何度も何度も繰り返し同じ夢を見る。
目を閉じれば、瞼にこびりついたそれが僕を苦しめる。目に焼き付いたそれが、僕を闇に連れていく。堕ちたらきっと、心地がいいかな。
だって僕には何も無い。
虚無という言葉すらも僕を表すには言葉足らずだ。そこには
目の前で生きる理由を、僕を救ってくれた恩人を、心から愛していた女の子を失った僕なんて、その程度のものだ。
あの太陽のような笑顔と、月のような優しさに触れることはもうできない。目の前で奪われた。
あの、白と血の赤の車に。
酒に酔い潰れた女の車が由菜を僕から奪った。僕に生きる理由と光をくれた由菜を奪った。
奪われた。由菜を、由菜を...
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
その日からだ。
同じ夢を見るようになったのは。由菜が奪われた瞬間を何度も見るようになったのは。
───────
嫌な汗がこびりついたシャツを脱ぎ捨て、別のシャツに着替える。普通なら、これを大体朝の6時くらいにやるだろう。だが今は10時を回っている。あの日から僕は学校に行ってない。由菜がいない学校なんて、行く価値はない。受験生がなんだ、由菜がいないなら勉強なんて意味がない...
「ははっ...由菜ありきか、僕は...」
わかってる。僕は由菜に依存してたんだと。
依存してないと生きていけないほどに。
「由菜...由菜...」
鏡にうつる僕の目に光はない。
空虚な空間に手を伸ばしてるただの世捨て人が未練がましくもういない彼女の名を連呼しているだけだ。いや、彼女と言えるほどの関係はなかった。
誰にも由菜は優しかった。
万人に差別なく、等しく優しさを分け与えていた。差別慣れした僕にはそれが新鮮だった。
初めて由菜に会ったのは中学二年生の頃だ。
中一の頃、僕はいじめに遭った。
小学校から上がって、別の学校の連中も一緒になって、環境に馴染めない奴を迫害する。対象は僕だった。
学校に行かないことでそれを回避して4月、いじめてた奴らは別のクラスに流れ、僕はなんとか学校に復帰できた。一番前の席だったんだけど、右隣の席にいたのが由菜だった。
「私は香澄 由菜。一年間よろしくね。」
「...
この出会いが無かったら、きっと今の苦しみはないだろう。でも、きっと生きてもいない。
結局、由菜に出会おうが出会うまいが、絶望に囚われるのには変わりがなかった。
それでも、と僕は思う。
せめて、好きだと由菜に言えたのなら、と。