過剰能力少年のヒーロー生活 作:ナラナラ
時は流れて早くも1月になった。すっかり寒くなり吐く息も白くなる時期になってしまった。
俺はと言うと9月に行われたヒーロー活動認可資格の仮免に見事に合格できた。
8月の末で二人に拾われて一番懸念していた戸籍の問題もマネサンがなんとかしてくれて助かった。ホントにあの人はヤリ手なんだとつくづく思う。
ちなみに戸籍上はユウサンの義理の弟として引き取られている。ご両親にも会ってきた。
「さて、こんな物かな」
そんなこんなで、今に至る訳だけだ。
事務所に住ませてもらう条件の一つであり日課の事務所の内と外を掃除して一息つく。
すると入り口の扉が開いて一人の男、マネサンが部屋に入ってきた。
「おうゼン君おはよう。今日は別に掃除は良いって言わなかったか?いや、俺たちにとっては有難いんだけどな」
「マネサン、おはよう。
住ませてもらってるんですからこれくらい、と言うか半分は趣味みたいなものですから。今お茶入れますね」
「そうか?でも今日は君の入試だろう。もっとそっちに集中した方が良いんじゃないか?」
今日俺はこの世界の超難関校、雄英高校を受験する。
しかも今回受けるヒーロー科は偏差値79、倍率300倍とはっきり言って正気とは言えない数字をしている。思えば前の世界ではもう高校も決まっていたんだったと懐かしく思い、人生で2度目の高校受験とはなかなかない体験ができると少し楽しみでもある。
「良いんですよ。却って普段と違うことをする方が落ち着きませんし、まだ出かけるまで時間もあります。
入試で唯一の不安は俺の経歴と面接だけですし」
手早く用意した二つの湯呑みにお茶を入れて一つをマネサンの机に置いて、もう一つを持って少し離れた席に俺は座る。
何故かまだ高校すら卒業していない俺の席をもう用意しているとは初めて聞いた時は驚いた。
マネサンにも俺が別世界から来たことを教えている。法にギリギリ触れないレベルだがその辺を上手く誤魔化して個人情報を取得させてくれたのだから彼には本当に頭が上がらない。
「うーさぶさぶっ……おはようゼン、マネージャー」
「おはようユウサン」
「おはようMtレディ、今日は随分と早いじゃないか」
「ん、まあね。ゼンの入試の日くらい背中を押しに早く来るわよ。ほら、これあげるから頑張って来なさい」
そう言って彼女に色落ちした古い学業成就と書かれたお守りを手渡された。
「私が高校の入試からヒーロー免許取るまで持ってたお守りよ。母に貰った物だけどご利益があるのは私が証明済みね」
「そんな……いいよユウサン貰えないよ、大切な物なんじゃないの?」
「良いのよ、私がアンタにあげたいんだから貰って。それで私が行きたかった雄英」
「ありがと……ユウサン。俺頑張ってくるよ」
彼女の厚意を素直に受け取って、お守りを両手で握った。なんだか少し暖かく思える。
「高校入学と言っても北海道の農業高校だけどな」
いつの間にか自分の机でパソコンを起動させてデスクワークに勤しんでいたマネサンが茶化すように言い、ユウサンが捲くし立てるように反論しようとしたところで俺が止めに入り、その後しばらく談笑して俺は事務所を出た。
ほぼ毎日、二人は何か口喧嘩をするけれど本気で喧嘩している訳じゃない。そんな光景を見ていてその妙な信頼関係が羨ましく思えた。
「ほー、凄い数の人だ」
外から建物を見た時から凄く広大な敷地を持っていた雄英高校。それでも筆記試験は普通の学校の教室のような部屋で行われていた。
でもそれを終えて敷地内の講堂のような部屋に集められた受験者の数を見て思わず言葉が漏れ出た。
まだ試験管も来ておらず、同じ中学出身の人達は席が隣通しなのかまだ室内は騒ついている。
「ねー、なんだかこれだけで私も緊張してきたよ!」
まさか知り合いの居ないこの会場で漏らした独り言に返してくれる声があるとは思わなかった。しかも可愛らしい女子の声が。
俺も年相応の15歳、どんな子かと期待を抱いて声がした方を見ると、そこには宙に浮かぶブレザーとスカートという奇妙な光景だった。
思いもよらぬ光景に目を丸くしていると、ブレザーから声が発せられた。
「ああ、姿が見えなくて当然!私の"個性"は透明化なんだ!私は葉隠透、もし君もヒーロー科に受かったらよろしくね!」
「……なるほど、そういう事か。ゴメンちょっとだけ驚いたよ。俺はマンカンゼン、その時はこちらこそよろしく」
「マンカンゼン君かー、なんかお腹空きそうな名前だね!」
「あはは、よく言われるよ。字は一万の万に感じる感と善行の善。なんでも、万人が感動するような善行をするようにって両親が名付けたらしいけどね」
顔も知らない両親だと言おうとしたところで口を紡いだ。これから試験を受ける彼女に余計な事を話す必要は無い。
「へぇー!だから善行を積めるヒーローになるためにココを受験したんだね!」
「まあ、そんなところかな。君は?」
「私はねぇ、あっ!試験管のあれは……プレゼントマイクだ!試験始まるみたいだね!お互い頑張ろう!」
その言葉を最後に彼女は口を閉じたようだ。
さて、それじゃあ俺も真剣になりますかと。
試験管の髪の毛を逆だたせてオレンジ色のサングラスに首元に指向性マイクを身に付けた男。ヒーロー兼この学校の教師でもあるプレゼント・マイクが実技試験の説明をした。ラジオ番組のDJをしているらしいが、どうも試験の説明のテンションだとは思えないほど高いもので説明をされたのだが、皆が皆真剣に試験を受けに来ているのでどうにもこの場の空気には合っていない。
配られたプリントに目を通して彼の説明を耳に入れると、三種類の機械の仮想
そして説明途中なのに真面目そうなメガネ君がプリントには四種類書かれていて誤載ではないかとの疑問が堅苦しい言葉を使ってプレゼント・マイクへと投げかけられ、ついでにブツブツと独り言が多かった一人の受験者に厳しい冷たい視線と言葉を投げかける。
「オーケーオーケー受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな!
四種目の敵は0P、そいつは言わばお邪魔虫!
スーパーマリオブラザーズやったことあるか?レトロゲーの。
あれのドッスンみたいなもんさ!各会場に一体!所狭しと大暴れしている『ギミック』よ!」
答えに納得したのか真面目メガネ君は礼を言って頭を下げていた。
ってかこの世界にもマリオはあったのか……それは知らなかったな。後でゲーム機ごと買ってやってみよ。
最後にプレゼント・マイクは俺を含む受験者全員にこの学校の校訓をプレゼントしてくれた。
かの英雄ナポレオンの言葉で更に向こうへ、Plus Ultraという言葉を。