過剰能力少年のヒーロー生活   作:ナラナラ

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6話〜入学とゼンの夢、そして〜

「相変わらず、呆れるほど広い学校だよな」

 

 そういえば中国の昔のとても無駄に大きな宮殿がアホという言葉の語源になったという説を思い出す。

 四月になり、俺は大きめの鞄を片手にまたこの雄英高校の校門の前に立っていた。もちろん試験は合格出来た。でも、実技で関わった二人の女子と一人の男子はどうだったのだろうか。

 そんな事を考えていると肩をトントンと二回叩かれる。

 そこには耳たぶから端子の生えた少女と宙に浮いている雄英高校女子の制服があった。

 

「おはよう、久しぶりだねマンカン君!それと合格おめでとう!あとあの時助けてくれてありがと!」

 

「久しぶり、二人もここ受かったんだ!おめでとう、ハガクレと……ええっと……」

 

「ああ、そう言えば名前言ってなかったね。ウチは耳郎響香、よろしく」

 

「うん、こちらこそよろしく!おっと、あんまりゆっくりしている時間は無さそうだ、歩きながら話そうよ」

 

 校舎の中へと入り、2人と談笑しながら廊下を進む。道中ハガクレがキャラメルやドッキリ番組が好きな事、ジロウは音楽が好きな事、俺がユウサンの事務所に居候している事などを話しながら進んだ。ユウサンの事を話したら凄く驚かれた、やっぱり彼女は少なからず名前が売れているのだと改めて実感した。

 

「えっとパンフだと、1年A組はここを真っ直ぐみたいだね。そうそう、マンカン君はA組とB組どっちだったの?」

 

 ハガクレが手に持っていた学校のパンフレットをカバンにしまうと、俺は2人の進行方向と逆に身体を向ける。

 

「俺?俺はE組、1年E組サポート科だよ。だから俺が行くのはこっちだね」

 

 言い終えると、静寂が訪れる。そしてやや間を空けて、2人の驚く声が同時に響く。

 

「ええっ!なんで!?アンタ80Pは取ったって言ってたじゃん!!ウチの合計得点よりも高いアンタがなんでE組なの!?」

 

「そうだよ!私も助けてくれたんだから救助Pだって貰ってるはずでしょ!?」

 

「あー……えっと、辞退したんだ。やりたい事見つかったからね」

 

「「やりたい事?」」

 

 2人が顔と声を揃えて俺に訪ねる。

 

「ある1人の人の夢、いや……もしかしたら同じ事を夢見てる人が大勢いるかもしれない。そんな人たちの手助けがしたくてね。

それじゃ、初日から遅くなっても嫌だから俺は行くね。また何かあったらヨロシク!」

 

 そう言って何か言いたそうな2人を後に自分の教室へと足を進める。

 誰になんて言われてもこれでいい。俺がやりたい事だから。

 

 

 

 

 

 入学式にA組の人が誰も来ないという珍事はあったが、式は行われた。

 正直、ためになるようでならない長い話を聞くのは苦手だからほとんど寝ていた。

 その後は各クラスに別れて自己紹介の後にガイダンスが行われる。とりあえず全員の顔と名前を覚えて自分の自己紹介も無難な事を言っておいた。

 そうこうしているうちにガイダンスも終了して、俺は支給されたノートパソコンの電源を入れてキーボードを叩く。気前がいい事に経営科とサポート科には必要だからと最新鋭のノートとデスクトップのパソコン、携帯型タブレットが一台ずつ支給されるらしい。

 放課後は基本的に自由時間らしいからしばらくここでパソコンを弄っているつもりだ……マネサンは納得してくれたけど、ユウサンまだ俺の事許してくれてないからちょっと帰りづらい。事務所に置いてもらう条件はこなしてるから追い出される事は無いと思う。いや、思いたい。

 

「それじゃあ、まずは……っと」

 

 パソコンの立ち上げを終えると手始めに痕跡を残さないよつに雄英高校のサーバーにハッキングしてセキュリティの不備を探す。もちろん痕跡は残さない。

 正直言って、結構穴が多かった。この世界の技術力は高いんだけどどこか抜けている、そんな感じがした。まあ、あとで授業中に偶然アクセス出来たことにでもして改善案として提案しよう。

 次に全生徒と教師の"個性"の能力。人数が多い分からこれを見ていたらいつのまにか潰そうと思っていた時間ギリギリだったのでハッキングもやめにしてパソコンの電源を落とした。

 

「そっか……試験の時の彼はヒーロー科には入れなかったのか……」

 

 彼の"個性"は洗脳とあったが、戦闘向きでは無かったのだろう……偉大なヒーローの能力と似たような能力なのにな。

 

「フフフ、見ましたよ。貴方、学校のサーバーにバッキングかけていましたね?」

 

 パソコンをしまって帰ろうかというところで、教室の扉の方でややハスキーがかった声が自分を呼んだ。目を向けるとピンクの長い髪の頭にゴツいゴーグルを着けた制服の女子が立っている。

 同じクラス、というか前の席の発目明がそこに立っていた。

 

「ええっと、ハツメだったよね?悪いんだけど、何の事だか分からないな」

 

「しらばっくれようとしても無駄ですよ!ええっと……名前忘れました!

私の"個性"はズーム、本気を出せば5km先の物だってハッキリと見えるんです!この入り口から貴方のパソコンの画面を見間違える事はあり得ません!」

 

 彼女の"個性"はさっきデータを見たから知っていたけど、まさかそこまで鮮明に見えるとは思わなかったな。

 まあ、ハッキングの痕跡を残していない以上いくら彼女が吹聴したところで俺の潔白は証明できる。

 

「じゃあ夢でも見てたんじゃないのか?

仮に、本当に俺がハッキングなんて大それた事してたとしてどうすんの?先生に報告でもする?」

 

「いえいえ、そんな事をして私の内申点を上げるよりももっと有用な事をしますよ。

見たところ貴方はプログラミングの技術が長けているようなので私の開発するベイビーの力になってもらいます!」

 

「開発するベイビー……発明品って事か。授業中とかの俺の手が空いている時なら別に構わないよ。同じクラスのよしみだ。

まあ、脅されるような事は何もしてないんだけれどね。それじゃあまた明日、ハツメ」

 

 カバンを背負って彼女の横を通り過ぎる。無理矢理にでも帰らないとこのままずっと捕まりそうだからだ。

 

「約束ですよ!ええっと……」

 

「マンカンゼン。それが俺の名前、それじゃあね」

 

 背後の彼女に手を挙げて、振り返らないで教室を後にする。

 さて、帰ったら帰ったで事務処理が待ってるからちょっと憂鬱だな。

 

 

 

 

 

「さてと……これで終わりか」

 

 今し方、今日の事務処理を終えたところで大きく背筋を伸ばした。いつもなら誰かしら居るのだが、今日は珍しく誰も居なかった。

 後は部屋の電気を消して自室として充てがわれている部屋で寝るだけだと思ったところで事務室の扉が開いた。

 

「あっ……ユウサン……お疲れ様……」

 

「アンタもね」

 

 彼女の返事はここ最近ずっと素っ気ない。当然だろう、俺自身に非がある事だ。最悪ここを追い出されても良い覚悟だってある。

 訪れる沈黙。

 俺は立ったまま彼女が去るのを待っていて、彼女も入り口から動かない。

 

「……はーっ。ゼン、ちょっと座りなさい」

 

 彼女はため息をついてソファに勢いよく座り込むと、俺を呼ぶ。

 俺が相向かいに座ったの見て彼女は口を開いた。

 

「アンタをここに置いている理由は良いサイドキックになるからだって事を前提としてるの分かってるわよね?」

 

「……はい」

 

「それなのにアンタは勝手にせっかく首席で入れた雄英のヒーロー科を蹴ってサポート科に入学してさ。正直、すごくムカついたし今でも怒ってる。

私、高校は北海道の農業高校でヒーローになるのに凄い苦労した。だから、入れるのならヒーロー科に入って絶対に資格を取って早く私のサイドキックになって欲しかった」

 

「分かってる、でも。ヒーローになるなら、俺は逃げちゃいけないって思うことができたから。俺ならそれが出来るって思ったから。

もちろんサポート科でもヒーローの資格は絶対取るか」

 

 言葉を遮るように彼女はテーブルを叩く、衝撃が部屋中に響いて、俺は言葉を止めてしまい続きを発する事が出来なかった。

 

「アンタが自殺した子を助けたのも立派だと思う。頭も良くてすごい装備が開発出来ることも。でもね"無個性"の人間が本当にヒーローになれると思ってるの?

アンタがどんなに強力な装備を開発したとしても、それが壊れたら"個性"が無かったらもう打つ手が無くなるのよ?」

 

「……ユウサン。失礼だと分かった上で言わせてもらうけど、俺はそうは思わない。

俺は"個性"が無くても強い人達を知ってる。ある凄いヒーローチームの中核をなす人だって特殊な能力を持ってなくて自分が開発したパワードスーツでなんだって出来る」

 

 彼女は何も言わずに聴いてくれた。俺はそのまま言葉をつなげる。

 

「……大事なのはヒーローになりたい、誰かの為になりたいって心じゃない?

この世界の八割の人が"個性"を持ってるって話だけど、残りの二割の人は"個性"が無いから花形と呼べるヒーローを目指しちゃいけない?

全員とは言わないけど、"個性"が無いから蔑まされて陰日向の道を進まされて歪んだ心を育てないといけないの?

人を救うのがヒーローなら俺は……その二割の人の心も救いたい。"個性"が無くてもヒーローになれるって憧れた道を進んでも良いって教えてあげたいんだ」

 

 俺の想いの全て、考えている事をユウサンへとぶつけた。

 少しの間を空けて、彼女は真っ直ぐに目を見て口を開いた。

 

「言いたいことが二つ。

まずはヒーローをナメるなって言いたい。私が苦労したって話聞いてた?

アンタが沢山の"強個性"を持っていてもサポート科で開発をしながら資格が取れると思っているの?

……って、ただの"強個性"持ちにだったら言ってたわ。アンタ、この世界の知識がゼロの状態から仮免試験を独学で受かってる実績あるものね。だから資格を取るってところは信じてあげる。

もう一つは、アンタが仮に"無個性"が戦える装備を開発出来たとする。でもアンタ自身は"個性"持ちなのよ?

装備を受け取った人はアンタを信用してその装備を使おうとする?アンタ自身に否定的な目を向けない保証はある?」

 

「……否定的な視線は受けると思うし、最初は信用もされないだろうね。でもそれを受け入れて前に進んで、掴んでみせるよ」

 

「そう……腹を割って話せて良かったわ。

二足の草鞋は大変よ。でも、アンタがやるって決めたならゼン、頑張んなさい」

 

「ありがとうユウサン。うん、頑張る」

 

 彼女との和解が成立して、明日からは晴れやかな気分で学校に行けそうだ。

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