ならやって行けると思います。
そうそう俺の力、クイックシルバーだけのものじゃなくて他にも色んな人の力が備わってるみたいです。すごいよね!スーパースクラルみたい!彼みたいに同時に発動は出来ないけどね!
いつかこの手紙が貴方の元に届く事を願っています。
身体に気をつけてください。サナおばさん。
マンカン ゼンより。
無人の小高い丘の上で手紙の内容を確認して封筒の中に入れる。
俺は軽く背伸びをして首を振って一息付いて、超スピードで円を描くように走り始めてそのまま回り続けて竜巻を発生させる。
暫く回り続けると、竜巻の中心に黒い穴が発生したのが見えた。賺さずその中へと封筒を投げ入れる。
封筒が消えたのを確認して、逆回転をして竜巻を消した。
「ふう〜っ。終わった終わった……ってやべっ!誰か近付いて来てら。退散退散!」
クイックシルバーの力を使い急いでこの場を離れる。音速のスピードを持ってすれば近付いて来た誰かさんから逃げる事なんて造作もない。
急いで山を駆け下りて街中を一人歩く。のどかな昼下がりで人は疎らだった。
「それにしても不便な世の中だね、好き勝手能力使えないなんて。それでも見た目ハルクみたいな奴とかコロッサスみたいな奴がいるのに彼らはOKって、人権がーとかって騒いだ人でもいるのかな」
なんでも、この世界はミュータントが人口の八割を占めているらしい。
俺はミュータントって言葉の方が慣れてるからついそう言ってしまうが、正確には能力を"個性"と言うらしい。でも元の世界と違う事があってこの世界では能力……いや、"個性"を公共の場で使うには資格が必要で、持たない物が使うとそれだけで犯罪になるそうだ。
……人を助けるのに理由なんて要らないと思うし、能力は悪い事にさえ使わなければ良いと思うのは俺がこの世界の人間じゃないからだろうな。
そんな事を考えながら下を向いて歩いていたら、急に地面が暗くなったのに気がついた。太陽が雲に覆われでもしたのか?
「って……うおおおおおぉぉぉ!」
気がつけば1メートル程目の前までとてつもなく巨大な大きな白い尻が迫っていた。
「嘘っ!こんな時間に子供!?
マズイ!"個性"の解除が、間に合わない!」
どうやら自分の目の前に迫っているのはコスチュームを着た巨大な美人の女性だった。
女性はとっさに手を伸ばして身体を俺から逸らそうとするが、あの動きだと彼女は身体を痛めてしまうであろう事は容易に想像できる。
「change……ジーン・グレイ!」
先程まで自分に流れていたパワーが別の物へと変化する。
両手を彼女の尻の方へと翳し強く念じる。自らの手を大きくさせて彼女の身体を支えるようなイメージを強く。
「キャッ!何!誰お尻触ったのって……転んでない?」
そのままゆっくり彼女に潰されないように自分の後方へと下ろして一息つく。
彼女が本来居た場所の先では巨大な生物が木の枝の様な物に雁字搦めにされていた。
状況を整理するとどうやらヒーローがヴィランを取り押させていたみたいだ。つまり自分を潰そうとした女性もヒーローだという事になる。
とすると非常にマズイ。自分が能力を使った事が見られてしまった。
すぐにクイックシルバーの能力で場を離れようとするも、その前に自分の身体が紫色の何かに拘束された。苦しくは無いが決して抜け出せないような強さで。
自分を拘束した物の正体が巨人の女性の手だという事に気がつくのに時間はそうかからなかった。
「キミ、今"個性"を使って私のお尻触ったでしょ?
見たところ中学生ってところかな。学校で習ったはずでしょ、私有地以外で"個性"を使っちゃダメだって」
コロッサスの力を使えば力尽くでこの人の手からは逃げられる。加えて言えばプロフェッサーXの力を使えばもっとスマートに抜け出してこの人の記憶から俺を消すことも出来る。
しかし郷に入っては郷に従えだ。ここで能力を使えば問答無用で犯罪者、自分が心から憧れたアベンジャーズに顔向けが出来なくなる。そうと決まれば……。
「えっと、ごめんなさい!
咄嗟のことだったのでつい使ってしまいました!それから、その、触ったと仰られましたが感触は無かったのでそちらは許して頂ければと……!」
感触が無かった事は嘘であるが、この場を円滑に切り抜けるには必要だと自分の中で割り切る。
「ほんとにー?
うーん、確かに"個性"を悪用してたわけじゃないからまあそこは今回は厳重注意にしておいてあげるわね!
でもね、こんな夏休みが終わったばっかりの平日に学校に行かないで子供が出歩いているのはおかしいよね。ヴィランもカムイさんが捕まえちゃってるし……職業上無視も出来ないから私の事務所で少しお話ししましょうか」
そう言うと巨人女は俺を掴んでいない方の手を振って少し先で巨大生物を捕らえている男に声をかけた。
「カムイさーん!そのヴィランあげるからあとはお願いしまーす!」
男は巨人女に何かを注意するように叫んでいたが、俺の耳までは入らずそのまま彼女は足元を気にしながら歩き始める。
おそらくこの人は人の話をあまり聞かないのだろう。反論は無意味と悟ったのでそのまま俺は手で掴まれたままとあるビルの前まで連れて来られてコンクリートの道路の上に降ろされると巨人だった女性は俺よりも10センチほど高い身長の女性へと身体を縮めた。
「私の事務所へようこそ、さあ入りなさい」
手招きする彼女に連れられて俺は建物の中へと足を踏み入れた。