過剰能力少年のヒーロー生活   作:ナラナラ

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5話〜世界の常識〜

 試験が終わった。怪我人は片っ端から治療を受けていたようだったが、俺はジャージはボロボロになったものの無傷のため、同じような状態だった人間がまず集められて帰宅となった。

 ハガクレは怪我をしていたみたいだから会う事は無く、また耳たぶの女の子も紫髪の男とも試験終了後に探してみたけど会う事は無かった。

 会場を後にして電車に揺られて事務所の最寄駅に

着いて駅の外へと足を進めた。

 

「あれだけポイント取れれば大丈夫だろうなー。耳たぶの子が言ってたのが本当ならトップクラスだと思うし」

 

 誰に聞かれるでも無く独り言をポツリと呟くと、先の高層マンションの上階から何かが落ちる。一瞬洗濯物かとでも思ったが、どう考えてもソレの大きさはもっと大きく。ソレが人であると気がつくのに時間はかからなかった。

 そして俺の体は勝手に動いていた。

 

「change、クイックシルバー!」

 

 オフにしていた能力を発動させて走りながら発動させる。世界の速度がゆっくりになったのを感じ取り、高速移動で落下する人の元へと向かう。

 街行く止まっている人々を掻き分けるようにしてその場所にたどり着くと自分の少し上で落ちた人はスロー再生のように超低速で降下していた。どうやら間に合ったようだ。

 

「よーし、そのままゆっくりゆっくり!大丈夫怖くないからねー!」

 

 その人には絶対に聞こえていない軽口を叩いて、ちょうど助けやすい位置まで降りたところで身体の向きを変えてそのまま走り出す。

 仮免持ってるから自由に能力を使えるけど、逃げる理由はこの人が落ちた事に気が付いてない人が殆どで、わざわざ好奇の目を向けさせたく無かったから。

 人気の無い公園のベンチに座らせてあげたところでクイックシルバーの能力を解除する。

 

「ーーっっ!!……はっ!?えっ!?なんで!?」

 

「大丈夫、落ち着いて、はい深呼吸!バンジーしたいと思うのはいいけどちゃんとした設備の所でやらないと危ないよ?

もしうっかり乗り出したりしたんなら今度は気をつけよう!」

 

「……んで」

 

「うん?」

 

 短髪ではあったが高い声でこの人は女の子だった事を悟ったと同時に、その震える華奢な腕が俺の襟首を掴んで彼女は涙を流した。

 

「なんで……」

 

「そりゃ俺もヒーロー目指してるからね、ああ"個性"使ったけどちゃんと仮免はあるから安心し……」

 

「……なんで助けたんだぁぁぁ!!」

 

 彼女の慟哭をこの身に受けるとは思っても見なかった。

 女の子はひたすらに声をあげて泣き続けた。やがて彼女の手が掴む対象が俺の襟首から腕へと変わり、痛みを覚えたがなぜか体の力が抜けてそれを振り払う気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

「……くっ……ひっ……くっ……」

 

「……少しは落ち着いた?」

 

 泣き喚いていた彼女だったが、いつしか嗚咽を漏らす程度には治ったみたいだ。それでも依然腕は掴まれたままであった。

 余程死ぬ事を邪魔した俺の事が憎いのか……。

 

「あのさ、ヒーロー志望の人間としてじゃなくて1人の人間として聞くけど、なんで自殺しようと思ったの?」

 

「……なんで……見ず知らずの……ヒーローになれる……アンタなんかに……」

 

「ヒーローになれるねぇ、それは誰もが叶えられる事じゃない?心の持ちようでさ?」

 

「……ふざけんな!!心の持ちようだって!?じゃあなんでヒーローになるって決めて特訓してたアタシじゃ無くて、あんな性根が腐った奴がヒーロー科に推薦されるんだよ!!

勉強だって、訓練だって血を吐くまでやった!!大人だって簡単に倒せる!!

なのになんで!?…………アタシが……"無個性"だから……?」

 

 そう言って儚い表情の彼女は再び涙を流す。一筋の雫は頰を伝って膝の上へと落ちた。

 

 この世界では"無個性"である事が身体に障害を持っている事に等しいと聞いた事がある。だが障害者と違って五体満足に動かせる身体を持つ"無個性"の人達は障害者と扱われない。"個性"を持つ人間に蔑まれ、陰日向を歩まざるを得なくなる事は少なくないそうだ。

 恐らくその道を彼女は理解者も無く一人で歩いてきたのだろう。

 辛かっただろうな……だけど厳密には違うけど"個性"持ちとなってしまった俺の彼女を励ます言葉は逆効果になってしまうだろう。

 それでも、元の世界にはスーパーパワーを持っていなくてもヒーローと呼べる存在は何人もいた。

 ある人は持ち前の頭脳でアーマーを作り、ある人は弓を手足の様に使いこなし、ある人は軍人としての経験を生かして重火器で武装して。

 だからこの世界でも前例が無いだけで"無個性"でもヒーローにはなれると思う。

 

「君は、ヒーローになりたいんだよね?

君にとってのヒーローって一体どんな存在なの?」

 

「強くて、(ヴィラン)を倒す……誰か困ってる人を助けられる……そんな人達……アタシには決してなる事が出来ない……悔しいよ……アタシには無理なんて…」

 

 言葉を途切れさせながら、涙を流しながら彼女はそう語った。

 誰かを助けられる存在か……俺もヒーローを目指すなら、彼女のような人達の心を助ける事もまたすべき事か。

 なにより、俺は偶然で力を手に入れたら他の人も偶然でそうならないと不公平だ。

 

「あのさ、あともう少し待ってくれないかな……本音を言えば3年くらい。でも毎年成果を上げるから、君でもヒーローになれるって俺が示す!」

 

「……変な気休めはいらない!"個性"が無いんだよ……この世界は、そんな人間には冷たいんだ……」

 

 どうにも、彼女は自信を喪失しているようだ。自殺を止めて怒った時の勢いはすっかり無くなっている。

 

「だったら、そんな世界の常識は俺が変えてみせる!」

 

 この世界を色々見て回って確信ができた。この世界の技術力があればおそらくそれは可能だろう。

 

「もちろん、訓練は続けてしてもらうし君の努力も必要だ。だけど俺が必ず舞台へと上がれる階段は作るから、君が、君だけはその夢から逃げるな!」

 

 彼女の両肩を掴んで顔を上げさせて両目をしっかりと見つめた。安心させるため、そして、俺の言葉が嘘では無いと信じてもらうために。

 

「なにそれ……なんで、会ったばっかりのアタシにそんな事を……」

 

「君の描くヒーロー像が、俺の描くヒーロー像と同じだから。君の心を救うのも俺のヒーローとしての務めだと思っただけだよ」

 

 暫く珍しいものを見るかのように彼女は目を丸くしていたが、やがて吹き出すと笑顔が溢れた。

 

「フフ……なにそれ、クサすぎ。でも、ありがとう少し楽になったかな、期待しないで待ってる。

助けられてそんな事言われたからかな……もう死ぬ気もなくなっちゃった」

 

「約束だからね。

俺はマンカンゼン、多分同い年だと思う。こんど多分雄英高校の一年になる。そうだな……毎年の体育祭で必ず成果を出すから絶対見てほしい。まずは来年のやつをさ……じゃあね!

change……クイックシルバー!」

 

 そう言い残してクイックシルバーの能力をオンにしてこの場を去る。個性の無断使用だけれど、バレなければ問題ないよな……彼女の心を救うために必要な事だ。

 やる事が多そうだし、ユウサンとマネサンに凄く怒られると思う。でも、俺がやらなくちゃいけないと思った事なんだ。

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