僕は由菜に、気づいたら惹かれていた。
いつからだったろうか、もうわからない。
出会ったばかりの4月頃はケンカもした。
テスト終わった6月頃は勉強教えてと言われた。
体育祭のある9月頃には一緒に練習もした。
僕の誕生日の11月にはプレゼントをもらった。
由菜の誕生日の12月にはプレゼントをあげた。
まだまだ、由菜との思い出はたくさんある。
でも、それもたかが5年分だ。
たった5年。2000日にも満たない。
だがそれすら一日ないし一瞬で追加されなくなってしまった。
あの瞬間のあの惨状が最期の思い出にして、最強、最凶の思い出。
「僕が...気づけていたら...」
後悔なんてものではすまされない。
そんなことをしていたら、きっと、きっと僕は僕でなくなる。
それはできない。
「ごめん、禍月...生きてね...」
由菜の遺言。僕だけが聞いた、唯一、僕だけが由菜からもらったもの。
由菜の死の間際の一言で、僕は死ぬことを選べなくなった。他の誰でもない由菜の願いだ、無下にはできない。できるわけない。
だから、生きてる。
─嬉しいな、覚えててくれたんだね─
はっとする。何か声が聞こえた。
その声を、僕は間違えることはない。
「由菜...?」
幻聴。そう、幻聴。
「幻聴なのか...?違う、今のは由菜の声だ...生きているの...?由菜!返事をしてくれ!」
僕しかいない自分の部屋で僕は叫ぶ。
由菜は僕の家を知らない。だから普通に考えて、由菜が生きていたとしてもここに由菜がいるのはおかしい。頭で分かっていても感情はどうしようもない。
そして、ついぞ声は聞こえなくなった。
「そうだよな...だって僕は君の葬式に行ってない...認めたくなかった...由菜が...君が死んだなんて!目の前で見たからわかってるけど!それでも!...それに言われるのが怖かった。一番近くにいたのに庇うことも助けることもできなかった無能だと!なんで由菜を助けてくれなかったのと!言われるのが怖かった!言われたら...僕は...死んでも詫びることなんて出来やしない....!」
涙があふれて止まらない。
嗚咽がただただこだまする。
─気にしすぎだよ。禍月は何も悪くない。─
また声が聞こえた。
今度は前よりはっきりと。
「由菜...やっぱり、由菜なんだね...」
─うん、香澄由菜だよ。─
もっとはっきり聞こえた。由菜は、生きてる。生きて、る...?目の前で死んだのに..?
「ねぇ、由菜...今どこ...?」
その答えは、しばらくは帰ってこなかった。
帰ってきた答えは、もっと衝撃だった。
「それはね、禍月の脳の中。禍月の記憶から、私の人格が禍月の中に作られたの。」
僕の声で、僕の口から由菜の所在を明かされる。
人間の脳は、苦痛に耐えるために新たな人格を作ることがある。けど今回はそれが記憶を依り代に作られた組成からして不完全な人格。だから僕の人格が残ってるまま、僕の知る『香澄由菜』が現れた。
─でもまさか人格作っちゃうほどショック受けてるなんて思わなかったよ。ごめんね、ほんとに...死んじゃって...─
「いいよ、由菜...こんな形でももう一回話せたんだ...僕はそれでいい...」
奇妙奇天烈な再会。
でも僕は、また生きようと思えた。